続 トンボ歳時記
No.583. ニホンカワトンボの観察.2018.5.12.

今日は午後より曇ってくるとの予報.こういったときには近場が手軽で安心です.そこで,ニホンカワトンボが神戸市内でまだ生き残っているかどうかを,30年前に通っていた場所に出かけてみることにしました.かつてヨシが流れを埋め尽くすように密生していたところは,流れの状態が変わっていて,岸近くに生えているだけでした.だめかと思って少し移動し,護岸壁の下に茂っているツルヨシをのぞき込みますと,ニホンカワトンボのオスが止まっていました.まだ生き残っていたようです.

▲今日の観察地.ニホンカワトンボが活動していたのは,手前左側のツルヨシの周辺.

▲上からのぞき込むと,オスが止まっていた.

▲オスは十分成熟して,真っ白な粉を吹いている.

そこで,護岸の上から産卵できそうな朽木がないか見渡してみました.一つそれらしいものがあったので,上からのぞき込みますと,ニホンカワトンボのメスが飛び立ちました.いやはや,敏感です.例によって,しばらく待つことにしました.川面ではオスたちが闘争をしています.そこで,これを撮影してみました.ちょうどツルヨシの生えている場所で争っていましたので,オートフォーカスが効きそうです.案の定,かなり成功率が高く記録できました.

▲向かい合ってにらめっこ状態のオス2頭.

▲向かい合って威嚇状態が続く.

▲そしてついに衝突,お互い相手につかみかかろうとしているが,両者一歩も譲らない.

▲しかし一方が力負けしたのか,ツルヨシの葉の上に墜落.

▲もう一方のオスはそれでも容赦なく背中に乗り攻撃を仕掛ける.

▲背中に乗られたオスは葉の上から転げ落ちるように落下する.

闘争は非常に激しく,にらみ合い,ぶつかり合い,つかみかかり,そして上空の方にまで追尾行動が行われました.青空をバックに褐色の翅のカワトンボが舞っているのは,なんとなくアニメ調の景色です.

▲下のオスは体勢を立て直してもう一度攻撃を再開する.

▲両者互いに譲らず,なんとか相手の後ろに回り込もうと,回るように飛び続ける.

▲もうどちらがどちらの個体か分からなくなった.

▲闘争を続けながら,だんだんと向こうの方へ移動していった.

▲それでも勝負が付かないのか,2頭は上空へ舞い上がった.

▲一方が激しく追い上げる.

▲空高いところで,とうとう攻撃をやめたようだ.多分下のオスの勝利である.

さて,先ほどのメスはなかなか産卵を再開しません.そこで川に降りることにしました.別の個体がいるかもしれません.オスたちは相変わらず足下でぐるぐる追いかけ合いをしています.そんな中,メスがときどき降りてきます.オスは必死で追いかけます.そんなとき,縄張りを持っていたオスがメスをつかみました.

▲オスが,やってきたメスを捕まえ,タンデムになった.反射的に腹部を曲げ,移精行動に移る.

▲移精行動,時間は20秒から30秒程度.

▲移精行動が終わるとすぐに交尾に移る.交尾時間はそれほど長くはない.

移精行動から交尾へとおきまりの手順を経て交尾が続きました.これは終わったら産卵を開始するかもしれないので,しばらく待つことにしました.ところが,この交尾カップルに別のオスが襲いかかりました.交尾カップルは交尾を中断し,オスはメスをつないだまま逃げ回りました.そして対岸の石ころの上に止まり,交尾を再開しました.

▲他のオスに追いやられ,交尾をいったん解いて飛び立ち,対岸の石ころの上に止まって交尾を再開する.

しばらくして,交尾がまだ続いているかと対岸を見渡したところ,交尾カップルの姿が消えていました.と,そのとき,足下にメスが止まり,オスもそれに付き添って止まりました.すぐには産卵を始めません.でも,後でオスにせかされるように体をつつかれると,メスは移動し,産卵を始めました.ただ,ゴミともいえるベニヤ板に止まっての産卵です.絵としてはあまりいい感じではありませんが,これも現代の一つのトンボの姿と思って,撮影しました.ギンヤンマなどは発泡スチロールにも産卵しますから.

▲上の交尾後のメスである.交尾相手のオスの縄張りとは異なる場所で産卵している.

▲ベニヤ板の朽ちたものに産卵する.水面より高い位置に産卵している.

▲こちらは水面より低い位置に産卵している.

その後,別のメスが飛んで姿を消したかのように見えました.よく見ると,最初に見つけた朽木に産卵をしていました.オスがちゃんと警護しています.これ最初に産卵していた個体かもしれません.産卵前に警護オスと交尾をしなかったようなのです.

▲朽木の右下の部分に産卵しているメスがいる.

▲上のメスの産卵.

▲産卵メスにオスがつかみかかった.さすがにこの後メスは飛び去ってしまった.

ところがこのメスの産卵中に,警護オスなのか別のオスなのか,警護オスを含む2頭のオスがもつれ合った後でやってきたので判別できませんが,この産卵メスにつかみかかりました.驚いたメスは産卵をやめて飛び去りました.

現地に入ったのが11:15ころ,観察を終えたのが12:05ころ,わずか50分の観察でした.でもとても効率のよい観察であったともいえます.