No. 846. キイロサナエを見に行った.2022.6.10.

春のトンボが終わって,初夏のトンボに移行しています.川では,アオハダトンボ,グンバイトンボ,コヤマトンボ,キイロサナエなどがこの時期のトンボです.前二者はこの間見に行きましたので,今日は後半の二者がねらいというところです.

▲日向に止まるキイロサナエのオス.▲

いつもは細い溝川によく止まっているのですが,今日は,オスたちは川の本流を飛び回っていました.ここはいつもホンサナエを見に来るところです.ですから撮影場所がホンサナエとかぶります.


▲いつもホンサナエが止まっているところにキイロサナエが止まって活動している.▲

ここで待ってもいいのですが,川幅が広いので,もしメスが来てもちょっと手に負えそうにありませんので,場所を変えることにしました.移動する前に,モートンイトトンボとハラビロトンボを見に行きました.


▲モートンイトトンボはたくさん発生していた.▲

モートンイトトンボのいる休耕湿地には今年は水がたくさんたまっていて,そのせいか,モートンイトトンボは非常に多く発生していました.ただ,もう9時を回っているためでしょうか,交尾態のものは全く見つけられませんでした.


▲ハラビロトンボもいろいろな成熟段階のものが混じって飛んでいた.▲

ハラビロトンボは渇水にもよく耐えるトンボで,逆に水が多いからといっていつもより多いというわけでもなく,いつも通りたくさん飛んでいました.様々の成熟段階の個体が入り交じって飛んでいるので,まるで展示会みたいです.ここにはヤマサナエもいました.


▲まだヤマサナエも活動をしている.▲

キイロサナエのいたところのすぐそばに,まだホンサナエが生き残っていました.メスです.結構遅くまで頑張っているんですね.


▲ホンサナエのメス.暑い地面の上でぐったりしているみたいだ.▲

さて,場所を移動しました.少し細い流れのところでキイロサナエを探すことにしました.ヤマサナエがあちこちに止まっていて,キイロサナエはまだ少ないように思えます.


▲細い流れの部分には,まだあちこちにヤマサナエが止まっている.▲

流れに降りたとき,足下からメスが飛び立ちました.キイロサナエかヤマサナエか分かりませんが,すぐにそばにいたオスがそれに気づき,あっという間に交尾態になって,山の方に飛んでいきました.やられましたね.このメスは一回打水したので,オスがいなければ産卵を観察できたのに残念です.

まあ,気にしても仕方ないのでもう少し上流の方に行きました.するとコヤマトンボが流れの上を行ったり来たりして飛んでいます.これを狙うことにしました.何百枚もシャッターを切りましたが,今日は成功率が低く,おそらく0.5%程度でした.


▲どういうわけか,右から左へ移動するときしか成功しない.▲

このコヤマトンボとは1時間近く格闘をしました.でもこれがキイロサナエを待つのにちょうどよかったみたいです.ふと足下を見るとキイロサナエのメスが止まっていました.これ,コヤマトンボに夢中になっているときに産卵していたのかもしれません.写真を数枚撮ったら飛び去ってしまいました.


▲キイロサナエのメスが流れの縁に止まっているのを見つけた.▲

これでは主客転倒です.これ以後は常に足下にも気を配りながら,コヤマトンボを見ていました.するとやってきましたキイロサナエのメスが.止まって卵塊を作っています.

▲産卵にやってきたキイロサナエのメス.▲

先とほとんど同じところにやってきました.ここ,産卵ポイントなのかもしれませんね.今回はコヤマトンボは無視して,キイロサナエの産卵を記録することにしました.卵塊を作ると岸に沿って往復するように流れの上をものすごく素早く飛んで打水します.この打水の瞬間は,全く手が出ません.


▲かろうじて写っていた,飛んでいるところ.▲

飛んでは止まり飛んでは止まりを繰り返しています.結局止まったときしか記録にとることができませんでした.


▲こんな感じで,止まったところばかりになった.▲

このメスは静止して卵塊形成を行い,打水するという形式の産卵でした.今回はオスに邪魔されず,飛び去るまで観察を続けることができました.オスは実は近くにいたのです.また,ヤマサナエのオスも近くにいました.どちらも気づかずラッキーでした.


