No. 955. 成虫出現状況調査.2024.5.2.

4月が終わり,5月に入りました.過去の状況を考えても,5月に入るといろいろなトンボが活動を開始するはずです.今後のよい観察材料を決める上でも,今日は春のトンボの出現状況と活動状況を確かめに行くことにしました.まずはイトトンボから.アオモンイトトンボとアジアイトトンボはもう出ているはずですので,それから確認することにしました.

池に着いたとき最初に出会ったのはなんとセスジイトトンボでした.この池に昔はたくさんいたのですが最近は見かけたり見かけなかったりします.次に見たのがクロイトトンボ,なんか,アオモンイトトンボやアジアイトトンボがいません.少し探索範囲を広げると,アオモンイトトンボはたくさんいました.もうスズメノヒエが伸びつつある池の上を飛んで,しっかりと活動を始めていました.ただ,どういうわけか,アジアイトトンボの姿はありませんでした.


▲セスジイトトンボのオスとメス.結構早く出ています.▲


▲クロイトトンボのオスとメス.メスはクモを食べている.▲


▲アオモンイトトンボのオスとメス.アオモンイトトンボもクモを食べている.▲

アオモンイトトンボは,よく草の葉や茎をつつくような動作をします.あれはクモを捕っているんですね.普通クモが昆虫を捕って食べるのが食物連鎖ですが,トンボはときどきこのようにクモを捕って食べています.草に付く小さなクモですけど.

今日は気温が低いという予報で,風も吹いてちょっと肌寒かったのですが,アオモンイトトンボたちは気にせず飛び回っていました.いやはや元気です.アオモンイトトンボを探して歩いているとき,足下から黄色いトンボが飛び立ちました.ショウジョウトンボです.ショウジョウトンボは,昔は夏のトンボというイメージがありましたが,最近は4月から姿を現しています.


▲羽化直後と思われるショウジョウトンボのメス.▲

イトトンボの確認はできましたので,次はトラフトンボやヨツボシトンボといった春季種を確認しに行くことにしました.最近この2種が見られるところが少なくなったような気がします.それも間近に見ることができる場所が特になくなって来つつあるように思えます.果たして今日は飛んでいるでしょうか.

場所を変えると,まず目に付いたのがトラフトンボでした.最終的に6頭を確認できました.これは時間をかけて観察すれば,卵塊形成の場面に遭遇できるかもしれません.


▲池の上を飛び回るトラフトンボのオス.▲


▲ヒメガマの枯れ葉に止まって休むトラフトンボのオス.▲

下の写真はオスと判断していますが,翅の前縁に濃褐色のラインが存在するように見えるのでメスかもしれません.ただメスはもっと腹部が太いし,大きな産卵弁も見えませんので一応オスにしています.ヨツボシトンボの方は,トラフトンボの飛ぶ池で,ヒメガマの植生内で活動をしていました.


▲ヨツボシトンボのオスたち.▲

この2種,繁殖活動期に入っているようですね.ねばれば産卵にやってくるメスも狙えそうです.まだ晴れが続きそうですし,メスの成熟はこれからでしょうから,チャンスはありそうです.ということで次はコサナエ属の活動状況です.そろそろタベサナエやオグマサナエは産卵活動を始めているのではないでしょうか.

そこで,この4月オグマサナエやタベサナエの羽化を観察した池に,行ってみました.


▲フタスジサナエは,トラフトンボの飛ぶ池でオスがたくさん水辺に出ていた.▲


▲オグマサナエのオスは池に出ていて,メスを待っているようだった.▲

コサナエ属のトンボたちは,もう未熟期を終えて,繁殖活動期に入っているようでした.オスたちはみんな池に出ており,草むらなど,未熟期を過ごす場所ではほとんど見つかりません.これは産卵活動の観察も期待できそうです.時間的にここへ来たのが12時をまわっていたので,ちょっと厳しいかもしれないと思い,春にタベサナエの羽化をたくさん見た池で入ってしばらく待つことにしました.オスはすでに水辺で活動を始めています.


▲タベサナエも水辺でメスを待っているようだ.▲

しばらく水辺で立っていたとき,すぐ向こうで産卵しているメスを見つけました.久しぶりの産卵撮影で,ピントを合わせられません.結局草に止まった1枚だけで,全部だめでした.昨年秋以降トンボ観察をやっていなかったせいですね.


▲産卵メスがハリイ?に止まった状態.腹端に卵塊が出ているのが分かる.▲

コサナエ属の産卵は,経験上集中することが多いので,待ってみることにしました.時刻は12:50を少し過ぎた頃です.春のトンボは,気温が最も高いこの時間帯に産卵に来ることも多いのです.特に今日は気温が低めで,ここは日陰ですから余計にそうでしょう.

ほどなく,次の産卵個体がやって来ました.やはり集中しますね.時刻は13:02.今度の個体は枯れ枝のあるところで産卵しています.やはり他から見えにくいところが好まれるようです.


▲13:02,2回目の産卵観察.今度は少しピントが来た.▲

2回目の飛翔産卵の撮影,今度は少しうまくいきましたが,それでも微妙にピントがずれています.考えてみると,このカメラ修理に出したので,いろいろな状態が初期化されているかもしれません.視度調整を厳密にやって見ました.やはり少しずれていたようです.さて,もう来ないかもしれませんが,もう少し待ってみることにしました.なんせ昨日まで悪天候で今日は晴れていますから,経験上産卵密度は高いはず.腰を下ろして待っていると,13:23,やって来ました産卵メス.


▲3回目は比較的ピントが来た.産卵するタベサナエのメス.▲

トンボ撮影もはやり慣れて感覚を忘れないようにすることが大切です.このあと,オグマサナエの産卵もねらってみましたが,不発でした.帰り際,ムカデさんの遊泳を見ました.ゲストで紹介しておきます.


▲水に落ちたのだろうか,ムカデさんが遊泳していた.▲

いよいよ春のトンボたちの繁殖活動も本格化してきたようです.しばらくは忙しくなりそうです.今日は,上記で紹介した以外にはクロスジギンヤンマとヤマサナエを見ました.

