No. 963. 奄美大島を訪れました.2024.5.24.

急に思い立って,5月21日から23日までの3日間,奄美大島へトンボを見に行ってきました.先月沖縄県へ出かけていっていろいろなトンボを見てきましたが,奄美大島というのは,沖縄県のものと亜種関係にあるものも含めて,独特の種類のトンボが棲息しています.それらを見に行くことを目的に出かけてきました.

「急に思い立って」といっても飛行機などの手配がありますので3週間ぐらい前ですが,やはり梅雨入り直後の時期で雨の心配が当初からありました.それが見事に的中し,3日間ともほとんど日は射しませんでした.それどころか,2日目の22日などは,沖縄・奄美は警報級の大雨.名瀬(奄美市)で24時間で146mmの雨が降りました.

もちろんここまで来たのですから,雨の中トンボ探しに出かけました.出かけるときには,ワイパーを最高速にしても前が見えないくらいの雨が降っていました.ところが9:30ごろにピタッと雨は止み,晴れこそはしませんでしたが,曇の天候になりました.奄美の梅雨はスコールのように降ってピタッと止むような降り方をするとネットに書いてありましたが,まさにその通りでした.が,当然のことながら,トンボの姿は全くありませんでした.川は増水して茶色の水が流れていましたので,川に入ることなどできません.


▲増水して茶色の水がゴウゴウと流れる川.9:00ごろ.雨はまだ降っていた.▲

これはもう最終日の明日もだめだな,とこの時期を選んだことを若干後悔しました.しかし奄美の自然は兵庫県とは違います.茶色の水が流れていた川は,その日の午後には水量が下がり,水の色も薄緑色に変わっていたのです.


▲14:00ごろ,もう水位が下がり,水に透明感が増し,色も薄緑になった.▲

豪雨の時に兵庫県の山地の川の様子を見たことがないので,こちらでも同じなのかもしれませんが,とにかくこの川の水の引き方には驚かされました.翌23日は,水量は多いものの,水は透明で川は普通の様相を呈していました.いやはや驚きの初経験でした.

なお初日21日は,14:00ぐらいまで雨は降りませんでした.昨日まで晴れていたこともあって,ロケハンを兼ねたトンボ観察時に,いくつかのトンボを見ることはできました.そして最終日23日は,予報では午後から雨でしたが結局帰るまで雨は降らず,ときどき日が射すぐらいで気温も高く,昨日の雨で閉じ込められていた鬱憤を晴らすかのようにトンボたちも結構たくさん出てきたように感じました.

今回はそんなで,見た種類を全部記録する暇がありませんでした.この時期に観察に来たのはターゲットがあるからで,天候の関係でそれを探すのに時間を割いてしまったからです.ただ現地で,なんと知人の関東のトンボ屋さんの一行に出会い,たくさんの目で探したこともあって,効率よくトンボを見つけることができました.時々あることですが,関東と神戸の知り合いが奄美大島で出会うとは世の中は狭いです.

前置きが長くなってしまいましたが,今日は五十音順に,観察できたトンボたちを紹介していきましょう.一部を除いて,すべて23日の観察になります.

◆アオビタイトンボ Brachydiplax chalybea flavovittata

沖縄県に行ったときには見つけられなかったトンボです.見たのはオスだけですが,そこそこの数がいました.


▲アオビタイトンボのオス.まだ若くて美しい.▲

これといった活動は見ることがありませんでした.

◆アマミサナエ Asiagomphus amamiensis amamiensis

アマミサナエは今回のメインターゲット種です.オキナワサナエの原名亜種で,いわゆるヤマサナエ的なアジアサナエ属のトンボです.このトンボの一番の特徴は複眼の色にあります.アジアサナエ属のトンボの複眼は通常深い緑色をしています.しかしアマミサナエは青緑色をしているのです.非常にエキゾチックで,これは一見の価値があります.


▲青緑色の複眼を持つアマミサナエ.オス.▲


▲アマミサナエのオス.全部で2個体.▲

よく晴れておれば川面に降りてきてメスを待つ行動をとるのですが,さすがに今日は川に降りてきている個体はありませんでした.たくさんの人の目で探したので,合計3頭のオスが見つかりました.最初の1頭はスギの葉に止まる個体でした.


