デジタルトンボ図鑑
ムカシトンボ亜目 Suborder Anisoanisoptera Handlrisch, 1906
不均翅亜目 Suborder Anisoptera Selys, 1840
 今回,本サイトではDNAに基づいた分子系統樹をもとにして,系統分類を見直した.そこで,ここで以前議論した「不均翅亜目の系統分類の問題点」の解説は割愛することにした.また「日本産トンボリストのページ」で述べたように,ムカシトンボ亜目 Suborder Anisoanisoptera を復活させることにした.ただこのあたりは今後もまた見直される可能性もあると判断し,このページでは両亜目を合わせて扱うことにした.

図1.日本産不均翅亜目各科の代表的なトンボたち.
図1.日本産ムカシトンボ亜目・不均翅亜目各科の代表的なトンボたち./ スケール1.0cm,100% on 150dpi.
 
 では日本産のムカシトンボ亜目・不均翅亜目成虫の検索表を作っておきたい.まず,ムカシトンボ亜目と不均翅亜目を分け,不均翅亜目についてはさらに検索表を示した.なお,ここの検索表は成虫を実践的に見分けるためにつくったものなので,系統性を無視していることを付け加えておく.

1.ムカシトンボ亜目と不均翅亜目とを分ける

  1. a.前後翅の形がほぼ同じで四角室がある.・・・・ムカシトンボ亜目/ムカシトンボ科
    b.明らかに後翅の基部は前翅のそれより幅広く,前後翅に三角室がある.・・・・・・・・
       ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・不均翅亜目
図2.ムカシトンボ科とその他の不均翅亜目の検索.
図2.ムカシトンボ亜目と不均翅亜目の検索.


2.不均翅亜目

 今回の分類見直しの1点目は,オニヤンマ科からミナミヤンマ科を分離したことである.この点に関しては,従来から議論があった.古くは Fraser(1957) が,翅脈を使って,亜科のレベルでこの両者を分けている.それには次のように書かれている.
オニヤンマ亜科 Cordulegastrinae
翅は♂♀ともによく似た形状をしていて,♀では時に基部が色づくことがある.三角室 t は形も大きさも前後翅でよく似ている.肛絡室 al は発達が悪い.
ミナミヤンマ亜科 Chlorogomphinae
翅は通常♂♀で形が違っており,♀では大なり小なり色づいているのがふつうで基部は幅広くなっている.三角室 t は形や大きさも前後翅で異なっていて,特に♀で著しい.肛絡室 al は大きく発達している.
 浜田・井上(1985)においては,亜科は認めていなくてそれぞれ属のレベルであるが,やはり翅脈を使って,三角室 t の弧脈 Arc に対する位置の違いと,中室 r+m 内の横脈の有無について述べている.
オニヤンマ属 Anotogaster
三角室 t は弧脈 Arc の近くにある.中室 r+m には横脈はない.
ミナミヤンマ属 Chlorogomphus
三角室 t は弧脈 Arc から遠く離れた位置にあり,後翅のものが縦長である.中室 r+m には数本の横脈がある.
 以上をまとめたのが図3である.

図3.オニヤンマ科とミナミヤンマ科の翅脈・翅室比較.
図3.オニヤンマ科とミナミヤンマ科の翅脈・翅室比較.

 もう一点の大きな見直しは,従来のエゾトンボ科 Corduliidae が,オセアニアモリトンボ科 Synthemistidae,エゾトンボ科 Corduliidae,ヤマトンボ科 Macromiidae の3科に分けられたことである.これについては次項で述べるとして,ひとまずこらら3科をひとまとめにして示した検索表が以下のものである.

  1. a.複眼がわずかであっても離れている.・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2.
    b.複眼がはっきりと接している.・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4.
  2. a.下唇中片の先端に欠刻がない.・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・サナエトンボ科
    b.下唇中片の先端に欠刻があって二叉になっている.・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3.
  3. a.下唇中片は全体が黒褐色である.縁紋は著しく細長い.三角室は後翅のものより前翅のものの方が縦長である.♀には産卵管がある.・・・・・・・・・・・・ムカシヤンマ科
    b.下唇中片は淡黄褐色をしている.縁紋は著しく細長くない.三角室は前翅のものより後翅のものの方が縦長である.♀には産卵管はなく産卵弁がある.・・・・・・・
      ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ミナミヤンマ科
  4. a.三角室は前後翅とも明らかに横に長い.・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5.
    b.三角室は前翅のものがが縦長,または正三角形に近い形をしていて,横に長くはない.後翅のものは横に長い. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6.
  5. a.複眼が1点で接している.・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・オニヤンマ科
    b.複眼が線で接している.・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ヤンマ科
  6. a.複眼の後側縁に突起部または屈曲部がある.・・・・・・・・・・・・・・・・エゾトンボ類3科
    b.複眼の後側縁は屈曲せずなめらかな曲線である.・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・トンボ科
図4.その他の不均翅亜目の検索表.
図4.その他の不均翅亜目の検索表.


