新 トンボ歳時記
No.445. タンデムは完全な警護ではなかった−キトンボの場合.2013.12.5.

ずいぶん久しぶりの更新になってしまいました.天気のいい土日は結構続いたのですが,本当に忙しく,全部仕事で潰れてしまいました.今日はその仕事の代休ということで,平日ですが,休みを取ってトンボ観察に出かけてきました.11月をほとんどすっ飛ばしたので,もう,トンボ生き残り調査の段階に入ってしまい,ほとんどキトンボしかいない季節になってしまいました.といっても今日はまだ12月に入ったばかり,他のトンボもいるだろうということで,とりあえず毎年のキトンボの池に出かけてきました.

1205-002

現地に着いたのは10時前でしたが,外気温は6℃を指しており,まだまだ空気は冷たく,池には蒸気が立ち上っていました.そんな状態ではありましたが,すでに池の岸辺にはキトンボを始め,アキアカネやナツアカネも少数姿を現していました.

1205-003

10時30分を過ぎたころからキトンボの動きが活発になり,ついにペアが姿を見せるようになりました.例年,12月に入ると,産卵のピークは11時半ころから12時前後になります.最初のうちは数も少なく,ちらほら産卵しているだけでした.そんなペアにはなかなか近づけず,写真を撮ろうとそっと近づいても一定の距離を置いて離れていきます.

1205-004

まだやや気温が低いのでしょうか,ペアの動きは鈍く,上下のストロークも小さなものです.まあ,おかげで写真は撮りやすいのですけどね.そんなとき,メスの腹部が打泥の瞬間泥に引っかかったのでしょうか,抜けなくなったようになって,オスだけがバタバタするシーンを目にしました.

1205-005

そんなこんなしていると,だんだんとキトンボの数が増えてきて,産卵ペアが目立つにつれ,あちこちでオスが追いかけ合いをするのが目に付くようになりました.そのころ,岸辺では交尾態のペアが飛んでくるようになりました.でもなかなか近づかせてくれません.3mくらいで飛んでしまうのです.交尾の写真には苦労しました...

1205-001

さて,そんなこんなでキトンボを追いかけ回していますと,あちこちで産卵が見られるようになりました.例年のようにダブル産卵もあちこちでやっています.

1205-006

気温もだいぶん上昇し,セーターを着て体を動かすと,暑く感じるようになってきました.今日は移動性高気圧におおわれての快晴ですから,午後になっても雲が出てくる心配はありません.でも冬のキトンボたちは,やはり体を温めるために時々岸辺に止まって,日向ぼっこをすることを忘れはしないようです.

1205-007

たいていのキトンボは,岸辺で打水−打泥産卵をするのですが,中にはもっぱら打水産卵をするペアがいます.これは本当に不思議です.スタンダードな打水−打泥の産卵環境があるのに,わざわざ池の中央に出て,トントンと打水産卵を続けるのですから.これはやはり遺伝的は行動の変異なのでしょうか?

1205-008

次から次からキトンボが来るので,いささか集中力が切れてきました.さらに中腰もしんどくなってきて,とうとう,ずぼらにも,岸辺に腰をおろして目の前のキトンボの産卵を撮影するといった状態になってしまいました.ところがおもしろいことに,中腰で追いかけるより,キトンボはうんと近づいてくるのですね.ただ,逆光にはなってしまうのですけども.

1205-009

そんな時,コノシメトンボが交尾態になっているのを見つけました.コノシメトンボがいるのはずいぶん前から気づいていましたが,なかなか近づけずという感じで,後回しにしていたのです.このコノシメトンボは,交尾後,産卵をしましたが,すぐに別のオスに追い立てられ,沖の方に行ってしまいました.その後産卵を終え,メスが離れて岸の方に飛んで帰ろうとしたときでした.突然,ポタリと,このメスが水面に落ちてしまいました.もう力つきてしまったのでしょうか,それとも気温でしょうか.

1205-010

打水産卵するトンボは,打水したときにかなり深く水に腹部が入ります.体温がきっとそのせいで奪われるのです.キトンボはその辺をよく知っていて,途中で産卵をやめて暖をとります.でも沖の方に出て行ってしまったコノシメトンボは,岸に帰るまでに冷えて落ちてしまったのかもしれません.偶然の縁です.助けて,日向に置いてあげました.

1205-013

キトンボたちはまだまだ産卵を続けていましたが,このあたりで今日の観察を終えることにしました.帰り道,池の横の日当たりのよい場所で,おもしろいものを目撃しました.そうです,やっと今日のタイトルの,「タンデムは完全な警護ではなかった」事例を観察したのです.交尾態のキトンボがいました.これが飛び立ったときに1頭の別のオスが,この交尾態のメスの背中に取り付きました.交尾態は止まりましたが,この別のオスは腹部先端をメスの複眼に当てようとします.そして,もう一度3頭絡まった状態で飛び立ち地面に落ちたときです.執拗にこの別のオスが連結態になろうとするので,とうとう,もとから交尾態になっている方のオスがメスを放して飛んでいってしまいました.この別のオスはその後タンデムになり,すぐに交尾に入りました.

1205-012

まあ,タンデムも完全な警護にならず,強引にメスを横取りするオスもいるのですねぇ.

さて,帰りに定点池によって,トンボを探してみました.4種類のトンボが見られました.

1205-014

今日は本当に暖かい一日でした.生き残っていたトンボは,マユタテアカネ,ナツアカネ,アキアカネ,コノシメトンボ,そしてキトンボでした.キトンボはまだまだ繁殖活動が続きそうですね.でも,本当にキトンボは寒さに強いですね.今年は適度に寒いので,かえって消耗せず,長生きしているのかも知れません.今年は年を越すか...,楽しみです.といってもまだ先は長いですけどね.