H010.ハグロトンボ Atrocalopteryx atrata
生息環境の写真
生息環境
 ツルヨシなどが生えている河川の中流域であれば,たいがいそのすがたを見ることができます.小規模な河川や用水路にも,抽水植物や沈水植物さえあれば,棲み着いていることが多いです.未熟期に暗い林床へもぐりこむ性質があるので,樹林や竹林が近くにある場所には特に数が多いようです.
 ハグロトンボの棲むような河川の中流域は都市部や農村地帯にあることが多く,治水上,河川改修工事の必要な地域です.また,栄養塩を多く含む水田の排水や家庭排水等の汚水の流入も多くなります.ハグロトンボはヨシなどの植物組織に産卵し,幼虫の生活場所もヨシなどの植物の根際です.河川を改修したり,浚渫したりするときには,まず流域の植物は根こそぎ取り除かれるので,ハグロトンボの卵・幼虫は壊滅的な打撃を受け,工事の行われた場所ではまず全滅するものと思われます.たとえ生き残った幼虫があったとしても,水辺の植物がなければ羽化場所がないし,成虫が他からその場所にやってきたとしても,もはやそこには産卵する植物がないということになります.このような河川改修工事による水辺環境の劇的な変化,水質汚濁による幼虫の生育に対する環境圧力の二重苦には,さすがのハグロトンボも個体数を減じる以外にとるべき道はないように思えます.
樹林に接した植生豊かな中流域.