----------------------------
No.12. セスジイトトンボ.オス・メス
No.13. アオモンイトトンボ.オス・メス
No.14. ショウジョウトンボ.メス
No.15. トラフトンボ.オス
No.16. ヨツボシトンボ.オス

カテゴリー: 兵庫県のトンボ, 観察記 | No. 955. 成虫出現状況調査.2024.5.2. はコメントを受け付けていません

No. 954. 成虫越冬種三者そろい踏み.2024.4.28.

今日は,そろそろオグマサナエが繁殖活動を始めるのではないかと思い,去年オグマサナエがたくさんいた池に行ってみました.結果はまだ少し早いように思えました,池に出てきているオグマサナエは2頭だけ.そして今年は他のコサナエ属も含めて個体数が少ないように感じました.去年は池の堤を歩くと次々とコサナエ属のトンボが飛び立ったものですが,今年はパラパラという感じでした.


▲池に出てきていたオグマサナエのオス.驚いて飛び立ちホバリング.▲

フタスジサナエはまだ未熟な個体がほとんどという感じでした.タベサナエは見ていません.池ではホソミイトトンボとホソミオツネントンボが繁殖活動をしていました.またクロイトトンボが羽化を始めていました.


▲羽化しているクロイトトンボ.▲

あとコサナエ属に混じってシオカラトンボが飛びました.今年初ものです.


▲シオカラトンボのメス.▲

そこで次は,この3月末にオツネントンボを観察した池に行ってみることにしました.ホソミイトトンボやホソミオツネントンボが活動しているのを見て,あっちの池の様子も知りたくなったからです.

池に着くと,まあ,たくさんのホソミイトトンボが活動をしていました.全部で50頭以上いたのではないでしょうか.それに混じって,ホソミオツネントンボもいましたし,オツネントンボも老熟したのがまだたくさん頑張っていました.久しぶりに見る成虫越冬種三者そろい踏みです.10年くらい前は,ゴールデンウィークあたりにこういうそろい踏みをよく見たものですが,今年は久しぶりです.


▲まだオツネントンボは頑張って飛び回っていた.大分色が落ちてきている.▲


▲岸辺の草に止まって移精行動をとるペア.オスは翅がボロボロだ.▲


▲オツネントンボが止まっている下でホソミイトトンボが交尾している.▲


▲ホソミオツネントンボも産卵している.▲

三者の中ではホソミオツネントンボの個体数が一番少なかったようです.ホソミイトトンボはグループ産卵をよくやるトンボです.ですから,隣り合った位置に止まって産卵するのを多く観察しました.


▲産卵したり交尾したり,活動最盛期と思わせる状態であった.▲

さて,十分楽しめましたので,次にカワトンボが羽化していることを確かめに,小川のある谷筋に行ってみました.ニホンカワトンボとアサヒナカワトンボが羽化をしていました.そこには,コサナエ属もいましたが,やはりまだ未熟という感じでした.コサナエ属の繁殖活動が本格化するのは,5月に入ってからになりそうです.そしてうっかり同定ミスしてしまいましたが,ダビドサナエのメスも羽化していました.


▲ニホンカワトンボの未熟オス.アサヒナカワトンボはピンボケでした.▲


▲上から,タベサナエ,オグマサナエの順です.いずれもまだ未熟だ.▲


▲思い込みから最初フタスジサナエと誤同定.これはダビドサナエのメスです.▲

今年はシオヤトンボの数も少なく感じますし,コサナエ属もまだまだ未熟状態です.気温は今日28℃ありましたが,トンボの春は少し遅れ気味,というより,10年ぐらい前の標準的出現状況になっているようです.

--------------------------
No.08. クロイトトンボ,羽化.
No.09. シオカラトンボ,未熟.
No.10. ニホンカワトンボ.未熟
No.11. ダビドサナエ.未熟

カテゴリー: 兵庫県のトンボ, 観察記 | No. 954. 成虫越冬種三者そろい踏み.2024.4.28. はコメントを受け付けていません

No. 953. フタスジサナエの羽化.2024.4.25.

しばらく遠征旅行をしていたため,2週間ほど間が開いてしまいました.この3日間曇や雨だったのですが,今日は移動性高気圧がやって来て晴れ.コサナエ属の状況と,ホソミイトトンボがいないかを探しに行きました.

コサナエ属3種は,いずれも未熟な状態で,草原などを飛んでいました.その中でフタスジサナエの数が少ないと感じていましたが,池をのぞいてみると,今が羽化の真っ盛りという感じでした.多くがメスです.フタスジサナエは以前からオスの方が若干早く羽化すると感じていましたが,その通りで,見た感じ,未熟で飛んでいるのはオスばかりでした.


▲フタスジサナエのオス.この個体は池のそばに止まっていた.▲


▲オグマサナエのオス.まだ未熟である.▲


▲タベサナエのメス.個体数はタベサナエが一番多かった.▲

下の写真には羽化しているフタスジサナエが6頭写っていますが,写真を撮る前に2頭飛び立ってしまったので(羽化殻が2つ見えます),合計8頭がほとんど同じ場所で一斉に羽化していました.


▲フタスジサナエは羽化の真っ盛り.それも多くがメス.▲


▲羽化するフタスジサナエたち.▲

フタスジサナエの羽化は,10年くらい前まではだいたい4月の下旬から末くらいの間でした.今年はその当時と同じくらいの時期に羽化していますね.今年は全般的にこの2,3年に比べると出現が遅いのですが,昔の感覚ならちょうどぴったりというところです.今年は,オグマサナエ,タベサナエに始まって,フタスジサナエと南部のコサナエ属3種の羽化を全部記録できました.

フタスジサナエが羽化しているすぐ横で,シオヤトンボが産卵をしていました.シオヤトンボの出現も以前並みに遅れています.


▲産卵にやってきたシオヤトンボのメス.▲

遠征旅行ではサブカメラを使っていましたが,やはりメインカメラの方がきれいに写るような気がします.画像処理のチップが違うようです.

