No. 967. 信越地方へのトンボ観察行.2024.6.5-8.

梅雨入りの前に,信越地方へ,トンボ観察に行きました.見たいトンボはオオトラフトンボです.もともと幼虫(ヤゴ)に興味があったため,日本産トンボ幼虫については,だいたい出会ったり生きた状態のを見たことがあるのですが,成虫については,自然の中を飛ぶのを見ていない種類がそこそこあるのです.オオトラフトンボもその一つです.

まず一日目は,昨年アマゴイルリトンボを観察した場所へ行くことにしました.そこには遠くを飛ぶ不均翅類のトンボがいて,種類がはっきりしなかったのですが,写真に撮って解析したら,どうもオオトラフトンボのように見えたのです.そこで今年はまずそれを確認に行きました.結論から言うと,いました.一日目は午後到着で気温が18℃とやや低かったこともあり,水面を飛ぶトンボはほとんどいませんでした.一方草の間には,アマゴイルリトンボの未熟な個体がたくさん群れていました.羽化期のようです.


▲草間に群れるアマゴイルリトンボの未熟個体.▲


▲アマゴイルリトンボの羽化殻.まだ羽化期が続いているのだ.▲

二日目,朝は青空,予報は昼から曇り,まあまあの感じです.朝8時過ぎに池に着いたとき,まだ水面を飛ぶトンボはいませんでした.しかし日向にはコサナエたちが止まっていました.と,突然足下で,コサナエが産卵を始めました.


▲産卵に来たコサナエ.淡色部がまだ黄色く若いのだろうか.▲

写真でおわかりのように,写真撮影には理想的な場所です.背の低いシダ植物の上で産卵をし,背景は空が反射する水面です.こういう位置ではオートフォーカスがよく効くのです.案の定数十枚の写真のほとんどはフォーカスが来ていました.なんか,ステージの上で産卵のショウを見せてくれているようです.


▲産卵をするコサナエ.▲


▲オスはあちこちに止まっている.▲

さて,本命はオオトラフトンボです.実は一日目ロケハンをしているときに,オオトラフトンボの羽化殻を見つけました.なんと水際から1mくらい離れた小径の,池とは反対側に生えている草に付いていました.一日目は不均翅類のトンボの姿がほとんどなかったのでちょっと心配はあったのですが,これでこの池にいることは間違いないということが確認できました.


▲オオトラフトンボの羽化殻.これはオス.▲

ただこんなものが着いているということは,まだ繁殖活動には早いのかと,別の心配が出てきました.羽化殻は二日目も見つかり,全部で6個体採取できました.


▲オオトラフトンボの羽化殻.これはメス.▲

さて,コサナエの産卵を見たあと,産卵に敵した場所,つまり水中に卵を絡めやすい沈積物のある場所で,待つことにしました.ここは一日目に羽化殻を見つけた場所でもあります.そうこうするうちに池の中央を飛ぶトンボが現れました.あまりに遠くて種類がよく分かりません.クロスジギンヤンマにしては小さいし,トラフトンボにしては大きいというサイズです.このトンボ,ほとんど岸に近寄らず,中央ばかりを飛んでいます.しかも私が近づくと,その反対側に寄って飛びます.見えているのですかね?


▲池の中央部を飛ぶばかりの謎のトンボ.囲みは腹面からのアングル.▲

撮った写真をホテルで確認すると,どうやらオオトラフトンボです.オオトラフトンボは池の中央を飛ぶとことは図鑑等に書かれていますが,まさにその通りでした.かなり粘りましたが,岸に近づく気配はありません.これはもう産卵に来るメスしか接近遭遇できそうにないと,判断せざるを得ない状況でした.まあ,本当にトンボによってその行動パターンはさまざまです.若干の悔し紛れはありますが,これが生態観察なのですね.写真には難しい相手です.普段見ている人には当たり前の光景なのでしょうが,初めて実感したときの感情,これが遠征の「冒険心」をくすぐります.

すると,10時を過ぎたころ,突然私の目の前に黒いトンボが入り,行ったり来たりしながら打水産卵を始めました.オオトラフトンボはこんな産卵はしません.写真を撮りまくりましたが,動きが早くピントが来ません.1枚だけなんとか写っているものがあって確認すると,カラカネトンボでした.


▲産卵にやって来たカラカネトンボのメス.▲

よく見ていると,ときどき岸近くを飛ぶオスの姿も確認できました.でも速すぎて写真にはなりませんでした.ということでしばらくしてから,地元では見られないイトトンボ類の確認をすることにしました.


▲エゾイトトンボ.メスには青色型と黄緑色型がある.▲

まずはエゾイトトンボです.エゾイトトンボは信越地方では極めて普通種のようです.私には北の方にやって来たと実感させられるトンボなのですが...アマゴイルリトンボがまだ羽化期が続いている状況の中で,エゾイトトンボは見た限り成熟した個体がほとんどでした.


▲オゼイトトンボ.こちらは未熟な個体や,処女飛行の個体がむしろ多かった.▲

次はオゼイトトンボです.こちらはまだ羽化期のようで,足下から処女飛行する個体をいくつか見ました.繁殖活動には少し早いようです.対してアマゴイルリトンボは,羽化期ではあるようですが,すでに成熟して産卵しているペアもいました.


▲アマゴイルリトンボの産卵.▲

それから,オオトラフトンボを待っているとき,ルリイトトンボを見ました.クロイトトンボに混じって枯れ枝の先に止まっていました.これ1頭だけしか見なかったので,この場所では数が少ないのでしょう.でもイトトンボというのは,近くでじっくり見ると,とてもきれいなトンボたちです.でもどうして北の方のイトトンボたちは水色をしたものが多いのでしょうね.


