No. 874. ミヤマサナエには出会えない.2022.9.4.

今はトンボの端境期.最近は気温上昇の影響か,夏のトンボが姿を消すのがちょっと早まった感じがします.それで,アカトンボが本格的に出てくるまでの間,新しいトンボの姿が見られない時期が,この8月末から9月上旬にかけて続くのです.この時期に陽の当たる場所で姿が普通に見られるのは,いわゆる通季種と私が名付けている,多化性で春早くから秋まで見られる普通種です.

夏のトンボで比較的遅くまで残っているのは,ハグロトンボ,オナガサナエ,ミヤマサナエ,タイワンウチワヤンマなどです.今日は,ミヤマサナエがいないかと,兵庫県北部へ行ってきました.しかし川にはほとんどトンボがいず,いたのは,池に寄ったときに見た通季種ばかりでした.兵庫県のミヤマサナエは,羽化時期を除けば,本当に難しい.


▲兵庫県北部ではタイワンウチワヤンマがいないせいか,まだウチワヤンマがいる.▲


▲ショウジョウトンボは春早くからずっと姿を見せるトンボになった.▲


▲通季種の代表,ギンヤンマが池の中ほどで産卵していた.▲

まだまだ暑い日が続いています.今の時期には,夏の生き残りのトンボや秋のトンボは林の中に見に行かないと出会えないのかもしれません.日向はまだ夏でした.

カテゴリー: 兵庫県のトンボ, 観察記 | No. 874. ミヤマサナエには出会えない.2022.9.4. はコメントを受け付けていません

No. 873. ウスバキトンボのマーキング調査.2022.9.3.

今,ウスバキトンボの国内での移動を調べるための,マーキング調査が行われているのをご存じでしょうか? NHKの番組「ダーウィンが来た!」で,ウスバキトンボを扱った番組が制作される予定で,その移動状況を,一般市民の力を借りてマーキング調査しようというものです.

ウスバキトンボは,太平洋を飛行して移動することで知られており,長距離移住者の代表的なトンボです.日本には,毎年春以降にやってきて数を増やし,どんどん北の方に広がっていきますが,日本では通常越冬できず,やがて死滅していくという,一見変わった生活を営んでいるトンボです.この日本国内での移動状況を調査しようというものです.

下記アドレスのWebページに,その協力案内が掲載されています.

★トンボ大調査 協力者募集します!★

こういったマーキング調査は,ウスバキトンボの移動範囲があまりにも広大なので,その成功が難しいとは思います.しかし,放送局が大勢の一般市民に募集をかけて実施しようとしているので,その再捕獲率が少しは上がる可能性があります.ご興味がある方は参加してみてください.

今の季節,9月上旬は,兵庫県あたりでは,ウスバキトンボは新しい個体がたくさん羽化して飛んでいる状況です.この時期にマーキングされた老熟個体を見つけるのは難しいかもしれませんが,逆にマーキングするにはチャンスです.あらゆる場所で,たくさんのウスバキトンボが群れて飛んでいます.

++++++++++

ところで,ウスバキトンボは,絶滅に向かって北へ移住をするという行動が私たち日本人の興味を引くからでしょうか,不思議なトンボとされています.しかし,絶滅して子孫を残すことができないような遺伝的行動形質が進化することはない,と言ってよいでしょう.進化は,その行動をとることによってより多くの子孫が生き残り,それゆえその行動がより多くの子孫に受け継がれ,やがて,その種全体がそのような行動をとることが一般的になる,といった過程を経て起きるものだからです.これが自然選択です.

ウスバキトンボがなぜこのような行動を進化させたかを知るためには,本来の生活場所やその環境を知る必要があります.本来の生活環境下で,この「絶対的移住(生活史に組み込まれた移住)」がより多くの子孫を残すのに有利であることを知る必要があるはずです.しかし,私の知る限りにおいて,この点について一般の方々に向けて解説した文章はほとんど見当たりません.もちろん専門書には,それなりの考え方が記されてはいます.そこで,当サイトで,その考え方を紹介することにしました.すでに公開してから数ヶ月が経っていますが,興味ある方は下記のページを参照してみてください.

