トンボ歳時記
No.070. 兵庫県北部へ...Part.2. 2009.6.6.

天気はどんどん快方へ向かっていますので,楽しみにしながら現地に入りました.現地では相変わらずアサヒナカワトンボとニホンカワトンボが入り乱れて飛んでいます.とにかくサナエトンボを探しましたが,ほとんど姿を見ず,やっと見つけたのはダビドサナエでした.

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▲ダビドサナエとアサヒナカワトンボ

その後も丹念に探し,下の写真の個体を見たときには,ついにやったかと胸を躍らせました.胸側の黒条が下の方で融合しています.クロサナエ!,と思いました.しかしながら,ファインダーの中にくっきりと写る尾部付属器.これはどうみてもダビドサナエです.どうやらダビドサナエの黒化型のようです.採集する前に逃げられてしまい確認はできませんでしたが,写真で見てもまず間違いありません.

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▲ダビドサナエ黒化型オス.胸側の黒条が下の方で融合している.

その後も約1時間,歩き回り,叩き出しをしましたが,目的のヒメクロサナエやクロサナエは姿を見せませんでした.あきらめかけて帰ろうとしたとき,アサヒナカワトンボのオスとニホンカワトンボのメスが交尾している!?といった感じのカップルを見つけました.

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▲透明翅型オスと淡橙色型メスの交尾.

とりあえず写真撮影し,オスの方を採集しました.なんと,淡橙色型らしいオスでした.ここには橙色型のオス以外に,淡橙色型らしいオスがいることに気づきました.そこで慎重を期して,アサヒナカワトンボのオスと思われる個体を採集してみると,やはりこちらはアサヒナカワトンボに間違いありません.両方を採集して比べてみると,本当にそっくりです.採集して確認しないとまず気づかないでしょう.ニホンカワトンボの方がやや翅が赤く感じる程度です.

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▲採集個体による比較.こうしてみると違いが分かるが,現地では見過ごしてしまいやすい.ニホンカワトンボは,上の交尾しているオス個体.

ところで,このニホンカワトンボの個体ですが,実体顕微鏡下で見ると,翅脈は褐色をしており,赤くも黒くもありません.前縁付近の脈は,光を反射すると赤く見えます.老熟していて翅が褐色に色づいているためやや判別しづらいので,ひょっとしたら淡橙色型ではなく透明翅型かもしれませんが,ひとまず,淡橙色型と同定しておきます.この地域で淡橙色型は出たのは初めてではないかと思います.

カワトンボに関しては,繁殖戦略が詳しく研究されています.今日のハプニングから,アサヒナカワトンボと同所的に生息するニホンカワトンボの個体群に淡橙色型が混じると,それはアサヒナカワトンボに似ているので,アサヒナカワトンボのふりをして,こっそりメスを得るといった繁殖戦略が成功する可能性があると想像できます.そうすると淡橙色型の存在意味が分かるような気がします.そして以前から気になっていたことで,淡橙色型のオスは少し翅胸が小さいように感じていましたが,これも理にかなっています.あくまで思いつきですが.

さて,今日は大切な発見を見落とすところでした.トンボ調査も慣れてくると,本当に思いこみに注意しないといけない,と再々確認させられました.実は「今のは淡橙色型オスかもかもしれない」と思うような個体を少し前に見たのですが,この交尾を見なかったら,絶対に確認する気になれなかったでしょう.普通種でも,常に新発見があるかもしれないという緊張感を持って,今後も観察に臨みたいものです.

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▲ミヤマカワトンボ.ニホンカワトンボ,アサヒナカワトンボと混じって飛んでいる.

ところで,この川にもミヤマカワトンボが姿を現しており,いよいよ源流部も,季節が一つ進んでいきつつあるように感じました.