No. 975. 奄美大島のトンボ観察.2024.7.11.

県外へ出かけたときは「観察記」ではなく「エッセイ」にしていました.それはできるだけ多くの種類のトンボたちに出会い,観察というよりは写真撮影が目的の旅行だったからです.しかし今回は特定の種類にターゲットを絞って,その生態観察を主に行うための訪問です.

■ハネビロトンボ Tramea virginia (Rambur, 1842)
まずはハネビロトンボです.ハネビロトンボは鹿児島県には広く分布しているようで,地元の人が言うには,極めて普通のトンボらしいです.多分こちらでいうところの「コシアキトンボ」ぐらいの位置づけなのではないでしょうか.前回奄美に来たときに鹿児島県の方がトンボを見に来られていたのですが,ハネビロトンボにはカメラを向けることすらほとんどしなかったですから.

しかし私にとっては異国のトンボであることに変わりはありません.特に放卵時に,タンデムで飛来したペアのオスがメスを放してメスが単独で打水し,その直後にまたオスがメスを捕まえてタンデムになるということを繰り返すという珍しい習性を持っていますので,これを記録したいと長年思っていたのです.ですから今回の訪問では,これを記録することが最優先事項でした.

ハネビロトンボのタンデムは,池を高速で縦横に飛び回りながら産卵するので,どこで打水・放卵をするか全く分かりません.35℃の高温のなか日陰に座って観察していると,そんなハネビロトンボにも,打水する好みの場所があることに気づきました.浮葉植物だけでなくそこに藻が浮かんでいるような場所です.それが分かればそこで根気強く待つのみです.


▲池を縦横に飛び回るハネビロトンボのペア.▲


▲放卵直前のハネビロトンボペア.メスの腹端には黄色い卵塊が見える.▲

放卵する前には,水面の低い位置で一瞬止まるような動きをするのでそれと分かります.しかしそれをカメラでとらえるのは難しく,止まった瞬間にカメラを向けてピントを合わせてシャッターを切ってもだいたいが手遅れで,ジャストのタイミングになるのは至難の業であることが分かりました.ただ救いは,かなりの数産卵に来てくれたことでした.何度かやっているうちに反応するコツがつかめました.それは止まる前からトンボを追いつづけることでした.

しかし多くの場合は単なる通過で,それを何回もやられるとこちらの集中力が切れてきます.きっとトンボを追っている間息を止めているのだと思います.年寄りにはきつい.それでもなんとか成功し,記録を録ることができました.


▲放卵寸前のペア.やはりメスの腹部先端には卵塊が形成されている.▲


▲オスがメスを放した.黄色い卵塊が見える.メスが打水する直前である.▲


▲メスが打水・放卵した瞬間.▲


▲打水を終えてメスが上昇に転じたとき,オスはそれをつかみに行こうとする.▲


▲後ろから抱きついて再びタンデムを形成しようとするオス.▲

この連続写真を見ていると,オスの姿格好が面白い.オスはメスと再びタンデムになるために,脚をいっぱいに広げて確実にメスをつかみ,尾部上付属器を根元から背側に直角になるように折って腹部を曲げ,すぐにメスの後頭部を挟めるような体勢をとっていることが分かります.最後の写真の次は,ペアが急上昇したためにフレームアウトしてしまいました.タンデムになる瞬間は,もう一つの撮影例にありましたので,それを載せておきましょう.


▲打水・放卵後,オスがメスの後頭部を挟み,タンデムを再形成する瞬間.▲

でも,ハネビロトンボは,なぜこんな複雑な産卵様式を採用しているのでしょう.ふつうに連結打水産卵すればいいように思うのですが.現に同じように池を縦横に飛んで打水産卵するオオキイロトンボは,連結のまま打水しています.

これはオスの意志かメスが逃げたのかは分かりませんが,連結飛行中にオスがメスを放したり,打水・放卵の後オスがタンデムを形成しなかったりして,メスの単独産卵に移行する場合があります.


▲単独産卵に移行して産卵場所を探すハネビロトンボのメス.▲


▲暑いせいか,腹部を下垂しながら産卵場所を探すハネビロトンボのメス.▲


▲打水前のメス.腹端に卵塊が形成されている.▲

だいたいこんな感じで主に午前中たくさんのペアが産卵にやって来ます.もちろん,単独で飛び回るオスはあちこちに見られます.やはり一定の範囲を巡回するように飛んでいて,他のオスが侵入すると激しく追尾して追い払いますので,なわばりを形成していると考えられます.


▲なわばり飛行する,まだ少し若いオスのハネビロトンボ.▲

午前中はほとんど止まることなく飛び続けているハネビロトンボですが,お昼頃からぼちぼち木の枝先などに止まり始めます.最も日差しが強くなり気温も高くなる頃です.そんな状況なのに,彼らは日向に止まります.普通はコフキトンボのように体を水平にして止まりますが,暑い日向に止まるときには,腹部を下垂することが多いようです.腹部挙上姿勢は,観察した限りでは見られませんでした.


▲コフキトンボのように,体を水平にして枝先に止まるハネビロトンボ.▲


▲腹部を下垂して止まるハネビロトンボのオスたち.▲

ハネビロトンボで面白いのは,この腹部下垂姿勢を,飛びながらでもやっているところです.日向でなわばりの巡回で飛んでいるとき,腹部を下垂して飛ぶことがあります.


▲腹部下垂姿勢でなわばり巡回のために飛ぶハネビロトンボのオス.▲

観察中のエピソードとして,ハネビロトンボのペアが産卵のため空中で一時停止したとき,リュウキュウギンヤンマが襲いかかり,餌として連れ去ってしまいました.産卵というのは動きが予測しやすく,スピードも落ちるので,大型のヤンマにねらわれやすいのですね.カメラは構えていましたが,ピンボケでした.

長い間ハネビロトンボの姿を観察・記録したかった思いがやっと実現し,楽しい時間を過ごすことができました.

■アオビタイトンボ Brachydiplax chalybea flavovittata Ris, 1911
今回の訪問では,ハネビロトンボを追いかけてばかりいたような気がしますが,もう一つどうしても確認したい課題がありました.それはアオビタイトンボの産卵,そしてメスがどこにいるかを見つけることです.台湾に行ったときも沖縄県を訪れたときも,アオビタイトンボのオスはよく見つかりましたが,メスが見つかりませんでした.だいたいこういったトンボのメスは,池周辺や,やや離れた草地などにたむろしているものなのですが,今日に至るまで全く見つけることができていません.


