No. 970. 沖縄県のトンボたち 1-2.2024.6.22.

沖縄県のトンボたちの紹介第1節第2回は,不均翅亜目です.沖縄県には魅力的な不均翅類が生息しています.イリオモテミナミヤンマなどはその最たるものでしょう.私も当然出会いを期待して出かけましたが,実際に出会えたのは飛ぶオス3回だけでした.1回は上空を通過しただけですが,2回は網で採るのが目的なら届くくらいの距離でした.ただほとんどの人は縁取り翅のメスが目的ですから,これでは満足できません.私も同じです.ただ,天候がもう一つで,オスでもよくまあ飛んでくれたと感じてはいます.一過性の通過なので写真は全くムリでした.

その他にも,ワタナベオジロサナエなど,見てみたいトンボたちはいましたが,サナエトンボ類は日が射さないと川に下りてこないので,今回のどんより曇り状態では望み薄.この第1節で川へ入らなかった理由でもあります.最終日に少し日が射したので,下りてきそうな場所へ出かけてみましたが,やはりだめでした.そういったトンボ屋が見てみたい種についてはほとんど成果がありませんでしたが,南の島の普通の不均翅類にはだいたい出会えたように思います.

では紹介していきましょう.

◆ヤンマ科 Family Aeshnidae Burmeister, 1839
ヤンマ科ではオオギンヤンマ,リュウキュウギンヤンマ,ギンヤンマなどを見ましたが写真撮影できるような飛び方ではありませんでした.

■リュウキュウカトリヤンマ Gynacantha ryukyuensis Asahina, 1962
リュウキュウカトリヤンマは出会いをあまり期待していないトンボでした.沖縄にあまり縁がない私には,どこにいるのか全く見当がつかないトンボでした.最終日,少し天気が回復傾向だった日,薄暗い林内の池で偶然産卵に入っていたメスとで会いました.いるとは思わなかったので,不用意に池の畔を歩いてしまい,写真に撮りやすい場所で産卵していたメスを飛ばしてしまいました.しかし逃げることはなく,場所を移動して産卵を続けてくれました.


▲リュウキュウカトリヤンマの産卵.胸部は薄緑色でなく褐色をしている.▲

暗い場所で,黒っぽい土の上に止まって,真っ黒な体色のリュウキュウカトリヤンマが産卵していると,ほとんどその姿を認めることができません.現地ではリュウキュウカトリヤンマがどれくらい普通に見られるのか分かりませんが,最近地元ではカトリヤンマの産卵も見にくくなっていることを考えると,これは結構ラッキーなのではないでしょうか.

この後この個体が飛んで次にどこへ止まったか分からなくなりました.あきらめてしばらくうろうろしましたが,もう一度のぞいたときに飛び立ち,実はより近くで産卵をしていたことが分かりました.ダメですね.

しかし,逃げてしまったようには思えず,時間をおいて何度かのぞいてみました.すると,また産卵していたようで,飛び立ち,すぐ上の木の枝に止まりました.目の前です.こういうラッキーはときどきあります.これが最初と同じ個体かどうかは分かりません.


▲産卵を中断して木の枝に止まったリュウキュウカトリヤンマのメス.▲

さすがにこの個体はどこかへ飛んでいってしまいました.その後も,池の上を飛ぶリュウキュウカトリヤンマらしいトンボを,2,3度見ました.

◆サナエトンボ科 Family Gomphidae Rambur, 1842

■ヒメホソサナエ Leptogomphus yayeyamensis Oguma, 1926
この第1節では川に入らなかったこともあり,ヒメホソサナエには山道で偶然に出会うことを期待するしかありませんでした.もっとも,このヒメホソサナエというトンボはどういった環境を好んで生活しているのか私には不明なので,川に入ったとしても見つけることができるかどうかは分からない種でした.今回は山道を歩いているときに偶然目の前に止まったメス1頭と出会っただけでした.


▲完全背面撮影.ヒメホソサナエのメス.▲

■タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax (Hagen in Selys, 1854)
タイワンウチワヤンマは,1981年に淡路島に初記録が出て以来,兵庫県では普通のトンボになるほど数が増えました.しかしこちらでは意外と出会いがありませんでした.いた証拠みたいな写真だけです.やはり開放的な止水域が少ないせいでしょう.


▲タイワンウチワヤンマのオス.ここの池は開放的な環境だった.▲

◆トンボ科 Family Gomphidae Rambur, 1842
トンボ科は南のトンボの華といえる存在です.ヒメホソサナエを見ても分かるとおり,他の分類群のトンボたちはいずれも本土と大きく変わらない色彩をしているものがほとんどです.これを重宝がるトンボ屋(もちろん私も含みます)はかなりマニアックでカルト的存在です.トンボ科の多くは普通種と言われ,そんなに無理しなくても出会えるものが多いです.でもこれらを集めなければ南の島へ来た意味がないように感じるのは私だけでしょうか.

■ ウミアカトンボ Macrodiplax cora (Brauer, 1867)
ウミアカトンボはちょうど30年前,南大東島で出会ったきりのトンボです.これもどこにいるかはっきりしないトンボですが,とある田園地帯にたくさん止まっていました.未熟な個体もいたので,どこで羽化したのだろうと気になりました.幼虫採集の道具を持参していなかったので,その付近を探索することができませんでした.かつて数多くの幼虫に出会いましたが,ウミアカトンボの幼虫には出会えていません.


▲ウミアカトンボの成熟オス.頭部が不釣り合いに大きく見える.▲

▲ウミアカトンボのメス.▲


▲胸側の模様はアキアカネ的だ.ウミアカトンボのオスとメス.▲

南大東島でもそうでしたが,成熟したオスとメスが混在して止まっていても,全く繁殖活動の気配がなく,ただただ風に向かって風見鶏みたいに止まっているだけのトンボです.

■サイジョウチョウトンボ Rhyothemis regia regia (Brauer, 1867)
このトンボは2020年9月に,与那国島において,日本国内で初めて発見された飛来種です.まだまだ国内では新参のトンボと言えるでしょう.その後分布の広がりも報告されており,今後は定着性が議論される種となるでしょう.今回は3日間同じ場所で飛んでいるのを観察できましたので,かなり個体数を増加させていることが予感されました.まだまだニュースになる種ですので,少し詳しく報告します.