▲数メートル離れたところにいたキイロサナエのオス.▲


▲やはり数メートル離れたところに止まっていたヤマサナエのオス.▲


▲このオスは近づくと例によって飛び立ちホバリングをした.▲

この時期はいろいろなトンボが見られるので,あとは,それらとの出会いを楽しみに,ぶらぶらしました.シオヤトンボが生き残っていました.老熟したシオヤトンボのオスです.メスを追って産卵させようとしているものもいました.まだまだ頑張っているようです.


▲老熟したシオヤトンボのオス.▲

オオイトトンボのメスが単独で飛んでいました.付近にオスが少ないためこんなことになるのでしょうか? モノサシトンボが羽化していました.キイトトンボも羽化していました.キイトトンボの方は,もう産卵している個体もいました.これらを見ているときに,オオヤマトンボが産卵に入りました.残念ながら一往復しただけでしたが,1枚だけピントが来ました.


▲オオイトトンボのメス.▲


▲羽化直後のモノサシトンボ.▲


▲オオヤマトンボのメス.産卵にやってきた.▲


▲キイトトンボの未熟個体.これは最初の休耕湿地にて.▲

キイトトンボは2ペアが産卵していました.私が近づくと逃げるのですが,産卵している個体の近くが安心するのでしょうか,すぐに戻ってきて近くに止まって産卵しようとします.産卵ペアは別の産卵ペアに対する誘引効果があるようです.


▲キイトトンボの産卵.もう夏が来たみたいに気分になる.▲

今日の最後を飾るのにふさわしいのは,ハッチョウトンボです.最後にハッチョウトンボを見に行きました.まだ個体数はあまり多くありませんでしたし,どういうわけかメスが見つかりませんでした.


▲ハッチョウトンボのオス.今日はマクロレンズで撮ってみた.▲

今日はたくさんのトンボに会いました.写真に撮れ(ら)なかったものとしては,コフキトンボ,シオカラトンボ,ショウジョウトンボ,クロイトトンボ,ヨツボシトンボ,ニホンカワトンボなどがいました.そうそう,最後の最後,トンボの自然死というのはあまりお目にかかれませんが,今日はクロスジギンヤンマが死んでいるのを見ました.こういうのは大概アリなどがやってきて体をバラバラにして持って行くのですが,これは宙ぶらりんの状態なので,アリの気づきが遅かったのかも知れません.


▲クロスジギンヤンマの自然死.翅が破れているが鳥にでも襲われたか...▲

ということで今日はここまでです.

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No. 845. ウチワヤンマ繁殖活動始まる.2022.6.8.

最近ウチワヤンマの活動時期が早くなりました.このことは,タイワンウチワヤンマの記事の中で,データとともに示しています.今日はまだ早いかなと思いつつ,ウチワヤンマとコフキトンボを見に行きました.コフキトンボは今年は非常に数が少なかったですが,ウチワヤンマはもはや5,6頭のオスが,岸辺でメスを待っていました.


▲岸近くを時々飛んでパトロールするウチワヤンマのオス.▲


▲そして,岸辺の茎の先端に静止する.▲


▲これは少し離れたところに止まっている別のオス.▲

今日は,コフキトンボもコシアキトンボも数が少なく,池で飛んでいるのはウチワヤンマとオオヤマトンボという大型のトンボばかりという感じです.ウチワヤンマが止まっている前を時々オオヤマトンボが横切ります.すると必ずウチワヤンマは飛び立って,オオヤマトンボをちょっとだけ追尾します.


▲オオヤマトンボが横切ると,...▲


▲オオヤマトンボをちょっとだけ追尾するが,今回は隣のウチワヤンマも反応した.▲

たまたま写真を撮ろうとしたときには,隣のウチワヤンマもオオヤマトンボに反応し,飛び立ちました.すると,オオヤマトンボより,同種のウチワヤンマオスの方に闘争心がより強くわくのか,ウチワヤンマ同士のバトルが始まりました.尾部付属器を上に反らし,ウチワ部分を精一杯広げて,足も広げて今にもつかみかかりそうです.