▲アオビタイトンボのオス.オスは今回非常に数が多かった.▲

アオビタイトンボは,お昼前から出てくる数が増えてきます.今回朝早くから観察を始めましたが,早朝はシオカラトンボばかりでした.気温の高くないうちは,より北方に分布が広がっているシオカラトンボの方が目立つのでしょうか.アオビタイトンボはお昼が近くなると目立つようになり,夕方が近くなると今度はシオカラトンボが目立たなくなります.よく見るとこの2種姿格好も似ています.


▲朝のうちはシオカラトンボが目立つ.▲

アオビタイトンボの数が増えてくると,あちこちでオス同士の争いが始まります.コシアキトンボのように2頭が並んで飛び,しばらくして一方が他方を上空へ追いやるような行動になったり,そのまま離れてしまうこともあります.


▲オス2頭が闘争しているところ.▲

さて肝心のメスですが,最初に出会ったのは産卵しているメスを見つけたときでした.時刻は14時ごろで,もっとも暑い盛りです.アオビタイトンボはどんな産卵をするのか興味もありました.結論から言うと,茎や葉や枝など水面に出ている物体に卵を貼り付ける様式で,コシアキトンボと似ている感じです.ただ,コシアキトンボほどに連続性はなく,しばらくホバリングしてから腹端を打ちつけるといった間欠的な感じでした.


▲産卵しているアオビタイトンボのメスを発見した.▲


▲まず,腹端を打ちつける部分にねらいを定めて少しホバリングする.▲


▲腹端を打ちつける直前の状態.腹部先端が上に反っている点に注目.▲


▲腹部先端を反らしたまま枯れ茎に腹端を打ちつけて放卵する.▲

卵は枯れ茎にひっついているのが確認できました.薄緑色で透き通っています.このカットでははっきりとした写真がありませんでしたが,16時頃に見たもう一つの産卵場所にはたくさんの卵が着いているのが見えました.


▲こちらの産卵では,葉の表面に卵を貼り付けている.15:58.▲


▲葉面の緑色のが卵である.少なくとも左側の葉の卵は上のメスが放卵したもの.▲

上の枯れ茎に産卵している写真では水面より上側に卵を貼り付けていますが,下の葉上に卵を貼り付けている写真では水面より下側に卵が貼り付いています.コシアキトンボでは水面より上,コフキトンボでは水面より下,というふうにこれらの種の間ではかなり厳密に貼り付ける場所を選び分けていますが,アオビタイトンボはその辺はどちらでもいいのでしょうか.

ところで,まだ課題は解決していません.フリーのメスはどこに潜んでいるのでしょうか.草地にいない場合は樹上に上がるという可能性があります.そこで林縁に生える木の枝を見ながら探索してみました.すると意外と簡単に見つかりました.


▲林縁の木の枝や葉に止まるアオビタイトンボのメス.▲

若干若い感じのする個体ですが,それでもメスはこういった感じのところに隠れていることが分かりました.成熟するともっと高いところに上がっているかもしれません.こういった場所にはやや若いオスもいました.


▲若い感じのオスも同じにところに見られた.腰の部分がまだ地色だ.▲

アオビタイトンボは現在山口県でも見られるほどに北上しています.ベニトンボのようにやがて兵庫県などでも普通に見られるようになるのでしょうか.1977年に沖縄島で発見されるまでは大東諸島にしか分布していなかったトンボです.これを見るために南大東島へ行った人もきっといたに違いありません.最近の,南方種の北への分布拡大には,目を見張るものがあります.


▲北上を続けているアオビタイトンボ.昔は大東諸島にしかいなかった.▲

■アマミルリモントンボ Coeliccia ryukyuensis amamii Asahina, 1962
さて,まだ訪問の目的があります.アマミルリモントンボの産卵を見ることです.マサキルリモントンボ,リュウキュウルリモントンボと,いずれも産卵の観察が実現していません.しかし,先島諸島,沖縄本島,いずれの訪問も,より多くのトンボに出会うことが目的でしたので,産卵観察のために時間を割くことは,限られた時間の中で優先順位として低かったのです.

しかし今回はちょっとした意地がありました.前回来たときに,アマミルリモントンボのオスはたくさん見つかりました.個体群密度から見て,産卵が見られる可能性は高いと考えていました.何が何でも見つけるという気合いで探しました.ポイントは時間帯です.午前中の早い時間帯に探してみることにしました.これがうまく当たったようです.まず最初に見たのが,連結しているペアでした.


▲タンデム状態のアマミルリモントンボ.8:11.▲

成熟したメスを見たのはこれが初めてです.このペアはこの状態から動きがないので,別のペアを探しに行きました.すると少し離れたところに産卵中のペアがいました.朽ち木に産卵していました.コケのようなところに産卵するかと想像していましたが,意外と堅い基質に産卵するのですね.だから産卵管がやや大きく発達しているのでしょう.


▲朽ち木に産卵するアマミルリモントンボ.▲

この場所は農道の横を流れる細流です.どうしてもこの角度でしか撮れないので溝に降りて撮ることにしました.そんなとき,農家の方が車で通り,突然止まって窓を開け,「ハブに注意してくださいね」と言われました.そうか,ハブというのはこういうところに潜んでいるのか,と思い気持ちを引き締めたところです.


▲もうこれ以上は下の位置にできないぎりぎりの高さで撮った.▲

写真はたくさん採りましたが,植物内産卵をするトンボの産卵は何枚撮っても同じなので,ある程度で止めました.フリーのオスもいましたが,数は春に比べて減っていました.水が一部涸れていたせいかもしれません.


▲アマミルリモントンボのオス.▲

■リュウキュウギンヤンマ Anax panybeus Hagen, 1867
私が訪問したときだけかもしれませんが,奄美大島ではギンヤンマよりリュウキュウギンヤンマの方が普通でした.実は今回の目的の中にリュウキュウギンヤンマの産卵観察というのがあったのですが,リュウキュウギンヤンマの産卵メスは非常に敏感で,5mぐらい離れていても,こちらの動きに反応し,異常を感じれば産卵を止めて飛び去ってしまうのです.

今回は一度だけ産卵に入ったメスに出会いました.このメスも同様に敏感でしたが,産卵基質に止まる前にかなり長時間ホバリングしましたので,これをいただきました.時刻は16:40で,もう夕刻に近いですね.


▲産卵基質に止まる前にしばらくホバリングしたリュウキュウギンヤンマのメス.▲


▲どういうわけか私から視線が届かないような場所を選んで産卵する.▲

結局産卵はこんな感じでしか観察できませんでした.のぞき込もうとするとそれを敏感に感じ取って飛び去ってしまいました.こういうときは不動の姿勢で待つという鉄則を忘れてしまったようです.

