No. 970. 沖縄県のトンボたち 1-2.2024.6.22.

沖縄県のトンボたちの紹介第1節第2回は,不均翅亜目です.沖縄県には魅力的な不均翅類が生息しています.イリオモテミナミヤンマなどはその最たるものでしょう.私も当然出会いを期待して出かけましたが,実際に出会えたのは飛ぶオス3回だけでした.1回は上空を通過しただけですが,2回は網で採るのが目的なら届くくらいの距離でした.ただほとんどの人は縁取り翅のメスが目的ですから,これでは満足できません.私も同じです.ただ,天候がもう一つで,オスでもよくまあ飛んでくれたと感じてはいます.一過性の通過なので写真は全くムリでした.

その他にも,ワタナベオジロサナエなど,見てみたいトンボたちはいましたが,サナエトンボ類は日が射さないと川に下りてこないので,今回のどんより曇り状態では望み薄.この第1節で川へ入らなかった理由でもあります.最終日に少し日が射したので,下りてきそうな場所へ出かけてみましたが,やはりだめでした.そういったトンボ屋が見てみたい種についてはほとんど成果がありませんでしたが,南の島の普通の不均翅類にはだいたい出会えたように思います.

では紹介していきましょう.

◆ヤンマ科 Family Aeshnidae Burmeister, 1839
ヤンマ科ではオオギンヤンマ,リュウキュウギンヤンマ,ギンヤンマなどを見ましたが写真撮影できるような飛び方ではありませんでした.

■リュウキュウカトリヤンマ Gynacantha ryukyuensis Asahina, 1962
リュウキュウカトリヤンマは出会いをあまり期待していないトンボでした.沖縄にあまり縁がない私には,どこにいるのか全く見当がつかないトンボでした.最終日,少し天気が回復傾向だった日,薄暗い林内の池で偶然産卵に入っていたメスとで会いました.いるとは思わなかったので,不用意に池の畔を歩いてしまい,写真に撮りやすい場所で産卵していたメスを飛ばしてしまいました.しかし逃げることはなく,場所を移動して産卵を続けてくれました.


▲リュウキュウカトリヤンマの産卵.胸部は薄緑色でなく褐色をしている.▲

暗い場所で,黒っぽい土の上に止まって,真っ黒な体色のリュウキュウカトリヤンマが産卵していると,ほとんどその姿を認めることができません.現地ではリュウキュウカトリヤンマがどれくらい普通に見られるのか分かりませんが,最近地元ではカトリヤンマの産卵も見にくくなっていることを考えると,これは結構ラッキーなのではないでしょうか.

この後この個体が飛んで次にどこへ止まったか分からなくなりました.あきらめてしばらくうろうろしましたが,もう一度のぞいたときに飛び立ち,実はより近くで産卵をしていたことが分かりました.ダメですね.

しかし,逃げてしまったようには思えず,時間をおいて何度かのぞいてみました.すると,また産卵していたようで,飛び立ち,すぐ上の木の枝に止まりました.目の前です.こういうラッキーはときどきあります.これが最初と同じ個体かどうかは分かりません.


▲産卵を中断して木の枝に止まったリュウキュウカトリヤンマのメス.▲

さすがにこの個体はどこかへ飛んでいってしまいました.その後も,池の上を飛ぶリュウキュウカトリヤンマらしいトンボを,2,3度見ました.

◆サナエトンボ科 Family Gomphidae Rambur, 1842

■ヒメホソサナエ Leptogomphus yayeyamensis Oguma, 1926
この第1節では川に入らなかったこともあり,ヒメホソサナエには山道で偶然に出会うことを期待するしかありませんでした.もっとも,このヒメホソサナエというトンボはどういった環境を好んで生活しているのか私には不明なので,川に入ったとしても見つけることができるかどうかは分からない種でした.今回は山道を歩いているときに偶然目の前に止まったメス1頭と出会っただけでした.


▲完全背面撮影.ヒメホソサナエのメス.▲

■タイワンウチワヤンマ Ictinogomphus pertinax (Hagen in Selys, 1854)
タイワンウチワヤンマは,1981年に淡路島に初記録が出て以来,兵庫県では普通のトンボになるほど数が増えました.しかしこちらでは意外と出会いがありませんでした.いた証拠みたいな写真だけです.やはり開放的な止水域が少ないせいでしょう.