初めて見たのは,6月16日でした.オキナワチョウトンボに混じって飛んでいるのを見ました.翅はボロボロで,いかにも遠くから(海を渡って?)飛んできた感じがする個体でした.


▲水面上を飛ぶサイジョウチョウトンボのオス.6/16.▲

オキナワチョウトンボと激しいバトルを繰り広げています.が,多勢に無勢なのか,あるいは本質的にオキナワチョウトンボの方が強いのか,サイジョウチョウトンボは分が悪いようでした.飛ぶのが速いので写真に撮るのはなかなか難しいと感じていましたら,止まってくれました.


▲止まったサイジョウチョウトンボ.▲


▲前翅と後翅の間の表皮が破損している?.厳しい旅をしてきたのか? 6/16.▲

次に見たのは6月17日です.この日は関東からサイジョウチョウトンボを探しに来ているトンボ屋,というか前身は鳥屋だと言ってましたが,の方々と出会いました.目の数が多いのはすごいことで,その中の一人が見つけました.この日は2頭のサイジョウチョウトンボが入って飛んでいました.そのうちの1頭が,また止まりました.これも目の多さが幸いしています.


▲まだ成熟真っ盛りの感じのするサイジョウチョウトンボ.▲

この日のサイジョウチョウトンボは昨日のようなボロボロの個体ではなく,まだ元気な壮年期とでも言えそうな個体でした.翅の青色の輝きがきれいに残っています.この色だけを見ているとチョウトンボ的です.通常はこんな色をしているんですね.

6月18日はスコールが降ったりして,トンボ観察は雨の合間に行っただけで,サイジョウチョウトンボを見に行っていません.次に見たのは最終日6月19日です.梅雨明け前日で午後は晴れ間が出ました.


▲サイジョウチョウトンボが飛ぶのを見るのは3日目である.▲

写真の翅を形を比べると,この3頭はすべて別個体であることが分かります.少なくとも3頭いたことになります.他の場所も探してみましたが,私が見たのはここだけでした.例のトンボ屋さんは別の場所でも見たと言っていました.やはりかなり数が増えているのではないでしょうか.ただ成虫のオスはオキナワチョウトンボと行動が似通っている(ニッチが重複している)ようで,定着できるかどうかは微妙な感じもしました.それはあまりにもオキナワチョウトンボがどこにでもいるからです.サイジョウチョウトンボが入り込む隙がないような気がもします.

ところで,この記事を書いた後で手元に届いた最新のTOMBO誌Vol.67.には,サイジョウチョウトンボとオキナワチョウトンボの種間雑種の記事がありました.それによると,翅が黄色みを帯びていて,濃色部が金緑色に輝くのは種間雑種の可能性が高いと書かれています(北山ら,2024).今回出会ったサイジョウチョウトンボのうち,翅がボロボロのオスは,やたらに黄色っぽい色をしていますし,濃色部がどちらかといえば緑色に輝いているように見られます.これはオキナワチョウトンボとの種間雑種の可能性が高いのではないでしょうか.下の2枚を比べてみてください.


▲種間雑種ではないと思われる個体.▲


▲種間雑種と思われる個体.▲

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北山択・興膳昌弘・梅田孝・杉村光俊・二橋亮,2024.サイジョウチョウトンボとベッコウチョウトンボの種間雑種.TOMBO 67:81-89.

■オキナワチョウトンボ Rhyothemis variegata imperatrix Selys, 1887
おそらく沖縄に住んでいる人なら誰でも見たことがあるトンボでしょう.それくらいどこにでもいるトンボです.翅の模様の派手さから見ると,いかにも南国のトンボという気がします.私もこの旅行中あちこちで見ました.


▲旅行初日,ホテルへ向かう途中の道路で見かけたオキナワチョウトンボの群飛.▲


▲上の群飛の一部が止まった状態.▲

翅の模様は個体ごとにさまざまですが,オスについては,大きく分けてメス色型と淡色型とでもいえばいいようなタイプがあります(私が勝手に命名).上の写真で上に止まっているのがメス色型で,下のが淡色型です.


▲オキナワチョウトンボのメス.▲


▲メス色型のオス.基本的な色彩パターンはメスに類似する.▲


▲淡色型のオス.翅端にはサイジョウチョウトンボのような斑点がある.▲

こんなにたくさん飛んでいるトンボでも,アキアカネの先例があるように,一気に減少することがないとも言えません.いつまでもたくさん飛んで,カルト的なトンボ屋には見向きもされないトンボであり続けてほしいです.


▲オキナワチョウトンボたち.▲

■ヒメハネビロトンボ Tramea transmarina yayeyamana Asahina, 1964
もう何度かこのブログでも紹介しましたが,私の好きなトンボの一つです.これが飛ぶのを見ると,南国へ来たという気がします.


▲水田の際の草地に止まるヒメハネビロトンボたち.▲

ハネビロトンボのなかまというのは,池を飛ぶものという認識がありましたが,沖縄で観察して,水田の上もよく飛ぶのだということが分かりました.今回オスはたくさん見ましたが,メスには全く出会うことがありませんでした.

■コモンヒメハネビロトンボ Tramea transmarina euryale Selys, 1878-?
今回,あちこちでヒメハネビロトンボを見ました.その中に1頭だけコモンヒメハネビロトンボかもしれない翅の模様を持つ個体を見つけました.一番天気の悪かった6月18日にアプローチできない池で見ましたので,遠くから撮ったややすっきりしない写真しかありません.


▲コモンヒメハネビロトンボ-?のオス.6/18.▲

撮ったときにはどうかなと思ったのですが,ホテルに帰ってヒメハネビロトンボと比べるとコモンヒメハネビロトンボの可能性があるように思えました.しかし,ヒメハネビロトンボの斑紋の小さな個体である可能性も捨てきれません.


▲翅の基部の赤色部分の広がり方は明らかに異なる.▲

コモンヒメハネビロトンボだとすると,これが初お目通りとなります.