神戸のトンボ:ウスバキトンボの話

この番組を通じて,ウスバキトンボの国内での状況が少しでも解明されることを期待しています.

カテゴリー: コラム | No. 873. ウスバキトンボのマーキング調査.2022.9.3. はコメントを受け付けていません

No. 872. ミルンヤンマ探し.2022.8.28.

まだアカトンボには少々早い感じですので,今日はミルンヤンマとミヤマサナエを探しに行きました.ミヤマサナエはロケハン的な探索で,もちろん?,見つかりませんでした.ミルンヤンマの方は,産卵に来ることはなく,オスが摂食飛翔をしていただけでした.暗い中で素早く飛んでいるので,置きピンでシャッターを切りまくりましたら,50枚ほどの内,1枚だけピントが来ていました.ただ,近すぎてストロボの最短距離内のようで,ちょっと明るい部分が飛んでしまいました.


▲ミルンヤンマオスの摂食飛翔.Uターンした瞬間である.▲

今日は川を探索したわけですが,川のそばの道路や水田に,オナガサナエがたくさんたむろしているのに出会いました.最初の場所では,メスばかりが見つかってオスはいませんでした.川に入ってもオスは全く姿がなく,メスは悠々と産卵したり水浴びをしたりしていました.オスがいない状態では,そこはメスの天国みたいな感じでした.なんか伸び伸びと活動しているんですね.なお,川ではハグロトンボがたくさん活動していました.


▲ハグロトンボはあちこちで活動をしていた.▲

止まっているメスは合計4頭見られました.これらのメスは近づいても一気に山の方に逃げるという行動は示さず,ちょっと飛んで止まり場所を変えるという動きでした.産卵には3回入ってきました.ただ,産卵行動は,いつものように一カ所でホバリングするという感じではなく,あちこち飛び回ることが多かったです.


▲アスファルト上や水田の電柵に止まったりしているオナガサナエのメス.▲


▲悠々と産卵するオナガサナエのメス.▲

もう一つの場所,ここはミルンヤンマを探しに入ったかなり上流域なのですが,やはりメスが複数いました.ここにはオスもいました.ただ,オスも川の石の上に止まってメスを待つといういつものパターンとは違い,ほとんどの個体は草地や水田や道路に止まっているのです.オスとメスがすれ違う場面でもオスはメスを捕らえようとはせず,繁殖活動をしていない感じに見えました.またこれらの個体は,近づいても山の方に逃げることもなく(といってもここは山の中なので,山の斜面の樹上にという意味),はじめの場所と同じく,ぐるっと飛んで止まり場所を少し変えるといった行動を示します.


▲川のそばの護岸やコンクリートに止まるオナガサナエのメス.▲


▲草地や岩場に止まるオナガサナエのオス.流れに近い場所ではある.▲


▲こういう角度で成熟オスの写真が撮れることは少ない.水田のネット支持棒.▲


▲道路上に止まるオナガサナエのオス.▲

ミルンヤンマのいるような上流にまでオナガサナエが入っていることにまず驚きます.ほとんどは写真のように流れから少し離れたところに止まっていましたが,1頭だけ流れに止まっている個体もありました.写真で見て分かるように,かなり上流部の様相でヒメサナエが止まっているような場所です.


▲上流部の流れの石に止まっているオナガサナエのオス.▲

このように,流れから少し離れたところにたくさんの個体が集まっているのを見るのは初めてです.二カ所目の上流部は,オスの止まり方や行動などから見て,ひょっとしたら彼らのねぐらなのかもしれません.でもはじめのメスばかりのところは水田で,この場所がねぐらとはとても思えません.一時休息といった感じに見えました.いずれにしても,オナガサナエの珍しい集合状態を見た気がします.

