続 トンボ歳時記
No.656. 晩秋のトンボたち(4) 小春日和のトンボたち.2018.11.15.

今日のNHKの天気予報では,午後から少し曇るものの,小春日和の一日とのこと.小春とは旧暦の10月のことだそうで,太陽暦では11月上旬から12月上旬にかけての時期に当たります.ですから小春日和とは今の時期の暖かい晴天の日のことをいうそうです.先日田園地帯へ出かけたとき,まったくといっていいほどトンボの姿が見られなかったので,今日は確実にトンボが見られる場所へ行くことにしました.

▲今日の観察池.水落がかなり前になされていたようで,露出した池底には湿性の草がいっぱい茂っている.

池は写真のように底が露出していて,湿性の草が茂り,流れ込む水が小さな水路をつくって,全体が湿地状になっています.まさにこの時期のアカトンボにとって好適な環境といえるでしょう.しかもかなり前から水が落とされていたようで,アカトンボが集まってくる時間も十分にあったと考えられます.期待ができそうです.

池に着いてまず目についたのはマユタテアカネでした.池岸の石の上などに止まって,他のオスが近づいたら飛ぶなどして,あちこちで活動しています.普通なら産卵も見られるところでしょうが,今日は結果的にマユタテアカネの産卵にはお目にかかれませんでした.帰り際に歩いた農道で見つけたメスもあわせて,まず最初に紹介しておきましょう.

▲マユタテアカネのオス.オスは池畔でたくさん活動をしていた.

▲マユタテアカネのメス.池畔で見ることはなかったが,少し離れた農道で見つけた.

現地到着は10:20でしたが,水面上をホバリングしているアカトンボがいました.目を凝らしてみると,どうやらタイリクアカネのようです.もうタイリクアカネが内陸部にいるのは当たり前になっています.そしてさらによく見ると,露出した池底でアキアカネが産卵していました.近づいて行くと,数ペアがチョンチョンと小さな水たまりや泥状のところで打泥しています.兵庫県南部のアキアカネは減少傾向にあるといつも言っていますが,11月に入ると,環境が整った場所にはそれなりの数が集結しているようです.20世紀の末頃よりは明らかに出現時期が遅くなっていると思います.ということで,まずはアキアカネと時間をともにしました.

▲湿地状になった露出した池底で打泥産卵をしているアキアカネたち.

前にも書きましたが,この時期のアキアカネの打泥動作は最小限の動きという感じで,打泥した後も,ほんのちょっとしか飛び上がりません.10cm位の高さで上下動しています.動きが小さいので,記録に撮りやすいトンボです.さて,アキアカネと戯れているときに,キトンボが産卵に訪れました.最近キトンボはどこの池でも見るようになりました.20世紀末ころには結構珍しいトンボだったような気がするのですが....

▲湿地状の水際で打泥産卵をするキトンボのペア.2枚上の写真は打泥前の打水の瞬間である.

キトンボはその後も産卵にやって来て,少なくとも3ペアは産卵していたようです.途中でタイリクアカネの方に気をとられたので,正確な産卵数はつかめていません.キトンボは,上のような水際での打泥産卵の他に,池の中央や岸近くで打水産卵するペアもいました.

▲もっぱら打水産卵を行うキトンボのペア.同じ池なのに産卵戦術が異なるのはなぜだろう?.

キトンボを追いかけているときに,タイリクアカネが産卵を始めました.開水面の中程で打水産卵をしています.タイリクアカネは神経質なトンボで,なかなか近づかせてもらえません.今日のこのペアも同じでした.粘り強く近づくのを待ってみましたが,なかなか思うようにはいきませんでした.また打水後高く飛び上がるので,せっかく近づいてくれてもファインダーから出てしまうため,カメラで追いにくいトンボでもあります.このペアの打水産卵中,一度だけ,オオクチバスがジャンプして食いつこうとしました.しかし,うまく飛び上がりかわしました.こういうことがよくあるので,池の中央で打水産卵するトンボは打水後すぐに高く飛び上がるのだと私は考えています.オオキトンボもよく似ています.

▲打水産卵するタイリクアカネのペア.

トンボたちと遊んでいると,時間がすぐに経ってしまいます.気がつくと12時を過ぎていました.トンボたちの産卵活動も一段落したようです.晩秋のトンボたちの産卵は一時に行われ,あとは何もなかったように池は静まります.そしてオスたちが翅を陽に輝かせ,飛び回るだけの風景になります.私も,産卵活動を追いかけるのは止めにして,池周辺に止まっているトンボを探してみることにしました.

▲マユタテアカネとキトンボが同じ石に止まっている.

▲岸辺に沿ってキトンボのオスがホバリングして飛んでいる.

▲産卵を終えたメスを捕まえたのだろうか,キトンボのオスがメスを掴んで,交尾を始めた.

▲ネキトンボのオス.アスファルトの上に止まって暖をとっている.

▲ノシメトンボのオス.今年はこのアカトンボだけ繁殖活動を記録できなかった..

▲コノシメトンボのオス.アスファルトの上で暖をとっているが,よく飛ぶ.

これらのトンボを探して歩いているとき,ミツバチの巣箱を置いているところがあり,そこで面白いものを見ました.ミツバチの天敵はオオスズメバチです.以前のテレビ番組では,たった1匹のオオスズメバチが巣箱一つのミツバチを全滅させるというのを放送していました.巣箱のすぐそばにオオスズメバチがいたので,これは,と思ってい近づくと,なんと,養蜂家の方が仕掛けたトラップに捕まったオオスズメバチだったのです.オオスズメバチは10匹トラップにかかっており,1匹がまだ生きていて,粘ついた粘着剤の中でもがいていたのでした.他に,キタテハをはじめたくさんの昆虫も捕まっていました.ミツバチたちはそのすぐ横で悠々と飛んでいました.いや,すごい.

▲トラップにかかったオオスズメバチが粘着剤の中でもがいている.

ということで,昼過ぎに観察を終えました.空は予報通り雲が広がり始めました.やはり確実にいるところにやって来ると,まだまだこの時期,トンボたちは活発に活動しているものですね.今日は7種類のトンボを見ることができました.まだまだトンボたちは頑張っています.