▲タイワンウチワヤンマのオス.ここの池は開放的な環境だった.▲

◆トンボ科 Family Gomphidae Rambur, 1842
トンボ科は南のトンボの華といえる存在です.ヒメホソサナエを見ても分かるとおり,他の分類群のトンボたちはいずれも本土と大きく変わらない色彩をしているものがほとんどです.これを重宝がるトンボ屋(もちろん私も含みます)はかなりマニアックでカルト的存在です.トンボ科の多くは普通種と言われ,そんなに無理しなくても出会えるものが多いです.でもこれらを集めなければ南の島へ来た意味がないように感じるのは私だけでしょうか.

■ ウミアカトンボ Macrodiplax cora (Brauer, 1867)
ウミアカトンボはちょうど30年前,南大東島で出会ったきりのトンボです.これもどこにいるかはっきりしないトンボですが,とある田園地帯にたくさん止まっていました.未熟な個体もいたので,どこで羽化したのだろうと気になりました.幼虫採集の道具を持参していなかったので,その付近を探索することができませんでした.かつて数多くの幼虫に出会いましたが,ウミアカトンボの幼虫には出会えていません.


▲ウミアカトンボの成熟オス.頭部が不釣り合いに大きく見える.▲

▲ウミアカトンボのメス.▲


▲胸側の模様はアキアカネ的だ.ウミアカトンボのオスとメス.▲

南大東島でもそうでしたが,成熟したオスとメスが混在して止まっていても,全く繁殖活動の気配がなく,ただただ風に向かって風見鶏みたいに止まっているだけのトンボです.

■サイジョウチョウトンボ Rhyothemis regia regia (Brauer, 1867)
このトンボは2020年9月に,与那国島において,日本国内で初めて発見された飛来種です.まだまだ国内では新参のトンボと言えるでしょう.その後分布の広がりも報告されており,今後は定着性が議論される種となるでしょう.今回は3日間同じ場所で飛んでいるのを観察できましたので,かなり個体数を増加させていることが予感されました.まだまだニュースになる種ですので,少し詳しく報告します.

初めて見たのは,6月16日でした.オキナワチョウトンボに混じって飛んでいるのを見ました.翅はボロボロで,いかにも遠くから(海を渡って?)飛んできた感じがする個体でした.


▲水面上を飛ぶサイジョウチョウトンボのオス.6/16.▲

オキナワチョウトンボと激しいバトルを繰り広げています.が,多勢に無勢なのか,あるいは本質的にオキナワチョウトンボの方が強いのか,サイジョウチョウトンボは分が悪いようでした.飛ぶのが速いので写真に撮るのはなかなか難しいと感じていましたら,止まってくれました.


▲止まったサイジョウチョウトンボ.▲


▲前翅と後翅の間の表皮が破損している?.厳しい旅をしてきたのか? 6/16.▲

次に見たのは6月17日です.この日は関東からサイジョウチョウトンボを探しに来ているトンボ屋,というか前身は鳥屋だと言ってましたが,の方々と出会いました.目の数が多いのはすごいことで,その中の一人が見つけました.この日は2頭のサイジョウチョウトンボが入って飛んでいました.そのうちの1頭が,また止まりました.これも目の多さが幸いしています.


▲まだ成熟真っ盛りの感じのするサイジョウチョウトンボ.▲

この日のサイジョウチョウトンボは昨日のようなボロボロの個体ではなく,まだ元気な壮年期とでも言えそうな個体でした.翅の青色の輝きがきれいに残っています.この色だけを見ているとチョウトンボ的です.通常はこんな色をしているんですね.

6月18日はスコールが降ったりして,トンボ観察は雨の合間に行っただけで,サイジョウチョウトンボを見に行っていません.次に見たのは最終日6月19日です.梅雨明け前日で午後は晴れ間が出ました.


▲サイジョウチョウトンボが飛ぶのを見るのは3日目である.▲

写真の翅を形を比べると,この3頭はすべて別個体であることが分かります.少なくとも3頭いたことになります.他の場所も探してみましたが,私が見たのはここだけでした.例のトンボ屋さんは別の場所でも見たと言っていました.やはりかなり数が増えているのではないでしょうか.ただ成虫のオスはオキナワチョウトンボと行動が似通っている(ニッチが重複している)ようで,定着できるかどうかは微妙な感じもしました.それはあまりにもオキナワチョウトンボがどこにでもいるからです.サイジョウチョウトンボが入り込む隙がないような気がもします.