▲にらみ合いが始まった.▲


▲にらみ合いは岸から離れても続いていく.▲

こんな感じでオスと戯れていました.すると,すぐ真下にウチワヤンマが止まりました.よく見ると,メスです.羽を小刻みに震わせて止まっています.まるでホンサナエが卵塊を作るときみたいな感じです.これは産卵するな,と直感しました.時刻は9:06です.結構早いかな.


▲メスが産卵に入ってきた.まずは岸辺で静止して何かをしているように見える.▲

通常産卵するメスは,オスと連結し交尾態になった状態で飛来し,産卵ポイントでオスに放されてから,オスの警護を受けながらその場で産卵を行います.今回のようにメスが単独で水域に入り,産卵を始めるのを見るのは初めてです.まだ繁殖活動期間のはじめの方なので,成熟オスの個体数が少ないためにオスに見つからず,池に入れたのかもしれません.少し待つと,ちょっと離れた「よく目立つ」ところで産卵を始めました.

▲岸から少し離れたとてもよく目立つところで産卵を始めた.▲

よく見ると,茎がちょっとだけ水面につき出ているあたりを腹端でたたいているようです.3枚目の写真ではその部分から糸を引いているのがわかります.

こんな目立つところで産卵すると,オスが見逃すはずがありません.少しすると,メスが産卵をやめて飛び立ちました.オスが来たのです.オスはものすごいスピードでメスを追いかけましたが,うまく捕捉できたのでしょうか?


▲調子よく産卵を続けていたが,...▲


▲突然メスが逃げ出したかと思ったら,...▲


▲オスがきっちりとやってきた.▲

さて,少し雲が多くなってきました.今日の天気は不安定だということです.たくさんの積雲が連なっていて,太陽が雲に遮られることが多くなってきました.などと,雲を見ていたので,オオヤマトンボが産卵に来たのに気づくのが遅れ,見つけたときにはもう終わっていて,チャンスを逃してしまいました.やはり集中しておかないといけません.そこで立ち上がって,周りをしっかりと見渡すようにしました.

10:16,少し先の方で,交尾態のウチワヤンマが,枯れ枝が浮かぶ水面ギリギリのところでホバリングしているのを見つけました.これは産卵を始めるサインです.脱兎のごとく駆け出し,ぎりぎり交尾を解くのに間に合いました.


▲産卵ポイントを決め,そのすぐ上でホバリングした後,メスを放す.▲


▲このメスはかなり長い間産卵をしていた.後半日が射したときのショット.▲

空は曇っていて,高速シャッターではISO感度が上がり,若干発色が悪くなります.しかしこのメスかなり長い間産卵を続けていました.気がつくと約4分,360回以上シャッターを切っていました.それでもまだやっています.おかげで後半は少し日が射した状態で撮れました.そこで,カメラをビデオモードにして,残りはビデオで記録しました.それでも1分以上は続いていました.つまり産卵は5分以上行われたことになります.


▲オスはほとんど最後までやや上空を停止飛翔して警護を行った.▲

▲続きはビデオでどうぞ.▲

ということで雲も多くなってきましたので,ここまでとして,あと,アオヤンマの探索に行くことにしました.そうそう,コフキトンボの写真を撮り忘れていましたが,コシアキトンボはきちんと撮っておきました.


▲コシアキトンボも飛び始めていた.▲

アオヤンマの探索ですが,最後の最後に立ち寄った池で,アオヤンマを見つけました.この池は古い池で,本当に25年ぶりぐらいにやってきました.入ることができないくらい荒れていて,外から眺めるだけでしたが,目の前をアオヤンマが飛びました.その後も数回顔を見せ,少なくとも数頭はいることは間違いありません.


▲午後3:00ごろになり,上空を飛び始めたアオヤンマ.▲

証拠写真だけでもと思いましたが,こんな写真しか撮れませんでした.腹部の太さからアオヤンマと見えるでしょうか? これで,兵庫県で,少なくとも2カ所生息地があることになりました.何が,といって,これが一番嬉しかったです.

