続 トンボ歳時記
No.592. サラサヤンマの観察.2018.5.25. Part-2.

さて,本日の第二試合,サラサヤンマの観察です.現地に着いたのは12:30で,これではいくら何でも早すぎます.そこで,トンボ歳時記御用達,トンボの季節の移り変わりを取材しました.まずはタベサナエ.まだ生き残っています.まあ5月25日ですから当然といえば当然です.かなり老熟が進んでいました.個体数は少ない感じでした.

▲タベサナエのオス.このすぐ下にメスらしいのがいた.

続いてニホンカワトンボ.これは個体数がとても多くて,まだまだシーズン中の感じです.でもメスの体色がかなりくすんだ色になっており,鮮やかな橙色翅が,翅脈だけを残して色が抜けた感じになっています.体色も赤銅色になっています.

▲ニホンカワトンボの警護産卵.オスもメスも壮年期という感じだ.

▲ニホンカワトンボのメス.コンクリート三面貼りでも,朽木が落ちていれば産卵できるのだ.

そして,この次の観察予定にしようと考えているムカシヤンマ,サラサヤンマの産卵を待っている間に,湿地に入ってきたものです.道路上にも別の個体が止まっていました.

▲ムカシヤンマのオス.サラサヤンマを待っている間に,湿地に入ってきた.

▲帰りに見つけた地面に止まっているムカシヤンマのオス.

シオヤトンボもまだまだ元気でした.メスが産卵していましたが,体色は早春の黄色と黒からはほど遠く,灰色と黄褐色になっていました.

▲老熟したシオヤトンボメスの産卵.

この生息地は,例年,いろいろなトンボ全般の出現が遅いのです.ヤマサナエなどは,別の生息地ではもう淡色部が薄緑色をし始めています.ここの個体は,今日見た限りでは,まだ黄色です.ただ,メスの腹部はしっかりと太ってきているように見えました.

▲ヤマサナエのオス.これは流れに出ていたので,成熟しているのだろう.まだ体色は黄色い.

▲ヤマサナエのメス.腹部が太くがっしりとしてきたようだ.

以上のように,少しずつ次の季節のトンボへと移り変わっています.ということで,14:00少し前に,サラサヤンマの生息する湿地に入りました.

▲今日の観察湿地.

まずオスが縄張りを張っていないか探しました.でもまったくオスがいないのです.そのとき,今年はだめかな,と思ってしまいました.しかし,湿地の向こうの方に何か飛んだ気がしましたので,行ってみますと,サラサヤンマのメスが産卵をしていました.これが14:08です.

▲最初に見つけたサラサヤンマの産卵メス.この個体がいたおかげで,今日の観察はスタートできた.

▲私のことを伺うように飛び立って,その後笹の藪の中に消えていった.

このメス,この写真のあと,笹の中にもぐり込んで姿を消してしまいました.でもこれで,オスがいなくてもメスが来ていることが分かりましたので,観察をスタートすることに決めました.オスがいない方がむしろ産卵観察には助かりますし.

14:25ころ,オスが入ってきました.湿地の奥の薄暗いところに縄張りを形成しました.やっと,私のイメージしているサラサヤンマの生息地状態になりました.オスは,ホバリングを交えて地面近くを飛び,ときどき止まります.

▲湿地で縄張り活動をするサラサヤンマのオス.ホバリングを交えて狭い範囲をパトロールする.

▲急激に方向を変えようとしている瞬間.頭は水平に,体をねじって旋回する.

▲縄張りで静止するオス.

▲早速の顔拡大写真.サラサヤンマのオス.

そうこうしているとき,メスが入ってきました.体を「カチカチ」にして止まるのを待ちます.止まりそう,と思ったとき,この上のオスに持って行かれました.連結して,目の前を旋回して飛びながら移精行動をしました.こうなったら低いところで交尾でも…などと考えましたが,そうはうまくいきません.場外へお持ち帰りされました.

14:37,続けてメスが入ってきました.産卵意欲満点です.止まる場所を探して地面低くを飛びます.そして私のすぐ向こう1mくらいの所に止まりました.それも,見通しのよい朽木です.

▲14:37,私の近くへ止まってくれたので,簡単に近寄ることができた.

やっと,サラサヤンマらしい産卵スタイルが記録できました.ただ,このメス,何を思ったのか,次の産卵基質を探さずに,すぐに飛び去ってしまいました.でもこうなると欲が出てきます.やる気も出てきました.14:42,次のメスが入ってきました.ただこれは,上の写真のメスと同じ個体が帰ってきたのかもしれません.これはあちこち移動しながら産卵を繰り返してくれました.

▲14:42,草陰で産卵するメス.

▲産卵場所を探して飛んでいるメス.

▲湿土に産卵することに決めたようだ.

▲このような水のそばで,水を多く含む湿土に産卵するのは,あまり見ない気がする.

▲上の写真と同じ場所.トンボが向きを変えた.湿土に産卵管を突き立てているのが見える.

▲朽木が硬いのか,この基質ではすぐに産卵を止めた..

その後2回ほどメスが入ってきましたが,産卵に至らず,場所を物色して,ちょっと止まって,そして場外へ出て行きました.またオスが入ってきました.さっきお持ち帰りしたオスと同じ場所で縄張りをつくりました.やはりよい場所というのは,どのトンボでも同じように評価できるのですね.

▲先ほどのオスとは,腹部背面の三角斑の黄色みが強く,別の個体であることが分かる.

▲縄張りの上空を,ホバリングを交えながら,巡回飛翔するオス.

▲ときどき止まる.背景は縄張りとしての地面.

▲このオスは,だらんとぶら下がらず,ちょっと腹部を後ろへ突っ張ったような止まり方をしている.

さて,その次のメスを見つけたとき,このメスは産卵を終えたところだったようです.うーむ,産卵に入ったのを見逃しているんですね.このメスは珍しく飛び去らずに,近くの笹に止まりました.こういう写真は意外と撮れませんね.

▲サラサヤンマのメス.私が見つけたときは,産卵を終えた直後だったようだ.地面から飛び立ち止まった.

時刻は4時前になりました.一応成果はあったので4時に終えることにしました.そして,またまた,嘘でしょといいたくなりますが,帰ろうとすると,湿地の出口近くでメスが産卵をしているのを見つけたのです.

▲15:58,成木の根の部分に生えているコケに産卵するメス.

▲15:58,これが一番サラサヤンマらしい産卵スタイルだと思うのだが.

このメス深追いしますと,最初のメスと同じように,笹の藪の中に入り込んで行方不明になりました.また来ると帰れなくなりますので,以上で湿地をあとにしました.いやはや,ダブルヘッダーは神経が堪えます.中身の濃い一日でした.