ところで,この記事を書いた後で手元に届いた最新のTOMBO誌Vol.67.には,サイジョウチョウトンボとオキナワチョウトンボの種間雑種の記事がありました.それによると,翅が黄色みを帯びていて,濃色部が金緑色に輝くのは種間雑種の可能性が高いと書かれています(北山ら,2024).今回出会ったサイジョウチョウトンボのうち,翅がボロボロのオスは,やたらに黄色っぽい色をしていますし,濃色部がどちらかといえば緑色に輝いているように見られます.これはオキナワチョウトンボとの種間雑種の可能性が高いのではないでしょうか.下の2枚を比べてみてください.


▲種間雑種ではないと思われる個体.▲


▲種間雑種と思われる個体.▲

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北山択・興膳昌弘・梅田孝・杉村光俊・二橋亮,2024.サイジョウチョウトンボとベッコウチョウトンボの種間雑種.TOMBO 67:81-89.

■オキナワチョウトンボ Rhyothemis variegata imperatrix Selys, 1887
おそらく沖縄に住んでいる人なら誰でも見たことがあるトンボでしょう.それくらいどこにでもいるトンボです.翅の模様の派手さから見ると,いかにも南国のトンボという気がします.私もこの旅行中あちこちで見ました.


▲旅行初日,ホテルへ向かう途中の道路で見かけたオキナワチョウトンボの群飛.▲


▲上の群飛の一部が止まった状態.▲

翅の模様は個体ごとにさまざまですが,オスについては,大きく分けてメス色型と淡色型とでもいえばいいようなタイプがあります(私が勝手に命名).上の写真で上に止まっているのがメス色型で,下のが淡色型です.


▲オキナワチョウトンボのメス.▲


▲メス色型のオス.基本的な色彩パターンはメスに類似する.▲


▲淡色型のオス.翅端にはサイジョウチョウトンボのような斑点がある.▲

こんなにたくさん飛んでいるトンボでも,アキアカネの先例があるように,一気に減少することがないとも言えません.いつまでもたくさん飛んで,カルト的なトンボ屋には見向きもされないトンボであり続けてほしいです.


▲オキナワチョウトンボたち.▲

■ヒメハネビロトンボ Tramea transmarina yayeyamana Asahina, 1964
もう何度かこのブログでも紹介しましたが,私の好きなトンボの一つです.これが飛ぶのを見ると,南国へ来たという気がします.


▲水田の際の草地に止まるヒメハネビロトンボたち.▲

ハネビロトンボのなかまというのは,池を飛ぶものという認識がありましたが,沖縄で観察して,水田の上もよく飛ぶのだということが分かりました.今回オスはたくさん見ましたが,メスには全く出会うことがありませんでした.

■コモンヒメハネビロトンボ Tramea transmarina euryale Selys, 1878-?
今回,あちこちでヒメハネビロトンボを見ました.その中に1頭だけコモンヒメハネビロトンボかもしれない翅の模様を持つ個体を見つけました.一番天気の悪かった6月18日にアプローチできない池で見ましたので,遠くから撮ったややすっきりしない写真しかありません.


▲コモンヒメハネビロトンボ-?のオス.6/18.▲

撮ったときにはどうかなと思ったのですが,ホテルに帰ってヒメハネビロトンボと比べるとコモンヒメハネビロトンボの可能性があるように思えました.しかし,ヒメハネビロトンボの斑紋の小さな個体である可能性も捨てきれません.


▲翅の基部の赤色部分の広がり方は明らかに異なる.▲

コモンヒメハネビロトンボだとすると,これが初お目通りとなります.

■ヒメトンボ Diplacodes trivialis (Rambur, 1842)
ヒメトンボは小さなトンボで,水田や湿地の周辺や少し離れた草地などに潜り込んで生活しています.草を蹴って歩くと突然飛び出したりします.このトンボの交尾や産卵などの繁殖活動を見たいのですが,第1節ではそのチャンスには恵まれませんでした.しかしその姿はあちこちで見られました.地面から飛び立ち,地面の上を低く飛び,地面に止まります.とにかくすばしこく,敏感で近づきにくいトンボです.