■ヒメトンボ Diplacodes trivialis (Rambur, 1842)
ヒメトンボは小さなトンボで,水田や湿地の周辺や少し離れた草地などに潜り込んで生活しています.草を蹴って歩くと突然飛び出したりします.このトンボの交尾や産卵などの繁殖活動を見たいのですが,第1節ではそのチャンスには恵まれませんでした.しかしその姿はあちこちで見られました.地面から飛び立ち,地面の上を低く飛び,地面に止まります.とにかくすばしこく,敏感で近づきにくいトンボです.


▲ヒメトンボのオス.とにかく地面に止まるのが好きなトンボである.▲


▲ヒメトンボの若いメス.メスは草地に隠れていることも多い.▲


▲かなり老熟したと思われるヒメトンボのメス.▲


▲成熟が進むとこのように体表面に粉を吹いたようになるのであろうか.▲


▲成熟が進んだオス.▲

ヒメトンボもかなり数が多く普通に見られるトンボですが,こうやって写真に撮ってゆっくり見てみると,その成熟段階によっていろいろな変化が見られるトンボだということが分かります.

■アカスジベッコウトンボ Neurothemis ramburii ramburii (Brauer, 1866)
このトンボは,サイジョウチョウトンボより14年早く,2006年に与那国島に初めて飛来が確認されたトンボです.その後,西表島,石垣島へと分布が広がっています.チョコレート色をした翅を持つこのトンボは,とても南国的なトンボだと思います.今回の観察では,オキナワチョウトンボに匹敵すると言って良いぐらい,あらゆる場所でその姿を見ることができました.もう確実に定着しているでしょう.

川,池,水路,湿地,湧き水,さらにメスや未熟な個体は山道で過ごしています.このようにどこでも姿が認められるトンボですが,一番好きなのは湿地的水環境のようです.また用水路的な水路にもたくさんのオスがなわばり活動を行っていました.コフキショウジョウトンボと同じ場所にいることもありますが,種間の闘争でも負けることはありません.


▲水のわき出しによってできた,山道の浅い流れに集まるアカスジベッコウトンボ.▲


▲少し離れた場所には,未熟なオスも止まっている.▲


▲メスたちは水域から少し離れたところで,ゆったりと休んでいることが多い.▲


▲用水路にずらっと止まるオスたち.前翅が少し上がった止まり方をする.▲

とにかくたくさんいるので,もう珍しさも何もなくなってしまいます.しかしこれだけいても,意外と産卵するメスには出会えません.一度成熟したメスがオスたちのいる用水路に現れましたが,水面に下りるように飛ぶと,何頭ものオスが追いかけ,結局産卵などせずに飛び去りました.


▲オスのいる用水路に現れたメスだが,すぐにオスに追われ飛び去った.▲

アカスジベッコウトンボにしてもサイジョウチョウトンボにしても,南から飛来したトンボが増えてくると,それまで分布していたトンボがどうなるか,気になるところです.今回トンボを観察していて感じたことの一つに,ホソミシオカラトンボ,ヤエヤマオオシオカラトンボなどのトンボに非常に出会いにくかったことがあげられます.ホソミシオカラトンボには結局出会えずでした.

こういった侵入定着種が種間競争のバランスを変え,トンボ景色を変えているように思えてなりません.32年前に沖縄に来たときには,ホソミシオカラトンボもオオシオカラトンボも割合簡単に見つかったものです.今はオオシオカラトンボがいそうな場所のほとんどにはコフキショウジョウトンボとアカスジベッコウトンボが入っています.とにかく翅の色が派手なアカスジベッコウトンボの多さは,この地域のトンボ景色を,侵入以前から大きく変えてしまっていることは間違いありません.

■ホソアカトンボ Agrionoptera insignis insignis (Rambur, 1842)
ホソアカトンボは今回の遠征の目的の一つでした.このような形のトンボは本土にはいません.32年前に来たときに湿地状の水たまりでたくさんの幼虫をすくった経験があります.そのときから気になっていたトンボです.細い腹部に深紅の色彩を持ち,翅が細長い独特のバランスを持った形態です.薄暗い池にいるというのも妙に惹きつけられるものがあります.


▲背景が真っ黒になるような暗い池に生活している.▲

このトンボの繁殖活動をぜひ見てみたくて,何度も通いましたが,ついに見ることなく終わりました.池にメスが現れることすらありませんでした.観察に来た時間帯に問題があるのかもしれません.メスは池から離れた山道に止まっていたりします.


▲山道で見られたホソアカトンボのメスたち.▲

このメスたち,これが成熟した状態かと思っていましたら,最終日,少し日が射したときに池の近くで見たメスが衝撃的でした.真っ黒黒助,真っ黒けなのです.こんなのが暗い池を飛んでもまず見つからないでしょうね.


▲ホソアカトンボの真っ黒なメス.これらは違う個体.▲

初めて見るトンボたちは,自分なりの新発見が多く,楽しいものです.なお図鑑によると腹部が赤くなるオス型のメスもいるそうです.

■オオハラビロトンボ Lyriothemis elegantissima Selys, 1883
初日にホテルに着いたとき,私を迎えてくれたのがオオハラビロトンボでした.レンタカーを駐車場に止めたときに飛び立った1頭のトンボ,それがオオハラビロトンボでした.このホテルの周辺にはそれらしい池や湿地はないように思えるのですが,いったいどこから来たのでしょう.それもほとんどがメスでした.


▲おおよそ池も湿地も何もないホテルの駐車場の木の枝に5,6頭は止まっていた.▲

オオハラビロトンボは,林の中の山道などにかなり普通に見られました.未熟な個体から成熟したものまでさまざまです.しかしこれもまた,繁殖活動を観察することがありませんでした.私が繁殖場所をよく知らないからなのでしょうね.


▲山道の際にはさまざまの成熟段階のオオハラビロトンボが止まっている.▲

かなりの普通種ですが,明るい場所にはあまり見られませんでした.

■コフキショウジョウトンボ Orthetrum pruinosum neglectum (Rambur, 1842)
今回もコフキショウジョウトンボのメスが見られませんでした.だいたいこういったトンボのメスは林縁などに止まっているものなのですが,全く見つかりません.今回は繁殖活動も見ませんでした.これだけ個体数がいるのに繁殖活動が見られないのは,やはり観察時間帯が問題なのかもしれません.暑い亜熱帯の世界では,涼しい朝夕にそういった活動を行っているのかもしれません.普通種でも,みな,なかなか手強い側面を持っています.