しかし一方オスの行動については結構面白い観察が出来ました.オスは,普通のギンヤンマのように,池の上を飛んでメスを探しているのですが,これが意外と少ないのです.どこにいるかというと陸上!.林縁のやや開けた空間を往復しながら長時間飛んでいるオスがそこそこの数いました.普通なら摂食飛翔で片付けてしまいそうな感じの飛び方です.確かに餌昆虫が飛びますと追飛して捕らえたりしているようです.

しかしながら,この行動は,朝から夕方まで特に時間帯に関係なく行われています.普通摂食飛翔というのは時間帯が限られているように思うのですが,朝昼夕方を問わずいつもどこかでやっているという感じなのです.そしてメスが近くを飛ぶとそれを捕らえタンデムになって飛び去るのを見ています.メスが非常に敏感ですぐに逃げてしまうことと考え合わせると,これはひょっとしたらオスがメスを捕まえる戦略ではないかと思ってしまいます.真相は分かりませんが,とにかく陸上をよく旋回飛翔するトンボです.

▲林縁の道の上を飛び回るリュウキュウギンヤンマのオス.▲

■ハネナガチョウトンボ Rhyothemis severini Ris, 1913
奄美大島と言えば,奄美大島にしか分布しない珍しいトンボがいます.1993年に初めて発見されて以来奄美大島以外では見つかっていません.津田(2000)によると,海外では台湾やベトナムに分布しているそうです.

同じく最近日本に入って来た,サイジョウチョウトンボ,またその少し前のアカスジベッコウトンボはいずれも台湾に分布しており,国内ではまず与那国島で初めて発見されています.これらが台湾から来たと言いきることができないにしても,台湾-与那国島-西表島という分布拡大ルートには共通性があります.ところが同じく台湾以南に分布するハネナガチョウトンボは,それらをすっ飛ばしていきなり奄美大島に現れ,しかもその他の離島には出現していないのですから,不思議としか言いようがありません.


▲ハネナガチョウトンボのオス.▲

今回,ハネナガチョウトンボは姿が見られたらいいという程度の感覚で観察に来ました.でもその無欲がよかったのでしょうか,交尾・産卵を観察することができました.まずメスが入って産卵しているのを見ました.植生の中にもぐり込んでの打泥(打水)産卵です.これを上記写真のオスが見つけて,交尾態になりました.交尾態は割合近くに静止してくれましたので,写真記録にとることができました.


▲ハネナガチョウトンボの交尾.▲

交尾しているメスの翅が非常に長く感じられ,ハネナガチョウトンボの和名の意味が分かります.交尾が終わった後もメスは産卵を継続しました.なお,産卵を見たのは全部で3回でした.数が少ないトンボですが,よく観察できたと思っています.


▲植生の間に入り込んで産卵を続けるハネナガチョウトンボのメス.▲

ハネナガチョウトンボは南国のトンボです.暑さには強いのでしょう.お昼過ぎのもっとも暑いときにも池を離れず,腹部挙上姿勢で頑張っていました.そしてときどき周辺を飛び回ります.飛ぶ姿を遠くで見ていると,チョウトンボの飛び方と言うより黒いハネビロトンボといった方がよいような印象です.ハネビロトンボと同様に,翅の基部だけに色が付いているからでしょう.


▲腹部挙上姿勢で頑張るオス.▲

ハネナガチョウトンボは条例で採集禁止になっているようですので,注意したいものです.いつまでも元気で残り続けてほしいトンボです.


▲光線の加減か,紫色に怪しく輝くハネナガチョウトンボ.▲

◆その他のトンボたち
今回は生態観察・記録を中心に訪問したので,いくつかの種には出会えず終わってしまいました.そんな中でちょっとした出会いがあったトンボたちを最後に紹介しておきましょう.

■オキナワオオシオカラトンボ Orthetrum melania ryukyuense Sasamoto et Futahashi, 2013
オキナワオオシオカラトンボは沖縄本島で十分観察できたので,今回は観察目的から外しました.オスは小さな流れに止まっていましたし,交尾を目撃しました.


▲流れに止まるオキナワオオシオカラトンボのオス.▲


▲オキナワオオシオカラトンボの交尾.▲

■タイリクショウジョウトンボ Crocothemis servilia servilia (Drury, 1770)
ハネビロトンボ観察中にこのトンボをたくさん見ました.ときどきメスが入り産卵もしていました.


▲産卵にやって来たメス.交尾されてしばらく静止中.▲


▲タイリクショウジョウトンボの産卵.水滴が前方に飛んでいる.▲

■オキナワチョウトンボ Rhyothemis variegata imperatrix Selys, 1887
先島諸島では非常にたくさんの個体を見ましたが,奄美大島では,あまり多いようには見えませんでした.どちらかと言えば数は少ないトンボでした.メスでやたら翅の黒い部分が大きいのがいました.


▲オキナワチョウトンボと産卵に来たメス.▲

■タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax (Hagen in Selys, 1854)
さすが夏です.タイワンウチワヤンマの数が非常に多かったです.他のトンボを撮影すると,浮葉植物に着いている羽化殻が写るほどです.ハネビロトンボの産卵の写真にも写っています.産卵もいくつか見ました.面白かったのは,こちらで産卵するときは短時間ホバリングしてから浮遊物に腹卵を打ちつけるような動きをしますが,ここで見たのは,まさにすばやい連続打水産卵でした.これは多分オスが多すぎて,ゆっくり停止飛翔などしているとオスにつかみかかられるからかもしれません.


▲タイワンウチワヤンマのオスとメス.▲

■最後に
今回目的としなかったトンボの中で,やはり出会いたかったトンボに,ミナミヤンマがあります.奄美大島のミナミヤンマは翅の前縁部が褐色に彩られていて,なかなか美しいトンボです.飛ぶ姿はそれなりに見ましたが写真に撮れるような状況ではありませんでした.一度だけ,木陰で座ってトンボ観察しているときに,ミナミヤンマのメスが止まりたそうに飛んできたことがありました.しかしハネビロトンボがこれを追いやって,結局止まらずに逃げてしまいました.止まってくれると嬉しいところでしたが惜しかったです.

タイワンシオカラトンボの姿を探しにあちこち移動しました.しかしどこも乾燥していて,これらがいそうな湿地状の場所が見つかりませんでした.それなら水田のあるところへと思いましたら,奄美大島にはほとんど水田地帯がないのですね.国土地理院の地図で水田のマークがついているところはわずかしかありません.ちょっと意外でした.ということで,探す場所が分からず出会えずじまいでした.

