No. 999. ナニこれ?コバネアオイト.2024.11.12.

今日は,県内で活動されている若いトンボ研究家の案内で,コバネアオイトトンボを見に連れて行ってもらいました.コバネアオイトトンボは私の知っている産地からは次々と姿を消し,県内で見ることがもうかなり難しい状態に追い込まれていました.

とあるため池の前で10:00に待ち合わせて,まずそのため池でマイコアカネを観察しました.池は前回観察に来たときよりかなり水が落ちていました.数は減っていたようですが,まだマイコアカネはいくつか飛んでいました.気温は車の外部温度計で16℃.日は射していますがまだひんやりとする感じで,トンボたちの活動は鈍かったです.他にはオオキトンボが1頭飛ぶのを見ました.またこの池では初めてとなるヒメアカネも見つけました.


▲ヒメアカネのメス.第一の池.▲

次に,目的の池にコバネアオイトトンボを見に行きました.時刻は11:00ころです.この池はヒメガマを中心とした植生の池で,湿地状の部分があり,そこにカンガレイが生えていました.池の開水面は少ないですが,コバネアオイトトンボがいてもおかしくない環境でした.もう絶滅しましたが,かつてマダラナニワトンボとコバネアオイトトンボが共存していた池と,湿地状の部分は雰囲気が似ていました.


▲コバネアオイトトンボのメス.生殖器を清掃しているようだ.▲

コバネアオイトトンボは軽く10頭以上はいました.これで,兵庫県のコバネアオイトトンボの生息する池は,私の知る限り,3つ目となりました.


▲さまざまな色合いを見せるコバネアオイトトンボのオスたち.▲

気温が十分上がりきらないためか11;00を過ぎてもまだ産卵活動を始める個体は見られません,オスはあちこち飛び回り,ときどきオス同士が出会うと簡単な闘争劇を見せてくれます.しばらく待つことにしました.そんなとき,タンデムで飛ぶ個体を見ました.ヒメガマの群落の中の方に飛んでいき,泥深そうなので追跡はためらわれ,指をくわえてみているだけでした.12:00を過ぎたとき,交尾態を発見しました.いよいよ産卵活動を始めるようです.


▲カンガレイに止まって交尾をするコバネアオイトトンボ.向こうはヒメガマ群落.▲

しばらくすると交尾を終了し飛び立ちましたが,これもヒメガマ群落の方に飛んでいきました.コバネアオイトトンボは,通説では,産卵管が華奢なので,カンガレイやサンカクイ,クログワイなどの柔らかい組織を持つ植物体に産卵すると言われています.当サイトのビデオなどでは,ヒメガマに産卵するコバネアオイトトンボを紹介しています.ヒメガマにも産卵することはあるようですが,今回のペアについては見失ったので,それは確認できませんでした.次第に湿地ではメスの姿が目立つようになりました.


▲他に類を見ない茶色と薄緑色のコントラスト,複眼は深緑色.▲

その後特に変化もなく,カンガレイに産卵する姿もありませんので,12:30ごろには昼食をとって次の場所へ移動することにしました.ここもコバネアオイトを見たことがあるとその方が言っていた場所です.着くなりオスのコバネアオイトトンボが足下に止まっていました.


▲池に着くなり姿を見せたコバネアオイトトンボのオス.▲

コバネアオイトトンボはいましたが,この池は広範囲にヒメガマの群落が存在するだけの池でした.もっとも水落しをしていたので,浮葉植物の残骸があちこちにあったことから考えると,満水時には結構いい感じの池なのかもしれません.カンガレイ,サンカクイ,クログワイといった,コバネアオイトトンボの産卵植物は見当たりません.ところが,この池に,コバネアオイトトンボの産卵ペアがいくつも見られたのです.

▲産卵するコバネアオイトトンボたち.すべてヒメガマに産卵している.▲

ナニこれ!?

驚きを隠せませんでした.こんなヒメガマだけが生えているような池にコバネアオイトトンボがたくさんいて,みんなヒメガマに産卵している.「何と言うことでしょう」某テレビ番組のナレーションが聞こえるようでした.こんなヒメガマの池にコバネアオイトトンボが生息しているとなると,コバネアオイトトンボ探しの方針を根本的に見直さなければなりません.

コバネアオイトトンボがヒメガマに産卵するときは,すべてではありませんが多くの場合,ヒメガマの葉の傷んでいるところをねらったり,また枯れ葉に,メスは産卵管を突き立てるように見えます.


▲葉が褐色に変色し傷んでいるような部分に産卵しようとするメス.▲

ヒメガマは,産卵するコバネアオイトトンボにとってはかなり難敵のように思います.コバネアオイトトンボの産卵する場所選択は,メスに主導権があるようです.場所が気に入らなければメスが先に飛び立ってオスはそれにつられて飛び立ちます.これらの観察記録は当サイトのビデオをご覧ください.

この池では,交尾態やタンデムで飛び回るペアもいました.


▲その他のコバネアオイトトンボのペアたち.▲

今日はいい勉強になったのと同時に,先入観が怖いものだということをまたもや思い知らされました.力が抜けたという感じです.そのほか,単独の個体もたくさんいました.


▲「この茶金色に薄緑色の色彩には気品を感じさせられる」とは私だけか?▲


▲上とは全く異なる緑金色のコバネアオイトトンボのオス.▲


▲茶金色をしているコバネアオイトトンボのメス.▲


▲オス(上)とメス(下)の顔のアップ.▲

さて,今日の観察では,少数のアオイトトンボ,オオアオイトトンボも見られました.そしてもう一つアオイトトンボ科のトンボを見ました.秋のアオイトトンボ科は3種ですが,4種目として,オツネントンボに出会ったのです.


▲アオイトトンボの生き残り.▲


▲コバネアオイトトンボに混じってオオアオイトトンボも見られた.▲


▲これもアオイトトンボ科,オツネントンボ.ゆっくりと冬を越してください.▲

アカトンボもいろいろと生き残っていました.3つの池で見たのをまとめておくと,アキアカネ,ナツアカネ,マユタテアカネ,マイコアカネ,ヒメアカネ,リスアカネ,キトンボ,オオキトンボでした.今日訪れた3つの池にはすべてマイコアカネがいました.コバネアオイトトンボは言うに及ばず,最近減ったマイコアカネがまだたくさん見られたことは特筆に値します.今日の池は兵庫県で重要なトンボ生息地といえるでしょう.


▲マイコアカネたち.▲

それにしても,今日は,ナニこれ?コバネアオイトでした.

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