No. 849. 夏至.2022.6.21.

今日は夏至の日です.夏至といえば一年で一番太陽が出ている時間が長い日ということで有名です.確かにその通りですが,私はトンボ,特に生活史の季節的制御,に興味がある者として,まったく別の印象を持っています.夏至というのは不思議な力を持っているように感じるのです.

日本のトンボのおそらく全部は,この夏至の日までに羽化が始まってしまうか,または幼虫が羽化を運命づけられています.春季種のように早春に羽化したトンボの幼虫は,逆にその後の羽化が抑制されます.以下これらをまとめて「(夏至までに)羽化が運命づけられている」と表現することにします.

ヤンマやエゾトンボなど夏によく見かけるトンボもだいたいこの時期には羽化が運命づけられています.秋に現れるアカトンボやアオイトトンボの仲間も羽化が運命づけられていて,その後は生殖休眠に入るという生活史を営みます.カトリヤンマ,マダラヤンマ,キトンボなど,一部の遅く羽化するトンボは,通常この時期を終齢幼虫で過ごしていますが,これらの終齢幼虫は,やはりその年に羽化することが運命づけられています.

これから外れるかもしれないものの一つが,年に二化以上する種です.ただしそれらの一化目はまず間違いなく夏至までに羽化します.ただ二化目は,夏至の後産卵された卵から発生した個体が,かなり遅い時期に羽化してくる場合もあるかもしれないので,夏至とは関係がない生活史を送っているといえるかもしれません.ただ年二化するトンボは,多くが南方に分布中心を持つトンボで,厳密な生活史の季節的制御を行わなくても生存に大きな問題が生じない種であるようです.

もう一つは成虫越冬性のトンボです.オツネントンボやホソミイトトンボの夏世代は6月終わり頃に羽化してきますが,ホソミオツネントンボやホソミイトトンボの冬世代は夏の終わりから秋にかけての羽化になるようです.

話を整理しますと,成虫越冬性の種を除く,日本に産する一年一化,多年一化の種,そして一年多化の種の一化目は,全部が夏至までに羽化が運命づけられている,ということです.「そんなの,6月は春に暖かくなって十分時間が経っているので,温度が高くなっていて羽化して当たり前」,という考え方もできるでしょう.有効積算温度の法則というよく知られたしくみからもこれは妥当な考え方です.

でもヤマサナエやタベサナエなどの春季種は,この時期すでに終齢幼虫になっていたりしますが,(おそらく)長日休眠によって来春まで羽化が延期されます.逆にアカトンボやアオイトトンボなどは,盛夏に生殖休眠するなどという難しい生活史を枠組みを身につけてまで,夏至前後に羽化が運命づけられています.これらは休眠によって有効積算温度の法則をキャンセルしています.有効積算温度の法則に則って生活史を営んでいるトンボは,夏季種とおそらく南方に分布中心を持つ一年多化のトンボたちでしょう.

トンボは熱帯で誕生し,高緯度地方へ分布が広がっていったと考えられています.高緯度地方は冬が厳しく,冬をどう乗り切るかということが重要な生存戦略となります.一方で季節を知る環境合図として日長を使うということは,広く生物界で知られている事実です.気温等の実際の気象現象は,天体の運動より遅れて地上に現れてきます.7~8月の気温が一番高いというのはそのよい例です.つまり最大日長の夏至というのを生活史の基準として使えば,その後しばらくは(成虫にとって活動しにくい)気温が低くなる季節の到来がないことが保証されます.

ただ,この枠組みでものが言えないのが,あえて成虫で冬に突入する,成虫越冬性のトンボたちです.考えてみれば,成虫で冬の到来を待つ必要があるので,当然といえば当然でしょう.

トンボたちは自然選択の試行錯誤の中で,この夏至の日を利用することが繁殖成功率を高めるもっとも安定した基準になることを見いだし,夏至に羽化を運命づけるという進化を成し遂げたのではないかと考えています.

夏至というのは,トンボにとって,重要な季節のターニングポイントです.トンボ観察を続けている私にとっても,夏至は一年の観察の折り返し点になっています.以後は,新しく出現するトンボに出会うのではなく,すでに出ているトンボを見つけるモードになるからです.

参考:もっとも多くのトンボに出会える6月

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No. 848. ヒロシマサナエ.2022.6.20.