▲アカスジベッコウトンボと一緒に,用水路でなわばりを張っているオスたち.▲


▲山道の水が滲出している場所に,アカスジベッコウトンボと一緒にいたオス.▲

コフキショウジョウトンボとアカスジベッコウトンボは,似たような場所で一緒に見られることが多いです.

■ヤエヤマオオシオカラトンボ Orthetrum melania yaeyamense Sasamoto et Futahashi, 2013
サイジョウチョウトンボを観察したときに出会った関東のトンボ屋さんに,サイジョウチョウトンボはこれくらいにして,これからオオシオカラトンボを見に行く,と言ったら,怪訝な顔をされました.そうでしょうねぇ.ひょっとしたら今しか見られない飛来種のトンボを差し置いて,オオシオカラトンボを見に行くというのですから.

しかしながら先にも触れましたが,今回の観察旅行で,オオシオカラトンボは非常に出会いが難しい種でした.オオシオカラトンボのいそうな環境には,ことごとくコフキショウジョウトンボとアカスジベッコウトンボが入り込んでいたからです.結局ヤエヤマオオシオカラトンボは.これらの種が入り込まないような,林内の薄暗い湿地で活動しているのを見ただけでした.ニッチが重なっている部分から追いやられて,これらのトンボが利用しないニッチでかろうじて利用して生き延びている,といったふうでした.


▲林内の薄暗い湿地で活動するヤエヤマオオシオカラトンボ.▲

オスは全部で4頭ほどいました.幸いなことに観察中メスが入って産卵を始めてくれましたので,オス・メス一石二鳥というところでした.


▲観察中,産卵に入ってきたヤエヤマオオシオカラトンボのメス.▲

見て分かるように,メスは腹部の第6節まで黄色い色をしています.本土のオオシオカラトンボでは第6節は通常黒い色をしています.


▲本土のオオシオカラトンボは腹部第6節は通常黒い.▲

こうやってまとめていると,こんなことにこだわって写真を撮りに行く私の方が,よっぽどカルト的存在かもしれませんね.ふとそんな風に感じました.産卵は相当長時間やっていました.産卵の様式は本土のオオシオカラトンボと変わりないようです.


▲水をかくようにして打水するヤエヤマオオシオカラトンボのメス.▲


▲オスがメスを警護するのは同じである.▲

さて,これら以外のトンボとしては,ウスバキトンボ,アメイロトンボ,タイリクショウジョウトンボ,コシブトトンボなどがいました.これは第2節でたくさん出会いましたので.そちらで紹介することにしましょう.早朝・夕刻を攻めなかったので,そういった時間帯に姿を現すトンボ科が欠けていますね.

ということで,32年ぶりという長い間を置いて観察した沖縄普通種の景色は,大きく変化していることを感じた次第です.

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No. 969. 沖縄県のトンボたち 1-1.2024.6.20.

おそらくこれは一生に一度になるでしょう.6月14日より,ゆったりとした日程で沖縄県のトンボたちに接しに出かけました.沖縄本島はこの時期梅雨末期の大雨で,災害級の雨が降り続けました.しかし私はもっと南の方からトンボを見に行く予定を立てましたので,大雨には見舞われませんでしたが,それでも空は厚い雲でおおわれ続け,あまりいい条件とは言えませんでした.

この旅行は3つの節に分けています.まずはその第1節の1回目です.それでは最初は均翅亜目のトンボたちについてまとめてみたいと思います.

■カワトンボ科 Family Calopterygidae Selys, 1850

◆クロイワカワトンボ Psolodesmus kuroiwae Oguma, 1913
春に沖縄へ行ったときには,たった1頭しか姿を見ることができませんでしたが,今回はたくさんの個体と出会うことができました.でも今回はいわゆる川には入らなかったので,川のそばの山道やそこを横切る小さな沢で出会った個体が多かったです.


▲クロイワカワトンボの成熟オス.6/15.▲

▲クロイワカワトンボ.オスの縁紋が白くなりつつある.6/16.▲


▲クロイワカワトンボのメス.6/16.▲


▲クロイワカワトンボのオス.縁紋が黒くなっている.6/16.▲

クロイワカワトンボは,羽化して間もないときには縁紋が黒い色をしているということです.ですから上の写真は羽化して間がないという感じですね.さらにその上の6/15 撮影分のははっきりとした白色で,胸部の節の部分も白粉が吹いているように見え,成熟していることが分かります.その下のオスの写真は,縁紋が白くなりかけている感じです.縁紋の色がこのように変化していくのでしょう.


▲メスもオスも翅のはばたき運動を行う.6/16.▲

■ハナダカトンボ科 Family Chlorocyphidae Cowley, 1937

◆ヤエヤマハナダカトンボ Rhinocypha uenoi Asahina, 1964
台湾に行ったときに初めて見たハナダカトンボの行動に非常に興味を持ち,ぜひ日本産で見てみたいと,会いに出かけてきました.天候もあり,必ず見られるとは限らない中,かなり時間をかけて記録地に行ってみました.この歩き,ものすごく歳を感じました.息切れはするしスピードが出ません.先を行く老夫婦にも置いて行かれます.最もこちらはトンボを探しながらしょっちゅう立ち止まりますから,余計にそうなります.現地に近づくと,いました.オスが2頭いました.


▲現地について初めて見つけたヤエヤマハナダカトンボのオス.6/16.▲

見つけたオスは,少し離れた細い枝の先に止まっていました.近づくことはできませんので,遠くから撮りました.もう1頭はこのオスに追われてどこかへ姿を消しました.やがて,このオスは川面に下り,太い倒木に止まりました.すぐ横には水に濡れた産卵基質となりそうな倒木があります.これはうまくいくと産卵にメスがやって来るかもしれません.またもう1頭のオスとバトルが繰り広げられるかもしれません.まずは川に下りてこのオスを撮りました.


