No. 843. ムスジイトトンボの繁殖行動の観察.2022.6.3.

今日は昨日に引き続いて,ムスジイトトンボの繁殖活動の観察です.県外での観察によりますと,ムスジイトトンボは潜水産卵が中心です.潜水産卵をするトンボは,一瞬のうちに水面下に没してしまうことが多く,産卵している個体を探すこと自体がかなり大変です.潜る瞬間を目撃できないと,もうどこで産卵を行っているかほとんどわかりません.

昨日の観察で産卵活動は午後であることがわかっています.12:30ぐらいに現地に着くように出かけました.今日も天気は晴れ.ゴールデンウィークといい,梅雨入り前といい,晴れが続くパターンが多いので嬉しい反面疲れます.12:59,最初のタンデムペアを発見しました.


▲12:59,タンデムペアを発見した.▲

このペア,産卵行動に移行してくれるでしょうか.あちこち移動するのを追いかけながら待ちましたが,残念ながら少し沖の方で交尾に入りました.ムスジイトトンボは,池でメスを待っているようで,メスが単独で池に入ったところを捕まえるみたいです.現にその瞬間を後で目撃しています.


▲上のペアは,少し沖の方に飛んで,交尾を始めた.▲

交尾が始まったのは13:19.今日は完全装備で,ウェーダーをはいて池に入っていますので,沖に出られても,植物が生えているあたりまでなら,追いかけていくことができます.今日は時間制限がありませんので,この交尾が終わるのを待つつもりです.

13:46,さらに沖の方をタンデム態のペアが飛びました.見ているとメスが水面に止まり,産卵をするように腹部を曲げています.この交尾態のペアを見守るか,あちらへ行くか,迷いました.


▲13:46,さらに沖の方で産卵行動を行っているペアを発見した.▲

しばらくあちらのペアを見ていますと,メスがオスを引きずり込むようにして,潜水していくのを見ることができました.こうなるともう我慢ができません,目の前の交尾ペアを驚かせないように,潜ったあたりへ移動しました.交尾ペアはこれに気づいて飛び立ちました.しかしそれは放っておいて行きました.ところが,潜ったあたりの水中をいくら探しても,産卵ペアは見当たりません.やはり相当な早さで潜っていったようです.

仕方なく引き返して,先ほどの交尾ペアを探しましたら,タンデム状態で止まっていました.少し逃げたので追いかけると,また交尾を始めました.私が驚かせたので交尾を中断したのかもしれません.


▲13:55,再び交尾を開始(上),14:02,交尾を解く(下).

今度は短時間で交尾を解きました.さて,いよいよ産卵か...と思ったら,ものすごいスピードで,水面ギリギリを沖の方に飛び去っていきました.とても追いつけません.

どうやら,交尾したあたりで産卵を始めるのではないようです.県外での観察でも,かなり深いところで産卵していました.深く潜水産卵を行うので,浅いところより,水深のあるところがいいのでしょう.そういうことならば,もう産卵を始めるペアを見つけるしかありません.先ほどの潜水産卵の観察で,潜水を始める前には,水面で腹部を曲げて産卵動作のようなことをするのを確認しましたので,そういうペアを見つける以外にないと思いました.

これがなかなか見つかりません.ちょっと絶望感が強くなってきました.シオカラトンボのオスメスが妙に接近して警護産卵していたり,アオモンイトトンボが産卵したりするのを見て,とにかく待っていました.ムスジイトトンボの方は,相変わらず交尾態のペアがよく見つかります.


▲妙に接近して警護をするシオカラトンボのオス.交尾がしたいのかも…▲


▲アオモンイトトンボも午後に産卵するが,ここでは普通にそれが見られる.▲


▲相変わらず交尾態はよく見つかる.30分ほどやっているので目につきやすい.▲

14:30,沖の方の水面ギリギリを飛ぶタンデムのペアを見つけました.どんどん追いかけました.ウェーダーをはいているとはいえ,腰あたりの深さの場所まで追跡しました.でもその甲斐あって,このペア,水面で産卵動作を行いました.そして次々と場所を変えていきます.先ほどと同じ行動です.潜水する場所を探しているのでしょうか?


▲メスは産卵行動をしたり,だらしなく水面に浮かんだりする.▲

メスは腹部を曲げて産卵行動をしますが,どうも真剣にやっているみたいに思えません.産卵するというより,潜水産卵ができる場所を探っているような感じです.そして,時々力を抜いて水面に浮かびます.こういった動作を延々と繰り返しています.


▲こんな感じのかなり深い場所で,浮かんだり産卵動作をしたりを繰り返す.▲


▲浮かんだ状態では,オスがいくら羽ばたいても,メスは動こうとはしない.▲

こんなことをひとしきり続けていました.といっても長く感じたのはこのペアをあちこち追いかけて,引っ張り回されている私だけかもしれませんが,14:36,やっと,メスは潜水する場所を見つけたようです.今度はしっかりと潜り始めました.オスが抵抗しても頑としても引き下がらず,オスを水中に引きずりこもうとしています.


▲今までと違って,ここが気に入ったのか,メスが潜り始めた.▲


▲オスは近くの茎につかまって抵抗しているが,メスはお構いなしに潜っていく.▲


▲オスは茎から引き離され,もう抵抗の足がかりがなくなった.▲

こうなっては,もうオスもどうしようもありません.メスに引きずられるようにして,水中に体が沈んでいきます.


▲かなり深いところで潜水を始めているのがわかる.▲


▲そしてとうとうオスも体全体が水面下に没した.▲

このまま深く下降していくかと思いましたら,このオスは潜水が嫌いなようで,間もなくメスを放して水面から外へ出,近くの茎の上に止まってしまいました.一方のメスは抵抗するものがなくなったせいか,するすると一気に深いところまで下降していきました.


▲水面に出てきたオス.左の沈水植物で産卵している.▲


▲メスはかなり深いところまで一気に潜っていった.▲

こうやって,一連の観察を終えました.まとめると以下のような感じです.

繁殖活動が始まるのは午後になってから.オスたちは午前中には水面に出て活動をしていますが,正午が近くなるほど水面で活動する個体数が増えてくるように見えます.午後になるとメスが単独で池に入ってきます.オスはそれを捉えてタンデムを形成し,水面上で交尾に至ります.交尾の継続時間は30分程度.交尾が終わると水面を沖の方の深いところまで飛んで,潜水場所を探します.そのときメスは,腹部を曲げて産卵動作をしたり,水面に浮かんでみたりといった行動を繰り返し行いますが,潜水する気配はありません.気に入った場所をメスが見つけると,オスのことなどお構いなしに,後ずさりしながら潜水を開始します.このとき,オスも一緒に潜水して産卵するものと思いますが,途中でメスを放して水面に出てくるものもあります.どちらが一般的かは,観察例が少なく何ともいえません.またどれぐらい潜っているかまでは今回確かめていません.

潜水するまであちこちに移動して短時間産卵動作をするというのは,ルリイトトンボでも見たことがあります.潜水する場所,つまりつかまって潜り産卵するための植物の適合性を検査するための行動かもしれません.

ということで,今日の観察を終えました.長かったようですが,2時間半ほどの効率よい観察でした.

カテゴリー: 兵庫県のトンボ, 観察記 パーマリンク