No. 972. 沖縄県のトンボたち 3.2024.6.27.

沖縄県のトンボたちの第3節です.今回はあちこち移動するよりも,1ヶ所でじっと待つような観察を行ったので,6/23~6/25までの3日間活動した割には,出会った種数が少ない感じです.今回も均翅亜目にはあまり多くで会うことがありませんでした.イトトンボの類が少ないのは何故なのでしょう?.

■カラスヤンマ Chlorogomphus brunneus brunneus Oguma, 1926
沖縄県には,カラスヤンマ,オキナワミナミヤンマ,イリオモテミナミヤンマの3種のミナミヤンマ科のトンボが棲息しています.この中でもっとも出会いやすいのが,カラスヤンマです.イリオモテミナミヤンマには通過するオス3頭しか出会えなかったこともあり,カラスヤンマにはぜひメスに出会いたいという強い気持ちで観察に挑みました.オキナワミナミヤンマには出会うのが難しく,運がよければくらいの気持ちです.

運良く,2日目の観察で,カラスヤンマの産卵に出くわしました.


▲9:40頃.産卵場所と決めた小さな砂州のまわりを飛び回るカラスヤンマのメス.▲

はじめこれを見たとき,黒いチョウが水を飲みに降りてきたように見えました.実は第1日目も水を飲みに降りてきたカラスヤンマのメスを見ていたのですが,このときもしばらくはチョウかと思って見ていました.それくらい黒い翅がひらひらと羽ばたくように見える飛び方です.今回は2回目の遭遇なのに,まだ間違っているのですから学習能力が足りませんね.しかしそれが幸いしたかもしれません.チョウだと思って近づいていったので,こちらに「行くぞ!といった殺気」がなく,相手を警戒させなかったような私の動きでした.近づいても動じることなく産卵を続けていました.こういうの,メスの方が神経が図太くどっしりと構えています.


▲産卵に入ったカラスヤンマ.▲

産卵は水があるかないかというような,砂州に腹端を打ちつけて行います.これは四国で見たミナミヤンマと同じです.砂州の上をぐるぐると回るように飛行しながら,腹端を打ちつけ放卵するポイントを探っているように見えます.そしてやがてポイントを決めたら,ほぼ直立に降下するようにして,腹端を小石やその隙間に打ちつけます.


▲腹端を小石に打ちつけて放卵する瞬間.連写の3コマ,約1/3秒の動き▲

この3枚の一番上の写真ではトンボにピントが来ていますが,砂州のピントが合っている部分はほぼトンボと同じ距離にあると考えられますので,腹端を打ちつけるポイントのほぼ真上から垂直な姿勢に変えて砂州に降下していることが分かります.腹端を打ちつけた瞬間には腹部先端がその衝撃で背側に曲がっているのが分かります.周辺を旋回する飛行では腹端はむしろ腹部側に曲げられています.これが背側に曲がることで産卵弁が開き,卵が放出されるのかもしれません.

産卵は2分ほど続きました.短かったですが,出会えてよかったと思います.もちろんその後待ち続けましたが,産卵には来ませんでした.ただ水を飲みに降りてきたメスがいて,これは流れの上の木の枝に止まりました.これはその後数分で飛び去りました.


▲10:45頃.水を飲みに来てしばらく止まったカラスヤンマのメス.▲

さらに待ち続けますと,今度はオスが流れの上20mくらいの距離を往復しながら飛翔し始めました.オスは飛んでも短時間で飛び去ることが多かったのですが,このオスは5分近くも飛び続けてくれました.しかし飛ぶスピードはとても速くて,オオヤマトンボが飛ぶような感じよりもっと速いです.とにかくシャッターを切らなきゃ写らないという気持ちで173回シャッターを切りましたら,3枚だけピントが来ていました.1.7%の成功率です.まあこんなものでしょう.


▲11:30頃.流れの上を往復飛翔するカラスヤンマのオス.▲

第1日目も,オスが水を飲みに来た後木に止まったのを見ています.これもなかなか見られないような気がします.しかし飛んでいるオスがとてもスマートなので,ちょっと気に入ってしまいました.


▲水を飲みに来た後止まったカラスヤンマのオス.▲

こうなったらもうとことん挑戦してやろうという気になり,山道に静止するカラスヤンマを探しに行くことにしました.一応オスもメスも写真に収めることができましたので,ダメモトで気持ちには余裕がありました.ところが,こんな時に限って見つかるものなんですよね.2m位の高さの小枝に止まるメスがいました.低い位置に止まっていることはあまりないそうなので,これまたラッキーでした.


▲13:30頃.小枝の先に止まるカラスヤンマのメス.▲

これを見ているときに,林の中を出たり入ったりするような飛び方をする,カラスヤンマのオスを見ました.止まりに来たのかと思ってしばらく見ていても止まりません.その動きから推察すると,どうも止まっているメスを探しているような感じです.このオスがこと止まっているメスを見つけたら面白い瞬間が撮れるなどと考えしばらく待機しましたが,残念ながらそれはありませんでした.