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No. 844. アオハダトンボなどの確認に.2022.6.4.

今日は,特別大きな狙いを持たず,例年出かけているアオサナエとアオハダトンボとグンバイトンボの生息地の様子を見に行きました.現地に着くと川の水位が極端に下がっていました.今年は雨があまり降っていないからでしょう.水田への取水時期でもあります.何年か前に浚渫されてから大分経ち,川の状態はかなり復活してきています.アオハダトンボはたくさんいて,十分以前の状態にまで戻っているように見えました.


▲アオハダトンボのオスとメス.十分に回復しているように思えた.▲

ただ,川の植生は,ツルヨシは生えているものの,以前見られたエビモやコカナダモなどの沈水植物の復活がまだまだという感じで,均翅類の産卵環境としてはちょっと物足りないという感じです.そのせいかどうかはわかりませんが,きょうはグンバイトンボが全く見つかりませんでした.川の流程は長いので消えたと断言することはできませんが,ちょっと心配な感じではあります.

サナエトンボ類は,アオサナエが3個体,ヤマサナエが1頭飛んだだけで,コヤマトンボもいませんでした.アオハダトンボだけがやたら賑やかにしている状態でした.ただし,オジロサナエだけはあちこちで羽化していました.


▲あちこちで羽化したオジロサナエが飛び立った.▲

オジロサナエというのは不思議で,先日行った川でもそうでしたが,たくさん羽化しても成虫はそこではまず見つかりません.よく言われているのが幼虫の流下説で,繁殖地はもっと上流だというのです.一度突き止めたいとは思っても,どこを探してよいのか見当がつきません.

さて,これ以外にはミヤマカワトンボがそこそこの数いました.以前はあまり目立たなかったカワトンボですが,今日は結構目立っていたように思えます.


▲ミヤマカワトンボのオス(上)とメス(下).▲

アオハダトンボが復活していることが確認できましたので,次はムカシヤンマやサラサヤンマをねらいに行くことにしました.これいつものコースです.

現地の谷筋に着きました.さっそく心当たりを次々に当たっていきましたが,全くトンボがいません.シオカラトンボすらいません.唯一ハラビロトンボのオスが1頭草地に止まっていただけです.この時期であれば,ヤマサナエなどが姿を見せてもいいはずですし,ニホンカワトンボの生き残りがいてもいいはずです.特にこの場所はトンボの出現が少し遅いので,今頃がちょうどよい時期だと思うのですが...現に2年前の6月7日にはたくさんのトンボがいました

変な感覚を抱きながら,農道を奥に入っていきますと,やっとのことで,春のトンボの生き残りに出会いました.ホソミオツネントンボ1頭,シオヤトンボ1頭,アサヒナカワトンボ2頭,タベサナエ3頭です.


▲成虫越冬種のホソミオツネントンボ.▲


▲春一番のトンボ,シオヤトンボのメス.▲


▲アサヒナカワトンボのメス.▲


▲タベサナエのメス.淡色部が黄色のままの個体と淡緑色になっている個体.▲

本当に不思議なくらいトンボがいません.後で考えてみると,トンボのいない場所は水田をやっている場所より下流側で,春のトンボの生き残りが見られたのは,それより上です.なんか,きつい薬剤を使ったのではないかとふと考えてしまいました.まあ,2020年6月7日の記事には,お昼過ぎにはヤマサナエは全部山に帰ってしまったと書いています.今日は暑すぎたのかもしれません.

最後にサラサヤンマの湿地に入ってみましたが,ここも全く何もいません.サラサヤンマは,1頭だけ,湿地横の農道上を飛んでいました.

今日は肩すかしを食らったような印象を持ちました.この数日の疲れも出てきたようですので,また元気を取り戻して再探索することにしたいと思います.

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No. 843. ムスジイトトンボの繁殖行動の観察.2022.6.3.