ベニトンボハラボソトンボコシブトトンボ産卵アオモンイトトンボ,リュウキュウハグロトンボ,オオキイロトンボなどを見ました.それからムスジイトトンボでしょうか.水色のクロイトトンボ系の産卵を見ましたが,遠すぎて種名の確認にまでは至りませんでした.このなかで,オオキイロトンボは奄美大島では飛来種扱いになっています(尾園ら,2021).残念ながら証拠写真はすべてピンボケでした.


▲やはりベニトンボには登場してもらわないと.産卵は全く見ずだった.▲


▲ハラボソトンボはとても数が少ないトンボであった.▲

チビサナエは探してはみたが見つからず,薄明薄暮の観察は行っていないので,まあ,今の季節これくらいが普通のところだと思います.以上.

カテゴリー: 県外のトンボ, 観察記 | No. 975. 奄美大島のトンボ観察.2024.7.11. はコメントを受け付けていません

No. 974. 思わぬところでハネビロエゾトンボ.2024.7.7.

水に浸かったカメラの調子がやはり少し変でカメラの修理は10万円近くかかりそうですし,ストロボももう6年以上使って推定十万発以上光らせているので,カメラやストロボを新調することにしました.痛い出費です.今日はその機材テストで出かけてきました.前回やはりカメラテスト(このときは水に浸かったカメラが使えるかどうかのテスト)の時にベニイトトンボの新産地を発見しました.今日は,思わぬところでハネビロエゾトンボに出会いました.おそらくここは過去にも記録がないと思います.


▲なわばり活動をするハネビロエゾトンボのオス.▲

新しいカメラで,視度調整をまだ行っていなかったせいか,微妙にピントが来ていない写真ばかりでした.ハネビロエゾトンボは長い時間ホバリングしてくれるので,写真に撮りやすい相手なのですが.このトンボ,10分ほどで,どこかへ飛び去ってしまいました.

あとは夏のトンボたちをためしにとり続けました.


▲ものすごくたくさん飛んでいたチョウトンボ.▲


▲コシアキトンボも今が盛りである.▲


▲ショウジョウトンボも負けずと飛んでいる.▲


▲シオカラトンボも元気である.▲


▲どこから来たのか,ハグロトンボも見られた.▲

いろいろと設定をいじらなければならないことが分かり,まあテストとしてはよかったです.今年は,アオハダトンボ,ベニイトトンボ,ハネビロエゾトンボと,レッドデータブックに載っているトンボの新産地が見つかり,いつも行かない時期にいつも行かない場所へ行くことの重要性を,改めて認識させられています.

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今日初登場のトンボたち
No. 45. ハネビロエゾトンボ,オス.
No. 46. ハグロトンボ,メス.

カテゴリー: 兵庫県のトンボ, 観察記 | No. 974. 思わぬところでハネビロエゾトンボ.2024.7.7. はコメントを受け付けていません

No, 973. キイロサナエなどの確認調査.2024.7.3.

沖縄県から帰ってきたら,地元は梅雨真っ盛りでした.今日久しぶりに晴れたので,6月に確認しなければならないトンボを見に行くことにしました.今日は現況調査で,確認できたら次に行くという流れの予定です.しかしちょっと異変を感じましたので,後ほどお話しします.

まずは一番のねらいはキイロサナエです,7月に入ると一気に数を減らすトンボですから,7月に入りたての今の時期は,出会うにはもう最後のチャンスです.


▲いつも通りの場所にキイロサナエのオスたちが止まっていた.▲

キイロサナエとくれば,同時期に確認しなければならないトンボに,モートンイトトンボがいます.そこで,例年モートンイトトンボのたくさんいる休耕湿地へ行ってみました.雨が降り続いてせいか水は多かったですが,モートンイトトンボが全く見当たりません.いつもなら飛んでいるハラビロトンボもほとんど姿を見せません.ここは大きな個体群でしたので,たとえ時期が少し遅くなっても,少数は生き残っているものです.それが1頭も見当たらない.キイトトンボが時折飛ぶだけです.

そこで別の場所へ行ってみることにしました.しかしそこにも全く姿がありませんでした.ハッチョウトンボが活動しているだけでした.これは後でまとめます.

まあ仕方がないので,今度は今が出現初期のヒヌマイトトンボの確認に行くことにしました.ところが,ヒヌマイトトンボが全く見当たりません.一緒に生活しているアジアイトトンボもいない.オオシオカラトンボが1頭だけ,行ったり来たりしているだけでした.

モートンイトトンボ,ヒヌマイトトンボ,全く姿を見ることがなく終わりました.イトトンボ類は,クロイトトンボとキイトトンボがいくつか飛んでいただけでした.ホソミオツネントンボはまだ生き残っている個体がいたのに....とにかくイトトンボの姿が少ないのです.


▲イトトンボ類の姿が少ないのに,ホソミオツネントンボはまだ元気だった.▲

まだデータで証明できるほどではありませんが,印象として,今年はトンボの消長,特に没姿が早く一斉に起きている感じがします.今回のモートンイトトンボの未確認は,発生したが没姿してしまったのか,出現しなかったのかは確認できません.後者であればいやな感じがします.

イトトンボ類は,池の表面などに伸びている沈水植物や浮かんでいる藻などにつかまって生活しています.水面付近は直射日光を受け高温になりやすい環境です.適度な高温は成長を早めますが,暑すぎると溶存酸素も減り,高温の影響で幼虫が死滅することも考えられます.トンボ減少に薬剤の影響が言われていますが,高温が続く春から夏にかけてのトンボ幼虫に対する影響は,かなり大きくなってきているような予感がします.

さて,それ以外の不均翅類は季節交代が進みつつあります.まずまだヤマサナエが生き残っていました.


▲ヤマサナエのメス.産卵弁を確認したので間違いない.▲

ウチワヤンマが,久しぶりに流れでなわばりを張っているのを見ました.ここの観察場所はかつてに比べるとウチワヤンマが減少しました.


▲小川でなわばり活動を展開するウチワヤンマ.▲

アキアカネの未熟個体が,あちこちの草むらで見られました.多分水田や休耕湿地で羽化したものと思います.こちらはきちんと羽化しているんですね.


▲羽化直後と思われるアキアカネが水辺に止まっていた.▲

チョウトンボが活動を開始していました.これからしばらくはチョウトンボがたくさん舞う池の風景が楽しめそうです.