お別れに,ストロボを使わず自然光だけで,ISO2500にして撮ってみました.私は色をはっきりと出したいので必ずストロボを使うのですが,ギラギラ光るのが嫌われるのか,あまりストロボを付けて撮っている人は見かけません.


▲木漏れ日で翅が透けるように撮ってみた.1/200,ISO2,500.▲

いろいろな状態のカラスヤンマが観察できたので,もう十分だと感じていました.しかしまだ一つ出会いが残っていました.トビイロヤンマを観察に夕方出かけたところで,黄昏摂食飛翔するカラスヤンマに出会いました.オスもメスも摂食していましたし,水田の植物ぎりぎりの低いところを飛んで摂食する個体もいました.結構よく出てくるトンボなんですね,カラスヤンマというのは...,それだけ数が多いということかも...


▲18:30頃.黄昏摂食飛翔をするカラスヤンマのメス.▲

沖縄は,明石の標準時と時差が40分ぐらいあるそうで,18:30といっても兵庫県では17:50ぐらいです.まだトンボに陽が当たっています.まあこういうことで,この日はカラスヤンマに出会うことが多かった一日でした.

■オキナワオオシオカラトンボ Orthetrum melania ryukyuense Sasamoto et Futahashi, 2013
第3節でもう一つぜひ見たかったトンボがあります.それはオキナワオオシオカラトンボのメスです.またオオシオカラトンボが出てきましたが,今回の旅行では,ヤエヤマオオシオカラトンボとオキナワオオシオカラトンボのメスの写真を是非とも撮りたかったのです.腹部で黄褐色をしている腹節の数が違うからです.


▲オオシオカラトンボ3亜種のメスの比較.腹部先端の黒色部の腹節が異なる.▲

オキナワオオシオカラトンボは,ヤエヤマオオシオカラトンボに比べると,ごく普通に出会うことができました.まさにもっとも普通のトンボの一つという感じです.これを見たとき,ますます,八重山のオオシオカラトンボがアカスジベッコウトンボやコフキショウジョウトンボに追いやられているのではないかという印象を,強く持ちました.沖縄本島にはアカスジベッコウトンボはまだ入って来ていませんしコフキショウジョウトンボは分布していません.オオシオカラトンボのいる環境にはオオシオカラトンボがいる,ということで,この3日間オキナワオオシオカラトンボには各地で出会うことができました.


▲オキナワオオシオカラトンボのオス.下はほぼ腹端まで青灰色をしている.▲


▲オキナワオオシオカラトンボのメス.腹部第7節まで黄褐色をしている.▲

第1日目に見た,道路に水があふれている場所では,3組以上のペアが産卵に訪れました.産卵の様式は他の亜種と変わりありません.オスがメスに接近し,上から押さえ込むようにして警護する(というか産卵を強制する)姿もそっくりです.


▲オスはメスに非常に接近して警護する.▲

こうやって写真を見ていると,メスは別種のトンボのように見えてしまいます.こんなことに興味を抱く私は,やはりカルト的なんでしょうね.珍しいトンボを一生懸命追いかける方がよほど普通の人の感覚かもしれません.

■オキナワオジロサナエ Stylogomphus ryukyuanus asatoi Asahina, 1972
オキナワオジロサナエはチビサナエの亜種です.6月上旬に羽化するサナエトンボですので,まだ出始めで,産卵は期待できないかもしれないと思っていました.現に処女飛行に飛び立つのを2回見ました.またオスの姿を全く見なかったことも,まだ出現の初期だったからかもしれません.


▲6/25,最終日に細流で飛び立つのを見たオキナワオジロサナエのオス.▲

しかし私がわざわざ神戸から見に行ったからでしょうか? 1頭だけ産卵に訪れました.兵庫県で見たオジロサナエの産卵とは異なり,ホバリングしたまま卵塊をつくっているようで,静止して卵塊をつくる行動は見られませんでした.


▲産卵に入って来たオキナワオジロサナエのメス.▲


▲腹端を打ちつける位置を確認しているのだろうか.▲


▲産卵場所はカラスヤンマと同様,砂州である.▲


▲腹端を腹面側に曲げたまま腹部を産卵基質に打ちつけている.▲

「チビサナエ」という原名の通りで,本当に小さく可憐なサナエトンボです.

■トビイロヤンマ Anaciaeschna jaspidea (Burmeister, 1839)
トビイロヤンマは,春の沖縄旅行からのテーマです.でもこのトンボは撮影が難しいトンボであることが身にしみて分かりました.今回は夕方に一度産地へ出かけました.17:00過ぎに現地に着いたのですが,もうトビイロヤンマはたくさん飛んでいました.ただ飛び方が摂食飛翔とは明らかに違います.探雌飛翔といった方がいい感じです.

まるでアオヤンマのごとく,水田に生えている植物の間に深くもぐり込み,何かを探しているような仕草です.そしてもぐり込んだ姿が見えなくなったかと思うと,ちょっと位置を変えてふわっと植物の上に浮き上がってきます.そして少し飛んでまたもぐり込みと,同じような行動を繰り返しています.数は結構多く,30頭ぐらいはいたでしょうか.あっちでふわり,こっちでふわりと,もうカメラを構えて見ている方は,モグラたたきに挑戦しているような気分でした.