▲ルリイトトンボ.▲


▲潜水産卵を始めているクロイトトンボ.▲

クロイトトンボを初め,地元で見られるトンボたちも活動していました.写真にはありませんが,クロスジギンヤンマも元気に飛んでいました.シオヤトンボなど,兵庫県ではもう終わりといっていいですが,標高が高いせいか,まだまだ若くてきれいな個体がたくさんいました.アサヒナカワトンボも繁殖期真っ盛りの感じです.


▲標高が高いせいでしょうか,まだ若々しくきれいなシオヤトンボ.▲


▲アサヒナカワトンボも数多くいた.▲

さて,この場所は,これ以上いても進展がなさそうなので,移動して宿に入ることにしました.次の日のターゲットはオオセスジイトトンボですが,これはまだ時期が早いと地元の友人に助言を受けていましたので,観察地の様子を見る程度にしました.

三日目,観察地に着いて池の周囲を歩いて,トンボのようすを観察しました.草地の中にはアオモンイトトンボがたくさん群れていました.


▲草の間に群れるアオモンイトトンボたち.▲

と,突然目の前を,大型のイトトンボが飛びました.よく見るとオオモノサシトンボのようです.腹部第9節の背面が褐色をしています.


▲未熟なオオモノサシトンボのオス.▲

やはり遠くへ来るといろいろなトンボたちに出会えますね.これが楽しみでもあります.ただこれ1頭だけでした.これから羽化してくるのでしょうね.

さらに歩いているとアオモンイトトンボの交尾の時間帯に入ったようです.アオモンイトトンボは午前中に長時間交尾します.ですから,あちこちで交尾態が飛び回る風景に出会います.


▲交尾時間帯を迎えたアオモンイトトンボたち.▲

一通り探索をしたあと,友人に勧められた池を見に行くことにしました.こちらは平地にある池で,とても環境がよく多くのトンボが記録されていると聞いています.まず目についたのが,たくさんのヨツボシトンボ.やはりこちらはまだヨツボシトンボが盛んに活動している時期なのですね.


▲ヨツボシトンボのオス.▲

次に見たのがモノサシトンボ.こちらのモノサシトンボは淡色部がやけに白く見え,濃色部が黑っぽいので,一瞬オオモノサシトンボか? と思ったほどでした.兵庫県のモノサシトンボは淡色部が薄緑色から水色へと変化しますので,この白黒のコントラストに驚かされました.やはりところ変われば品変わるです.オオモノサシトンボとモノサシトンボの区別がよく図鑑に取り上げられていますが,色彩感覚だけだと見間違いもありなんということがよく分かりました.こんなことに感動できるのも,遠征のいいところです.ただ撮った写真をよく見るとやはり淡色部は薄緑色をしていますね.オオモノサシトンボがいるかもしれないといったバイアスがかかっていたのかもしれません.


▲モノサシトンボのオス.腹部第9節全体が白い.▲

そこで,モノサシトンボは兵庫県と同じように水色になるのか,といったことに興味が湧き,探してみました.すると,いました水色の個体が.妙に安心したのを覚えています.遠征して実物を見ることで視点が広がる感覚を実感できました.


▲淡色部が水色をしたモノサシトンボ.▲


▲モノサシトンボのメス.メスはこちらの個体とあまり違わない.▲

さて普通種で盛り上がってしまいましたが,この池が素晴らしいと言われるのは,ハッチョウトンボやアオヤンマがいるからかもしれませんね.


▲ハッチョウトンボのオスとメス.▲


▲アオヤンマの交尾.兵庫県では減ってしまったアオヤンマが元気に飛ぶ.▲

さて,次の四日目です.この日は友人の案内で,もう一度オオトラフトンボに挑戦します.ただ,二日目のオオトラフトンボの飛び方を見て,初めから負け戦的な感覚がありました.諦めてはいけませんので,写真に撮れるよう集中しました.ここのオオトラフトンボは先の池よりは岸近くを飛んでくれていますので,チャンスはあるかもしれません.

池に着いて最初に目にしたのはカラカネトンボでした.これは岸近くを飛び,ときどきホバリングをするので,だいぶんましです.


▲池近くを飛び回るカラカネトンボのオス.▲

ただどういうわけかうまくピントが来たのはトンボが草陰に入ったときだけでした.だがここでアクシデント.トンボに気をとられて池にはまりました.カメラが,水没ではありませんが,一部が水に濡れ,どうかと思いましたが,「しばらくは」動き続けてくれました.そんなころオオトラフトンボが飛び始めました.なんたる不運.しかし濡れた服を乾かしながら,撮影に挑みました.が,やがてカメラが水に浸食されたのでしょうか,動作がおかしくなり始めました.そんな瀕死の状態のカメラで少しだけ写真が撮れました.


▲池を飛ぶオオトラフトンボのオス.▲


▲カメラが生き残っている間に何枚か撮れたオオトラフトンボ.▲

カメラはやがて完全に沈黙してしまいました.ただ今回は予感があったのか,予備のカメラを持参していましたので,次の池に移動する前に着替えをし,カメラを交換し,観察を続けました.

次の池はやたらコフキトンボの多い池でした.産卵もしていました.この池では帯型が見られるかもしれないとのことで頑張って探しましたが見つかりませんでした.


▲ハスの浮葉に産卵するコフキトンボ.▲

あともう一つ池を見に行きましたが,時間帯が遅かったせいか,普通種がちらほらいただけでした.こんな感じで,信越地方への遠征は終わりました.なかなか面白かったので,また行くかもしれません.そうそう,カメラはしばらくすると復活しました.キーボードなど,コーヒーをこぼすと水で洗えなどということを聞いたことがありますが,バッテリーを抜いて,乾燥させると生き返ることもあります.このカメラしばらく使ってみるつもりです.水没の修理は10万円近くかかるので....

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