▲ヒメトンボのオス.とにかく地面に止まるのが好きなトンボである.▲


▲ヒメトンボの若いメス.メスは草地に隠れていることも多い.▲


▲かなり老熟したと思われるヒメトンボのメス.▲


▲成熟が進むとこのように体表面に粉を吹いたようになるのであろうか.▲


▲成熟が進んだオス.▲

ヒメトンボもかなり数が多く普通に見られるトンボですが,こうやって写真に撮ってゆっくり見てみると,その成熟段階によっていろいろな変化が見られるトンボだということが分かります.

■アカスジベッコウトンボ Neurothemis ramburii ramburii (Brauer, 1866)
このトンボは,サイジョウチョウトンボより14年早く,2006年に与那国島に初めて飛来が確認されたトンボです.その後,西表島,石垣島へと分布が広がっています.チョコレート色をした翅を持つこのトンボは,とても南国的なトンボだと思います.今回の観察では,オキナワチョウトンボに匹敵すると言って良いぐらい,あらゆる場所でその姿を見ることができました.もう確実に定着しているでしょう.

川,池,水路,湿地,湧き水,さらにメスや未熟な個体は山道で過ごしています.このようにどこでも姿が認められるトンボですが,一番好きなのは湿地的水環境のようです.また用水路的な水路にもたくさんのオスがなわばり活動を行っていました.コフキショウジョウトンボと同じ場所にいることもありますが,種間の闘争でも負けることはありません.


▲水のわき出しによってできた,山道の浅い流れに集まるアカスジベッコウトンボ.▲


▲少し離れた場所には,未熟なオスも止まっている.▲


▲メスたちは水域から少し離れたところで,ゆったりと休んでいることが多い.▲


▲用水路にずらっと止まるオスたち.前翅が少し上がった止まり方をする.▲

とにかくたくさんいるので,もう珍しさも何もなくなってしまいます.しかしこれだけいても,意外と産卵するメスには出会えません.一度成熟したメスがオスたちのいる用水路に現れましたが,水面に下りるように飛ぶと,何頭ものオスが追いかけ,結局産卵などせずに飛び去りました.


▲オスのいる用水路に現れたメスだが,すぐにオスに追われ飛び去った.▲

アカスジベッコウトンボにしてもサイジョウチョウトンボにしても,南から飛来したトンボが増えてくると,それまで分布していたトンボがどうなるか,気になるところです.今回トンボを観察していて感じたことの一つに,ホソミシオカラトンボ,ヤエヤマオオシオカラトンボなどのトンボに非常に出会いにくかったことがあげられます.ホソミシオカラトンボには結局出会えずでした.

こういった侵入定着種が種間競争のバランスを変え,トンボ景色を変えているように思えてなりません.32年前に沖縄に来たときには,ホソミシオカラトンボもオオシオカラトンボも割合簡単に見つかったものです.今はオオシオカラトンボがいそうな場所のほとんどにはコフキショウジョウトンボとアカスジベッコウトンボが入っています.とにかく翅の色が派手なアカスジベッコウトンボの多さは,この地域のトンボ景色を,侵入以前から大きく変えてしまっていることは間違いありません.

■ホソアカトンボ Agrionoptera insignis insignis (Rambur, 1842)
ホソアカトンボは今回の遠征の目的の一つでした.このような形のトンボは本土にはいません.32年前に来たときに湿地状の水たまりでたくさんの幼虫をすくった経験があります.そのときから気になっていたトンボです.細い腹部に深紅の色彩を持ち,翅が細長い独特のバランスを持った形態です.薄暗い池にいるというのも妙に惹きつけられるものがあります.


▲背景が真っ黒になるような暗い池に生活している.▲

このトンボの繁殖活動をぜひ見てみたくて,何度も通いましたが,ついに見ることなく終わりました.池にメスが現れることすらありませんでした.観察に来た時間帯に問題があるのかもしれません.メスは池から離れた山道に止まっていたりします.


▲山道で見られたホソアカトンボのメスたち.▲

このメスたち,これが成熟した状態かと思っていましたら,最終日,少し日が射したときに池の近くで見たメスが衝撃的でした.真っ黒黒助,真っ黒けなのです.こんなのが暗い池を飛んでもまず見つからないでしょうね.


▲ホソアカトンボの真っ黒なメス.これらは違う個体.▲

初めて見るトンボたちは,自分なりの新発見が多く,楽しいものです.なお図鑑によると腹部が赤くなるオス型のメスもいるそうです.