それほど速い動きではないものの,姿が見えなくなるのでピントを追い続けることができず,この辺に出てきそうだと思えるところにピントを合わせ,出てくるのを待つといった撮影方法でした.目の前1mほどで飛んでくれたこともありましたが,当然予測が外れることが多く,撮影はほとんどうまくいきませんでした.


▲植物の間から浮き上がってきた瞬間のトビイロヤンマ.▲

ときどきトビイロヤンマの羽化や産卵の写真が出ていますが,これは相当幸運に見舞われた結果ではないかと思えました.またはそういう時間帯があるのかもしれません.遠方から訪れた一見さんが簡単に撮れる相手ではないようです.

しかし,これだけたくさんのオスが次々にもぐり込んで,仮にメスを探しているなら,交尾態になって飛び出るペアを全く見なかったことが不思議です.やはり別の目的があるのでしょうか.謎は深まるばかりです.

■リュウキュウハグロトンボ Matrona japonica (Forster, 1897)
リュウキュウハグロトンボの産卵を見たいと思っていました.オスは川でなわばり活動をしていましたし,メスも現れましたが,交尾や産卵を見ることがありませんでした.ただ残念だったのは,飛んできたメスの腹端が濡れており,これはどこかで産卵をしていたことは間違いないと思います.オスがそのメスのすぐそばに止まりましたが,そのオスはメスに関心を示しませんでした.交尾して産卵済みのメスだったからかもしれません.


▲なわばりオス.岸の植物に止まって周囲を監視している.▲


▲産卵管を清掃しているリュウキュウハグロトンボのメス.▲


▲この写真で,腹部先端が濡れているのが分かる.▲

■リュウキュウルリモントンボ Coeliccia ryukyuensis ryukyuensis Asahina, 1951
これも産卵が見たかったトンボです.しかし結局見ることはできませんでした.交尾しているペアだけは見ることができましたので,成熟したメスの姿もやっと見ることができました.


▲リュウキュウルリモントンボのオスは見つけることができるようになった.▲

交尾は薄暗い樹陰の奥で行われていて,写真に撮るのも難しい場所でした.タンデムになってだらんとした状態を発見し,その後交尾に至りました.交尾の写真を見ていると,メスの産卵管の部分が異常に大きく見えます.図鑑によると落ち葉などに産卵するとありますが,相当硬い物にも産卵することが可能なように見えます.オオアオイトトンボのような雰囲気のある腹部先端です.


▲メスの産卵管の部分がすごく太くしっかりしているように見える.▲

成熟した単独メスを見かけることはできませんでした.しかし羽化直後と思われるメスを見ました.胸部に赤い線が見えているのが面白いです.アマミルリモントンボの羽化直後のメスにはこのような赤い線は見当たりませんでした.


▲リュウキュウルリモントンボの羽化直後のメス.▲

マサキルリモントンボ,アマミルリモントンボ,リュウキュウルリモントンボと,いずれも産卵を見ることができませんでした.なかなか手強いトンボたちです.

■ヤンバルトゲオトンボ Rhipidolestes shozoi Ishida, 2005
トゲオトンボがまだ生き残っていました.翅端が黒くないし顔面も赤くないのでヤンバルトゲオトンボだと思いますが,オキナワトゲオトンボの可能性もあります.ここはちょうど分布境界で両種が混生しているところだそうです.


▲比較的明るいところに止まっていた.背景が緑というのも珍しい.▲

■その他のトンボたち other odonates found in this Island.
第3節は川が中心のトンボ探索でした.最終日は池に行ってみたくて,アクセス可能なダム湖を訪れてみました.いろいろなトンボたちが見られました.まだ沖縄本島にはベニトンボが優勢な感じがしました.少し北になるだけでずいぶんと生物季節の進み方が違うように思えます.


▲ベニトンボがいるとなぜだかホッとする.▲

沖縄県ではヒメハネビロトンボを見ることが多いのですが,ハネビロトンボが単独で産卵しているのを見かけました.ただダム湖の上から見下ろした場所で,あまりはっきりとしません.


▲単独産卵をするハネビロトンボに,他のトンボたちがまとわりつく.▲

この池には,タイワンウチワヤンマやオオヤマトンボも活動をしていました.そしてオオキイロトンボも連結で飛び回り,産卵場所を探していました.水面に水草などが浮かぶところが好みのはずですので,そういうところで待ち続けますと,ワンチャンスありました.上から見下ろす構図なので,翅が全部見えて特徴がよく分かる写真になりました.


▲オオキイロトンボの打水後の上昇.▲

最終日,最後に見たトンボはオオハラビロトンボのメスでした.この旅行,最初に出会ったのがホテルの駐車場でのオオハラビロトンボのメス.なんか因縁めいたものを感じますね.


▲木陰で休むオオハラビロトンボのメス.▲

ということで,往き帰りおよび途中移動の移動日を含めて13日間の旅行は終わりを告げました.写真は5000枚ぐらい撮ったような気がします.またどこかへ行こうと考えています.今年は兵庫県以外のトンボ情報が多くなりそうな年です.

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