トンボ歳時記総集編 6月−7月

川を飛び回るヤマトンボたち
写真1.砂が堆積した大きな河川.

 6月になると,川も,トンボたちの姿でとても賑やかになります.いろいろなサナエトンボが見られ,カワトンボも数が増え,そして大型のヤマトンボが高速で飛び交います.兵庫県で見られるヤマトンボ科のなかまは3種類です.そのうちの一つは池で見られるオオヤマトンボで,これも6月から本格的に姿を見せはじめます.残りのコヤマトンボ,キイロヤマトンボが川のトンボです.
 このうち,キイロヤマトンボは,現在兵庫県では確認が難しくなってきたトンボです.砂がたっぷりと堆積している比較的大きな河川に生息していて,オスはその川の中央を高速で飛び,広い範囲を巡回しています.メスは産卵に入るとき高速で飛んで,川の中央付近で打水を繰り返します.成虫の出現は6月から7月にかけてです.幼虫は,堆積した砂ごと根気強くすくうと採れます.脚の長い特徴的な幼虫です.
 私自身の記録は1990年代のものばかりで,写真を撮り始めた2008年以降,県下の各産地で,目撃報告はあるものの,ほとんど見かけなくなりました.2018年,2019年もかつての産地2カ所へ出かけてみましたが,2018年にオスが1頭1回だけ飛ぶのを見ただけでした.そういうことで,私自身も兵庫県下の写真記録がほとんどありません.もっとも飛翔している個体を写真に撮るのは,最高難度のトンボでもあります.

写真2.6月10日.生息地の川の上を飛ぶキイロヤマトンボのオス.

 もう一つの川のヤマトンボ,コヤマトンボは,キイロヤマトンボに比べると見つけるのは簡単です.かなり幅の狭い川から,キイロヤマトンボが飛ぶような幅広い川まで,色々なところで姿を見ることができます.羽化は5月中下旬になってから観察することが多いです.

写真3.5月20日.小川の畔で羽化するコヤマトンボのオス.右下のトンボはタベサナエ.
写真4.左:5月20日,右:6月13日.羽化直後で体がかなり固まったコヤマトンボのオス(左)とメス(右).
写真5.6月13日.かなり流れのある川の中にある岩につかまって羽化しているコヤマトンボのメス.

 成熟すると,オスは,川の岸に沿って,少し広い範囲を往復して飛びます.ときどき,他のサナエトンボなどを追飛する姿が見られます.こういう姿は以前は各地でたくさん見られましたが,最近はときどき飛んでいるのを見る程度になりました.ただ,幼虫をすくうと,それなりの数が網に入りますので,私の観察する場所がよくないのかもしれません.

写真6.6月2日.川の上をパトロール飛翔するコヤマトンボの横顔.
写真7.6月2日.川の上を往復飛翔しながら往き来するコヤマトンボのオス.
写真8.6月28日.小川の上を往復しながらパトロールするコヤマトンボのオス.

 コヤマトンボの産卵に出会うことはあまりありません.特定のポイントで産卵するというより,川の広い範囲をその時その時に適当に選んで産卵しているように見えます.いつどこに現れるかが分からず,しかも高速で岸付近の流れの上を往復しながら打水しますので,写真に撮るのも非常にむずかしい対象です.
 9月に入るくらいまで姿を見ることがあります.そして知らぬ間に姿が見られなくなります.

写真9.8月8日.流れの岸に沿って飛び,打水産卵を繰り返すメス.