続 トンボ歳時記
No.653. 晩秋のトンボたち(1) タイリクアカネ,オオキトンボ.2018.11.2.

11月になりました.11月の上旬くらいまでは,いろいろなアカネ属やアオイトトンボ属のトンボたちはまだまだ活動を続けていくと思います.その後は,だんだんと生き残りが少なくなり,やがて,一種一種と姿を消していきます.これからはそういったトンボたちの姿を記録していくことになりますので,タイトルは「晩秋のトンボたち」として紹介をしていきたいと思います.

今日はノシメトンボを見に行くつもりで出て行きました.しかし,目指していた場所ではほとんどトンボが飛ばず,ここはダメだと判断し,別の池に向かいました.いちおう池岸に草地があってひょっとしたらノシメトンボが来るかもしれないということは考えましたが,特にねらう種はないといってもいい感じです.池に着いたのは11:00ころででした.気温は17度で,太陽が照っているので暖かかったです.池に入ると目の前にタイリクアカネが3ペア産卵していました.

▲到着時,池の水面で打水産卵を続けるタイリクアカネ.

タイリクアカネは,写真のように岸から離れた水面で打水産卵するペアとともに,岸辺で水際に打水・打泥産卵するペアもいました.

▲水際の草の生えている岸辺で産卵するタイリクアカネ.

▲わずかに出ている水際の泥面に産卵するときもある.

▲岸近くの水面を打水することもある.腹部先端から水滴が出ている.

▲連結打水産卵をするタイリクアカネのペア.

▲次に打水する場所を見定めているのであろうか.打水した後の水紋が見える.

タイリクアカネは比較的遅い時期まで繁殖活動を続けているトンボですので,これから後もしばらくあちこちの池で産卵している姿が見られることと思います.今後の歳時記に何度も登場してきそうです.産卵を終えると,オスはメスを放し,メスは上空へと飛んでいきます.タイリクアカネの産卵は一時に集中する傾向が強く,その後しばらく産卵に来ませんでした.オスたちは次のメスを待って,池面をホバリングしてパトロールをしています.

▲池面でホバリングしながらパトロールするタイリクアカネのオス.

そんな中,単独で産卵していたメスをオスが見つけました.私も見つけましたが,オスの方がちょっと早かった.メスは一気に上空へ逃げ,オスはそれを追いかけ,さらにそれを見た別のオスが追いかけました.

▲単独産卵していたメス(左下)を見つけ追いかけるオス(左上)と,さらにそれを見て追いかけるオス(右下).

このタイリクアカネの一時の産卵が終わるのと入れ替わるように産卵を始めたのが,オオキトンボでした.タイリクアカネとオオキトンボは同じ池で同じ時期に産卵しているのをよく見かけるようになりました.20年くらい前にはまったく見られなかった光景です.長期間観察していると,トンボ群集が変化していくのを感じます.ともにため池の生活者で,未熟時には分散して羽化した池から大きく離れ,繁殖時期には広い範囲を飛び回って繁殖場所を探し,産卵方法は打水・打泥どちらもできるというトンボです.考えてみれば,この2種は非常によく似た生活行動を行っています.

▲オオキトンボも,基本的には岸から離れた水面で,連結打水産卵を行う.

▲打水の瞬間..

▲複数のオオキトンボが産卵をする.

▲もう一方のペアの産卵.

▲遠くで連結打水産卵の瞬間.

産卵が終わるとオスはメスを放します.このとき,メスが上空へ飛び上がらずに池岸の草に止まりました.近づいてよく見ると,かなり色がくすんできています.オオキトンボは若いうちはきれいな黄色をしていますが,メスは成熟が進むと黄褐色になります.オスは茶褐色になりますが,これはもう少し季節が進んでからでしょう.

▲産卵を終えて止まったオオキトンボのメス.黄褐色にくすんだ色をしている.

オオキトンボも池から離れた水面で産卵するペアが多く,なかなか岸に近づいてくれません.追いかけるようにして近づくと,ますます逃げる始末です.こちらが動かずにいると,様子を見るように少し距離を詰めてくれます.

▲じっと待っているとやや近づいてくるが,距離はまだある.

この産卵が終わった後,いつも通り,メスが上空へ飛んで逃げました.これも毎度のことで,そのメスを追いかけて上空へ飛び上がるオスがいました.メスは捕まりたくないのでしょう.単に逃げるだけでなく,メスがオスの方につかみかかって,抵抗しているように見えます.

▲メス(左)がオスの翅につかみかかっている.

▲上がメスで下がオスである.

▲メス(下)がオスとつかみ合いをしている.

時刻は12:00近くになりました.産卵にやって来るのはオオキトンボばかりで,タイリクアカネはやって来ません.今度も2ペアが産卵しています.池の中に入らず,岸辺の草むらを通って近づきましたら,割合に近づくことができました.ただ曇ってきて,空一面に灰色の雲が広がって日差しを遮ってしまいました.薄暗い水面を逆光気味の位置で飛ぶオオキトンボは見えにくい.近づいたのになかなかうまく記録が撮れませんでした.

▲12:00近くに産卵にやって来たオオキトンボ.2ペアが混じっている.雲って水面もねずみ色になった.

このオオキトンボの産卵が終わってから,まだ産卵を続けているペアがありました.その観察を終えてから,池を後にしました.この池では,オオキトンボとタイリクアカネ以外のトンボを目にしませんでした.

天気のよい日に,また,晩秋のトンボたちを見に来ることにしましょう.