3.エゾトンボ類3科の検索

 エゾトンボ類の扱いについては,翅脈を使った研究からも,ヤマトンボ科とエゾトンボ科を分ける考え方が以前よりあった.まずそれを紹介しよう.

 日本産のエゾトンボ類は,まず大きく二つに分けることができる.一つはヤマトンボグループで,もう一つはエゾトンボグループである.Fraser (1957) によれば,それぞれ EpophthalmiinaeCorduliinae に属するものであって(ただし,これらの亜科については現在は様々の研究者によって変更が加えられている),前者には,ミナミヤマトンボ属 Macromidia,オオヤマトンボ属 Epophthalmia,及びコヤマトンボ属 Macromia が含まれ,後者には,カラカネトンボ属 Cordulia,エゾトンボ属 Somatochlora,トラフトンボ属 Epitheca,およびミナミトンボ属 Hemicordulia が含まれる.これらはそれぞれ以下のような特徴を有する.

(1) ヤマトンボグループ
  1. 弧脈 Arc から出ている2本の分脈(sectors of arculus),すなわち径分脈 Rs と上三角室前縁の脈が,その起点では癒合して1本になって出ている.
  2. 後翅三角室の内縁は弧脈から離れた位置にある.
  3. 肛絡室 al は多角形で長さより幅が広い
(2) エゾトンボグループ
  1. 弧脈 Arc から出ている2本の分脈(sectors of arculus),すなわち径分脈 Rs と上三角室前縁の脈が,その起点から2つに分離して出ている.
  2. 後翅三角室の内縁はだいたい弧脈の位置にある.
  3. 肛絡室 al はトンボ科に似て長く,中軸 Mr によって2列に分けられている.
図5.ヤマトンボグループとエゾトンボグループの違い.
図5.ヤマトンボグループとエゾトンボグループの違い.

 このように,翅脈によってかなりはっきりと分けることができるグループである.また上に記したヤマトンボグループの特徴をサキシマヤマトンボも有している.しかし,世界的に見ると,中間的な形質を持つものがあるようで,両者を含めてエゾトンボ科とする考え方がこれまで世界の大勢を占めていた.今回の改訂では,ヤマトンボグループをオセアニアモリトンボ科およびヤマトンボ科として,エゾトンボグループをエゾトンボ科としてまとめた.それでは日本産のエゾトンボ類について,実践的な検索表を示したい.

 エゾトンボ類の3つの科は,まずオセアニアモリトンボ科 Synthemistidae のサキシマヤマトンボが西表島・石垣島にしか分布しないことで特殊であること,ヤマトンボ科とエゾトンボ科は,黄斑の入り方でほぼ間違いなく判断できる.

  1. a.前翅の三角室がほぼ正三角形をしている.・・・・・・・・・・・・オセアニアモリトンボ科
    b.前翅の三角室は縦長である.・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2.
  2. a.黒または金緑色の地に黄斑がある.胸側部の黄条は第一側縫線に沿って1本だけである.・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ヤマトンボ科
    b.黒または金色の地で黄斑がないものとあるものがある.黄斑がないものでも未熟な個体には黄斑が生じるものがある.しかし胸側部の黄条は2本またはそれ以上ある.・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・エゾトンボ科
図6.エゾトンボ類3科の検索.
図6.エゾトンボ類3科の検索.

Ando, H., 1962. The Comparative Embryology of Odonata with Special Reference to a Relic Dragonfly Epiophlebia superstes Selys. The Japanese Society for the Promotion of Science. Tokyo.
Carle, F. L., 1995. Evolution, taxonomy, and biogeography of ancient Gondwanian libelluloides, with comments on anisopteroid evolution and phylogenetic systematics (Anisoptera: Libelluloidea). Odonatologica, 24(4):383-424.
Fraser, F. C., 1957. A Reclassification of the Order Odonata. Royal Zoological Society if New South Wales.
浜田康・井上清,1985.日本産トンボ大図鑑.講談社.東京.
杉村光俊・石田昇三・小島圭三・石田勝義・青木典司,1999.原色日本トンボ幼虫成虫大図鑑.北海道大学図書刊行会.札幌.















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トンボ目 Order Odonata

ムカシトンボ亜目
 Suborder Anisoanisoptera

ムカシトンボ科
Family Epiophlebiidae










































































































































































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不均翅亜目 Suborder Anisoptera

サナエトンボ科
Family Gomphidae

ムカシヤンマ科
Family Petaluridae

ミナミヤンマ科
Family Chlorogomphidae

オニヤンマ科
Family Cordulegastridae

ヤンマ科
Family Aeshnidae

トンボ科
Family Libellulidae































































































































































































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オセアニアモリトンボ科
Family Synthemistidae

ヤマトンボ科
Family Macromiidae

エゾトンボ科
Family Corduliidae