トンボ歳時記総集編 6月

もっとも多くのトンボに出会える6月
写真1.梅雨の雨に洗われる上流域.

 6月は一年でもっともトンボの種類を多く見ることができる月です.兵庫県でいったいどれくらいのトンボを見ることができるか,今までの私自身の写真記録をすべて調べてみました.すると,6月中に,私が写真に撮った分だけで,71種類という数になりました.飛来種を除いて,兵庫県に土着していたトンボの数が92種類で,71種類というのはその約77%に相当します.
 写真に撮られていないトンボの内訳については,均翅亜目は無し,つまり全種記録写真があります.そして不均翅亜目については,兵庫県における自身の採集記録や文献の採集記録等※を当たってみました.その結果,ミルンヤンマ(6月29日),コシボソヤンマ(6月30日),カトリヤンマ(6月24日),ネアカヨシヤンマ(6月21,26日),ルリボシヤンマ(6月24日),オグマサナエ(6月8日),ナゴヤサナエ(6月16日羽化殻),オニヤンマ(6月23日以降多数),エゾトンボ(6月6日),ハネビロエゾトンボ(6月22日以降多数)が,タカネトンボ(6月28日),ナツアカネ(6月18日),ノシメトンボ(6月20日),ナニワトンボ(6月20,23日),マダラナニワトンボ(6月20日),ウスバキトンボ(6月9日),ベッコウトンボ(6月2,3日),などが見つかりました.これらの17種を加えると,兵庫県で6月に成虫の記録のある種は合計88種となります.これは驚くべき数字で,なんと兵庫県の土着種の95.6%の成虫が6月中に見られたということになります.
 ちなみに兵庫県で6月に成虫の記録がない種は,オオルリボシヤンマ,ヒメアカネ,ミヤマアカネ,キトンボの4種だけです.

 それでは6月に見られるトンボたちを紹介していきましょう.最初は4月から5月にかけて活動する春のトンボたちです.これらは6月にはだいたい繁殖活動を終えていますが,生き残りがいるということです.成虫越冬種はオツネントンボ以外はその姿が見られます.オツネントンボは,6月末にはもう次の世代が羽化してきますので,6月に見られるとすれば,それは次世代が羽化した後の未熟な個体です.これ以外では,シオヤトンボ,コサナエ属なども少数ですが生き残っています.オグマサナエがいちばん早く姿を消すようで,6月の記録はわずかしかありません.トラフトンボも6月にはほとんどその姿が消えています.

写真2.左上から右へ:ホソミイトトンボ,ホソミオツネントンボ,シオヤトンボ,タベサナエ,コサナエ,フタスジサナエ.
写真3.左上から右へ:トラフトンボ,オグマサナエ*,ベッコウトンボ*.*印は6月の記録はあるが,私の撮影写真のないもの.

 ベッコウトンボは,兵庫県ではもう絶滅したと考えられていて,今はその姿を見ることはできません.ヨツボシトンボは6月にはかなり数が減っています.ニホンカワトンボ,アサヒナカワトンボは,川によってはかなりの数が残っていて,繁殖活動もそこそこ見られます.ムカシトンボとホンサナエは6月の初め頃に生き残りが短期間見られるだけです.ダビドサナエ属,ヒメクロサナエ,クロスジギンヤンマ,ヤマサナエ,サラサヤンマ,ムカシヤンマは,6月の中旬くらいまで頑張っているようです.

写真4.左上から右へ:ヨツボシトンボ,ニホンカワトンボ,アサヒナカワトンボ,ムカシトンボ,ホンサナエ,ダビドサナエ.
写真5.左上から右へ:ヒラサナエ,クロサナエ,ヒメクロサナエ,クロスジギンヤンマ,ヤマサナエ,サラサヤンマ.

 春に現れるトンボのうち通季種であるクロイトトンボ,オオイトトンボ,セスジイトトンボ,アオモンイトトンボ,アジアイトトンボ,ギンヤンマは,6月には個体数を増やし,活動がさらに活発になっていきます.

写真6.左上から右へ:ムカシヤンマ,クロイトトンボ,オオイトトンボ,セスジイトトンボ,アオモンイトトンボ,アジアイトトンボ.