▲ヤエヤマハナダカトンボのオス.同じ個体.▲

まだほかにもいるかもしれないと思い,このオスを置いて少し別の場所を探索しに行きました.すると,なんたること,子供連れの一家が網を持ってそのオスを採ってしまったのです.「ヤエヤマハナダカトンボだ」とか言っています.これでは,オス同士のバトルも産卵メスとのやりとりも見ることはできません.ヒトがやって来ることが少ないこの場所に,よりによって網を持った昆虫採集少年が来るなんて,がっかりです.

この一家が去ってしばらくすると,もう1頭のオスがその場所にやって来ました.


▲もう1頭のオス.やはりこの場所が一番いいのだろう.▲

この1日を,ほぼヤエヤマハナダカトンボのためにだけ使ったのですが,結局,オス同士のバトルも,メスの産卵も見ることなく,観察を終えました.もう少し別の場所へ移動してヤエヤマハナダカトンボを探しても良かったのですが,移動・探索時間が惜しかったのと,産卵に来そうな場所でもあったので,ここで粘ることにしたのです.賭に負けましたね.ヤエヤマハナダカトンボも翅の打ち下ろし運動をするようです.


▲ものすごいスピードで翅の打ち下ろし運動を行うヤエヤマハナダカトンボ.▲

■ミナミカワトンボ科 Family Euphaeidae Selys, 1853

◆コナカハグロトンボ Euphaea yayeyamana Oguma, 1913
今回チビカワトンボは,川にも入らなかったし,時期が遅かったのか,出会うことはありませんでした.これは第2節に持ち越しです.コナカハグロトンボは,あちこちにいることが分かりました.およそ流れがあるところには,1,2頭は止まっていました.


▲流れから離れた山道に止まっていたコナカハグロトンボのオスとメス.6/15.▲

ヤエヤマハナダカトンボのいた流れでは,コナカハグロトンボのオスが羽化をしていました.これを見ていて子供にヤエヤマハナダカトンボを採られてしまったのです.この幼虫はカゲロウのような形態をしており,それもバッチリ撮ることができました.


▲コナカハグロトンボの羽化.流れの中の岩に着いていた.6/16.▲

■モノサシトンボ科 Family Platycnemididae Tillyard et Fraser, 1938

◆マサキルリモントンボ Coeliccia flavicauda masakii Asahina, 1951
奄美大島へ行ったときには,アマミルリモントンボをたくさん見ることができました.ただしオスだけでしたが.春に見ることができなかったマサキルリモントンボも,今の時期ならたくさん見られるだろうと思っていました.しかしこれが意外と難しいことを思い知らされました.いるにはいましたが,見つけた場所はどこもオス1頭がぽつんといるだけでした.アマミルリモントンボと同じでメスは見つかりませんでした.ルリモントンボたちのメスはどこに隠れているのでしょう.またひとつ私にとっての不思議が増えました.


▲マサキルリモントンボのオスたち.別々の場所で撮影.6/15と6/16.▲

■イトトンボ科 Family Coenagrionidae

◆リュウキュウベニイトトンボ Ceriagrion auranticum ryukyuanum Asahina, 1967
今回は意外なことにイトトンボ類にほとんど出会いませんでした.そんな中で,リュウキュウベニイトトンボだけは繁殖活動をしているところを観察できました.ただ,リュウキュウベニイトトンボは明るい池の住人のようなイメージを持っているのですが,私が見たのは,暗い林内の池でした.季節がちょうどサガリバナが咲く時期だったので,サガリバナに止まるリュウキュウベニイトトンボという,ちょっと粋な構図の写真が撮れました.


▲今はちょうどサガリバナの咲く季節.▲


▲サガリバナの落ちた花に止まるリュウキュウベニイトトンボのペア.6/19.▲

このペアはサガリバナには産卵をしませんでした.このオス,赤いダニがたくさんついています.自然が豊かな印とも言えるでしょう.


▲単独オスもいて,追いかけ合いをしていた.6/19.▲

イトトンボ科では,あと,ムスジイトトンボとアオモンイトトンボを見ました.まずは第1節の均翅亜目について紹介しました.次回は不均翅亜目です.

カテゴリー: エッセイ, 県外のトンボ | No. 969. 沖縄県のトンボたち 1-1.2024.6.20. はコメントを受け付けていません

No. 968. ベニイトトンボの新産地.2024.6.10.

今日は,水に濡れて一時は完全に沈黙したカメラが奇跡的に復活再稼働し始めたので,そのテストをかねて近くの公園に出かけ,撮影をしてみました.連写,ストロボ発光,オートフォーカス,等々のチェックです.250枚ぐらいの写真を撮りましたが,極めて順調でした.これなら使えそうです.よかった.

さてそんな軽い気持ちでのテスト撮影でしたが,トンボの方は成果がありました.近くの公園にベニイトトンボがいたのです.


▲処女飛行に飛び立ち,止まったベニイトトンボのオス.▲

池の際を歩いていると,池の方から処女飛行に飛び立ったイトトンボがいました.赤い色をしていましたので,まさかと思いましたが正真正銘のベニイトトンボです.この時期はトンボの端境期であり,この公園のトンボもあまりパッとした種類がいないと決めつけていました.だから今まで足が向かなかったのですが,そういった隙間にこういったトンボが見落とされるんですね.今年は似たような反省をよくしています.


▲近くを探すと,池には成熟した個体が10頭程度活動していた.▲

さらに目を凝らして探しますと,交尾をしているペアがいました.交尾が終わると産卵が始まるかもしれません.


▲交尾するベニイトトンボ.メスにはダニがついている.▲

このペアはやがて交尾を解き,タンデムで水面の方に降りていきました.しかしすぐには産卵を始めず,メスは腹部を直線的に伸ばしたままでいます.


▲水面に降りたペアだが,メスは腹部を伸ばしたまま曲げようとしない.▲

根比べでかなり待ちましたが,やがて飛び立ち,草陰に入ったかと思うと見失いました.しかたないので,移動しながらベニイトトンボの状況をさらに調べました.単独オスがときどき目に付きます.そんな中,ペアが草の間を矢のように飛んでいるのを見ました.

▲飛び回っていたペアが止まるところ.▲


▲あちこち移動するベニイトトンボのペア.▲

このペアもタンデムで飛ぶだけか...と思っていますと,やがて産卵を始めてくれました.