▲いよいよ夏の季節の到来だ.チョウトンボが舞い始めた.▲

さて,今日は兵庫県の日本海側は35℃の猛暑日の予報です.11:00過ぎには,日向ではすでに35℃になっていました.私は暑さには強いと思っていましたが,今日初めて熱中症になりかけた自分を感じました.立ちくらみがひどく歩けないほどになりましたし,ほんのちょっと歩いても呼吸がすぐに速くなり息苦しくなりました.また汗も大量にかきました.そんな中,ハッチョウトンボの撮影に集中していました.


▲ハッチョウトンボの交尾と交尾後の静止.▲

ハッチョウトンボは交尾が終わってもすぐには産卵を始めず,メスにしばらく静止する時間があります.オスはその間じっと近くに止まってメスの産卵開始を待ちます.メスが飛び立って産卵を始めると,近くに寄り添って警護します.他のオスが来るとメスから離れてでもそのオスを追い払います.


▲産卵するメスを警護する交尾オス.▲

ハッチョウトンボのメスは,産卵を中断してよく止まります.理由は分かりません.


▲何回か打水すると,すぐに止まるメス.▲

そんなメスと付き合いながら写真記録をとり続けました.しかし中腰になると呼吸が速くなりとても苦しくなります.これはだめだと感じながら,早く産卵が終わってくれと願っていました.写真を撮りに来てこんな思いをするのは初めてでした.


▲産卵を続けるハッチョウトンボのメス.▲

やっとのことで産卵が終わると,私は日陰に入り休息.しかし呼吸が普通になったと思っても歩き始めると立ちくらみ,呼吸速度の上昇が襲ってきます.少しずつ移動し,やっと車に戻りました.その後,大量の水分補給と,アイスクリームを食べて体内から体を冷やしました.車のクーラーも十分効かせて体表面も冷やしましたら,やっと元の状態に戻りました.夜,肉をむしゃむしゃ食べたら元気が復活したようです.皆さんも熱中症にご注意ください.

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今日今季初めて出会ったトンボ
No. 42. チョウトンボ.オス.
No. 43. キイロサナエ.オス.
No. 44. アキアカネ.オス.
・このまま行ったらモートンイトトンボを見ずに終わるかもしれない.
・グンバイトンボも時期が終わりそうだ.

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No. 972. 沖縄県のトンボたち 3.2024.6.27.

沖縄県のトンボたちの第3節です.今回はあちこち移動するよりも,1ヶ所でじっと待つような観察を行ったので,6/23~6/25までの3日間活動した割には,出会った種数が少ない感じです.今回も均翅亜目にはあまり多くで会うことがありませんでした.イトトンボの類が少ないのは何故なのでしょう?.

■カラスヤンマ Chlorogomphus brunneus brunneus Oguma, 1926
沖縄県には,カラスヤンマ,オキナワミナミヤンマ,イリオモテミナミヤンマの3種のミナミヤンマ科のトンボが棲息しています.この中でもっとも出会いやすいのが,カラスヤンマです.イリオモテミナミヤンマには通過するオス3頭しか出会えなかったこともあり,カラスヤンマにはぜひメスに出会いたいという強い気持ちで観察に挑みました.オキナワミナミヤンマには出会うのが難しく,運がよければくらいの気持ちです.

運良く,2日目の観察で,カラスヤンマの産卵に出くわしました.


▲9:40頃.産卵場所と決めた小さな砂州のまわりを飛び回るカラスヤンマのメス.▲

はじめこれを見たとき,黒いチョウが水を飲みに降りてきたように見えました.実は第1日目も水を飲みに降りてきたカラスヤンマのメスを見ていたのですが,このときもしばらくはチョウかと思って見ていました.それくらい黒い翅がひらひらと羽ばたくように見える飛び方です.今回は2回目の遭遇なのに,まだ間違っているのですから学習能力が足りませんね.しかしそれが幸いしたかもしれません.チョウだと思って近づいていったので,こちらに「行くぞ!といった殺気」がなく,相手を警戒させなかったような私の動きでした.近づいても動じることなく産卵を続けていました.こういうの,メスの方が神経が図太くどっしりと構えています.


▲産卵に入ったカラスヤンマ.▲

産卵は水があるかないかというような,砂州に腹端を打ちつけて行います.これは四国で見たミナミヤンマと同じです.砂州の上をぐるぐると回るように飛行しながら,腹端を打ちつけ放卵するポイントを探っているように見えます.そしてやがてポイントを決めたら,ほぼ直立に降下するようにして,腹端を小石やその隙間に打ちつけます.


▲腹端を小石に打ちつけて放卵する瞬間.連写の3コマ,約1/3秒の動き▲

この3枚の一番上の写真ではトンボにピントが来ていますが,砂州のピントが合っている部分はほぼトンボと同じ距離にあると考えられますので,腹端を打ちつけるポイントのほぼ真上から垂直な姿勢に変えて砂州に降下していることが分かります.腹端を打ちつけた瞬間には腹部先端がその衝撃で背側に曲がっているのが分かります.周辺を旋回する飛行では腹端はむしろ腹部側に曲げられています.これが背側に曲がることで産卵弁が開き,卵が放出されるのかもしれません.

産卵は2分ほど続きました.短かったですが,出会えてよかったと思います.もちろんその後待ち続けましたが,産卵には来ませんでした.ただ水を飲みに降りてきたメスがいて,これは流れの上の木の枝に止まりました.これはその後数分で飛び去りました.


▲10:45頃.水を飲みに来てしばらく止まったカラスヤンマのメス.▲

さらに待ち続けますと,今度はオスが流れの上20mくらいの距離を往復しながら飛翔し始めました.オスは飛んでも短時間で飛び去ることが多かったのですが,このオスは5分近くも飛び続けてくれました.しかし飛ぶスピードはとても速くて,オオヤマトンボが飛ぶような感じよりもっと速いです.とにかくシャッターを切らなきゃ写らないという気持ちで173回シャッターを切りましたら,3枚だけピントが来ていました.1.7%の成功率です.まあこんなものでしょう.


▲11:30頃.流れの上を往復飛翔するカラスヤンマのオス.▲

第1日目も,オスが水を飲みに来た後木に止まったのを見ています.これもなかなか見られないような気がします.しかし飛んでいるオスがとてもスマートなので,ちょっと気に入ってしまいました.


▲水を飲みに来た後止まったカラスヤンマのオス.▲

こうなったらもうとことん挑戦してやろうという気になり,山道に静止するカラスヤンマを探しに行くことにしました.一応オスもメスも写真に収めることができましたので,ダメモトで気持ちには余裕がありました.ところが,こんな時に限って見つかるものなんですよね.2m位の高さの小枝に止まるメスがいました.低い位置に止まっていることはあまりないそうなので,これまたラッキーでした.