この土日はよく晴れましたが,外出していてトンボ観察にはいけませんでした.その代わりといっては何ですが,外出の帰途広島県に寄って,ヒロシマサナエを見に行ってきました.この時期はもうヒロシマサナエも終わりに近い時期ではないかと思います.ただわざわざ神戸から見に出かけるというのも少し躊躇するトンボなので,ついでに見に行くのが経済的で一番です.天気が危うかったのですがかろうじて持ちました.

現地の湿原に着いたのが10:00ごろ.そのあと2時間ぐらいかけて探し回りました.初めのうちは全く見つからず,やはり時期的に遅かったかなどと思ってしまいました.1時間以上探し回って,やっと集まっているところに出くわしました.まず見つけたのがメスでした.湿原の木道の際に止まっていました.全部で3頭見つけました.水の流れのあるところから離れていますし集まっていますので,一種のねぐら的な場所なのでしょう.こういうポイントを見つけられるかどうかが,発見成功の鍵になるようです.


▲木道を歩いていて最初に発見したメスの最初のショット.▲


▲少しずつ移動してパフォーマンスを見せてくれる.▲

ついでとはいえ,とにかく遠く離れたところにやってきているので,いろいろな角度から写真を撮りました.経験から,だいたい1頭いるとかたまっていることからまわりを探すと,すぐに2頭目が見つかりました.


▲腹部横の淡色斑の違いから,別個体であることが分かる.▲


▲これも腹部横の淡色斑の違いから別個体だと分かる.▲

メスを見つけたので,次はオスを探しに行きました.実はこの少し前に,湿地の細流のところで1頭のサナエトンボが樹上に飛び立ったのを見ていたので,オスは流れのそばでメスを待っている可能性が高いと判断し,その場所で少し待ちました.しかしオスは現れず,もう諦めて帰り道に着きましたら,明るい広場のようなところにオスが休んでいました.空が大分曇ってきましたので,こういう明るいところに集まっていたのかもしれません.


▲散策路の際に止まっていたヒロシマサナエのオス.▲


▲写真を撮ると,うっとしいのか,ちょっとずつ移動して止まり場所を変える.▲

写真を撮っていると,妻が少し先のところでもう1頭のオスを見つけました.オスも集まっているんですね.ただ,オスとメスは別の場所に集まっているところが面白いです.近縁のヒラサナエは,ほとんど隣り同士になるくらい一緒に過ごしています.ただ,ここの生息地はやたら広いので,狭い生息場所のヒラサナエとは行動が違うのかもしれません.


▲2頭目のオス.翅が破れているので,別個体だと分かる.▲

ヒロシマサナエとヒラサナエはとてもよく似ています.淡色斑がヒラサナエに比べて小さいせいで,若干ヒロシマサナエの方が黒っぽい感じが強いです.オスの場合は,尾部付属器の形が違います.メスは産卵弁を見るようですが,これは写真には撮れませんので,顔のアップを載せておきます.


▲ヒロシマサナエとヒラサナエのオスの尾部付属器の形態の相違.▲


▲尾部上付属器はヒロシマサナエの方がより上部に反り,淡色斑はより小さい.▲


▲ヒロシマサナエのメスの頭部と胸部.▲

今日は朝のうちは日が射していたのですがすぐに曇り空になり,トンボの活動も不活発で,繁殖活動は見られませんでした.

その他のトンボとしては,アサヒナカワトンボのオスで,橙色翅型で不透明斑のあるタイプが活動していました.これは兵庫県では見られないタイプです.


▲不透明斑のある橙色翅型のアサヒナカワトンボのオス.▲

こういう個体をみると,兵庫県ではすぐにニホンカワトンボとしてしまいそうです.そこで,兵庫県のニホンカワトンボと並べて比べてみました.写真だけ見ると,絶望的なほどよく似ています.ただアサヒナカワトンボの方が翅脈が粗く感じられますので,前翅の基部から結節までの,前縁脈と亜前縁脈の間の横脈数(結節前横脈)を数えてみますと(写真からはそこしか数えられないので),ニホンカワトンボでは29本,ここのアサヒナカワトンボでは22本と,後者の方が少ないことが分かります.ただ,この翅脈の粗さの違いは,全日本的には成立しない個体群もいるという報告を受けていますので確実なものではありません.しかし,各地で出されている図鑑の写真で調べてもかなりよく成立しているように見えますので,いちおう参考として掲げておきます.