▲産卵するベニイトトンボのペア.▲

ということで兵庫県のベニイトトンボの産地が一つ増えたことになります.この池は他の生息地からは相当に離れていますから間違いありません.カメラテストが新しい発見につながりました.他のトンボは端境期であることもあって,少なかったです.キイトトンボと産卵するコシアキトンボを紹介しておきましょう.


▲キイトトンボのオス.ベニイトがいればキイトがいるという経験則は当たった.▲


▲若いコシアキトンボのメスが産卵していた.すぐにオスに見つかりどこかへ行った.

トンボの世界は夏に衣替えを始めていますね.

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今日初出会いのトンボたち
No.40. ベニイトトンボ,産卵
No.41. キイトトンボ,オス,メス

カテゴリー: 兵庫県のトンボ, 観察記 | No. 968. ベニイトトンボの新産地.2024.6.10. はコメントを受け付けていません

No. 967. 信越地方へのトンボ観察行.2024.6.5-8.

梅雨入りの前に,信越地方へ,トンボ観察に行きました.見たいトンボはオオトラフトンボです.もともと幼虫(ヤゴ)に興味があったため,日本産トンボ幼虫については,だいたい出会ったり生きた状態のを見たことがあるのですが,成虫については,自然の中を飛ぶのを見ていない種類がそこそこあるのです.オオトラフトンボもその一つです.

まず一日目は,昨年アマゴイルリトンボを観察した場所へ行くことにしました.そこには遠くを飛ぶ不均翅類のトンボがいて,種類がはっきりしなかったのですが,写真に撮って解析したら,どうもオオトラフトンボのように見えたのです.そこで今年はまずそれを確認に行きました.結論から言うと,いました.一日目は午後到着で気温が18℃とやや低かったこともあり,水面を飛ぶトンボはほとんどいませんでした.一方草の間には,アマゴイルリトンボの未熟な個体がたくさん群れていました.羽化期のようです.


▲草間に群れるアマゴイルリトンボの未熟個体.▲


▲アマゴイルリトンボの羽化殻.まだ羽化期が続いているのだ.▲

二日目,朝は青空,予報は昼から曇り,まあまあの感じです.朝8時過ぎに池に着いたとき,まだ水面を飛ぶトンボはいませんでした.しかし日向にはコサナエたちが止まっていました.と,突然足下で,コサナエが産卵を始めました.


▲産卵に来たコサナエ.淡色部がまだ黄色く若いのだろうか.▲

写真でおわかりのように,写真撮影には理想的な場所です.背の低いシダ植物の上で産卵をし,背景は空が反射する水面です.こういう位置ではオートフォーカスがよく効くのです.案の定数十枚の写真のほとんどはフォーカスが来ていました.なんか,ステージの上で産卵のショウを見せてくれているようです.


▲産卵をするコサナエ.▲


▲オスはあちこちに止まっている.▲

さて,本命はオオトラフトンボです.実は一日目ロケハンをしているときに,オオトラフトンボの羽化殻を見つけました.なんと水際から1mくらい離れた小径の,池とは反対側に生えている草に付いていました.一日目は不均翅類のトンボの姿がほとんどなかったのでちょっと心配はあったのですが,これでこの池にいることは間違いないということが確認できました.


▲オオトラフトンボの羽化殻.これはオス.▲

ただこんなものが着いているということは,まだ繁殖活動には早いのかと,別の心配が出てきました.羽化殻は二日目も見つかり,全部で6個体採取できました.


▲オオトラフトンボの羽化殻.これはメス.▲

さて,コサナエの産卵を見たあと,産卵に敵した場所,つまり水中に卵を絡めやすい沈積物のある場所で,待つことにしました.ここは一日目に羽化殻を見つけた場所でもあります.そうこうするうちに池の中央を飛ぶトンボが現れました.あまりに遠くて種類がよく分かりません.クロスジギンヤンマにしては小さいし,トラフトンボにしては大きいというサイズです.このトンボ,ほとんど岸に近寄らず,中央ばかりを飛んでいます.しかも私が近づくと,その反対側に寄って飛びます.見えているのですかね?


▲池の中央部を飛ぶばかりの謎のトンボ.囲みは腹面からのアングル.▲

撮った写真をホテルで確認すると,どうやらオオトラフトンボです.オオトラフトンボは池の中央を飛ぶとことは図鑑等に書かれていますが,まさにその通りでした.かなり粘りましたが,岸に近づく気配はありません.これはもう産卵に来るメスしか接近遭遇できそうにないと,判断せざるを得ない状況でした.まあ,本当にトンボによってその行動パターンはさまざまです.若干の悔し紛れはありますが,これが生態観察なのですね.写真には難しい相手です.普段見ている人には当たり前の光景なのでしょうが,初めて実感したときの感情,これが遠征の「冒険心」をくすぐります.

すると,10時を過ぎたころ,突然私の目の前に黒いトンボが入り,行ったり来たりしながら打水産卵を始めました.オオトラフトンボはこんな産卵はしません.写真を撮りまくりましたが,動きが早くピントが来ません.1枚だけなんとか写っているものがあって確認すると,カラカネトンボでした.


▲産卵にやって来たカラカネトンボのメス.▲

よく見ていると,ときどき岸近くを飛ぶオスの姿も確認できました.でも速すぎて写真にはなりませんでした.ということでしばらくしてから,地元では見られないイトトンボ類の確認をすることにしました.


▲エゾイトトンボ.メスには青色型と黄緑色型がある.▲

まずはエゾイトトンボです.エゾイトトンボは信越地方では極めて普通種のようです.私には北の方にやって来たと実感させられるトンボなのですが...アマゴイルリトンボがまだ羽化期が続いている状況の中で,エゾイトトンボは見た限り成熟した個体がほとんどでした.


▲オゼイトトンボ.こちらは未熟な個体や,処女飛行の個体がむしろ多かった.▲

次はオゼイトトンボです.こちらはまだ羽化期のようで,足下から処女飛行する個体をいくつか見ました.繁殖活動には少し早いようです.対してアマゴイルリトンボは,羽化期ではあるようですが,すでに成熟して産卵しているペアもいました.


