No. 1018. 兵庫県北部調査モード(1).2025.5.13.

毎年同じ時期に同じような場所でトンボを観察し続けています.これはこれでトンボの経年的な移り変わりを知ることができ意味のあることだと思っていますが,今年は調査範囲を広げていろいろな状況の確認や新しい分布知見を得ることに少しシフトしています.5月の中旬,晴れの日が二日間続くという予報で,まず過去の記録をたどって現状を自身の目で見てみることにしました.

調査目的は,フタスジサナエやタベサナエといった兵庫県では南部に分布中心のあるトンボたちの県内北限を見に行くことです.これらに関してはすでに50年以上前から調査が入っていてだいたいの北限生息地が分かっていますし,最近も調査が入っていて報告も出ています.コサナエ属という視点で私が兵庫県北部に出かけるのは,コサナエを見に行くためです.しかし北部である豊岡市にもフタスジサナエやタベサナエが分布しています.合わせて例年とはちょっと違った感じに見えるこの時期のトンボの様子も確認に出かけました.

まずはホンサナエのようすから.ホンサナエは5月8日に観察に出かけたときには,例年と違った行動をとっていることを報告し,それはまだ繁殖開始初期のせいかもしれないと考えました.あれから5日ほどたった今日の様子はというと,例年通りのオスたちの動きでした.地面に止まったり水面上をホバリングするように飛んだりしていました.ただ個体数は例年より少なかったようです.


▲9時過ぎ,いつも通りの活動をしていたホンサナエのオスたち.▲

ということで,フタスジサナエたちを探しに行くことにしました.最初の池はヒシの葉が浮かび,やたらトラフトンボが多かった池でした.池がやや大きいせいかトラフトンボは軽く10頭以上は飛んでおり,交尾態も2ペア入って来ました.クロスジギンヤンマ,モノサシトンボの羽化直後,クロイトトンボなどがいましたが,トンボ相は割合単純でした.目的のフタスジサナエは見つからずじまいでした.


▲トラフトンボは今が盛りといった感じであった.ちょっと例年より遅い感じか?▲


▲モノサシトンボの羽化間もない個体.同じ状態のものが数頭見られた.▲

次は少し標高の高いところへ,ダビドサナエを探しに行くことにしました.最近ダビドサナエの姿が見られないのが非常に気になっています.本格的には幼虫調査が一番いいのですが,今の時期はもう成虫です.上流部の流れをのぞいてみましたが,全く出会うことがありませんでした.そこもシオヤトンボとアサヒナカワトンボだけです.もう少し中流よりがいいのかもしれません.


▲上流部にはシオヤトンボとアサヒナカワトンボがいるばかり.11:00ごろ.▲

ダビドサナエに出会うことができませんでしたので,近くの池に行ってみました.ここも過去には調査されていて,タベサナエが記録されています.池は水がほとんどなく湿地状態になっていました.ホソミオツネントンボとホソミイトトンボ,そしてシオヤトンボが活動していました.標高が高いせいか,ちょっと平地より時期的に遅い感じがします.平地ではゴールデンウィークあたりのイメージです.タベサナエは確認できませんでした.


▲ホソミオツネントンボが軽く10数頭は活動していた.▲


▲ホソミイトトンボは2頭ほど確認できた.いずれも,12:20ごろ.▲


▲シオヤトンボも元気に活動をしていた.メスは池の外で撮影.▲

こういった調査は,転々と移動しながら,慣れない池のまわりを踏破するというパターンになります.普段行き慣れていないところは車を止める場所を探すのにも時間がかかり,離れたところに止めて調査地まで歩いたりするのでこれも時間がかかります.ということで再び平地に下り昼食を済ませて,コサナエ属調査の再開です.もう時刻は14:40になっていました.さすがに夏至も近いので,日が傾いているという感じはしません.そして次の池でやっとフタスジサナエとオグマサナエを見つけることができました.


▲豊岡市のフタスジサナエ.こんな北までやって来ているのだ.▲


▲豊岡市のタベサナエ.これ,意識がなかったら,コサナエで処理しそうである.▲

フタスジサナエは胸側の黒条が2本あって,前肩条もはっきりしているので,見紛うことはありませんが,タベサナエの方は一見するとコサナエと間違ってしまいそうです.今回はタベサナエを探すという意識で調査しているので慎重に見分けていますが,パッと見たらコサナエで済ませてしまうかもしれません.下の写真は別の日に撮ったコサナエの写真ですが,特に前肩条のないタイプについては,どうでしょう.

ーーー コサナエとタベサナエ ーーーーーーーーーーーーーーーーー


▲コサナエで前肩条のないタイプ.5月8日に豊岡市で撮影したもの.▲


▲コサナエ.ふつうは前肩条のある個体が多く,この場合はコサナエといえる.同上.▲

タベサナエのオスは副性器がデカいので,経験的にパッと見てタベサナエであることが分かりましたが,厳密にはオスの場合尾部上付属器上にある突起を確認するのが間違いない方法です.


▲タベサナエオスとコサナエオスの尾部上付属器上の突起の有無.▲

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さて,タベサナエはこの次に訪れた池にもいました.上の比較写真左の個体です.


▲豊岡市のタベサナエ.時刻は15:36.少し陽の傾きを感じるようになってきた.▲

タベサナエのいた池には,ハラビロトンボ5頭ほど,クロイトトンボ数頭が見られました.確認できませんでしたが,オオイトトンボらしい色彩のトンボが飛んだのを目撃しました.

今回フタスジサナエやタベサナエの見つかった池にはコサナエは見つかりませんでした.このあたりは過去の報告と同じです.上の尾部付属器の比較写真の生息地間の距離は,車で15分ほど(直線距離10kmほど)です.本当にフタスジサナエやタベサナエはコサナエとぎりぎり近くまで分布していますね.過去の報告によると分布は重なっていないとのことで,最短の両種分布間距離は4.4kmということです(宮崎,2023).

ということで,コサナエ属の調査を終え,最後にホンサナエの様子を見に行きました.今日は早朝から調査に出ていることもあり夕刻の調査は行いませんので,姿を確認して終えました.


▲朝から晩までホンサナエはよく頑張るヤツだ.16:48.▲

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<参考文献>
宮崎俊行,2023.兵庫県北部のフタスジサナエの分布.Gracile (82):47-50.

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