▲ニホンカワトンボとアサヒナカワトンボの橙色不透明斑オス.横脈数の違い.▲

なお透明翅型のオスもいて,橙色翅のオスがそれを追いかけ回していました.ちなみにこの個体の,前翅の前縁脈と亜前縁脈の間の基部から結節までの横脈数も22本です.


▲透明翅型のオス.腹部の白粉が基部と先端部にしか出ないタイプ.▲

あとはシオヤトンボがいただけで,静かな湿原でした.


▲シオヤトンボのオス.▲

観光を兼ねた観察で,2時間ほどの散策でした.

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No. 847. イトトンボたちの活動.2022.6.12.

今日は,ムスジイトトンボの日周活動をちょっと気合いを入れて調査しました.これについては別途まとめたいと考えています.ここでは,その他のイトトンボたちの活動と,ムスジイトトンボのメスを記録しておくことにします.ムスジイトトンボのメスは,他のイトトンボのメスにはないエキゾチックな色彩をしており,私の好みだからです.まずはアオモンイトトンボからです.


▲8:54.午前はアオモンイトトンボの交尾の時間だ.▲

最近はアオモンイトトンボの観察にも場所を選ぶ必要が出てくるくらい,たくさんいるところが減ってきました.この池はアプローチがしやすく,写真撮影には向いています.上の写真のオスは水色をしていますが,別の若いオスは薄緑色をしています.周辺の草地にはこの色をしたオスが,摂食などの活動していました.メスの体色変化についてはよく語られますが,オスの違いについてはあまり語られないようです.この薄緑と水色は,多型現象なのでしょうか,それとも成熟による変化なのでしょうか.


▲胸部の淡色部が薄緑色をしているやや若いアオモンイトトンボのオス.▲

アオモンイトトンボの産卵時刻は午後です.午後になると単独で産卵する姿が見られますが,オスが近づくと腹部を下に曲げ,交尾拒否をします.今日はオスと同色型のメスも産卵していました.そういえば,この同色型のメスにも,写真のような水色タイプと薄緑のタイプがあります.

▲アオモンイトトンボ同色型メスの産卵.▲


▲普通のアオモンイトトンボのメスの産卵.▲

近くでアジアイトトンボも産卵をしていました.アジアイトトンボとアオモンイトトンボのメスは非常によく似ていて,いつも同定に迷ってしまいます.特にこの時期のアジアイトトンボは前肩あたりにオレンジの筋が出るのでアオモンイトトンボとそっくりです.夏頃の個体ではこのオレンジの筋はあまりはっきりしません.慎重に同定する必要がありますね.


▲アジアイトトンボの産卵.この2枚は同じ個体である.▲

次はクロイトトンボです.クロイトトンボも最近は減少傾向が見られます.でもたいがい他のクロイトトンボ属と一緒に見られるので,どうしてもそちらに気をとられ,観察がおろそかになります.この池はどちらかといえば平地池なので,クロイトトンボは数が少なく,産卵活動を見ることはありませんでした.


▲クロイトトンボの交尾.他のオスがやたらと干渉している.▲


▲このカップル,交尾がうまくいかないようで,すぐに外れてしまう.▲


▲ムスジイトトンボの移精行動にも干渉するクロイトトンボのオス.▲

最後は主役のムスジイトトンボのメスたちです.今日のムスジイトトンボのメスは,すべて成熟した色彩をしていました.ここの個体群全体が一つの成熟期を迎えているようなかんじです.ただ,今日羽化している個体も見ました.


▲羽化直後のテネラルなムスジイトトンボのメス.▲

過去3回の観察に比べて,今日は草むらでくつろぐメスが多く目につきました.草の緑の中にオレンジの胸部とコバルト色の腹部のコントラストが,やはり他のトンボには見られない色調をしています.


▲草むらで憩うムスジイトトンボの成熟メスたち.▲

池面では,やはり数多くいる他のオスにすぐに見つかってしまうようで,大概がタンデムか交尾態です.ここの生息地ではほとんど例外なく潜水産卵するので,産卵中のペアには滅多にお目にかかれません.


▲交尾中のメスは腹部の腹面が上を向くので,コバルト色がよく目立つ.▲

池の中ではあまり単独メスには出会いませんが,潜水産卵を終えた後のような,若干翅が曇って疲れたような様子のメスを見ました.