さて,コサナエ属の状況が確認できましたので,次は成虫越冬性トンボで残されている,ホソミイトトンボを探しに行くことにしました.4月上旬にオツネントンボを見に行った2つ目の池へ出かけました.オツネントンボが1頭ホソミオツネントンボが4頭ほど飛んでいて,それに混じってホソミイトトンボが,3ペアと単独オスが5頭ほど見られました.


▲タンデムのホソミイトトンボ.▲


▲産卵行動をとってもすぐ止めてしまい,近づくこともできない.▲

ペアは飛んでいるのですが,なかなか産卵をせずあちこちを飛び回っているだけです.ちょっと止まって産卵行動をとるのですがすぐ止めてしまいます.産卵はもう少し後の時間帯なのかもしれません.対して,交尾は2例見られました.


▲移精行動をとっている.メスは交尾の態勢.▲


▲移精行動のあと,交尾になった.▲


▲オスは止まってメスは飛んでいる!?.▲


▲やがて上のペアも交尾態勢に入った.▲

今年は,2018年に続いて,できるだけたくさんの兵庫県のトンボに出会うのが目標ですので,1種類ずつきちんと押さえていきたいです.

---------------
No.06. ホソミイトトンボ.交尾・産卵
No.07. シオヤトンボ.産卵.

カテゴリー: 兵庫県のトンボ, 観察記 | No. 953. フタスジサナエの羽化.2024.4.25. はコメントを受け付けていません

No. 952. 沖縄県のトンボたち 均翅亜目.2024.4.24.

沖縄県のトンボたちの第3回目は均翅亜目の紹介です.均翅亜目の中でもイトトンボ上科に属する,いわゆるイトトンボ類は,私が密かに好意を抱いているトンボたちです.そのせいか,文章や写真が多くなってしまいました.均翅亜目のうち,イトトンボ類は標本にしても色や形がほとんど生時の状態で残らないので,写真がその美しさを保存できる唯一の手段のように思えます.標本の場合,私は無水エタノールに浸ける液浸標本にしていますが,これは結構いい成績です.

春のこの時期には,ちょっと早いものの,均翅類の成虫はだいたい出現していると思われます.最盛期にはなっていないにしても,未熟なものを含めてどれだけ出会えるかというところでしょう.

まずはカワトンボ科からです.沖縄県に分布するカワトンボ科はクロイワカワトンボとリュウキュウハグロトンボです.いずれも過去に見たことがあるのですが,リュウキュウハグロトンボは非常に未熟な個体しか見ていません.翅の内側の青く輝く色を見てみたいものです.

■カワトンボ科
沖縄県の2種のカワトンボは,いずれも日本特産種です.

◆クロイワカワトンボ Psolodesmus kuroiwae Oguma, 1913
山間の薄暗い渓流に生息するカワトンボです.以前台湾に遠征したときに見たシロオビカワトンボ Psolodesmus mandarinusと近縁です.昔はこの亜種 Psolodesmus mandarinus kuroiwae とされていたぐらいです.


▲クロイワカワトンボのオス.4/15.▲


▲クロイワカワトンボの近縁種,台湾のシロオビカワトンボ.▲

もう少し簡単に見つかるだろうと思っていましたが,今回の源流域はトンボの姿が非常に少ない状況で,このオス1頭だけでした.結構長期間成虫が飛ぶトンボですので,また機会があればチャレンジしたいです.

◆リュウキュウハグロトンボ Matrona japonica (Förster, 1897)
兵庫県ではアオハダトンボの翅が美しく輝きますが,リュウキュウハグロトンボの水色の輝きはそれ以上かもしれません.これは翅脈の輝きです.奄美大島にも分布しています.


▲リュウキュウハグロトンボのオス.基部が水色に輝き美しい.4/19.▲

林道を歩くと,まだ未熟な個体が木漏れ日に身を置いていました.近づくとひらひらと飛んで逃げ,また別の木漏れ日の射すところに止まります.それなりの数がいましたし,翅の輝きもはっきりと現れていましたので,羽化が始まってしばらく経っているように見受けられました.中にはまだ羽化してから間が経っていない個体も混じっていました.このようなオスは,翅に青みが全くなく,茶色に透き通って見えます.


▲羽化して間がないリュウキュウハグロトンボのオス.4/19.▲

オスには縁紋がありませんが,メスには白い偽縁紋が見られます.また翅の裏側(たたんだ翅の外側)の翅脈が黄褐色をしていて,全体として金色に見えます.メスの翅の内側は水色の部分がはっきりしていません,光線の加減でわずかに青みを帯びて見えることがあります.


▲リュウキュウハグロトンボのメス.内側はわずかに青みを帯びる.4/19.▲

繁殖活動を始めているペアもいました.オスはメスの後ろをホバリングするように左右に振れて飛び,メスを誘引しようとしています.こういった行動をじっくりと観察したいものですが,今回はとにかくできるだけたくさんのトンボに出会うのが目的ですので腰を落ち着けられません.30年ぶりの現地の状況を見た上で,また行動観察の作戦を立てようと考えています.


▲水色の輝きは翅室ではなく翅脈の色であることが分かる.4/19.▲

■トゲオトンボ科
1985年の日本産トンボ大図鑑(講談社)を見ると,日本に分布するトゲオトンボ科は3種1亜種で記載されています.それが最新の2022年の図鑑(日本のトンボ改訂版,文一総合出版)では7種1亜種に増えています.そのうち沖縄県には3種が分布しています.再検討によって種が細分化されたからです.トゲオトンボ類にはあまり移動性がなく地理的隔離が生じやすく種分化が進みやすいのかもしれません.それが証拠に,沖縄本島には,名護市あたりを境界にヤンバルトゲオトンボとオキナワトゲオトンボの2種が隣接して分布しています.

◆ヤエヤマトゲオトンボ Rhipidolestes aculeatus Ris, 1912
1985年の図鑑では,ヤエヤマトゲオトンボは西表島,石垣島,九州本土に分布すると記載されていますが,現在では九州本土の個体群はヤクシマトゲオトンボとして別種となっています.ヤエヤマトゲオトンボは台湾にも分布していますので,日本特産種というわけではありません.32年前に訪れたときにはどうしてもメスを見つけられなかったので,今回はメスを見つけたいと張り切って探索しました.