今日は昨日に引き続いて,ムスジイトトンボの繁殖活動の観察です.県外での観察によりますと,ムスジイトトンボは潜水産卵が中心です.潜水産卵をするトンボは,一瞬のうちに水面下に没してしまうことが多く,産卵している個体を探すこと自体がかなり大変です.潜る瞬間を目撃できないと,もうどこで産卵を行っているかほとんどわかりません.

昨日の観察で産卵活動は午後であることがわかっています.12:30ぐらいに現地に着くように出かけました.今日も天気は晴れ.ゴールデンウィークといい,梅雨入り前といい,晴れが続くパターンが多いので嬉しい反面疲れます.12:59,最初のタンデムペアを発見しました.


▲12:59,タンデムペアを発見した.▲

このペア,産卵行動に移行してくれるでしょうか.あちこち移動するのを追いかけながら待ちましたが,残念ながら少し沖の方で交尾に入りました.ムスジイトトンボは,池でメスを待っているようで,メスが単独で池に入ったところを捕まえるみたいです.現にその瞬間を後で目撃しています.


▲上のペアは,少し沖の方に飛んで,交尾を始めた.▲

交尾が始まったのは13:19.今日は完全装備で,ウェーダーをはいて池に入っていますので,沖に出られても,植物が生えているあたりまでなら,追いかけていくことができます.今日は時間制限がありませんので,この交尾が終わるのを待つつもりです.

13:46,さらに沖の方をタンデム態のペアが飛びました.見ているとメスが水面に止まり,産卵をするように腹部を曲げています.この交尾態のペアを見守るか,あちらへ行くか,迷いました.


▲13:46,さらに沖の方で産卵行動を行っているペアを発見した.▲

しばらくあちらのペアを見ていますと,メスがオスを引きずり込むようにして,潜水していくのを見ることができました.こうなるともう我慢ができません,目の前の交尾ペアを驚かせないように,潜ったあたりへ移動しました.交尾ペアはこれに気づいて飛び立ちました.しかしそれは放っておいて行きました.ところが,潜ったあたりの水中をいくら探しても,産卵ペアは見当たりません.やはり相当な早さで潜っていったようです.

仕方なく引き返して,先ほどの交尾ペアを探しましたら,タンデム状態で止まっていました.少し逃げたので追いかけると,また交尾を始めました.私が驚かせたので交尾を中断したのかもしれません.


▲13:55,再び交尾を開始(上),14:02,交尾を解く(下).

今度は短時間で交尾を解きました.さて,いよいよ産卵か...と思ったら,ものすごいスピードで,水面ギリギリを沖の方に飛び去っていきました.とても追いつけません.

どうやら,交尾したあたりで産卵を始めるのではないようです.県外での観察でも,かなり深いところで産卵していました.深く潜水産卵を行うので,浅いところより,水深のあるところがいいのでしょう.そういうことならば,もう産卵を始めるペアを見つけるしかありません.先ほどの潜水産卵の観察で,潜水を始める前には,水面で腹部を曲げて産卵動作のようなことをするのを確認しましたので,そういうペアを見つける以外にないと思いました.

これがなかなか見つかりません.ちょっと絶望感が強くなってきました.シオカラトンボのオスメスが妙に接近して警護産卵していたり,アオモンイトトンボが産卵したりするのを見て,とにかく待っていました.ムスジイトトンボの方は,相変わらず交尾態のペアがよく見つかります.


▲妙に接近して警護をするシオカラトンボのオス.交尾がしたいのかも…▲


▲アオモンイトトンボも午後に産卵するが,ここでは普通にそれが見られる.▲


▲相変わらず交尾態はよく見つかる.30分ほどやっているので目につきやすい.▲

14:30,沖の方の水面ギリギリを飛ぶタンデムのペアを見つけました.どんどん追いかけました.ウェーダーをはいているとはいえ,腰あたりの深さの場所まで追跡しました.でもその甲斐あって,このペア,水面で産卵動作を行いました.そして次々と場所を変えていきます.先ほどと同じ行動です.潜水する場所を探しているのでしょうか?


▲メスは産卵行動をしたり,だらしなく水面に浮かんだりする.▲

メスは腹部を曲げて産卵行動をしますが,どうも真剣にやっているみたいに思えません.産卵するというより,潜水産卵ができる場所を探っているような感じです.そして,時々力を抜いて水面に浮かびます.こういった動作を延々と繰り返しています.