▲スギの葉に止まるアマミサナエのオス.最初に見つけた1頭.▲

◆アマミトゲオトンボ Rhipidolestes amamiensis amamiensis

次も「アマミ」を冠に持つトンボです.アマミトゲオトンボ.トゲオトンボのなかまはおそらく移動性が少なく,隔離された状態になりやすいのでしょう.南西諸島から九州・四国にかけて,種分化が進んでいます.学名に亜種名が付いていますが,徳之島に亜種トクノシマトゲオトンボ R. a. tokunoshimensis が分布しています.

沖縄県に行ったときには,トゲオトンボのなかまの成熟したメスが全く見つからなかったので,今回はそれを見つけることも目標です.次に登場するアマミルリモントンボは初日にその姿を見ましたので,そのときに見られなかったアマミトゲオトンボが次のターゲットでした.

実は,トゲオトンボならば雨が降っても林の中にいるから見つかるかもしれないと,22日の豪雨の中で結構探し回りました.しかし笑い話になりますが「木を隠すなら森の中」というあれですね.斜面や沢のようなところはどこもかしこも水が流れているので,どれが普段水が涸れていないトゲオトンボの棲息している流れなのかが分かりません.完全な失敗でした.23日は,それまで晴天の続いていた21日に水があった沢に入って探索しました.やはりそこにはちゃんといました.


▲アマミトゲオトンボのオスたち.▲

トゲオトンボは,暗い林の中にいる真っ黒なトンボで,とても見つけにくいのですが,飛ぶと何かが動いたというふうに目に映るので見つかります.最初の1頭を見つけるとあとは割合たやすく見つかります.

さて,オスは見つかりましたが,問題はメスです.かなり急な沢ですので手をつきながら上ることになりますので,ハブが怖い.しかし勇気を振り絞って(大げさですがそんな感じでした)慎重に登っていくと,メスがいました.流れに出ていたので産卵する可能性がありますが,今日は生態観察ではないので,止まっているのを撮影するだけにしました.


▲アマミトゲオトンボのメス.同一個体.▲

やっとメスを見つけることができました.ハブにも出会わずめでたしめでたし.あと,別の場所でも,細流にぽつんと止まっているオスを見ることができました.


▲比較的明るい細流に止まっていたアマミトゲオトンボのオス.▲

◆アマミルリモントンボ Coeliccia ryukyuensis amamii

「アマミ」を冠したトンボの3種目です.あとアマミヤンマというのがありますが,これは夏以降のトンボです.やはり奄美大島に来た目的は「アマミ」を冠したトンボたちです.アマミルリモントンボは,あちこちの流れ,それも本流から細流に至るまであちこちで見ることができました.

沖縄にいるリュウキュウルリモントンボ C. r. ryukyuensis が原名亜種で,こちらが奄美亜種になっていて,奄美大島とその周辺の島々に分布しています.リュウキュウルリモントンボのようにオスの腹部先端が黄色くはないので,ちょっと艶やかさは少ないです.


▲アマミルリモントンボのオスたち.▲


▲黒化型と言ってよいような,腹部にほとんど斑紋がないアマミルリモントンボ.▲

オスの中には,腹部にほとんど淡色斑が出ない個体がいて,黒化型と言ってよいような感じです.こちらの方が全体の黒色が締まって,水色が目立ち,美しさが倍増するように思えます.オスは,羽化してしばらくの間は,淡色斑が黄色で,別種かと思うほどです.この時期のオスはまた別の感じで美しいです.そして黄色の部分を隠すように水色が出てきます.


▲羽化直後のアマミルリモントンボのオス.▲


▲未熟なアマミルリモントンボのオス.▲


▲黄色の上に水色が重なり始めたテネラルなオス.▲


▲淡色斑の発達が悪い黒化型.水色が広がり始めたオス.▲


▲水色になった成熟オス.▲

アマミルリモントンボもメスを探し続けてかなり時間をかけました.しかしながら,羽化直後のメスは見つかったものの,成熟したメスが見つかりませんでした.オスは結構簡単に見つかるので,探す場所が悪いのかもしれません.


▲アマミルリモントンボのメス.いずれも羽化直後.▲

◆オオハラビロトンボ Lyriothemis elegantissima

先月沖縄県で見たときは,未熟期の黄色い個体でした.今回見たのは腹部が赤くなりつつあるようなまだ若い個体でした.腹部の黄色い個体もいた,と別の人が言っていたので,やはりこれからの出現ということになるのでしょうか.


▲腹部は赤と黄色の混じった橙色に見える.オオハラビロトンボのオス.▲

◆オキナワオオシオカラトンボ Orthetrum melania ryukyuense

トカラ列島以南久米島にまで分布するオオシオカラトンボの亜種です.沖縄県でも見ました.このメスを見たいのですが,今回もかなりの探索をしましたが,オスばかりでした.オオシオカラトンボのメスってたいがいどこかに止まっているのが普通なのですが.見つかりません.


