私の住んでいる兵庫県南部の春のトンボたちはだいたい出そろった感じがしたので,今日は北部の,特にサナエトンボたちの状況を見に出かけてきました.最近はどうも朝早く目が覚めるので,起きたらすぐに出発しようと思っていましたら,こんな日に限って寝坊.予定より1時間以上遅れて出発しました.
まずは,ホンサナエの状況を見に行きました.ところが,オスが1頭飛んできて止まったのを見た以外,何もいません.いやな感じがしながら川に入りますと,ほどなくメスが1頭,水面低くを一直線に飛んできました.そして卵塊形成を始めました.
▲午前中の日差しがきつい中,産卵に訪れたホンサナエのメス.▲
時刻は10:00過ぎです.ホンサナエの産卵は夕方が多いというのが相場です.こんなに明るい状態で見ることはあまりありません.以前5月5日9:27にメスが入ってきてオスに水面にたたき落とされたのを見たことがありますが,これは産卵に来たメスかどうかは分かりません.ただこういったことから午前中でもメスは水面を飛んでいることは間違いありません.
このメスは卵塊形成もそこそこに飛び立って,すぐ近くで小さく水面上を旋回し,打水しました.そして再び今度は草に止まって卵塊形成を始めました.まだ若くて卵が十分成熟していないのかもしれません.
▲2回目の卵塊形成をするメス.▲
これが飛び立って姿を見失ったかと思ったら,しっかりとオスにつかまったようです.青空を背景に,つながった2頭がずっと遠くの方に飛び去るのを確認しました.このオスは朝来たときに見たオスに違いありません.そのあと川は静まりかえり,オスの姿も全く見られなくなりました.今年は数が少ないのでしょうか.例年なら,日向に止まったり,水面上をスライドするように飛ぶオスの姿が見られるのですが...
まあ,夕方が本番ということで,他のトンボたちの姿を見に行くことにしました.まずはコサナエです.
▲コサナエのオスたちは例年通り活動をしていた.▲
コサナエは順調に発生しているようで,オスたちはめいめいの場所に陣取り,繁殖活動を行っていました.時々ホバリングしてまわりを伺ったり,木漏れ日の射す日陰に訪れてメスを待ったり,いつもの姿が見られました.ただ寝坊の影響が出て到着が時刻が10:45になっていたためか,メスの産卵には出会えませんでした.
次はヤマサナエです.これがまた姿がありません.しばらく歩いていると,未熟な個体が飛び上がりました.また流れを歩いていると,羽化した個体が飛び立ちましたし,羽化殻もありました.さらに草地では未熟なオスが止まっていました.
▲未熟なヤマサナエのオス.▲
まだヤマサナエは成熟していない状態のようです.まあちょっと早かったかもしれません.川ではダビドサナエも探しました.しかし最近本当にダビドサナエの姿がありません.かつてはまたダビドか...というほどふつうに見られたのですが,あちこちの川から消えているように思えます.一度本格的に調べる必要があります.
そこで山に上がり,ヒラサナエを見に行くことにしました.こちらは以前5月5日に羽化が最盛期を迎えていたこともあり,まだ早いかと思いましたら,案の定でした.探し回って,まだ複眼が白い未熟なメスが1頭いただけでした.まだ出ていない感じです.
▲まだ色もうすい感じのヒラサナエのメス.▲
どうもいつもの春らしい賑やかさがありません.ヒラサナエのいたところではシオヤトンボだけは元気に活動していました.ただ,シオヤトンボもまだ羽化したばかりと思われるオスがいたりして,どうも今年は羽化の斉一性が少し乱れている感じがします.桜が咲いたあとの低温再来がたたっているのかもしれません.その他の源流域のサナエトンボたちは全く見られませんでした.
▲まだ未熟なシオヤトンボのオス.▲
池ではホソミイトトンボ,ホソミオツネントンボ,オオイトトンボ,クロイトトンボ,クロスジギンヤンマなどが飛んでいました.しかし温かい日差しの射す午前中でありながら,均翅類でタンデム状態のものは全くいませんでした.
川ではニホンカワトンボが順調に活動していました.以前にも書いたかもしれませんが,兵庫の(ひょっとしたら関西の)ニホンカワトンボは源流といってよいほど上流にまで進出しています.当時はニホンカワトンボはアサヒナカワトンボより幅の広い川に生息するという定説があって,かなり以前関東の方をご案内したとき,幅3mほどの上流-中流移行域にニホンカワトンボ(当時はオオカワトンボ)がいるのを見て驚かれていました.当時に下の写真などを見たら既成概念がぶっ壊れてしまったのではないでしょうか.
▲細流で縄張りを形成するニホンカワトンボ.▲
今日の観察で気づいたことは,水生植物がまだほとんど育っていないという点でした.もう5月の中旬に入ろうかという時期なのに,ヒシやヒルムシロの葉はまだ小さく,やっと冬が終わって芽吹き始めたという感じです.
さて,そんなことを考えているうちに,夕刻が迫ってきました.もう一度ホンサナエを見に行くことにしました.現地に着いたのは16:45ごろ.ですが,何もいません.今年激減したのではないかなと心配になるような状況です.そんなとき,水面を高速で低く一直線に飛ぶホンサナエを見ました.これはメスの飛び方です.しかし,もう日が傾いているせいか,日陰に入ると姿を見失ってしまいます.どこに行ったか分かりません.
こういうのが4回ありました.そしてその4回目,飛んできたトンボが止まりました.これがなんとオスでした.このオスはすぐに飛び去ってしまいました.
▲17:32,高速で飛んできたオスがちょっとだけ止まり,すぐに飛び去った.▲
そういえば,それ以外の飛んでいる個体も淡色部の黄色が目立たないように見えました.全部オスだったのかもしれません.今までの観察では,夕方のオスは活発に活動しているものの,止まったりホバリングするように飛んだりして,メスを待っているような行動でした.
今日はどうも全般にトンボの動きがいつもと違って違和感たっぷりです.全くの想像の解釈ですが,ホンサナエに関していえば,写真のオスやメスを見ると若く,まだ成熟して繁殖活動を始めたばかりなのかもしれません.繁殖活動の初期には,オスはメスを探すように飛び回り,メスも夕方にこだわらず産卵するのかもしれません.しかし,次第に学習し,オスは待つ方が効率がいいことに気づき,メスは産卵を邪魔するオスが川にいない夕方(または早朝)が産卵に適していると学習するのではないでしょうか.こういうのは1ヶ月ぐらい観察を続けると明らかになるかもしれません.片道3時間ほどかかる私には無理なことですけど.