沖縄県のトンボ観察旅行の第2節です.島を移動し,第1節では見られなかったトンボたちを中心に,観察を行いました.6月20,21日の2日間だけでしたが,梅雨明けが宣言され,第1節に比べると青空が戻ってきたようです.また夏至でもあります.そんな第1日目,まだ前日の雨のあとが道路の水たまりとなって残っている状態でした.でもその水たまりに,ヒメトンボ,ハラボソトンボなどが集まっているのが不思議でした.一時的水域というのも彼らにとっては興味の対象なのでしょうね.
■オオキイロトンボ Hydrobasileus croceus (Brauer, 1867)
さて,第2節の一番のねらいは,オオキイロトンボです.このトンボはそれほど珍しい種ではなく,いるところへ行けば普通に見られる種類です.ただ,よく似たハネビロトンボが好きな私には,魅力的なトンボです.
▲タンデムで飛行するオオキイロトンボ.▲
朝現地に着くと,もはやオオキイロトンボがタンデムで飛んでいました.オオキイロトンボのメスはタンデムになっているときに,脚でオスの腹部にしがみついているのが面白いです.このトンボは飛び方が速く急旋回したりもするので,振り回されるメスは首が折れないようにこのような姿勢をとっているのかもしれません.
▲池を飛び回るオオキイロトンボのペア.▲
オオキイロトンボはタンデムで良く飛び回るのですが,なかなか産卵の行動を行いません.またすぐに池から飛び出し,どこかを周回してから,また池に戻ってくるような動きをします.それでも時間が10時を過ぎたあたりになると,ときどき連結で打水する動きを見せるようになりました.この瞬間は飛行スピードが落ちるのでシャッターチャンスなのですが,その前兆が分かりませんのでなかなか難しい.
そんなとき遠くの方で,オスがメスを放し,メスが水面上でホバリングする動きが見られました.遠すぎてちょっと写真にはきつかったですが,行動が分かるほどには撮れました.
▲オスがメスを放し,メスは水面のすぐ上でホバリングを始めた.▲
このメスの動きが面白いのです.「動き」と書きましたが,実は「動かない」のです.他のオスが来てちょっかいをかけようが,何しようが,同じ一点でじっとホバリングしているのです.多分卵塊をつくっているのではないでしょうか.
▲他のオスがちょっかいをかけに来て動かず...▲
▲交尾オスが近づいてきても動かず...▲
別のカットでは,腹端に薄緑色の卵塊らしきものが見えました.ですから多分この状態で卵塊を形成していると思ったわけですが,その証拠写真は撮れませんでした.
▲卵塊だと思われるものを腹端に付けて飛ぶメス.▲
■アカスジベッコウトンボ Neurothemis ramburii ramburii (Brauer, 1866)
このトンボは本当に八重山地方では増加していることが実感されます.ここでもあちこちに止まっていて活動をしていました.ここではメスを紹介しておきましょう.まずは産卵に入って来たメスです.
▲産卵にやって来たメスのアカスジベッコウトンボ.打水産卵である.▲
水面に浮遊物のあるようなところで打水産卵をしています.湿地や浅い水域によく見られるので,池でもこのような水中が見えないようなところを好むのかもしれません.
一方で,メスは普段は池から離れたところにいるようです.山道を登っていく途中にメスたちが止まっていました.こちらはまだやや未熟な感じはします.結構分散する性質があるようです.
▲近くに池がないような山道で過ごすやや未熟なメスたち.▲
コフキショウジョウトンボでも負けそうなくらい闘争にも強いし,分散力があって分布を広げる力もあるようです.今後沖縄県のトンボ集団を変える力があるようなトンボです.
■ヒメトンボ Diplacodes trivialis (Rambur, 1842)
ヒメトンボの産卵を見たいとずっと思いながら,ヒメトンボの動きに注意していました.やっとのことで叶いました.アカスジベッコウトンボが産卵した場所と全く同じ場所にヒメトンボのメスが入り,打水産卵を行いました.オスがそばにいて警護していました.
▲ヒメトンボの打水産卵.▲
ちっちゃなトンボですが,動きはかくっかくっとした感じで,きびきびしています.
