トンボの幼虫のことをヤゴといいます.広辞苑(こうじえん)という大きな国語辞典を調べると,ヤゴというのは左のような漢字を書くそうです.2番目のむずかしい字には,さそりの意味があって,「水の中のさそり」というのがヤゴの意味のようですね.でも心配しないでください.ヤゴに毒(どく)はありません.ただ,かみついてきたり,おしりのとげでついてきたりすることはあります.ちょっと痛い(いたい)ですけど,ヤゴも自分の身を守るために戦っているので,許(ゆる)してあげてください.
さて,そんな漢字で表現されるトンボ幼虫のヤゴですが,どんな形をしているのでしょう.まずはいろいろな形をした幼虫のすがたを見てみましょう.
均翅類と不均翅類は,成虫でも形がかなりちがいました.幼虫でも,上の図のように見ただけで区別がつくほどちがいますね.均翅類の幼虫には3枚の尾さいがあるのが大きな特ちょうです.不均翅類にはそれがありません.でも,幼虫のすがたは,成虫のすがたにくらべると,形のちがいが大きくなっていますね.例えば(7)番から(11)番のサナエトンボのなかまは,幼虫のすがたはずいぶんとちがいますが,成虫ではどれも同じような形や色をしています.
生物は,ふつう,命に大きくかかわる部分については,進化(しんか)のスピードが速くなることが知られています.進化のスピードが速くなるというのは,それだけ特ちょうがはっきりとするということです.
たとえば,みなさんは,熱いものに手をふれたら,何も考えずにさっと手を引っ込めますね.またけがをしたらものすごく痛いです.やけどやけがは命にかかわることですから,考える前に手をひっこめるという動作は命をまもりますし,はげしい痛みは記憶(きおく)にしっかりときざまれ,今後けがをしないように注意して行動するようになります.つまり考えずに手をひっこめるとか,はげし痛みをともなうという「いのちにかかわることについてのはっきりとした特ちょう」が,進化によって人間の身についてきたといえます.
ところで,トンボにとって,幼虫の時代に命にかかわることといえば何でしょう. そう,天敵(てんてき)である魚に食べられてしまうことです.そのためには,魚に見つからないように,うまくかくれなければなりません.(11)番の幼虫は,まるで落ち葉のような形をしていますね.(11)番の幼虫は,落ち葉の間などにもぐりこんで生活しているので,このような形をしていると,見つかりにくくなります.このように,食べられてしまうというのは命にかかわることですから,進化のスピードが速まって,(11)番のトンボはこのような見つかりにくい形を身につけたということになります.