▲池の中で見た,珍しく単独でいるムスジイトトンボのメス.潜水産卵の後か?.▲

潜水産卵は遠くの方で1ペアを発見しました.またかわいそうにアメンボにやられたオスを見ました.写真にはなりませんでしたが,ウチワヤンマやギンヤンマもムスジイトトンボを狩っているようです.


▲ヒルムシロ類の葉柄に産卵しつつ潜水するムスジイトトンボ.矢印は水面下のメス.▲


▲止まっているときにやられたのだろうか,アメンボの餌食になったオス.▲


今日はイトトンボばかりの登場でした.最後にその他のトンボの記録をしておきます.今日はコフキトンボの産卵を見ました.そしてウチワヤンマの羽化殻がいっぱい付いていました.


▲ムスジイトトンボの羽化殻と,コフキトンボの成熟オス.▲


▲コフキトンボの産卵.やはり水面下の茎に卵を貼り付けている.▲


▲久しぶりにウチワヤンマの羽化殻の「群れ」に出会った.▲

というところで,今日は終わりです.

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No. 846. キイロサナエを見に行った.2022.6.10.

春のトンボが終わって,初夏のトンボに移行しています.川では,アオハダトンボ,グンバイトンボ,コヤマトンボ,キイロサナエなどがこの時期のトンボです.前二者はこの間見に行きましたので,今日は後半の二者がねらいというところです.

▲日向に止まるキイロサナエのオス.▲

いつもは細い溝川によく止まっているのですが,今日は,オスたちは川の本流を飛び回っていました.ここはいつもホンサナエを見に来るところです.ですから撮影場所がホンサナエとかぶります.


▲いつもホンサナエが止まっているところにキイロサナエが止まって活動している.▲

ここで待ってもいいのですが,川幅が広いので,もしメスが来てもちょっと手に負えそうにありませんので,場所を変えることにしました.移動する前に,モートンイトトンボとハラビロトンボを見に行きました.


▲モートンイトトンボはたくさん発生していた.▲

モートンイトトンボのいる休耕湿地には今年は水がたくさんたまっていて,そのせいか,モートンイトトンボは非常に多く発生していました.ただ,もう9時を回っているためでしょうか,交尾態のものは全く見つけられませんでした.


▲ハラビロトンボもいろいろな成熟段階のものが混じって飛んでいた.▲

ハラビロトンボは渇水にもよく耐えるトンボで,逆に水が多いからといっていつもより多いというわけでもなく,いつも通りたくさん飛んでいました.様々の成熟段階の個体が入り交じって飛んでいるので,まるで展示会みたいです.ここにはヤマサナエもいました.


▲まだヤマサナエも活動をしている.▲

キイロサナエのいたところのすぐそばに,まだホンサナエが生き残っていました.メスです.結構遅くまで頑張っているんですね.


▲ホンサナエのメス.暑い地面の上でぐったりしているみたいだ.▲

さて,場所を移動しました.少し細い流れのところでキイロサナエを探すことにしました.ヤマサナエがあちこちに止まっていて,キイロサナエはまだ少ないように思えます.


▲細い流れの部分には,まだあちこちにヤマサナエが止まっている.▲

流れに降りたとき,足下からメスが飛び立ちました.キイロサナエかヤマサナエか分かりませんが,すぐにそばにいたオスがそれに気づき,あっという間に交尾態になって,山の方に飛んでいきました.やられましたね.このメスは一回打水したので,オスがいなければ産卵を観察できたのに残念です.

まあ,気にしても仕方ないのでもう少し上流の方に行きました.するとコヤマトンボが流れの上を行ったり来たりして飛んでいます.これを狙うことにしました.何百枚もシャッターを切りましたが,今日は成功率が低く,おそらく0.5%程度でした.


▲どういうわけか,右から左へ移動するときしか成功しない.▲

このコヤマトンボとは1時間近く格闘をしました.でもこれがキイロサナエを待つのにちょうどよかったみたいです.ふと足下を見るとキイロサナエのメスが止まっていました.これ,コヤマトンボに夢中になっているときに産卵していたのかもしれません.写真を数枚撮ったら飛び去ってしまいました.


▲キイロサナエのメスが流れの縁に止まっているのを見つけた.▲

これでは主客転倒です.これ以後は常に足下にも気を配りながら,コヤマトンボを見ていました.するとやってきましたキイロサナエのメスが.止まって卵塊を作っています.