■タイリクショウジョウトンボ Crocothemis servilia servilia (Drury, 1770)
4月下旬に来たときには,この場所でもっとも数が多かったのはベニトンボでした.でも6月下旬の今回,ベニトンボに変わってタイリクショウジョウトンボが優先的な種になっていました.南国でもやはりトンボが移り変わっていくのですね.
▲タイリクショウジョウトンボのオスと浮葉の上に産卵するメス.▲
■ベニトンボ Trithemis aurora (Burmeister, 1839)
ベニトンボは姿を消したわけではありません.池よりむしろ川に入っていました.ただ数は多くはありませんでした.ベニトンボは春に1回目の出現ピークがあり,また後に2回目のピークがあるのかもしれません.奈良県などの観察ではそのようにいわれています.
▲流れに入って活動しているベニトンボ.▲
▲朝に同じ場所を訪れると,オスメスとも草むらの中に止まっていた.▲
■コシブトトンボ Acisoma panorpoides panorpoides Rambur, 1842
ベニトンボと一緒にコシブトトンボも草むらの中に潜って朝を迎えていました.
▲コシブトトンボは生殖活動をまだ見ていない.▲
■タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax (Hagen in Selys, 1854)
春にはほとんど姿を見なかったタイワンウチワヤンマも,数が増えて,池での活動が盛んに行われていました.メスも産卵に入って来ましたが,止まったあと,1回打水して飛び去りました.この場所も,先のアカスジベッコウトンボやヒメトンボの産卵場所と同じです.水面に植物が密に浮かんでいる場所というのは,さまざまの打水産卵をするトンボにとって,産卵基質として重要な役割を果たしているようです.
▲棒の先に止まるのでなく池岸のコンクリートに止まってなわばりを張っている.▲
▲産卵にやって来たタイワンウチワヤンマのメス.交尾後に静止.▲
このコンクリートに止まるオス君は,私がオオキイロトンボをねらっているときにずっと一緒にいたヤツで,仲間といったところでしょうか.メスは黄斑がちょっとこちらのより大きい気がします.
■ハラボソトンボ Orthetrum sabina sabina (Drury, 1770)
ハラボソトンボは,やはり池よりは水田地帯に多いトンボです.カンカン照りの日中に日向で活動しているトンボです.珍しくメスも混じって止まっていました.
▲ハラボソトンボのオス(上)とメス(下).14時頃の暑さも平気なようだ.▲
■コナカハグロトンボ Euphaea yayeyamana Oguma, 1913
流れには相変わらずコナカハグロトンボがいます.昔のような大群が群れているところには出会いませんでしたが,どこにでも,流水があればいるといった感じでした.ここではメスばかりを出しておきます.翅が真っ黒です.
▲およそ流れがあれば必ずいるコナカハグロトンボのメスたち.▲
■ヒメホソサナエ Leptogomphus yayeyamensis Oguma, 1926
コナカハグロトンボを見て,チビカワトンボがまだ残っているかもしれないと思い,山に登って上流を目指しました.しかし,もう時期が遅かったのか,登る標高がまだ足りなかったのか,見つけることはできませんでした.そのかわり,ヒメホソサナエが3頭ほど流れにいました.ところが,これが全部メスなのです.産卵しているわけでもありません.普通流れにいるとすればオスの可能性が高いと思うのですが,全部メスとは,...このトンボ,どういった生活をしているのでしょうか.前にも言ったように思いますが,不思議なトンボです.
▲こんな感じで,何もせず流れの畔に止まっているヒメホソサナエのメス.▲
▲流れで,何もしないメスばかりに出会う,不思議なトンボだ.▲
といった感じで,第2節は,普通種ばかりになりました.ヒナヤマトンボも探索に挑戦しましたが,水量がまだ多く,ちょっと飛ぶ気配がありませんでした.時間が遅かったせいかもしれません.それでも中心のねらいはオオキイロトンボでしたから,まあ,目標は達成した感じです.あと,オキナワチョウトンボ,ウスバキトンボ,オオヤマトンボ,ヒメハネビロトンボ,コフキショウジョウトンボなども飛んでいました.リュウキュウベニイトトンボはちょっと立ち寄った公園で見つけています.
普通種とはいえ,多様なトンボたちがそこそこの数集まって飛んでいる.やはりこれが自然の姿ですね.昔子供の頃,夏休みに昆虫採集に行ったときのような気分を味わいました.日差しも夏の日差しですしね.
次は第3節です.最後なので少し気合いが入っています.