カテゴリー: 兵庫県のトンボ, 観察記 | No. 872. ミルンヤンマ探し.2022.8.28. はコメントを受け付けていません

No. 871. オオルリボシヤンマとタカネトンボ.2022.8.27.

連日の猛暑日も一段落し,時折秋の風を感じるようになりました.今日は秋の入り口に飛ぶトンボたち,オオルリボシヤンマとタカネトンボを見に行ってきました.先日出かけたときには両方とも全く姿を見せてくれませんでした.あれから一週間と一日.今日はどうでしょう.

観察地に入ったとき,空はどんより曇っていました.オオルリボシヤンマはこんな天気でも産卵にはやってきます.タカネトンボはちょっとどうかなという感じです.現地では全くオスが飛んでいません.オスはやはり晴れた日の方がよいようです.しかし,メスは3頭産卵にやってきていました.この場所,今年もオオルリボシヤンマは健在のようです.


▲産卵するオオルリボシヤンマ.▲

次に待つのはタカネトンボですが,オスさえ飛んできません.ちょっと不安を抱きながらオオルリボシヤンマと戯れていますと,オオルリボシヤンマのまわりを飛び回る小さなトンボが目に入りました.タカネトンボのメスです.見つけた場所では短時間産卵をしただけで姿を消しました.少しまわりを歩いてみますと,別の場所で産卵を続けていました.


▲行ったり来たりしているので,ファインダーにつかまえるだけで大変.▲


▲腹端に卵が出ているのが見える.▲


▲打水の瞬間.▲


▲暗くて,なかなかピントが来ない.▲

タカネトンボの産卵は,(1) 打水,(2) 岸と反対向きに定位,(3) 岸に向く,(4) 卵を含む水滴を岸に向かって飛ばす,(5) 急なUターン,ということを繰り返します.一連の動きを見てみましょう.


▲(1) まず打水する.打水したあとの水紋が見える.▲


▲(2) いったん,岸とは反対の向きに定位する.▲


▲(3) 向きを変えて岸の方に向かって定位する.▲


▲(4) 岸に向かって卵を含んだ水滴を飛ばす.▲


▲(5) 岸の手前で体をひねってUターンする.▲

いよいよ秋の入り口になりましたね.今年のトンボ観察で残されているのは,秋のトンボたちだけとなりました.アカトンボ類,アオイトトンボ類,そしてルリボシヤンマです.一年は速いですね.

カテゴリー: 神戸市のトンボ, 観察記 | No. 871. オオルリボシヤンマとタカネトンボ.2022.8.27. はコメントを受け付けていません

No. 870. 近場まわりでタイワンウチワなど.2022.8.19.

今日は,近場を回って,この時期のトンボの状況を見に行きました.8月後半というのは,そのときが最盛期というトンボが意外と少ないのです.夏のヤンマなどはそろそろ終盤の時期に入ります.といってもまだまだ飛んでいますけど...コシアキトンボやチョウトンボももう終盤です.ショウジョウトンボは二化目が出ているくらいの時期です.ギンヤンマやシオカラトンボはもうずっと最盛期が続いています.

実はこの時期に最盛期を迎えるトンボの一つがタイワンウチワヤンマです.ウチワヤンマしかいない地域では今でもウチワヤンマが元気に活動していますが,兵庫県南部では,この時期のウチワヤンマはかなり見るのが難しくなってきました.


▲2022.8.15. 鳥取県にて.今でもウチワヤンマが元気に活動している.▲

成果がなかったのでブログでは報告していませんが,この8月15日に兵庫県北部へタイワンウチワヤンマの進入調査に行ってきました.そのとき,上の写真のようにまだ池ではウチワヤンマが元気に活動していました.


▲タイワンウチワヤンマ.暑いのでほぼ垂直な腹部挙上姿勢をしています.▲

一方,兵庫県南部のタイワンウチワヤンマが入り込んでいる池では,ウチワヤンマはもうほとんど姿を見ることがありません.タイワンウチワヤンマが入り込んでいない池では姿を見ることがありますが...