▲こんな感じのかなり深い場所で,浮かんだり産卵動作をしたりを繰り返す.▲


▲浮かんだ状態では,オスがいくら羽ばたいても,メスは動こうとはしない.▲

こんなことをひとしきり続けていました.といっても長く感じたのはこのペアをあちこち追いかけて,引っ張り回されている私だけかもしれませんが,14:36,やっと,メスは潜水する場所を見つけたようです.今度はしっかりと潜り始めました.オスが抵抗しても頑としても引き下がらず,オスを水中に引きずりこもうとしています.


▲今までと違って,ここが気に入ったのか,メスが潜り始めた.▲


▲オスは近くの茎につかまって抵抗しているが,メスはお構いなしに潜っていく.▲


▲オスは茎から引き離され,もう抵抗の足がかりがなくなった.▲

こうなっては,もうオスもどうしようもありません.メスに引きずられるようにして,水中に体が沈んでいきます.


▲かなり深いところで潜水を始めているのがわかる.▲


▲そしてとうとうオスも体全体が水面下に没した.▲

このまま深く下降していくかと思いましたら,このオスは潜水が嫌いなようで,間もなくメスを放して水面から外へ出,近くの茎の上に止まってしまいました.一方のメスは抵抗するものがなくなったせいか,するすると一気に深いところまで下降していきました.


▲水面に出てきたオス.左の沈水植物で産卵している.▲


▲メスはかなり深いところまで一気に潜っていった.▲

こうやって,一連の観察を終えました.まとめると以下のような感じです.

繁殖活動が始まるのは午後になってから.オスたちは午前中には水面に出て活動をしていますが,正午が近くなるほど水面で活動する個体数が増えてくるように見えます.午後になるとメスが単独で池に入ってきます.オスはそれを捉えてタンデムを形成し,水面上で交尾に至ります.交尾の継続時間は30分程度.交尾が終わると水面を沖の方の深いところまで飛んで,潜水場所を探します.そのときメスは,腹部を曲げて産卵動作をしたり,水面に浮かんでみたりといった行動を繰り返し行いますが,潜水する気配はありません.気に入った場所をメスが見つけると,オスのことなどお構いなしに,後ずさりしながら潜水を開始します.このとき,オスも一緒に潜水して産卵するものと思いますが,途中でメスを放して水面に出てくるものもあります.どちらが一般的かは,観察例が少なく何ともいえません.またどれぐらい潜っているかまでは今回確かめていません.

潜水するまであちこちに移動して短時間産卵動作をするというのは,ルリイトトンボでも見たことがあります.潜水する場所,つまりつかまって潜り産卵するための植物の適合性を検査するための行動かもしれません.

ということで,今日の観察を終えました.長かったようですが,2時間半ほどの効率よい観察でした.

カテゴリー: 兵庫県のトンボ, 観察記 | No. 843. ムスジイトトンボの繁殖行動の観察.2022.6.3. はコメントを受け付けていません

No. 842. ムスジイトトンボの観察.2022.6.2.

なかなか数多くの個体が集合している場面に出くわさないムスジイトトンボ,今年はこのチャンスに巡り会えたので,記録をとるためにここはひと頑張りの必要があります.ムスジイトトンボがたくさん集まっている場面に出会ったのは,兵庫県内では実に21年ぶりです.このときはルートセンサスで数を数えたのですが,115頭いたと記録に残っています.おそらくこの池にも全体では100頭を越えるくらいはいると思われます.ムスジイトトンボは決して珍しいイトトンボではありません.あちこちで偶然2,3頭の姿を見ることは結構あります.しかし生態を知るにはやはりたくさんいる場面で観察することが重要です.

先日のロケハンで,それなりの数がいることはわかっていましたので,今日はメスを探すことと,繁殖活動を観察することが目的です.ムスジイトトンボの繁殖活動については,私はまだ十分理解していないところがありますので,楽しみです.池には10:00過ぎに入りました.まだオスの姿すらぽちぽちで,移動性の高いこのトンボ,まさかいなくなったわけではあるまいと思いながら,時間が経つのを待ちました.空は快晴,申し分ありません.