▲翅基部の褐色斑と腹部先端の黒斑がオオシオカラトンボに比べて小さい.▲

◆オキナワチョウトンボ Rhyothemis variegata imperatrix

オキナワチョウトンボはまだ出始めのようです.未熟な個体が空き地を飛んでいました.私が見たのはオスでしたが,翅が黒いオキナワチョウトンボを見たと別の方が言っていましたので,これは多分メスでしょう.チョウトンボの類いはこれからでしょう.


▲オキナワチョウトンボのオス.▲

◆コシブトトンボ Acisoma panorpoides panorpoides

湿地状の滞水によく見られる南のトンボです.奄美諸島が北限になっています.いわば分布境界のコシブトトンボ個体群ということです.このトンボも産卵活動を見たことがありません.一度ゆっくりとこういった普通種の観察をしてみたいものです.どうしても南へ来ると数の少ないトンボを追いかけてしまいます.


▲コシブトトンボのオスとメス.オスはイトトンボを食べている.▲

コシブトトンボのオスの食べているイトトンボは,別のコマを見ると尾部下付属器が長く突き出ているように見えるので,おそらくコフキヒメイトトンボでしょう.ただ,コフキヒメイトトンボそのものは私は見ていません.今回はイトトンボをじっくり探す時間がありませんでした.そういえばアジアイトトンボをチラッと見たのですが,江平(2023)では,定着不明種になっていました.やはりきちんと写真を撮っておかないといけません.

◆シオカラトンボ Orthetrum albistylum speciosum

今回は,イトトンボにまではちょっと手が回らなかったものの,シオカラトンボはきちんと記録しておきました.こちらのシオカラトンボの成熟メスの色が妙に明るい色できれいなのが気に入りました.


▲シオカラトンボのオス.非常にたくさんの数が見られた.▲


▲淡色部が薄緑がかって,複眼の緑とマッチしている.シオカラトンボのメス.▲


▲シオカラトンボの未熟なメス.こちらはよく見る色彩だ.▲

◆タイリクショウジョウトンボ Crocothemis servilia servilia

タイリクショウジョウトンボはシオカラトンボに次いでたくさんいたトンボです.こちらは産卵活動をするメスも見ました.


▲タイリクショウジョウトンボのオス.▲


▲産卵に飛び回るタイリクショウジョウトンボのメス.▲

◆ハネビロトンボ Tramea virginia

沖縄県に入ると,ハネビロトンボよりヒメハネビロトンボの方を多く見かけます.というかハネビロトンボを見つけるのが意外と難しい.その点奄美大島では飛来以外はハネビロトンボがいるだけですので,ある意味安心して写真を撮ることができます.


▲ハネビロトンボのオス.▲

オスが現れる前に,メスが単独で打水産卵しているのを見かけました.ただ少し離れたところなので,写真に撮るのは難しい状態でした.


▲単独打水産卵するハネビロトンボのメス.▲


▲ハネビロトンボは,午後になるとよく止まる.▲

◆ベニトンボ Trithemis aurora

ベニトンボもたくさんいましたが,オスが飛び回っている割にはメスの姿が少なかったように思えます.先月たくさん記録したので,今日はいた証拠写真ていう感じです.


▲ベニトンボのオス.やはりこのケバケバしさは南国のトンボである.▲

◆リュウキュウギンヤンマ Anax panybeus

今回の観察地にはリュウキュウギンヤンマがそこそこ飛んでいました.先日クロスジギンヤンマで飛んでいるトンボの撮る練習をしたのはまさにこのためだ,てな感じでずいぶんシャッターを切りましたが,曇で暗いのと飛ぶのが遠いのとで,あまりいい出来ではありませんでした.ただ,1回だけ木に止まったのを偶然目にしたのがよかったです.また産卵にもやってきたのですが,すぐいなくなりました.


▲何か餌を捕まえたのか,木にとまったリュウキュウギンヤンマ.▲


▲池の上をパトロールするリュウキュウギンヤンマのオス.▲


▲空き地の上空で摂食飛翔をするリュウキュウギンヤンマのオス.▲


▲短時間産卵に入ったリュウキュウギンヤンマのメス.▲

リュウキュウギンヤンマの産卵メスはとても敏感にこちらの動きに反応し,ちょっと嫌気が差すと私から離れていって,ついには池から出ていきました.