 5月下旬に姿を見せ,6月に繁殖活動が盛んに行われるのは,アオサナエ,キイロサナエ,アオハダトンボ,グンバイトンボ,モートンイトトンボ,アオヤンマ,コヤマトンボ,キイロヤマトンボなどで,これらのトンボは6月が最盛期のトンボたちです.
 また6月には,7月から8月にかけて活動するトンボたちも羽化を始めます.これらは以下にあるように非常に数が多く,いよいよトンボの世界が賑やかになっていきます.

写真7.左上から右へ:ギンヤンマ,アオサナエ,キイロサナエ,アオハダトンボ,グンバイトンボ,モートンイトトンボ.
写真8.左上から右へ:アオヤンマ,コヤマトンボ,キイロヤマトンボ,オオヤマトンボ,マルタンヤンマ,ヤブヤンマ.
写真9.左上から右へ:コシボソヤンマ(6月撮影写真無し),ヒヌマイトトンボ,ムスジイトトンボ,キイトトンボ,ベニイトトンボ,モノサシトンボ.
写真10.左上から右へ:ミヤマカワトンボ,ハグロトンボ,タイワンウチワヤンマの羽化殻,ミヤマサナエ,オナガサナエ,コオニヤンマ.
写真11.左上から右へ:オジロサナエ,ヒメサナエ,ウチワヤンマ,シオカラトンボ,オオシオカラトンボ,ハラビロトンボ.
写真12.左上から右へ:コフキトンボ,ハッチョウトンボ,ショウジョウトンボ,コシアキトンボ,チョウトンボ,ウスバキトンボ(6月写真無し).
写真13.左上から右へ(いずれも6月写真無し):オニヤンマ,ネアカヨシヤンマ,ナゴヤサナエ,ハネビロエゾトンボ,エゾトンボ,タカネトンボ.

 6月は,夏のトンボだけでなく,秋のトンボの羽化シーズンでもあります.アオイトトンボ属,アカネ属のいくつかの種のほか,ミルンヤンマ,ルリボシヤンマなどが羽化をしてきます.

写真14.左上から右へ:アオイトトンボ,コバネアオイトトンボ,オオアオイトトンボ,オツネントンボ(次世代),リスアカネ,コノシメトンボ.
写真15.左上から右へ:マユタテアカネ,マイコアカネ,アキアカネ,タイリクアカネ,ネキトンボ,オオキトンボ.
写真16.左上から右へ(いずれも6月写真無し):ナニワトンボ,ナツアカネ,ノシメトンボ,マダラナニワトンボ,ミルンヤンマ,ルリボシヤンマ.

 このように,6月は,春季種の生き残りがいて,夏季種にとっては最盛期またはその直前の羽化期であり,秋季種にとっては羽化期の始まり,そして通季種にとってはもちろんさらに個体数を増やしていく,といった時期なのです.ですから,季節性の異なるトンボがほとんど見られることになります.
 ちなみに,この時期に記録がない4種は,夏季種または秋季種であって,羽化時期がもう少し遅いトンボです.しかし,オオルリボシヤンマは自宅飼育で7月12日に羽化させたことがあります.その他,ヒメアカネは7月8日に成虫の目撃記録が,ミヤマアカネは7月7日に複数の羽化殻採集記録があって,いずれも7月上中旬には成虫が出現しています.キトンボだけが例外的に遅く出現するようで,兵庫県では早くても8月末の記録しか見つかりません(以上すべて東,2006).

写真17.カトリヤンマは6月に記録がある(写真はなし).他は6月に記録がないトンボたち.オオルリボシヤンマ,ヒメアカネ,ミヤマアカネ,キトンボ.

 以上,6月に見られるトンボたちを紹介しました.ここで非常に興味深いのが,キトンボを除くすべてのトンボが,夏至前後までにはその年の羽化が開始されているということです.もちろん春のトンボの羽化はとうに終わっています.夏至前後は一年でいちばん日長が長くなる時期です.トンボの羽化のコントロールが日長に影響を受けているということは,いくつかの種で示されています.こうやって兵庫県全部のトンボの羽化状況を眺めたとき,日長がトンボの季節性に何らかの影響を与えているように感じてしまうのは,私だけでしょうか.