▲はじめ少なかったオスたちだが,午前中だんだんと数が増えてきた.▲

そのうち,だんだんとオスたちが水面を飛び始めました.しかし,タンデム状態のペアなどは全く姿を見せません.そもそもメスの姿が見えないのです.今日はメスを探すのも目的の一つですので,変化のない水面はしばらく放っておいて,もっぱら草むらを探し回りました.なかなか見つかりませんが,今日は後には引けません.しばらくして,やっと,1頭のメスが摂食している姿を見つけました.もう11:30を過ぎているのですが,まだメスは摂食しているようです.もっともこのメスまだ若く完全成熟していない感じです.胸部が橙色ではなく黄緑色です.しかし腹部側面にはコバルト色が出ています.こういう感じのメスは初めて見ました.


▲やっと見つけたメス.まだ胸部が橙色になっていなくて黄緑だ.▲

成熟したメスはまったく見つかりません.これはどうやら繁殖活動が始まるのが午後になりそうだと思い,昼食をとることにしました.いったん池を離れてラーメンでも食べに行くことにしました.その途中,池を出たところで,もっと未熟なメスに出会いました.


▲まだコバルト色が出ていなくて,複眼に茶色が残っている.▲

昼食から帰ってきたのが13:30ごろ,池に入りますと,足下を高速でタンデム状態のペアが飛びました.やはり午後だったようです.こうなったら,目を凝らしてタンデム状態のペアを探すことになります.そのとき,メスを見つけました.なんと,タンデムのオスの頭部と胸部が何者かに食いちぎられ,腹部だけがメスの前胸をつかんでいるという,ちょっぴりかわいそうなメスでした.


▲角!をつけたムスジイトトンボのメス.▲

こんなメスではありましたが,やっと,成熟した胸部が橙色のメスに出会うことができました.ただ,まだ「生きた」タンデムのペアは見つかりません.ムスジイトトンボ君は,なかなか出し惜しみするみたいですな.14:03,やっとのことで,タンデムになっているペアを発見することができました.


▲タンデムのペアをやっとの事で見つけた.▲

このペア,産卵行動に移るかどうか期待しましたが,交尾に入りました.交尾は延々と続いています.


▲産卵せずにまずは交尾から…という感じ.▲

実は今日は夕方から所用があって,この交尾が終わるのを待つことができません.遅くてもここを14:30には出ないと,間に合わないのです.繁殖活動は午前中かと思っていましたが,これは誤算でした.そこで明日またチャレンジすることを決め,今日はここで引き上げることにしました.

ムスジイトトンボのタンデム態を探し回る間,いろいろなイトトンボ類の活動に出会いました.最後にそれを紹介しておきます.まずはアオモンイトトンボ.最近はアオモンイトトンボをわざわざ見に行くことが多かったのですが,ここでは,ついでに見ることができました.


▲アオモンイトトンボは午前中が交尾の時間.メスを探す合間に発見.▲


▲アオモンイトトンボの未熟なオレンジ色のメス.▲


▲オレンジ色から鶯色へと変化しつつあるメス.▲


▲午後には,複数の個体が産卵を行っていた.▲

次はアジアイトトンボ.アジアイトトンボはここでも個体数は少なかったです.アジアイトトンボが群れているところが意外と見つかりません.


▲アジアイトトンボのオス.アオモンイトトンボに混じって少数が見られた.▲


▲アジアイトトンボの産卵.この個体はまだうっすらとオレンジ色が残っている.▲

そのほかには,クロイトトンボがいました.それとウチワヤンマの羽化殻があちこちに浮かんでいました.


▲クロイトトンボのオス.ムスジイトトンボに混じって活動していた.▲


▲ウチワヤンマの羽化殻.本当にウチワヤンマは早く出てくるようになった.▲

今日はイトトンボばかりの特集になりました.あすもまたムスジイトトンボ一色のブログになりそうです.(明日に続く).

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