▲ヤエヤマトゲオトンボのオス.上:4/15,下:4/16.▲

メスを探すために,同じ場所を2回訪れました.しかし個体数は非常に少なくオスばかりでした.やっと見つけたメスは,流れを歩いているときに処女飛行に飛び立った個体でした.雄性先熟しているのでしょうか,今がちょうど羽化期のように見えました.


▲目の前に飛び上がってきたヤエヤマトゲオトンボの処女飛行メス.4/16.▲

どうも私はヤエヤマトゲオトンボのメスには縁がないようです.あといくら探しても見つかりませんでした.

◆オキナワトゲオトンボ Rhipidolestes okinawanus Asahina, 1951
沖縄本島に分布するトゲオトンボは,以前はリュウキュウトゲオトンボ1種とされていました.2005年に沖縄本島に分布するトゲオトンボがオキナワトゲオトンボとヤンバルトゲオトンボに分けられました.これを分けた文献には,オキナワトゲオトンボは「多野岳の南西部に分布する」と書かれていましたが,最新の「日本のトンボ改訂版」には,「平南川,源河大川,大浦川以西に分布する」と書かれています.地図で見ると,平南川,源河大川,大浦川はだいたい南北直線上に位置しています(地図参照).


▲各地の位置関係.「国土地理院タイルに文字や線を記入して掲載」.▲

今回私が観察した2ヶ所は,上の図でいうと,その境界線の少し西および境界線上あたりに位置します.ぎりぎりオキナワトゲオトンボの分布範囲です.最近は便利になって,スマホのGPS情報で自分の位置を示し,スクリーンショット保存すれば地図上に観察位置が記録されますので,間違いありません.

では,まず上の境界線より明らかに西に位置する場所での記録です.


▲オキナワトゲオトンボのオス.境界線より明らかに西の地点A.4/19.▲

このオスは明らかにオキナワトゲオトンボです.翅端に明瞭な褐色斑があります.いわゆるノシメ斑的な斑紋です.30年前に来たときには,こういう模様の「リュウキュウトゲオトンボ」を見たいと思ったものですが,今考えると別種なんですね.オキナワトゲオトンボのもう一つのはっきりとした特長は,顔面が赤いということです.下の写真を見ればはっきりします.


▲オキナワトゲオトンボの特徴である赤い顔面.4/19.▲

ここでもメスを探しましたが見つからないな,などと思っていると,またもや処女飛行メスの登場です.やはり羽化期なんですね.それもメスの羽化.ヤエヤマトゲオトンボの場合と偶然が重なりました.


▲オキナワトゲオトンボの処女飛行メス.4/19.▲

もう一ヶ所探してみようということで,少し移動して水の少ない沢に入ってみました.シコクトゲオトンボの探索経験でだいたいの生息環境はつかめていますので,なんか自信を持って探索できます.オスがいました.しかし今度のオスは翅端の褐色斑がうすいのです.ヤンバルトゲオトンボでもうっすら翅端に褐色斑が見えることがあるのでちょっと迷います.


▲オキナワトゲオトンボ?のオス.境界線に非常に近い地点B.4/19.▲

しかもこの個体,顔面の赤を確認しませんでした.うっかりしていますねぇ,そのときは翅端の褐色斑を見てオキナワトゲオトンボだと信じ切っていましたから.あとで写真を見て疑いが生じました.困ったものです.地点A,地点Bは同じ水系ですので多分オキナワトゲオトンボでいいと思いますが,観察に慎重にしなければなりません.またもや教訓を残しました.採集の重要性はこういうところにあるんでしょうね.もう行く機会はないかもしれませんが,チャンスがあればこの沢でもう一度確認したいものです.同じ水系に近縁の別種がいるというのは面白いことですからね.

ところで,ここでもまた,またまた,処女飛行個体です.ただしこれはオスでした.


▲オキナワトゲオトンボ?の処女飛行オス.境界線に非常に近い地点B.4/19.▲

◆ヤンバルトゲオトンボ Rhipidolestes shozoi Ishida, 2005
次はヤンバルトゲオトンボです.観察場所は境界線から明らかに北なので,間違いないでしょう.ここは,沢というより,いわゆる斜面から水が湧き出している典型的な生息環境です.ここではオスたちが4,5頭お互い干渉し合いながら飛んでいました.もう繁殖活動期に入っているようです.一応確認しておきましょう.


▲ヤンバルトゲオトンボのオス.顔面は黒いが翅端には淡い褐色斑がある.4/19.▲

写真でっはちょっとわかりにくいですが,顔面は黒いです.しかし翅端にはうっすらと褐色斑が認められます.上の「オキナワトゲオトンボ?」の写真と比べてどうでしょうか.迷いだしたらきりがありません.


▲ヤンバルトゲオトンボのオスたち.ここは陽が当たり写真には好都合.4/19.▲

ところで,またまたまたの話になるのですが,ここでもメスが羽化したり処女飛行に飛び立ったりしていたのです.オスたちはもう繁殖活動に入っているような動きをしているのに,メスが羽化していました.ただ羽化途中のメスとは時間の関係で最後まで観察することはできませんでした.


▲羽化途中のヤンバルトゲオトンボのメス.4/19.▲


▲処女飛行に飛び立ったヤンバルトゲオトンボのメス.▲

三度目の正直といいますか,これだけ同じことが起きますと,雄性先熟が起きているといいたくなります.オスはかなり成熟しているのに1頭を除いてメスばかりが羽化をしている,トゲオトンボは雄性先熟する傾向があるトンボであるという仮説を立てることに無理はないように思います.

こんな感じで,3種のトゲオトンボの観察は今回とても自分的には盛り上がりました.

■ミナミカワトンボ科
沖縄県には,コナカハグロトンボとチビカワトンボの2種が分布します.チビカワトンボの方が少ないようで,30年前に見たことはありましたが,今回も出会ってみたいトンボでした.が不発でした.コナカハグロトンボは30年前には大群が飛び交っていました.でも今回は時期がまだ早いのか,数は少なかったです.