◆リュウキュウトンボ Hemicordulia okinawensis

リュウキュウトンボは今回出会いを予定していなかったトンボで,出会えたことが非常に嬉しかったです.しかもかなり接近して観察が出来ました.これは私があまりその生態を知らなかったことが大きな原因だと思います.幼虫採集の経験から流水性であることくらいは知っていましたが,どんなところをどんなふうに飛び,どんな繁殖活動をするのか見たことがなかったのです.今回まずいきなりの出会いがリュウキュウトンボの産卵でした.

先に紹介したタイリクショウジョウトンボの産卵を観察しているときに,突然黒いトンボが入って来て連続打水産卵を始めたのです.シオカラトンボかと思いましたが色が違います.本当に影のように真っ黒.とにかくシャッターを切り続けましたが動きが速く手に負えそうにありません.やっと1枚だけトンボの確認ができる写真が撮れました.


▲まず最初に出会ったのが産卵するリュウキュウトンボのメスだった.▲

次に川の上を飛ぶリュウキュウトンボを見つけました.行ったり来たりしながら一定の空間を飛んでいます.少し離れたところを飛んでいるのですが,ときどき近づくことがあるので,その瞬間を期待して写真を撮り続けました.


▲川の上を飛ぶリュウキュウトンボのオス.2頭見られた.▲

まあ以前採集はしたことはあるものの,初めて接近観察したリュウキュウトンボの成虫なので,このくらいできたら満足というところでしたが,まだこのあとラッキーが続きました.14:00を過ぎることから,最初産卵を見た場所で,オスが2頭ほどパトロールしながら飛ぶようになりました.こちらの方が流れの幅が狭いので,写真には撮りやすいので,しばらくねばることにしました.


▲パトロールするリュウキュウトンボのオス.▲

なかなかピントが来ないなどと思っているとき,突然1頭のオスがメスを捕まえタンデムになり交尾を始めようとしています.「産卵に入っていたのか?」とちょっと残念な気持ちになりましたが,この交尾ペア,すぐ近くの草むらに止まりました.ただ対岸なので水の中を渡るしか近づく方法がありません.ちょっと深そうで長靴の中に水が入るのを覚悟しなければなりません.


▲対岸の草むらで交尾を始めたリュウキュウトンボのペア.▲

何枚かシャッターを切って渡ろうかどうか迷っているとき,風が吹いてこのペアが飛ばされました.遠くへ行ってしまうかと思われたとき,なんと逆にこちらの岸に飛んできて目の前に止まったのです.


▲こちらの岸に来て止まった交尾ペア.▲

角度が悪く交尾ペア全体にピントが来ないと思いながら写真を撮っていますと,やがて交尾が解消されました.ああ終わったかと思ってトンボたちを見ていると,またまたあり得ないようなラッキーが起きたのです.交尾を解かれたメスが私の目の前でホバリングして飛び始めたのです.まさに「私を撮って」とでもいうような感じです.こんなことがあるでしょうか?


▲目の前でホバリングするリュウキュウトンボのメス.▲

写真の鮮明さから,かなり近いことが分かるでしょう.1mも離れていません.沖縄県へ行った時も,最後の最後にオキナワサナエのメスが目の前に現れて,しばらくの間逃げることもなく私が撮影するに任せていたときと同じような状況に思えました.あのときもこのときも,これでぎりぎり最後というような時間帯でした.

◆リュウキュウハグロトンボ Matrona japonica

リュウキュウ・・・というトンボが続きます.次はリュウキュウハグロトンボ.これはまたきれいなトンボなのですが,残念ながら,まだすべて未熟な状態でした.沖縄県ではもう成熟した個体もいましたが,こちらは同調的に羽化したのか,たくさんの個体がいたにもかかわらず,すべてまだ翅が茶色のものばかりでした.


▲まだ未熟なリュウキュウハグロトンボたち.▲

◆リュウキュウベニイトトンボ Ceriagrion auranticum ryukyuanum

リュウキュウ・・・の最後はリュウキュウベニイトトンボです.草原で休んでいました.


▲リュウキュウベニイトトンボのオス.▲

別の産卵ペアも見ましたが,対岸でしたので,諦めました.

以上16種類を記録できました.イトトンボをもっと真剣に探す時間があれば,あと,2,3種は増えていたと思います.ミナミヤンマなど大型のトンボたちはこれからでしょう.

まあ,雨にたたられた遠征でしたが,沖縄などは雨が降っても止めばトンボが飛び出てくるという32年前の経験則はまだ健在のようでした.

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