▲産卵にやってきたキイロサナエのメス.▲

先とほとんど同じところにやってきました.ここ,産卵ポイントなのかもしれませんね.今回はコヤマトンボは無視して,キイロサナエの産卵を記録することにしました.卵塊を作ると岸に沿って往復するように流れの上をものすごく素早く飛んで打水します.この打水の瞬間は,全く手が出ません.


▲かろうじて写っていた,飛んでいるところ.▲

飛んでは止まり飛んでは止まりを繰り返しています.結局止まったときしか記録にとることができませんでした.


▲こんな感じで,止まったところばかりになった.▲

このメスは静止して卵塊形成を行い,打水するという形式の産卵でした.今回はオスに邪魔されず,飛び去るまで観察を続けることができました.オスは実は近くにいたのです.また,ヤマサナエのオスも近くにいました.どちらも気づかずラッキーでした.


▲数メートル離れたところにいたキイロサナエのオス.▲


▲やはり数メートル離れたところに止まっていたヤマサナエのオス.▲


▲このオスは近づくと例によって飛び立ちホバリングをした.▲

この時期はいろいろなトンボが見られるので,あとは,それらとの出会いを楽しみに,ぶらぶらしました.シオヤトンボが生き残っていました.老熟したシオヤトンボのオスです.メスを追って産卵させようとしているものもいました.まだまだ頑張っているようです.


▲老熟したシオヤトンボのオス.▲

オオイトトンボのメスが単独で飛んでいました.付近にオスが少ないためこんなことになるのでしょうか? モノサシトンボが羽化していました.キイトトンボも羽化していました.キイトトンボの方は,もう産卵している個体もいました.これらを見ているときに,オオヤマトンボが産卵に入りました.残念ながら一往復しただけでしたが,1枚だけピントが来ました.


▲オオイトトンボのメス.▲


▲羽化直後のモノサシトンボ.▲


▲オオヤマトンボのメス.産卵にやってきた.▲


▲キイトトンボの未熟個体.これは最初の休耕湿地にて.▲

キイトトンボは2ペアが産卵していました.私が近づくと逃げるのですが,産卵している個体の近くが安心するのでしょうか,すぐに戻ってきて近くに止まって産卵しようとします.産卵ペアは別の産卵ペアに対する誘引効果があるようです.


▲キイトトンボの産卵.もう夏が来たみたいに気分になる.▲

今日の最後を飾るのにふさわしいのは,ハッチョウトンボです.最後にハッチョウトンボを見に行きました.まだ個体数はあまり多くありませんでしたし,どういうわけかメスが見つかりませんでした.


▲ハッチョウトンボのオス.今日はマクロレンズで撮ってみた.▲

今日はたくさんのトンボに会いました.写真に撮れ(ら)なかったものとしては,コフキトンボ,シオカラトンボ,ショウジョウトンボ,クロイトトンボ,ヨツボシトンボ,ニホンカワトンボなどがいました.そうそう,最後の最後,トンボの自然死というのはあまりお目にかかれませんが,今日はクロスジギンヤンマが死んでいるのを見ました.こういうのは大概アリなどがやってきて体をバラバラにして持って行くのですが,これは宙ぶらりんの状態なので,アリの気づきが遅かったのかも知れません.


▲クロスジギンヤンマの自然死.翅が破れているが鳥にでも襲われたか...▲

ということで今日はここまでです.

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No. 845. ウチワヤンマ繁殖活動始まる.2022.6.8.

最近ウチワヤンマの活動時期が早くなりました.このことは,タイワンウチワヤンマの記事の中で,データとともに示しています.今日はまだ早いかなと思いつつ,ウチワヤンマとコフキトンボを見に行きました.コフキトンボは今年は非常に数が少なかったですが,ウチワヤンマはもはや5,6頭のオスが,岸辺でメスを待っていました.


▲岸近くを時々飛んでパトロールするウチワヤンマのオス.▲


▲そして,岸辺の茎の先端に静止する.▲


▲これは少し離れたところに止まっている別のオス.▲

今日は,コフキトンボもコシアキトンボも数が少なく,池で飛んでいるのはウチワヤンマとオオヤマトンボという大型のトンボばかりという感じです.ウチワヤンマが止まっている前を時々オオヤマトンボが横切ります.すると必ずウチワヤンマは飛び立って,オオヤマトンボをちょっとだけ追尾します.