◆コナカハグロトンボ Euphaea yayeyamana Oguma, 1913
コナカハグロトンボには山地から平地までの川の流域で出会いました.比較的広い範囲の流程に分布しているように感じました.ただ出会った数はどこでも2,3頭というところでした.季節が早いのか減っているのかは,私には分かりません.


▲山間の渓流で見たコナカハグロトンボのオスとメス.4/16.▲


▲平地の深い川で活動するコナカハグロトンボ.4/20.▲


▲平地では樹陰に止まっていることも多い.▲

このトンボは群れている姿が一番似合っていますので,季節が進んでそうなっていることを祈っています.

■モノサシトンボ科
沖縄県のモノサシトンボ科といえばルリモントンボのなかまです.沖縄県には2種のルリモントンボが分布しており,いずれも固有種です.マサキルリモントンボには,今回出会うことができませんでした.

◆リュウキュウルリモントンボ Coeliccia ryukyuensis ryukyuensis Asahina, 1951
このトンボはもう少し簡単に出会えるかと思っていましたが,他のトンボ同様,出が遅いのか私の探し方が悪いのか,出会ったのはたったの1頭でした.兵庫県に分布するモノサシトンボ科は,グンバイトンボとモノサシトンボですが,いずれも地味なトンボです.しかしリュウキュウルリモントンボに出会ったときは,その鮮やかさに見とれてしまいました.南国のルリモントンボは本当にきれいです.


▲たった1頭だけ出会ったリュウキュウルリモントンボのオス.4/20.▲

沖縄県のトンボといえば,どうしてもミナミヤンマなどの大型のトンボに注目が行きます.しかし可憐なイトトンボ類の美しさはまた別格のもので,海水性熱帯魚を彷彿とさせてくれます.そしてこの輝きを残せるのは写真しかないと思います.

■イトトンボ科
沖縄県のイトトンボ科には,地域特産種というのがありません.すべてが広域分布種です.一方モノサシトンボ科ルリモントンボ属の各種はすべて地域特産種です.近い親戚の分類群でありながら,この違いにはとても興味深いものがあります.もっとも日本産イトトンボ科のほとんどは海外にも分布域を持つ広域分布種です.日本特産種というのはオゼイトトンボぐらいでしょうか.移動性がないトンボのように見えますが,結構移動して分布を拡大させているのかもしれません.

◆リュウキュウベニイトトンボ Ceriagrion auranticum ryukyuanum Asahina, 1967
小さな湿地状の池で繁殖活動をしている姿を見ました.またおよそ近くに生息場所がないと思われるような林縁に止まっている個体もありました.さらに街中の公園の池にもたくさん集まっていました.本土のベニイトトンボは絶滅危惧種に指定されていますが,こちらはキイトトンボより普通に見られる感じがします.


▲水たまり状の湿地に集まって産卵するリュウキュウベニイトトンボ.4/16.▲


▲どこから来たのか林縁に止まっていたリュウキュウベニイトトンボのオス.4/17.▲

繁殖活動は,午前から昼過ぎにかけて行われていました.午後に訪れた街中の公園の池ではもう繁殖活動は終わっていて,オスもメスも周辺の草地でのんびり過ごしていました.ただ面白いことに,オスばかりが集まっているところにはメスの姿がなく,メスは,オスほどの密度ではありませんが,オスを避けて別の場所に集まっているように見えました.


▲街中の公園の池にいたリュウキュウベニイトトンボ.4/19.▲


▲同じく街中の池周辺の草地で休むオス(上)とメス(下).▲

メスには腹部先端の背面に黒斑部分があるので,比較的容易に見分けられます.パッと見ると腹部先端が黒く汚れているように見えます.

◆アカナガイトトンボ Pseudagrion pilidorsum pilidorsum (Brauer, 1868)
流水性のイトトンボです.32年前に来たときには流れにたくさん集まっている姿を見ました.今回は数が少なく,出会ったのはオス2頭だけでした.1頭は小さな沢が川に流れ込んでいるような場所でした.オスが単独で止まっていました.


▲アカナガイトトンボのオス.エキゾチックな色彩である.▲

もう1頭は川の上流で,リュウキュウハグロトンボに混じって飛んでいました.水面上で結構長い時間停止飛翔をしていました.通常ならこれは写真になるところですが,サブカメラではダメでした.暗くて距離が離れていたこともあり,マニュアル撮影でピントが来たのがありませんでした.このトンボは台湾ではイヤというほど見ました.

◆ヒメイトトンボ Agriocnemis pygmaea pygmaea (Rambur, 1842)
近縁のコフキヒメイトトンボはお隣の徳島県にも分布していますが,ヒメイトトンボは南西諸島まで出かけないとその姿を見ることができません.今回幸いにも水田の端に生えている植物の間に,ヒメイトトンボたちが飛び交っているのに出会うことができました.


▲水田横の草が生えているところに集まっていたヒメイトトンボ.4/20.▲


▲朝早かったので,朝露に濡れたヒメイトトンボのオス.4/19.▲


▲ヒメイトトンボの成熟メス.4/19.▲

とにかく小さなトンボです.ヒヌマイトトンボやモートンイトトンボよりも小さいのではないかと思います.探そうという気にならないと見過ごしてしまいそうです.実際,この場所には2回来たのですが,1回目は目に入りませんでした.

ヒメイトトンボはコフキヒメイトトンボのようにオスが白い粉を吹くことはありませんが,胸部に少しだけ粉を吹くような個体が存在します.


▲普通のヒメイトトンボ成熟オス.4/19.▲


▲ほんの少しだけ胸部や脚の腿節に白粉が見られる成熟オス.▲

メスは,アジアイトトンボのように,成熟にともなって体色や眼後紋が変化していきます.未熟な頃は赤い色をしていますが,腹部から緑色へと変化していくようです.


▲未熟なメス.赤い地色で腹部背面の黒条が不十分で,眼後紋は赤く広い.▲


▲少し成熟が進んだメス.腹部は緑味を帯び背面の黒条がはっきりとしてきた.▲


▲胸部にも緑色が出てきて,眼後紋の水色の点がはっきりし始めた.▲


▲赤色部分がほとんど消え,眼後紋の水色の斑点がよく目立つ.▲

メスの眼後紋の変化については,図鑑などではあまり詳しく記載されていないので,注意をしておく必要があると思います.アジアイトトンボやアオモンイトトンボでも類似の変化が見られます.