さて,今日の第一の目的は,タイワンウチワヤンマの産卵観察です.例年,個体数の多い淡路島へ行くのですが,手近で済ませようという魂胆です.この池では数回タイワンウチワヤンマの産卵を見ていますので,観察できる可能性は高いです.ただ,池の周辺がどの場所も同じようで,産卵に来るポイントが分かりません.そういうことですので,池の周囲を移動しながら観察しました.すると,メスがうまく目の前に入ってきました.


▲産卵に入ったタイワンウチワヤンマのメス.矢印は糸を引いている卵.▲

ストロボの接触点がちょっとおかしく,うまく光らなかったので逆光で影になってしまいました.腹端から糸を引いて卵が着いているのが分かります.糸はほとんど写っていませんけど.タイワンウチワヤンマはウチワヤンマと違って,結構動き回って打水するので,今日はほとんどピントが来ませんでした.

産卵はきょうはこれ1頭だけでした.あとは,クロイトトンボ,チョウトンボ,コシアキトンボ,シオカラトンボ,ギンヤンマなど元気に活動していました.

さて次はタカネトンボです.タイワンウチワヤンマの産卵は午前が多く,タカネトンボは午後です.ということで昼食をとって移動しました.現地で2時間近く過ごしましたが,残念ながらまだタカネトンボは姿を見せてくれませんでした.オオシオカラトンボだけが元気に飛び回っていました.


▲オオシオカラトンボの交尾と産卵.▲

タカネトンボは9月に入ってからにした方が良さそうです.時刻は14時を過ぎました.コシボソヤンマが産卵に来る時刻です.実は昨日もコシボソヤンマを見に行ったのです.1頭のメスが産卵しているのを見たのですが,場所が気に入らないのか,すぐにどこかへ姿を消しました.今日はそのリベンジも兼ねています.流れに入って産卵しそうな朽ち木を見て回りますと,1頭のメスが飛び上がって木にとまりました.どうも最近足下がおぼつかなくなって,川を歩くとふらつきが大きく,バシャバシャやってしまい,産卵しているトンボに先に気づかれて飛ばれてしまいます.


▲私の気配に反応して,産卵をやめて飛び上がり,木に止まったコシボソヤンマ.▲

しかしこれはよくある動きです.経験上20分で産卵を再開します.過去何度か同じ経験をしています.本当に不思議なくらい20分で再開するのです.時刻は14:50.したがって産卵再開は15:10になります.コシボソヤンマから目を離さず.20分待つことにしました.待っている間,足下を1頭のコシボソヤンマらしき個体が飛びましたが,見失いました.まあ,このメスを待つのが確実です.

15:06,羽を小刻みに震わせ始めました.これは飛び立って産卵を再開する前兆です.15:09,飛び立ちました.メスからはずっと目を離しませんでしたので,飛ぶコースが手に取るように分かります.飛び立った朽ち木の方に少し大回りをするように飛んでやってこようとしています.そのときでした.もう1頭のコシボソヤンマが木陰から飛び立ち,このメスを追うように飛びました.メスは逃げるように小さく旋回しましたが.オスに見事に捕まり,連れて行かれました.

やっと産卵の再開かと喜んだのもつかの間,オスにお持ち帰りされるとは...ついていません.でも考えようによっては,これは初めてのコシボソヤンマ生態の観察になりました.今までコシボソヤンマのオスがメスが産卵しているすぐそばを飛んでも,全くメスに気づかないシーンばかり見てきました.今日初めてオスがメスを連れ去るところを観察できたのです.これは,コシボソヤンマの出会い場所が産卵場のある流れであることを示す一例になります.そう納得して,観察を終えました.このオス,多分さっき足下を飛んだ個体だと思います.

ということで今日の観察は終えることにしました.帰り道,秋を待つマユタテアカネがひっそりと止まっていました.


▲木陰で秋を待っているマユタテアカネメス.▲

カテゴリー: 神戸市のトンボ, 観察記 | No. 870. 近場まわりでタイワンウチワなど.2022.8.19. はコメントを受け付けていません