▲オオヤマトンボが横切ると,...▲


▲オオヤマトンボをちょっとだけ追尾するが,今回は隣のウチワヤンマも反応した.▲

たまたま写真を撮ろうとしたときには,隣のウチワヤンマもオオヤマトンボに反応し,飛び立ちました.すると,オオヤマトンボより,同種のウチワヤンマオスの方に闘争心がより強くわくのか,ウチワヤンマ同士のバトルが始まりました.尾部付属器を上に反らし,ウチワ部分を精一杯広げて,足も広げて今にもつかみかかりそうです.


▲にらみ合いが始まった.▲


▲にらみ合いは岸から離れても続いていく.▲

こんな感じでオスと戯れていました.すると,すぐ真下にウチワヤンマが止まりました.よく見ると,メスです.羽を小刻みに震わせて止まっています.まるでホンサナエが卵塊を作るときみたいな感じです.これは産卵するな,と直感しました.時刻は9:06です.結構早いかな.


▲メスが産卵に入ってきた.まずは岸辺で静止して何かをしているように見える.▲

通常産卵するメスは,オスと連結し交尾態になった状態で飛来し,産卵ポイントでオスに放されてから,オスの警護を受けながらその場で産卵を行います.今回のようにメスが単独で水域に入り,産卵を始めるのを見るのは初めてです.まだ繁殖活動期間のはじめの方なので,成熟オスの個体数が少ないためにオスに見つからず,池に入れたのかもしれません.少し待つと,ちょっと離れた「よく目立つ」ところで産卵を始めました.

▲岸から少し離れたとてもよく目立つところで産卵を始めた.▲

よく見ると,茎がちょっとだけ水面につき出ているあたりを腹端でたたいているようです.3枚目の写真ではその部分から糸を引いているのがわかります.

こんな目立つところで産卵すると,オスが見逃すはずがありません.少しすると,メスが産卵をやめて飛び立ちました.オスが来たのです.オスはものすごいスピードでメスを追いかけましたが,うまく捕捉できたのでしょうか?


▲調子よく産卵を続けていたが,...▲


▲突然メスが逃げ出したかと思ったら,...▲


▲オスがきっちりとやってきた.▲

さて,少し雲が多くなってきました.今日の天気は不安定だということです.たくさんの積雲が連なっていて,太陽が雲に遮られることが多くなってきました.などと,雲を見ていたので,オオヤマトンボが産卵に来たのに気づくのが遅れ,見つけたときにはもう終わっていて,チャンスを逃してしまいました.やはり集中しておかないといけません.そこで立ち上がって,周りをしっかりと見渡すようにしました.

10:16,少し先の方で,交尾態のウチワヤンマが,枯れ枝が浮かぶ水面ギリギリのところでホバリングしているのを見つけました.これは産卵を始めるサインです.脱兎のごとく駆け出し,ぎりぎり交尾を解くのに間に合いました.


▲産卵ポイントを決め,そのすぐ上でホバリングした後,メスを放す.▲


▲このメスはかなり長い間産卵をしていた.後半日が射したときのショット.▲

空は曇っていて,高速シャッターではISO感度が上がり,若干発色が悪くなります.しかしこのメスかなり長い間産卵を続けていました.気がつくと約4分,360回以上シャッターを切っていました.それでもまだやっています.おかげで後半は少し日が射した状態で撮れました.そこで,カメラをビデオモードにして,残りはビデオで記録しました.それでも1分以上は続いていました.つまり産卵は5分以上行われたことになります.


▲オスはほとんど最後までやや上空を停止飛翔して警護を行った.▲

▲続きはビデオでどうぞ.▲

ということで雲も多くなってきましたので,ここまでとして,あと,アオヤンマの探索に行くことにしました.そうそう,コフキトンボの写真を撮り忘れていましたが,コシアキトンボはきちんと撮っておきました.


▲コシアキトンボも飛び始めていた.▲

アオヤンマの探索ですが,最後の最後に立ち寄った池で,アオヤンマを見つけました.この池は古い池で,本当に25年ぶりぐらいにやってきました.入ることができないくらい荒れていて,外から眺めるだけでしたが,目の前をアオヤンマが飛びました.その後も数回顔を見せ,少なくとも数頭はいることは間違いありません.


▲午後3:00ごろになり,上空を飛び始めたアオヤンマ.▲

証拠写真だけでもと思いましたが,こんな写真しか撮れませんでした.腹部の太さからアオヤンマと見えるでしょうか? これで,兵庫県で,少なくとも2カ所生息地があることになりました.何が,といって,これが一番嬉しかったです.

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