◆ムスジイトトンボ Paracercion melanotum (Selys, 1876)
ムスジイトトンボは,南方に分布中心を持ち,国内外に広く分布する広域分布種です.最近はそうでもなくなりましたが,兵庫県では海岸近くの池に多く見られたトンボです.沖縄でも,海岸近くの市街地の池で観察しました.兵庫県の観察では,潜水産卵をするのが普通のようです.しかしここでは,潜水できるような植物に産卵するときでも,潜水は行いませんでした.


▲ムスジイトトンボの産卵.潜水は行わず水面上で産卵を続ける.▲

以前兵庫県でムスジイトトンボの産卵を写真に収めようとして探し回っていましたが,なかなか見つからないとずっと思っていました.そしてそれは,潜水産卵を主にやっているからだと気づきました.同じトンボでもところ変われば品変わるという感じで,行動の違いを観察するとまた遠くへ来た感じがします.いとも簡単に産卵の写真が撮れました.


▲移動しながら産卵を続けるムスジイトトンボのペア.▲

◆アオモンイトトンボ Ischnura senegalensis (Rambur, 1842)
アオモンイトトンボも本州・四国・九州から南西諸島に広く分布しています.兵庫県でも極めて普通種です.沖縄にもちゃんといました.こちらも同じように,午後の公園の池でメスが単独で産卵していました.丘陵地の水田にもいました.


▲公園の池でたむろするアオモンイトトンボのオス.▲


▲午後に単独産卵する性質は,沖縄でも変わらない.▲


▲丘陵地の水田では,ヒメイトトンボに混じって,飛んでいた.▲

さて,以上で今回の遠征旅行で見たトンボの紹介を終わります.写真としては27種類,あと写真にならなかったのが,オオキイロトンボ,オオヤマトンボ,タイワンウチワヤンマ,ギンヤンマです.まあ30種類見られたらよしとするべきでしょうか.

なお人づてに入った地元の情報では,今年はまだオキナワサラサヤンマを見ていないということだそうです.同時期に沖縄のトンボを見に行った人も,例年と少し違うと感想をもらしていました.私も,個体数・種類とも思ったよりトンボが少ないと感じました.まあ私の感想は32年ぶりの訪問なので当てになりませんが,やはりちょっとトンボの数が少なく,違和感を感じました.あと,オキナワコヤマトンボ,リュウキュウトンボなどもすでに飛んでいたとのことです.

それでは沖縄の報告はこの辺で.

カテゴリー: エッセイ, 県外のトンボ | No. 952. 沖縄県のトンボたち 均翅亜目.2024.4.24. はコメントを受け付けていません

No. 951. 沖縄県のトンボたち 不均翅亜目-2.2024.4.23.

第2回目はトンボ科です.トンボ科の多くは夏が活動中心のトンボで,この時期にしか特に見られないトンボというのはありません.いわゆる普通に見られる種がほとんどですが,兵庫県にはいないトンボたちが多くいて,派手な色彩のトンボたちが南の国に来たことを感じさせてくれます.

その中で特に姿を見たかったのが,アカスジベッコウトンボ,ヤエヤマオオシオカラトンボ,オキナワオオシオカラトンボです.アカスジベッコウトンボは私が沖縄へ行った30年前にはまだ日本に定着していなかったトンボです.2006年に与那国島で発見されたのが国内初記録でした.またオオシオカラトンボは,以前から本土のものとは別種ではないかといわれていましたが,2013年に本土のオオシオカラトンボ Orthetrum melania melania の別亜種として,オキナワオオシオカラトンボ O. m. ryukyuense およびヤエヤマオオシオカラトンボ O. m. yaeyamense とされました.特にオキナワオオシオカラトンボのメスは,腹部先端の黒い部分が小さいのが特徴です.

では結果を紹介していきましょう.

◆アカスジベッコウトンボ Neurothemis ramburii ramburii (Brauer, 1866)
アカスジベッコウトンボは,昨年の台湾遠征で見かけましたので初めて見る感動はありません.コーヒー色の翅が何ともいえず南国的かつエキゾチックで気に入っています.先島諸島にはもう普通に定着しているとのことですので,出会いを楽しみにしていました.


▲アカスジベッコウトンボのまだ若いオス.4/16.▲

このトンボは,浅い湿地状の水たまりを好むようで,大きな池にはあまり出ず,その横に点在する小さな水たまりのような所にオスがよく止まっていました.一度目の前で短時間交尾・産卵してくれたのですが,サブカメラはオートフォーカスに迷うことが多いので,録り逃しました.こういうのは本当に悔やまれます.


▲アカスジベッコウトンボの成熟したオス.腹部も赤くなっている.4/16.▲

まだ時期が早いせいでしょうか,腹部が赤化せず,翅脈にも黄色が混じっているような,若いオスが多かったです.メスは産卵に来た1個体を見ただけでした.


▲とても若いオス.4/16.▲


▲湿地状の水たまりで産卵を終えた後止まったメス.▲

◆オキナワオオシオカラトンボ Orthetrum melania ryukyuense Sasamoto et Futahashi, 2013
オオシオカラトンボは夏のトンボで,この時期に羽化しているのかどうか分かりませんでしたが,4頭ほどオスを見かけました.メスは樹上を飛ぶのを見ただけです.オスは青色の粉を吹きますのでオオシオカラトンボと同じに見えますが,本種では腹部先端の黒い部分が腹部第9,10節だけで翅の付け根の黒い部分が狭いのに対し,オオシオカラトンボでは通常腹部第8,9,10節が黒く翅の付け根の黒い部分は広いという点が異なっています.同じ種ですが,亜種として微妙な違いにこだわるのもまた楽しいものです.


