新 トンボ歳時記
No.335. キトンボの生き残り調査 2012.1.4.

今日は朝7時過ぎから晴れはじめました.冬型なので青空は見えるだろうということで,サイトBに出かけました.風はそこそこ吹いていましたが,以前の調査でそんな日にも出てきていることを見ていたので,出会えることを確信して出かけました.もっとも,今日の気象台の気温予報は7℃でした.普通ならトンボは飛べない気温なのですけど,直射日光の射す地面には輻射熱もあって,意外とミクロな環境温度は高くなるものなのです.と頭で分かっていても,トンボが飛ぶということはなかなか信じがたい天候です.

日は射しているが波立っている水面

冬の時期の生態を見ようということで,早めに家を出ました.到着したのはちょうど10:00ころです.池に近づくと,確かに快晴状態でしたが,季節風が強く吹いており体感温度は相当低い感じです.毛糸の帽子をかぶりコートを着てトンボ探し.何かミスマッチのような気がしてなりませんでした.30分ほどうろうろしたり風を避けながら池畔に座っていましたが,全くトンボの姿はありません.人間ですら寒いのですから,こんな時にトンボが出てくるはずはないと思いながらも,待っていました.ふと,落ち葉の間にトンボの翅のようなものが見えました.近づいてみると死亡した個体でした.トンボの自然死した遺体を目撃することはあまりありません.それは,アリなどの掃除屋がいち早く遺体を持って行ってしまうからです.でもさすが冬! 遺体は乾燥した状態で落ち葉の間に転がっていました.アリも出てこないのでしょうね.

キトンボの死亡個体

2011.12.29の自然死個体

実は年末の12月29日にも自然死の個体を見ています.翅の状態からそれとは違う個体です.まあそんなことがあって少し退屈が紛れました.陽は出ていますが風はますます強く吹いてきます.11:00を過ぎて,ちょっと諦め感が出てきて,池のそばを離れ,池横の道の日だまりを見に行くことにしました.でもやはりいません.もう帰ろうかと思い始めた時でした.1頭のオスが飛び出し,コンクリートの壁に止まりました.

11:37,ついに現れたオス個体

結構敏捷で,近づく前に飛び立ち池の方に入っていきました.時刻は11:37.1頭入ったということは,目に付いていないものもいると考え,池畔に戻ることにしました.いましたいました.合計3頭いたと思います.気温が低いせいでしょうか,腹部がワインレッドをしているのが印象的でした.

わずか30分あまりの間池畔に現れたオスたち

風はまだおさまっていません.それでもキトンボはその風に向かってホバリングをしたりして,陽の当たる岸辺を飛んでいました.ただ,30分もしないうちに,飛び上がっては木立の方に飛び去っていきました.やはり,果敢に池岸に出てきたものの,活動は無理と感じたのかもしれません.とにかく姿を見たので,今後もまだ活動は続くものと思われます.この寒さがゆるんだ後,移動性高気圧がやってくるときが観察のチャンスになるかもしれませんね.2,3日後というところでしょうか.ま,1月4日,私としては年越し後もっとも遅い記録となりました.兵庫県では,1月7日交尾産卵,1月22日2♂目撃という記録があります(山本他,2009)ので,県の記録更新となるとまだまだ先は長いですけれどもね.

池畔のオス

帰りに定点サイトへも寄ってみましたが,風が強くて,いるような雰囲気ではありませんでした.一通り探してから,帰途につきました.人間は真冬の完全装備の中での観察.その寒風を受けて飛び回るキトンボ.いやはや,ものすごいトンボもいるものですね.でも一方で自然死個体が見つかり始めています.トンボ成虫シーズンもいよいよ終わりが近くなってきたのかもしれません.


<参考文献>
山本哲央・新村捷介・宮崎俊行・西浦信明,2009.近畿のトンボ図鑑.いかだ社,東京.