▲13:30頃.小枝の先に止まるカラスヤンマのメス.▲

これを見ているときに,林の中を出たり入ったりするような飛び方をする,カラスヤンマのオスを見ました.止まりに来たのかと思ってしばらく見ていても止まりません.その動きから推察すると,どうも止まっているメスを探しているような感じです.このオスがこと止まっているメスを見つけたら面白い瞬間が撮れるなどと考えしばらく待機しましたが,残念ながらそれはありませんでした.

お別れに,ストロボを使わず自然光だけで,ISO2500にして撮ってみました.私は色をはっきりと出したいので必ずストロボを使うのですが,ギラギラ光るのが嫌われるのか,あまりストロボを付けて撮っている人は見かけません.


▲木漏れ日で翅が透けるように撮ってみた.1/200,ISO2,500.▲

いろいろな状態のカラスヤンマが観察できたので,もう十分だと感じていました.しかしまだ一つ出会いが残っていました.トビイロヤンマを観察に夕方出かけたところで,黄昏摂食飛翔するカラスヤンマに出会いました.オスもメスも摂食していましたし,水田の植物ぎりぎりの低いところを飛んで摂食する個体もいました.結構よく出てくるトンボなんですね,カラスヤンマというのは...,それだけ数が多いということかも...


▲18:30頃.黄昏摂食飛翔をするカラスヤンマのメス.▲

沖縄は,明石の標準時と時差が40分ぐらいあるそうで,18:30といっても兵庫県では17:50ぐらいです.まだトンボに陽が当たっています.まあこういうことで,この日はカラスヤンマに出会うことが多かった一日でした.

■オキナワオオシオカラトンボ Orthetrum melania ryukyuense Sasamoto et Futahashi, 2013
第3節でもう一つぜひ見たかったトンボがあります.それはオキナワオオシオカラトンボのメスです.またオオシオカラトンボが出てきましたが,今回の旅行では,ヤエヤマオオシオカラトンボとオキナワオオシオカラトンボのメスの写真を是非とも撮りたかったのです.腹部で黄褐色をしている腹節の数が違うからです.


▲オオシオカラトンボ3亜種のメスの比較.腹部先端の黒色部の腹節が異なる.▲

オキナワオオシオカラトンボは,ヤエヤマオオシオカラトンボに比べると,ごく普通に出会うことができました.まさにもっとも普通のトンボの一つという感じです.これを見たとき,ますます,八重山のオオシオカラトンボがアカスジベッコウトンボやコフキショウジョウトンボに追いやられているのではないかという印象を,強く持ちました.沖縄本島にはアカスジベッコウトンボはまだ入って来ていませんしコフキショウジョウトンボは分布していません.オオシオカラトンボのいる環境にはオオシオカラトンボがいる,ということで,この3日間オキナワオオシオカラトンボには各地で出会うことができました.


▲オキナワオオシオカラトンボのオス.下はほぼ腹端まで青灰色をしている.▲


▲オキナワオオシオカラトンボのメス.腹部第7節まで黄褐色をしている.▲

第1日目に見た,道路に水があふれている場所では,3組以上のペアが産卵に訪れました.産卵の様式は他の亜種と変わりありません.オスがメスに接近し,上から押さえ込むようにして警護する(というか産卵を強制する)姿もそっくりです.


▲オスはメスに非常に接近して警護する.▲

こうやって写真を見ていると,メスは別種のトンボのように見えてしまいます.こんなことに興味を抱く私は,やはりカルト的なんでしょうね.珍しいトンボを一生懸命追いかける方がよほど普通の人の感覚かもしれません.

■オキナワオジロサナエ Stylogomphus ryukyuanus asatoi Asahina, 1972
オキナワオジロサナエはチビサナエの亜種です.6月上旬に羽化するサナエトンボですので,まだ出始めで,産卵は期待できないかもしれないと思っていました.現に処女飛行に飛び立つのを2回見ました.またオスの姿を全く見なかったことも,まだ出現の初期だったからかもしれません.


▲6/25,最終日に細流で飛び立つのを見たオキナワオジロサナエのオス.▲

しかし私がわざわざ神戸から見に行ったからでしょうか? 1頭だけ産卵に訪れました.兵庫県で見たオジロサナエの産卵とは異なり,ホバリングしたまま卵塊をつくっているようで,静止して卵塊をつくる行動は見られませんでした.


▲産卵に入って来たオキナワオジロサナエのメス.▲


▲腹端を打ちつける位置を確認しているのだろうか.▲


▲産卵場所はカラスヤンマと同様,砂州である.▲


▲腹端を腹面側に曲げたまま腹部を産卵基質に打ちつけている.▲

「チビサナエ」という原名の通りで,本当に小さく可憐なサナエトンボです.

■トビイロヤンマ Anaciaeschna jaspidea (Burmeister, 1839)
トビイロヤンマは,春の沖縄旅行からのテーマです.でもこのトンボは撮影が難しいトンボであることが身にしみて分かりました.今回は夕方に一度産地へ出かけました.17:00過ぎに現地に着いたのですが,もうトビイロヤンマはたくさん飛んでいました.ただ飛び方が摂食飛翔とは明らかに違います.探雌飛翔といった方がいい感じです.

まるでアオヤンマのごとく,水田に生えている植物の間に深くもぐり込み,何かを探しているような仕草です.そしてもぐり込んだ姿が見えなくなったかと思うと,ちょっと位置を変えてふわっと植物の上に浮き上がってきます.そして少し飛んでまたもぐり込みと,同じような行動を繰り返しています.数は結構多く,30頭ぐらいはいたでしょうか.あっちでふわり,こっちでふわりと,もうカメラを構えて見ている方は,モグラたたきに挑戦しているような気分でした.

それほど速い動きではないものの,姿が見えなくなるのでピントを追い続けることができず,この辺に出てきそうだと思えるところにピントを合わせ,出てくるのを待つといった撮影方法でした.目の前1mほどで飛んでくれたこともありましたが,当然予測が外れることが多く,撮影はほとんどうまくいきませんでした.


▲植物の間から浮き上がってきた瞬間のトビイロヤンマ.▲

ときどきトビイロヤンマの羽化や産卵の写真が出ていますが,これは相当幸運に見舞われた結果ではないかと思えました.またはそういう時間帯があるのかもしれません.遠方から訪れた一見さんが簡単に撮れる相手ではないようです.