▲アマゴイルリトンボの産卵.▲

それから,オオトラフトンボを待っているとき,ルリイトトンボを見ました.クロイトトンボに混じって枯れ枝の先に止まっていました.これ1頭だけしか見なかったので,この場所では数が少ないのでしょう.でもイトトンボというのは,近くでじっくり見ると,とてもきれいなトンボたちです.でもどうして北の方のイトトンボたちは水色をしたものが多いのでしょうね.


▲ルリイトトンボ.▲


▲潜水産卵を始めているクロイトトンボ.▲

クロイトトンボを初め,地元で見られるトンボたちも活動していました.写真にはありませんが,クロスジギンヤンマも元気に飛んでいました.シオヤトンボなど,兵庫県ではもう終わりといっていいですが,標高が高いせいか,まだまだ若くてきれいな個体がたくさんいました.アサヒナカワトンボも繁殖期真っ盛りの感じです.


▲標高が高いせいでしょうか,まだ若々しくきれいなシオヤトンボ.▲


▲アサヒナカワトンボも数多くいた.▲

さて,この場所は,これ以上いても進展がなさそうなので,移動して宿に入ることにしました.次の日のターゲットはオオセスジイトトンボですが,これはまだ時期が早いと地元の友人に助言を受けていましたので,観察地の様子を見る程度にしました.

三日目,観察地に着いて池の周囲を歩いて,トンボのようすを観察しました.草地の中にはアオモンイトトンボがたくさん群れていました.


▲草の間に群れるアオモンイトトンボたち.▲

と,突然目の前を,大型のイトトンボが飛びました.よく見るとオオモノサシトンボのようです.腹部第9節の背面が褐色をしています.


▲未熟なオオモノサシトンボのオス.▲

やはり遠くへ来るといろいろなトンボたちに出会えますね.これが楽しみでもあります.ただこれ1頭だけでした.これから羽化してくるのでしょうね.

さらに歩いているとアオモンイトトンボの交尾の時間帯に入ったようです.アオモンイトトンボは午前中に長時間交尾します.ですから,あちこちで交尾態が飛び回る風景に出会います.


▲交尾時間帯を迎えたアオモンイトトンボたち.▲

一通り探索をしたあと,友人に勧められた池を見に行くことにしました.こちらは平地にある池で,とても環境がよく多くのトンボが記録されていると聞いています.まず目についたのが,たくさんのヨツボシトンボ.やはりこちらはまだヨツボシトンボが盛んに活動している時期なのですね.


▲ヨツボシトンボのオス.▲

次に見たのがモノサシトンボ.こちらのモノサシトンボは淡色部がやけに白く見え,濃色部が黑っぽいので,一瞬オオモノサシトンボか? と思ったほどでした.兵庫県のモノサシトンボは淡色部が薄緑色から水色へと変化しますので,この白黒のコントラストに驚かされました.やはりところ変われば品変わるです.オオモノサシトンボとモノサシトンボの区別がよく図鑑に取り上げられていますが,色彩感覚だけだと見間違いもありなんということがよく分かりました.こんなことに感動できるのも,遠征のいいところです.ただ撮った写真をよく見るとやはり淡色部は薄緑色をしていますね.オオモノサシトンボがいるかもしれないといったバイアスがかかっていたのかもしれません.


▲モノサシトンボのオス.腹部第9節全体が白い.▲

そこで,モノサシトンボは兵庫県と同じように水色になるのか,といったことに興味が湧き,探してみました.すると,いました水色の個体が.妙に安心したのを覚えています.遠征して実物を見ることで視点が広がる感覚を実感できました.


▲淡色部が水色をしたモノサシトンボ.▲


▲モノサシトンボのメス.メスはこちらの個体とあまり違わない.▲

さて普通種で盛り上がってしまいましたが,この池が素晴らしいと言われるのは,ハッチョウトンボやアオヤンマがいるからかもしれませんね.


▲ハッチョウトンボのオスとメス.▲


▲アオヤンマの交尾.兵庫県では減ってしまったアオヤンマが元気に飛ぶ.▲

さて,次の四日目です.この日は友人の案内で,もう一度オオトラフトンボに挑戦します.ただ,二日目のオオトラフトンボの飛び方を見て,初めから負け戦的な感覚がありました.諦めてはいけませんので,写真に撮れるよう集中しました.ここのオオトラフトンボは先の池よりは岸近くを飛んでくれていますので,チャンスはあるかもしれません.

池に着いて最初に目にしたのはカラカネトンボでした.これは岸近くを飛び,ときどきホバリングをするので,だいぶんましです.


▲池近くを飛び回るカラカネトンボのオス.▲

ただどういうわけかうまくピントが来たのはトンボが草陰に入ったときだけでした.だがここでアクシデント.トンボに気をとられて池にはまりました.カメラが,水没ではありませんが,一部が水に濡れ,どうかと思いましたが,「しばらくは」動き続けてくれました.そんなころオオトラフトンボが飛び始めました.なんたる不運.しかし濡れた服を乾かしながら,撮影に挑みました.が,やがてカメラが水に浸食されたのでしょうか,動作がおかしくなり始めました.そんな瀕死の状態のカメラで少しだけ写真が撮れました.


▲池を飛ぶオオトラフトンボのオス.▲


▲カメラが生き残っている間に何枚か撮れたオオトラフトンボ.▲

カメラはやがて完全に沈黙してしまいました.ただ今回は予感があったのか,予備のカメラを持参していましたので,次の池に移動する前に着替えをし,カメラを交換し,観察を続けました.

次の池はやたらコフキトンボの多い池でした.産卵もしていました.この池では帯型が見られるかもしれないとのことで頑張って探しましたが見つかりませんでした.


▲ハスの浮葉に産卵するコフキトンボ.▲

あともう一つ池を見に行きましたが,時間帯が遅かったせいか,普通種がちらほらいただけでした.こんな感じで,信越地方への遠征は終わりました.なかなか面白かったので,また行くかもしれません.そうそう,カメラはしばらくすると復活しました.キーボードなど,コーヒーをこぼすと水で洗えなどということを聞いたことがありますが,バッテリーを抜いて,乾燥させると生き返ることもあります.このカメラしばらく使ってみるつもりです.水没の修理は10万円近くかかるので....