▲オキナワオオシオカラトンボのオス.通常腹部第9-10節が黒い.4/19.▲


▲本土産のオオシオカラトンボ.通常腹部第8-10節が黒い.2010/8/11.▲

◆オキナワチョウトンボ Rhyothemis variegata imperatrix Selys, 1887
南国的な色彩をしているトンボの一つに,オキナワチョウトンボがいます.褐色と黄色からなる迷彩色的な翅の模様は,日本産トンボの中では他に例を見ません.ただ今回は数が少なくて,羽化している個体がまだ少ないような感じでした.


▲オキナワチョウトンボのオス.4/16.▲


▲オキナワチョウトンボのメス.摂食していた.4/17.▲

オキナワチョウトンボは,翅を透過するような光線位置で写真を撮った方が,翅の輝きが映えます.ちょうど道路の交差点で上空を飛ぶ摂食していたメスがその光線具合になりましたので,空をバックに写真が撮りました.こういう写真は撮りやすいはずですが,サブカメラの合焦が鈍いせいでピントが来た枚数が極端に少なかったのが残念でした.

◆コフキショウジョウトンボ Orthetrum pruinosum neglectum (Rambur, 1842)
コフキショウジョウトンボは,各地にたくさんいました.いつも言っていますが,どこにでもいるトンボは,わざわざ追いかけていって撮ることをしないことが多く,結局撮り損ねてしまうのことがあるのです.今回のコフキショウジョウトンボがそれでした.また目の前で交尾・産卵をやってくれましたが,これもサブカメラの合焦が悪く,シャッターチャンスを逃しました.このカメラどうしても背景にフォーカスが引っ張られてしまうのです.いつものカメラだと,マニュアルで合わせたピント近くにある物体にまずピントを合わせようとするので,数枚はピントが来るのです.


▲コフキショウジョウトンボのオス.一番初めに出会った個体である.4/15.▲


▲産卵後のメスを追いかけるオス.4/17.▲

コフキショウジョウトンボは台湾にも多くいて,そこでは産卵も記録できましたので,気持ちの上で余計に手をかけなかった感じがします.やはりどんなトンボにも全力で向かいたいものです.

◆ハラボソトンボ Orthetrum sabina sabina (Drury, 1770)
こちらでいえばシオカラトンボと同じくらい,どこにでもいて数の多いトンボです.およそ観察に訪れた場所のほとんどで出会うことができました.しかしこっちはコフキショウジョウトンボより多くカメラを向けた気がします.


▲ハラボソトンボのオス.朝日を浴びて目覚めたのだろうか.4/20.▲


▲ハラボソトンボの交尾.この交尾はいつもまともな位置で写真に撮れない.4/16.▲


▲ハラボソトンボのメス.4/20.▲

ハラボソトンボは地面によく止まるトンボで,上の写真のように農道の砂利道のようなところに止まられると,とてもわかりにくいです.オスとメスの色彩も似ていてぱっと見では分かりません.メスの方が少しくすんだ色をしています.

◆ベニトンボ Trithemis aurora (Burmeister, 1839)

▲ベニトンボのオス.川の畔に止まっていた個体.4/19.▲

ベニトンボもハラボソトンボに負けずどこでも姿を見せていたトンボです.このトンボは流水でも止水でも生活するので,山地の渓流などに入っても姿を見せるときがあります.でもやはり平地の池が生活の中心でしょう.

ベニトンボは,現在は兵庫県でもその姿を見ることができるほど,北上傾向が強い種です.しかし本場はやはり南国.彼らの活動を存分に観察させてもらいました.激しい闘争本能を持った,活発なトンボです.こういう状況はは,1頭だけぽつんといるような兵庫県では,なかなか見ることができないでしょう.


▲ベニトンボの産卵と警護.4/16.▲

オスは活発に水面を飛び回り,メスが入ってくると飛びながら交尾します.そして連結を解いてオスは警護活動に入ります.がそのとき他のオスが近くにいると,--たいがい近くにいるので-- 複数のオスが激しくメスを追いかけ,警護のオスはそれと戦います.見ているとあちこちで,時には5,6頭が入り乱れて,闘争が繰り広げられています.やはり個体密度が高いところならではの行動でしょう.楽しませてもらいました.メスは産卵を終えると,周辺の草地で休みます.


▲草地で休むベニトンボのメス.4/16.▲

個体数の多いトンボは,周辺でさまざまの成熟段階のものが見られます.まだ複眼が赤い色をしていない未熟な個体がたくさん休んでいました.これらは別種のようにも見えます.未熟なオスは橙色をしていて,成熟が進むと紅色が出てくるようです.


▲翅脈もまだ黄褐色を残している未熟なベニトンボのオス.4/17▲

◆ヒメトンボ Diplacodes trivialis (Rambur, 1842)
農道などを歩いていると,ハンミョウのように足下を飛び回る素早いトンボに出会います.うっかりすると見落としてしまいそうな小さなトンボです.とにかく敏感で素早いので近づくことは容易ではありません.小さいのでカメラをうんと近づけたいのですが,まず無理です.正体はヒメトンボ.オスはナニワトンボのように灰色の粉を吹くトンボです.


▲ヒメトンボのオスとメス.地面にばかり止まる.4/15.▲

このトンボがハンミョウのように見えるのは,地面の上ばかり止まるからです.不思議なくらい草の枝や葉に止まりません.いるところにはたくさんいて,ハンミョウのように飛び,歩く人の先の方に止まるのです.トンボにもいろいろな性格や好みがあるのですね.

◆コシブトトンボ Acisoma panorpoides panorpoides Rambur, 1842
トンボの中でも,他とは少し異なった形態をしているのが,コシブトトンボです.名の通り腰の部分が太くなっています.私はこれを見るとエビの腹部を連想します.小さなトンボで,普通サイズのトンボばかり気にしていると見落としそうなサイズです.色彩は派手で,やはり南国のトンボといった感じです.今回はあまり数多くを見ることがありませんでした.本格的なシーズンはこれからでしょう.


▲コシブトトンボのオス.草の間を素早く飛び回る.4/16.▲


▲コシブトトンボのメス.メスは目立たない色彩をしている.4/16.▲

このトンボの繁殖活動を見てみたいのですが,よく見つかるトンボにもかかわらず,まだそのチャンスに恵まれていません.