しかし,これだけたくさんのオスが次々にもぐり込んで,仮にメスを探しているなら,交尾態になって飛び出るペアを全く見なかったことが不思議です.やはり別の目的があるのでしょうか.謎は深まるばかりです.

■リュウキュウハグロトンボ Matrona japonica (Forster, 1897)
リュウキュウハグロトンボの産卵を見たいと思っていました.オスは川でなわばり活動をしていましたし,メスも現れましたが,交尾や産卵を見ることがありませんでした.ただ残念だったのは,飛んできたメスの腹端が濡れており,これはどこかで産卵をしていたことは間違いないと思います.オスがそのメスのすぐそばに止まりましたが,そのオスはメスに関心を示しませんでした.交尾して産卵済みのメスだったからかもしれません.


▲なわばりオス.岸の植物に止まって周囲を監視している.▲


▲産卵管を清掃しているリュウキュウハグロトンボのメス.▲


▲この写真で,腹部先端が濡れているのが分かる.▲

■リュウキュウルリモントンボ Coeliccia ryukyuensis ryukyuensis Asahina, 1951
これも産卵が見たかったトンボです.しかし結局見ることはできませんでした.交尾しているペアだけは見ることができましたので,成熟したメスの姿もやっと見ることができました.


▲リュウキュウルリモントンボのオスは見つけることができるようになった.▲

交尾は薄暗い樹陰の奥で行われていて,写真に撮るのも難しい場所でした.タンデムになってだらんとした状態を発見し,その後交尾に至りました.交尾の写真を見ていると,メスの産卵管の部分が異常に大きく見えます.図鑑によると落ち葉などに産卵するとありますが,相当硬い物にも産卵することが可能なように見えます.オオアオイトトンボのような雰囲気のある腹部先端です.


▲メスの産卵管の部分がすごく太くしっかりしているように見える.▲

成熟した単独メスを見かけることはできませんでした.しかし羽化直後と思われるメスを見ました.胸部に赤い線が見えているのが面白いです.アマミルリモントンボの羽化直後のメスにはこのような赤い線は見当たりませんでした.


▲リュウキュウルリモントンボの羽化直後のメス.▲

マサキルリモントンボ,アマミルリモントンボ,リュウキュウルリモントンボと,いずれも産卵を見ることができませんでした.なかなか手強いトンボたちです.

■ヤンバルトゲオトンボ Rhipidolestes shozoi Ishida, 2005
トゲオトンボがまだ生き残っていました.翅端が黒くないし顔面も赤くないのでヤンバルトゲオトンボだと思いますが,オキナワトゲオトンボの可能性もあります.ここはちょうど分布境界で両種が混生しているところだそうです.


▲比較的明るいところに止まっていた.背景が緑というのも珍しい.▲

■その他のトンボたち other odonates found in this Island.
第3節は川が中心のトンボ探索でした.最終日は池に行ってみたくて,アクセス可能なダム湖を訪れてみました.いろいろなトンボたちが見られました.まだ沖縄本島にはベニトンボが優勢な感じがしました.少し北になるだけでずいぶんと生物季節の進み方が違うように思えます.


▲ベニトンボがいるとなぜだかホッとする.▲

沖縄県ではヒメハネビロトンボを見ることが多いのですが,ハネビロトンボが単独で産卵しているのを見かけました.ただダム湖の上から見下ろした場所で,あまりはっきりとしません.


▲単独産卵をするハネビロトンボに,他のトンボたちがまとわりつく.▲

この池には,タイワンウチワヤンマやオオヤマトンボも活動をしていました.そしてオオキイロトンボも連結で飛び回り,産卵場所を探していました.水面に水草などが浮かぶところが好みのはずですので,そういうところで待ち続けますと,ワンチャンスありました.上から見下ろす構図なので,翅が全部見えて特徴がよく分かる写真になりました.


▲オオキイロトンボの打水後の上昇.▲

最終日,最後に見たトンボはオオハラビロトンボのメスでした.この旅行,最初に出会ったのがホテルの駐車場でのオオハラビロトンボのメス.なんか因縁めいたものを感じますね.


▲木陰で休むオオハラビロトンボのメス.▲

ということで,往き帰りおよび途中移動の移動日を含めて13日間の旅行は終わりを告げました.写真は5000枚ぐらい撮ったような気がします.またどこかへ行こうと考えています.今年は兵庫県以外のトンボ情報が多くなりそうな年です.

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No. 971. 沖縄県のトンボたち 2.2024.6.26.

沖縄県のトンボ観察旅行の第2節です.島を移動し,第1節では見られなかったトンボたちを中心に,観察を行いました.6月20,21日の2日間だけでしたが,梅雨明けが宣言され,第1節に比べると青空が戻ってきたようです.また夏至でもあります.そんな第1日目,まだ前日の雨のあとが道路の水たまりとなって残っている状態でした.でもその水たまりに,ヒメトンボ,ハラボソトンボなどが集まっているのが不思議でした.一時的水域というのも彼らにとっては興味の対象なのでしょうね.

■オオキイロトンボ Hydrobasileus croceus (Brauer, 1867)
さて,第2節の一番のねらいは,オオキイロトンボです.このトンボはそれほど珍しい種ではなく,いるところへ行けば普通に見られる種類です.ただ,よく似たハネビロトンボが好きな私には,魅力的なトンボです.


▲タンデムで飛行するオオキイロトンボ.▲

朝現地に着くと,もはやオオキイロトンボがタンデムで飛んでいました.オオキイロトンボのメスはタンデムになっているときに,脚でオスの腹部にしがみついているのが面白いです.このトンボは飛び方が速く急旋回したりもするので,振り回されるメスは首が折れないようにこのような姿勢をとっているのかもしれません.


▲池を飛び回るオオキイロトンボのペア.▲

オオキイロトンボはタンデムで良く飛び回るのですが,なかなか産卵の行動を行いません.またすぐに池から飛び出し,どこかを周回してから,また池に戻ってくるような動きをします.それでも時間が10時を過ぎたあたりになると,ときどき連結で打水する動きを見せるようになりました.この瞬間は飛行スピードが落ちるのでシャッターチャンスなのですが,その前兆が分かりませんのでなかなか難しい.

そんなとき遠くの方で,オスがメスを放し,メスが水面上でホバリングする動きが見られました.遠すぎてちょっと写真にはきつかったですが,行動が分かるほどには撮れました.


▲オスがメスを放し,メスは水面のすぐ上でホバリングを始めた.▲

このメスの動きが面白いのです.「動き」と書きましたが,実は「動かない」のです.他のオスが来てちょっかいをかけようが,何しようが,同じ一点でじっとホバリングしているのです.多分卵塊をつくっているのではないでしょうか.


