No. 969. 沖縄県のトンボたち 1-1.2024.6.20.

おそらくこれは一生に一度になるでしょう.6月14日より,ゆったりとした日程で沖縄県のトンボたちに接しに出かけました.沖縄本島はこの時期梅雨末期の大雨で,災害級の雨が降り続けました.しかし私はもっと南の方からトンボを見に行く予定を立てましたので,大雨には見舞われませんでしたが,それでも空は厚い雲でおおわれ続け,あまりいい条件とは言えませんでした.

この旅行は3つの節に分けています.まずはその第1節の1回目です.それでは最初は均翅亜目のトンボたちについてまとめてみたいと思います.

■カワトンボ科 Family Calopterygidae Selys, 1850

◆クロイワカワトンボ Psolodesmus kuroiwae Oguma, 1913
春に沖縄へ行ったときには,たった1頭しか姿を見ることができませんでしたが,今回はたくさんの個体と出会うことができました.でも今回はいわゆる川には入らなかったので,川のそばの山道やそこを横切る小さな沢で出会った個体が多かったです.


▲クロイワカワトンボの成熟オス.6/15.▲

▲クロイワカワトンボ.オスの縁紋が白くなりつつある.6/16.▲


▲クロイワカワトンボのメス.6/16.▲


▲クロイワカワトンボのオス.縁紋が黒くなっている.6/16.▲

クロイワカワトンボは,羽化して間もないときには縁紋が黒い色をしているということです.ですから上の写真は羽化して間がないという感じですね.さらにその上の6/15 撮影分のははっきりとした白色で,胸部の節の部分も白粉が吹いているように見え,成熟していることが分かります.その下のオスの写真は,縁紋が白くなりかけている感じです.縁紋の色がこのように変化していくのでしょう.


▲メスもオスも翅のはばたき運動を行う.6/16.▲

■ハナダカトンボ科 Family Chlorocyphidae Cowley, 1937

◆ヤエヤマハナダカトンボ Rhinocypha uenoi Asahina, 1964
台湾に行ったときに初めて見たハナダカトンボの行動に非常に興味を持ち,ぜひ日本産で見てみたいと,会いに出かけてきました.天候もあり,必ず見られるとは限らない中,かなり時間をかけて記録地に行ってみました.この歩き,ものすごく歳を感じました.息切れはするしスピードが出ません.先を行く老夫婦にも置いて行かれます.最もこちらはトンボを探しながらしょっちゅう立ち止まりますから,余計にそうなります.現地に近づくと,いました.オスが2頭いました.


▲現地について初めて見つけたヤエヤマハナダカトンボのオス.6/16.▲

見つけたオスは,少し離れた細い枝の先に止まっていました.近づくことはできませんので,遠くから撮りました.もう1頭はこのオスに追われてどこかへ姿を消しました.やがて,このオスは川面に下り,太い倒木に止まりました.すぐ横には水に濡れた産卵基質となりそうな倒木があります.これはうまくいくと産卵にメスがやって来るかもしれません.またもう1頭のオスとバトルが繰り広げられるかもしれません.まずは川に下りてこのオスを撮りました.


▲ヤエヤマハナダカトンボのオス.同じ個体.▲

まだほかにもいるかもしれないと思い,このオスを置いて少し別の場所を探索しに行きました.すると,なんたること,子供連れの一家が網を持ってそのオスを採ってしまったのです.「ヤエヤマハナダカトンボだ」とか言っています.これでは,オス同士のバトルも産卵メスとのやりとりも見ることはできません.ヒトがやって来ることが少ないこの場所に,よりによって網を持った昆虫採集少年が来るなんて,がっかりです.

この一家が去ってしばらくすると,もう1頭のオスがその場所にやって来ました.


▲もう1頭のオス.やはりこの場所が一番いいのだろう.▲

この1日を,ほぼヤエヤマハナダカトンボのためにだけ使ったのですが,結局,オス同士のバトルも,メスの産卵も見ることなく,観察を終えました.もう少し別の場所へ移動してヤエヤマハナダカトンボを探しても良かったのですが,移動・探索時間が惜しかったのと,産卵に来そうな場所でもあったので,ここで粘ることにしたのです.賭に負けましたね.ヤエヤマハナダカトンボも翅の打ち下ろし運動をするようです.


▲ものすごいスピードで翅の打ち下ろし運動を行うヤエヤマハナダカトンボ.▲

■ミナミカワトンボ科 Family Euphaeidae Selys, 1853

◆コナカハグロトンボ Euphaea yayeyamana Oguma, 1913
今回チビカワトンボは,川にも入らなかったし,時期が遅かったのか,出会うことはありませんでした.これは第2節に持ち越しです.コナカハグロトンボは,あちこちにいることが分かりました.およそ流れがあるところには,1,2頭は止まっていました.


▲流れから離れた山道に止まっていたコナカハグロトンボのオスとメス.6/15.▲

ヤエヤマハナダカトンボのいた流れでは,コナカハグロトンボのオスが羽化をしていました.これを見ていて子供にヤエヤマハナダカトンボを採られてしまったのです.この幼虫はカゲロウのような形態をしており,それもバッチリ撮ることができました.


▲コナカハグロトンボの羽化.流れの中の岩に着いていた.6/16.▲

■モノサシトンボ科 Family Platycnemididae Tillyard et Fraser, 1938

◆マサキルリモントンボ Coeliccia flavicauda masakii Asahina, 1951
奄美大島へ行ったときには,アマミルリモントンボをたくさん見ることができました.ただしオスだけでしたが.春に見ることができなかったマサキルリモントンボも,今の時期ならたくさん見られるだろうと思っていました.しかしこれが意外と難しいことを思い知らされました.いるにはいましたが,見つけた場所はどこもオス1頭がぽつんといるだけでした.アマミルリモントンボと同じでメスは見つかりませんでした.ルリモントンボたちのメスはどこに隠れているのでしょう.またひとつ私にとっての不思議が増えました.


▲マサキルリモントンボのオスたち.別々の場所で撮影.6/15と6/16.▲

■イトトンボ科 Family Coenagrionidae

◆リュウキュウベニイトトンボ Ceriagrion auranticum ryukyuanum Asahina, 1967
今回は意外なことにイトトンボ類にほとんど出会いませんでした.そんな中で,リュウキュウベニイトトンボだけは繁殖活動をしているところを観察できました.ただ,リュウキュウベニイトトンボは明るい池の住人のようなイメージを持っているのですが,私が見たのは,暗い林内の池でした.季節がちょうどサガリバナが咲く時期だったので,サガリバナに止まるリュウキュウベニイトトンボという,ちょっと粋な構図の写真が撮れました.


▲今はちょうどサガリバナの咲く季節.▲


▲サガリバナの落ちた花に止まるリュウキュウベニイトトンボのペア.6/19.▲

このペアはサガリバナには産卵をしませんでした.このオス,赤いダニがたくさんついています.自然が豊かな印とも言えるでしょう.


▲単独オスもいて,追いかけ合いをしていた.6/19.▲

イトトンボ科では,あと,ムスジイトトンボとアオモンイトトンボを見ました.まずは第1節の均翅亜目について紹介しました.次回は不均翅亜目です.

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