◆タイリクショウジョウトンボ Crocothemis servilia servilia (Drury, 1770)
兵庫県で普通に見られるショウジョウトンボ Crocothemis servilia mariannae の原名亜種です.昔は本土産のものも同種とされていましたが,オランダのトンボ研究者 Kiauta 博士が染色体の核型(本数や形)の相違から,本土産を亜種に分けました.


▲タイリクショウジョウトンボのオス.腹部正中線に黒条が見える.4/16.▲


▲タイリクショウジョウトンボのメス.4/15.▲

▲タイリクショウジョウトンボの未熟なオス.メスとよく似た色彩である.4/16.▲

パッと見た感じではタイリクショウジョウトンボはショウジョウトンボと同じに見えますが,タイリクショウジョウトンボの方が若干朱色っぽく感じるのは私だけでしょうか.本土のショウジョウトンボは濃い赤に見えます.またオスの腹部背面正中線に黒い筋が明瞭に存在する個体が多いのも特徴です.本土のショウジョウトンボにもこの黒条が腹部先端の方に見られるものがありますが,タイリクショウジョウトンボの方がはっきりしているように思います.なおメスには本土のショウジョウトンボにも明瞭な黒条が存在します.


▲上がタイリクショウジョウトンボ 4/15,下が兵庫県のショウジョウトンボ.▲

このトンボもどこにでもいる普通のトンボです.ただベニトンボに比べて,流水域にはあまり見られないようです.

◆ヒメハネビロトンボ Tramea transmarina yayeyamana Asahina, 1964
私の好きなトンボの一つに,ハネビロトンボのなかまがあります.飛んでいるときには,翅の付け根あたりが鮮血色に染まったように見える大型のトンボで,とても力強く見えます.沖縄県ではハネビロトンボよりヒメハネビロトンボの方によく出会うような気がします.池ではほとんど飛び回っているので,写真に撮りにくい相手でもあります.

産卵行動が特異で,打水の瞬間だけオスがメスを放し再び連結するという行動をとります.一度写真--というよりビデオ--に収めてみたいとずっと思っています.今回の観察でも2回タンデムで池に訪れ,産卵行動を見せてくれました.ただ飛ぶスピードが速く,産卵行動に入るタイミングが分かりにくく,今回は全くの失敗に終わりました.また機会があれば挑戦したいと思っています.

今回は,農道を歩いているときにたまたま止まっている個体に出会い,記録できました.


▲ヒメハネビロトンボのオス.一度このトンボを一日中追ってみたい.4/16.▲

◆オオハラビロトンボ Lyriothemis elegantissima Selys, 1883
このトンボには,今回は出会いをあまり期待していませんでした.ぎりぎり羽化期かな,という感じです.川に沿った林道を歩いているときに,ふと黄色いトンボを見つけました.キイロハラビロトンボを見たことがなかったので,まさかと思いましたが,胸側部部に2本の黒条が見え,オオハラビロトンボだと分かりました.メスかなとも思いましたがよく見ると,オスの未熟個体です.腹部の赤い成熟個体は南大東島で見たことがあったのですが,こういう状態のは短期間に限られますので,むしろ嬉しいくらいでした.


▲オオハラビロトンボの未熟オス.4/20.▲

林道を歩いていると,もう1頭飛ぶのを見かけました.川で生育しているのでしょうか?

以上の他に見たトンボ科のトンボとしては,オオキイロトンボ,ウスバキトンボがいました.オオキイロトンボは連結で産卵にもやってきていました.ただ広い範囲を縦横に飛び回り,一体どこに産卵するのか見当も付きません.午後には摂食飛翔をする個体もいました.これはシャッターチャンスなのですが,何度も言っていますがサブカメラではピントを追い切れませんでした.

ウスバキトンボは,その行動が面白く感じられました.兵庫県などでは集団で摂食している姿を見たりするのが普通で,時折池の上をパトロールするような飛び方をしたり,交尾・産卵を見ることがあります.ですから集団群飛するのが見慣れた光景なのですが,南の島のウスバキトンボは,多くの個体が繁殖活動にいそしんでいました.道路にたまった水たまりに集まって交尾・産卵をしているのも見ました.これなどは一時的水たまりの生活者であることを如実に示していると思ったりして,興味深かったです.


▲道路にできた轍の水たまりで産卵するウスバキトンボ.4/15.▲

兵庫県などで見るウスバキトンボの多くは,これから長距離移住する準備段階の個体なのでしょう.対して沖縄県では,そこで生活しているトンボという感じの行動でした.

さて,以上が今回の旅行で観察できたトンボ科のトンボたちです.全部で13種類.ヤエヤマオオシオカラトンボが見られなかったのが残念でしたが,これは夏のトンボですので,また次の機会に頑張ることにしましょう.まとめておきます.

・オキナワチョウトンボ Rhyothemis variegata imperatrix Selys, 1887
・オオキイロトンボ Hydrobasileus croceus (Brauer, 1867)(目撃)
・ヒメハネビロトンボ Tramea transmarina yayeyamana Asahina, 1964
・コシブトトンボ Acisoma panorpoides panorpoides Rambur, 1842
・タイリクショウジョウトンボ Crocothemis servilia servilia (Drury, 1770)
・ヒメトンボ Diplacodes trivialis (Rambur, 1842)
・アカスジベッコウトンボ Neurothemis ramburii ramburii (Brauer, 1866)
・ウスバキトンボ Pantala flavescens (Fabricius, 1798)
・ベニトンボ Trithemis aurora (Burmeister, 1839)
・オオハラビロトンボ Lyriothemis elegantissima Selys, 1883
・ハラボソトンボ Orthetrum sabina sabina (Drury, 1770)
・コフキショウジョウトンボ O. pruinosum neglectum (Rambur, 1842)
・オキナワオオシオカラトンボ O. melania ryukyuense Sasamoto et Futahashi, 2013

次回は均翅亜目のトンボを紹介します.

カテゴリー: エッセイ, 県外のトンボ | No. 951. 沖縄県のトンボたち 不均翅亜目-2.2024.4.23. はコメントを受け付けていません