▲他のオスがちょっかいをかけに来て動かず...▲


▲交尾オスが近づいてきても動かず...▲

別のカットでは,腹端に薄緑色の卵塊らしきものが見えました.ですから多分この状態で卵塊を形成していると思ったわけですが,その証拠写真は撮れませんでした.


▲卵塊だと思われるものを腹端に付けて飛ぶメス.▲

■アカスジベッコウトンボ Neurothemis ramburii ramburii (Brauer, 1866)
このトンボは本当に八重山地方では増加していることが実感されます.ここでもあちこちに止まっていて活動をしていました.ここではメスを紹介しておきましょう.まずは産卵に入って来たメスです.


▲産卵にやって来たメスのアカスジベッコウトンボ.打水産卵である.▲

水面に浮遊物のあるようなところで打水産卵をしています.湿地や浅い水域によく見られるので,池でもこのような水中が見えないようなところを好むのかもしれません.

一方で,メスは普段は池から離れたところにいるようです.山道を登っていく途中にメスたちが止まっていました.こちらはまだやや未熟な感じはします.結構分散する性質があるようです.


▲近くに池がないような山道で過ごすやや未熟なメスたち.▲

コフキショウジョウトンボでも負けそうなくらい闘争にも強いし,分散力があって分布を広げる力もあるようです.今後沖縄県のトンボ集団を変える力があるようなトンボです.

■ヒメトンボ Diplacodes trivialis (Rambur, 1842)
ヒメトンボの産卵を見たいとずっと思いながら,ヒメトンボの動きに注意していました.やっとのことで叶いました.アカスジベッコウトンボが産卵した場所と全く同じ場所にヒメトンボのメスが入り,打水産卵を行いました.オスがそばにいて警護していました.


▲ヒメトンボの打水産卵.▲

ちっちゃなトンボですが,動きはかくっかくっとした感じで,きびきびしています.

■タイリクショウジョウトンボ Crocothemis servilia servilia (Drury, 1770)
4月下旬に来たときには,この場所でもっとも数が多かったのはベニトンボでした.でも6月下旬の今回,ベニトンボに変わってタイリクショウジョウトンボが優先的な種になっていました.南国でもやはりトンボが移り変わっていくのですね.


▲タイリクショウジョウトンボのオスと浮葉の上に産卵するメス.▲

■ベニトンボ Trithemis aurora (Burmeister, 1839)
ベニトンボは姿を消したわけではありません.池よりむしろ川に入っていました.ただ数は多くはありませんでした.ベニトンボは春に1回目の出現ピークがあり,また後に2回目のピークがあるのかもしれません.奈良県などの観察ではそのようにいわれています.


▲流れに入って活動しているベニトンボ.▲


▲朝に同じ場所を訪れると,オスメスとも草むらの中に止まっていた.▲

■コシブトトンボ Acisoma panorpoides panorpoides Rambur, 1842
ベニトンボと一緒にコシブトトンボも草むらの中に潜って朝を迎えていました.


▲コシブトトンボは生殖活動をまだ見ていない.▲

■タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax (Hagen in Selys, 1854)
春にはほとんど姿を見なかったタイワンウチワヤンマも,数が増えて,池での活動が盛んに行われていました.メスも産卵に入って来ましたが,止まったあと,1回打水して飛び去りました.この場所も,先のアカスジベッコウトンボやヒメトンボの産卵場所と同じです.水面に植物が密に浮かんでいる場所というのは,さまざまの打水産卵をするトンボにとって,産卵基質として重要な役割を果たしているようです.


▲棒の先に止まるのでなく池岸のコンクリートに止まってなわばりを張っている.▲


▲産卵にやって来たタイワンウチワヤンマのメス.交尾後に静止.▲

このコンクリートに止まるオス君は,私がオオキイロトンボをねらっているときにずっと一緒にいたヤツで,仲間といったところでしょうか.メスは黄斑がちょっとこちらのより大きい気がします.

■ハラボソトンボ Orthetrum sabina sabina (Drury, 1770)
ハラボソトンボは,やはり池よりは水田地帯に多いトンボです.カンカン照りの日中に日向で活動しているトンボです.珍しくメスも混じって止まっていました.


▲ハラボソトンボのオス(上)とメス(下).14時頃の暑さも平気なようだ.▲

■コナカハグロトンボ Euphaea yayeyamana Oguma, 1913
流れには相変わらずコナカハグロトンボがいます.昔のような大群が群れているところには出会いませんでしたが,どこにでも,流水があればいるといった感じでした.ここではメスばかりを出しておきます.翅が真っ黒です.


▲およそ流れがあれば必ずいるコナカハグロトンボのメスたち.▲

■ヒメホソサナエ Leptogomphus yayeyamensis Oguma, 1926
コナカハグロトンボを見て,チビカワトンボがまだ残っているかもしれないと思い,山に登って上流を目指しました.しかし,もう時期が遅かったのか,登る標高がまだ足りなかったのか,見つけることはできませんでした.そのかわり,ヒメホソサナエが3頭ほど流れにいました.ところが,これが全部メスなのです.産卵しているわけでもありません.普通流れにいるとすればオスの可能性が高いと思うのですが,全部メスとは,...このトンボ,どういった生活をしているのでしょうか.前にも言ったように思いますが,不思議なトンボです.


▲こんな感じで,何もせず流れの畔に止まっているヒメホソサナエのメス.▲


▲流れで,何もしないメスばかりに出会う,不思議なトンボだ.▲

といった感じで,第2節は,普通種ばかりになりました.ヒナヤマトンボも探索に挑戦しましたが,水量がまだ多く,ちょっと飛ぶ気配がありませんでした.時間が遅かったせいかもしれません.それでも中心のねらいはオオキイロトンボでしたから,まあ,目標は達成した感じです.あと,オキナワチョウトンボ,ウスバキトンボ,オオヤマトンボ,ヒメハネビロトンボ,コフキショウジョウトンボなども飛んでいました.リュウキュウベニイトトンボはちょっと立ち寄った公園で見つけています.

普通種とはいえ,多様なトンボたちがそこそこの数集まって飛んでいる.やはりこれが自然の姿ですね.昔子供の頃,夏休みに昆虫採集に行ったときのような気分を味わいました.日差しも夏の日差しですしね.

次は第3節です.最後なので少し気合いが入っています.

カテゴリー: エッセイ, 県外のトンボ | No. 971. 沖縄県のトンボたち 2.2024.6.26. はコメントを受け付けていません