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No. 966. ムカシヤンマを探しにいった.2024.5.30.

今年は兵庫県のトンボの状況を確認するために,少なくとも1回は兵庫県に分布しているトンボ種に出会うことを目標に動いています.今日はムカシヤンマを探しに行きました.6月中旬には出現時期が終わりになるので,急がなければならないトンボです.他のトンボを見に行ったときにぽつんと止まっているところによく出会うのですが,今年は全くそういう機会がありません.

今日行ったムカシヤンマのいる谷もそういうところです.この谷今年は異変を感じています.いつもなら結構たくさん見られるニホンカワトンボ,ヤマサナエ,シオヤトンボが非常に数が少ないのです.今日いつもの道を歩いて出会ったのは,シオヤトンボ1頭,シオカラトンボ数頭,ショウジョウトンボ1頭,ヤマサナエは1頭,サラサヤンマ2頭,ムカシヤンマ1頭でした.

この谷では,奥の方の水田は,以前休耕していました.この何年か再び耕作を始めています.その水田から流れ出る水が小川を流れていきます.そこにヤマサナエやニホンカワトンボが群れていたのですが,これがほとんど消えています.同じくこの水田下の道路脇の細流にシオヤトンボがよく飛んでいましたがこれも非常に少なくなりました.今日サラサヤンマ,ムカシヤンマ,ヤマサナエとで会ったのは,この奥の水田より上手です.観察事実だけを述べましたが,原因は想像するより他はありません.

さて,それでは出会った今日の目標種ムカシヤンマを紹介します.オスの姿は全くありませんでしたが,1頭見つけたのが産卵にやって来ていたメスでした.


▲水が染み出ている道ばたの草地で産卵するムカシヤンマを見つけた.▲

この場所は,先日の大雨の影響でしょうか,水がちょろちょろと流れていました.普段は湿気ている程度です.大雨のせいで今日は水が流れているのですが,ムカシヤンマはだまされているのかもしれません.晴れの日が続くと,ムカシヤンマの幼虫が暮らす環境にはならないような場所であると思います.


▲近づいて撮影した.▲

このメス割合に神経質で,私の動きやストロボの光をうっとうしく感じているように見えました.すぐに飛んで場所を変えました.


▲産卵場所をあちこち変えながら産卵を続けるムカシヤンマ.▲

場所を変えてもUターンしてまた同じ場所に戻ることもありました.産卵適所が少ないのでしょうね.私が見つけてから5分ほどで産卵を止めて飛び去りました.

ムカシヤンマの個体数自体が少ないので,産卵メスに出会えるというのは数年に1回あるかないかというところです.今日はそういう意味ではついていましたが,オスの姿が全く見られなかったのが残念です.

そのあと,サラサヤンマの摂食飛翔に出会いました.摂食飛翔はあまりホバリングをしないので写真には撮りにくい相手です.


▲農道で摂食飛翔をするサラサヤンマのオス.行ったり来たりの急旋回が多い.▲

摂食飛翔をしているに出会うのはいつもオスです.メスはどうやって摂食をしているのでしょうか.ちょっと考えたら不思議です.

さて少し進むと,今度は道の上でなわばりを張っているのではないかと思われるオスに出会いました.ホバリングを頻繁にし,さらに植物にぶら下がって止まるのです.これは摂食飛翔の飛び方とは異なります.農道ですので湿地ではありません.これも大雨の影響で水蒸気が立ち上り,サラサヤンマの偏光を感じる視覚に何か影響を与えているのでしょうか.先のムカシヤンマの産卵といい,大雨の後というのは,湿地性のトンボの行動に何らかの影響を与えているように感じました.


▲今度は長くホバリングするので写真が撮りやすい.▲


▲ホバリングを止めて低い位置に静止した.これはなわばりで見せる行動だ.▲

あまりしつこく私が近づくので,嫌気が差したのか,最後は高い木の上に避難しました.


▲最後は高い木の枝に止まった.▲

さて,探索目的は達成したので,この後は夏のトンボ出現状況調査に切りかえました.まずこの谷で見つけたシオヤトンボ.本当に数が少ないんです.そして小さな池ではホソミオツネントンボがいました.ただしこの池にはこれ1頭のみ.


▲シオヤトンボの老熟メス.複眼の灰色が渋い.▲


▲ホソミオツネントンボは毎年6月くらいまでは活動を続けている.▲

場所を変えることにしました.近くのもっと環境のよい池に行ってみることにしました.何がいるでしょう.全く予測が付きません.まず見つけたのが,モノサシトンボです.最近モノサシトンボに出会う機会が減っています.データを整理すると,見つかっている場所の数がレッドデータブックに載る種とあまり変わらないくらいなのです.調査が偏っているだけならいいのですが.


▲まだ羽化直後の個体がいたり,産卵していたり,いろいろなステージがいた.▲

アオイトトンボもたくさん羽化していました,が,どういうわけかメスばっかり.


▲アオイトトンボの羽化してから時間が経っていない個体たち.▲

そして一番驚いたのが,オツネントンボがまだ頑張っていたことです.なんと超高齢者のオツネントンボがまだ元気に交尾をしていました!.ここでは3月30日から産卵活動が開始されていました.


▲超高齢状態のオツネントンボの交尾.頑張って産卵してください.▲

あとはヨツボシトンボが2頭だけ飛んでいました.これ以外には,ギンヤンマ,クロスジギンヤンマ,トラフトンボなどを見ました.トラフトンボもオツネントンボに負けず頑張っていますね.これらは写真に撮れませんでした.


▲ヨツボシトンボはまだ頑張っている.若い感じがする個体だ.▲

最後に新分布の発見です.この池の近くに川が流れていますが,そこにアオハダトンボがいました.アオハダトンボの,この川での生息記録がありません.また季節適期になったとき一度調査する必要があります.


▲新産地発見のアオハダトンボ.▲

ということで,どちらかというと散歩がてらの調査でしたが,意外と収穫がありました.

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今日初出会いのトンボ
No.38. ムカシヤンマ.メス
No.39. モノサシトンボ.産卵.

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