■オオハラビロトンボ Lyriothemis elegantissima Selys, 1883
初日にホテルに着いたとき,私を迎えてくれたのがオオハラビロトンボでした.レンタカーを駐車場に止めたときに飛び立った1頭のトンボ,それがオオハラビロトンボでした.このホテルの周辺にはそれらしい池や湿地はないように思えるのですが,いったいどこから来たのでしょう.それもほとんどがメスでした.


▲おおよそ池も湿地も何もないホテルの駐車場の木の枝に5,6頭は止まっていた.▲

オオハラビロトンボは,林の中の山道などにかなり普通に見られました.未熟な個体から成熟したものまでさまざまです.しかしこれもまた,繁殖活動を観察することがありませんでした.私が繁殖場所をよく知らないからなのでしょうね.


▲山道の際にはさまざまの成熟段階のオオハラビロトンボが止まっている.▲

かなりの普通種ですが,明るい場所にはあまり見られませんでした.

■コフキショウジョウトンボ Orthetrum pruinosum neglectum (Rambur, 1842)
今回もコフキショウジョウトンボのメスが見られませんでした.だいたいこういったトンボのメスは林縁などに止まっているものなのですが,全く見つかりません.今回は繁殖活動も見ませんでした.これだけ個体数がいるのに繁殖活動が見られないのは,やはり観察時間帯が問題なのかもしれません.暑い亜熱帯の世界では,涼しい朝夕にそういった活動を行っているのかもしれません.普通種でも,みな,なかなか手強い側面を持っています.


▲アカスジベッコウトンボと一緒に,用水路でなわばりを張っているオスたち.▲


▲山道の水が滲出している場所に,アカスジベッコウトンボと一緒にいたオス.▲

コフキショウジョウトンボとアカスジベッコウトンボは,似たような場所で一緒に見られることが多いです.

■ヤエヤマオオシオカラトンボ Orthetrum melania yaeyamense Sasamoto et Futahashi, 2013
サイジョウチョウトンボを観察したときに出会った関東のトンボ屋さんに,サイジョウチョウトンボはこれくらいにして,これからオオシオカラトンボを見に行く,と言ったら,怪訝な顔をされました.そうでしょうねぇ.ひょっとしたら今しか見られない飛来種のトンボを差し置いて,オオシオカラトンボを見に行くというのですから.

しかしながら先にも触れましたが,今回の観察旅行で,オオシオカラトンボは非常に出会いが難しい種でした.オオシオカラトンボのいそうな環境には,ことごとくコフキショウジョウトンボとアカスジベッコウトンボが入り込んでいたからです.結局ヤエヤマオオシオカラトンボは.これらの種が入り込まないような,林内の薄暗い湿地で活動しているのを見ただけでした.ニッチが重なっている部分から追いやられて,これらのトンボが利用しないニッチでかろうじて利用して生き延びている,といったふうでした.


▲林内の薄暗い湿地で活動するヤエヤマオオシオカラトンボ.▲

オスは全部で4頭ほどいました.幸いなことに観察中メスが入って産卵を始めてくれましたので,オス・メス一石二鳥というところでした.


▲観察中,産卵に入ってきたヤエヤマオオシオカラトンボのメス.▲

見て分かるように,メスは腹部の第6節まで黄色い色をしています.本土のオオシオカラトンボでは第6節は通常黒い色をしています.


▲本土のオオシオカラトンボは腹部第6節は通常黒い.▲

こうやってまとめていると,こんなことにこだわって写真を撮りに行く私の方が,よっぽどカルト的存在かもしれませんね.ふとそんな風に感じました.産卵は相当長時間やっていました.産卵の様式は本土のオオシオカラトンボと変わりないようです.


▲水をかくようにして打水するヤエヤマオオシオカラトンボのメス.▲


▲オスがメスを警護するのは同じである.▲

さて,これら以外のトンボとしては,ウスバキトンボ,アメイロトンボ,タイリクショウジョウトンボ,コシブトトンボなどがいました.これは第2節でたくさん出会いましたので.そちらで紹介することにしましょう.早朝・夕刻を攻めなかったので,そういった時間帯に姿を現すトンボ科が欠けていますね.

ということで,32年ぶりという長い間を置いて観察した沖縄普通種の景色は,大きく変化していることを感じた次第です.

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