今日は昨日よりさらに東へ移動し,関東地方へオオモノサシトンボを見に行きました.ネットで情報交換をしている方の案内で,生息地へ連れて行ってもらいました.オオモノサシトンボの生きている個体を見るのは,昨日までのアマゴイルリトンボと同じく,初めてです.はからずも2種ともモノサシトンボ科の種でした.
前泊し,朝恐る恐る空を見上げましたら,青空が!.予報では一日中曇りだったのですが,私は晴れ男なのでしょうか?.さて観察地に入ったのは9:30ぐらいでした.ヨシを中心とした水生植生と陸生植生が混じり合った岸に沿って,オオモノサシトンボを探して歩きました.水面にはびっしりとガガブタ・スイレンなどの浮葉植物が繁茂しています.産卵基質になるのでしょうか.ほどなく草の間をふわっと飛ぶオオモノサシトンボが見つかりました.一見してモノサシトンボとは違うということが分かりました.黒っぽく見えるのですね.
▲オオモノサシトンボの成熟オス.黒が締まった色をしていて美しい.▲
▲オオモノサシトンボの成熟メス.淡色部が淡い黄緑色をしている.▲
初めのうちはこちらが殺気立っているのか,アマゴイルリトンボと同じようにすぐに逃げていきます(笑).よく観察を続けていると,オスは成熟個体が多いのですが,メスは未熟個体の方が多いように見えました.ただ成熟メスはうまく隠れているのかもしれません.
▲草の間に潜んでいるオオモノサシトンボの成熟オスたち.▲
成熟オスの中には,水面上の葉に止まっている個体があって,そういう個体はあまりその場所を動こうとしません.メスを待っているのかもしれません.
▲水面に出ているオオモノサシトンボの成熟オス.ときどき飛び立つが元に戻る.▲
写真を見て分かりますが,成熟オスは中肢・後肢の脛節の白色部がよく目立ちます.実際飛ぶときにはそれを目だ立たせるようにして,まるでグンバイトンボのように飛んでいます.その記録を撮ろうと頑張りましたがかないませんでした.また腹部先端を大きく反らせる行動をとることも観察しました.アオハダトンボ属のトンボが行うような感じです.ただ,メスへのアピールではなくオス同士の時にその行動を行っていました.
▲オスの腹部先端を大きく反らす行動.▲
▲オス同士が絡み合ったときに見られた.両方ともやっている.▲
この腹部先端を反らす行動は,実はメスにも見られます.これはアオハダトンボ属では見られない行動です.下の写真は,はじめはオスだとばかり思っていたのですが,それは全くの先入観,形態的特徴からメスだと判定しました.下の写真と比べると分かりますが,オスの場合は,ほぼ同じ後ろからの角度で見ても脛節の白い部分がはっきりと確認できます.一方腹部を上に反らせている方の個体は脛節の外側(後ろ側)が白くありません.
▲腹部先端を反らしながら飛ぶメス.脛節が白くないのでメスと分かる.▲
▲ほぼ同じ角度から見たオスの写真.脛節の白色がはっきりと確認できる.▲
もちろん腹部先端を反らせずに飛ぶことも普通ですので,この行動には何らかの意味があるはずです.あまりモノサシトンボでは見たことがないと感じている行動ですが,今度念入りに観察してみたいと思います.
▲腹部先端を反らせずに飛ぶオオモノサシトンボのメス(上)とオス(下).▲
さて,オオモノサシトンボの飛翔行動も面白いのですが,まだまだ未熟な個体も目立ちました.特にメスに多い印象でした.
▲複眼の背面がまだ白く,羽化してまだあまり日齢がすすんでいないメス.▲
▲脚が赤く,未熟色満開のメス.▲
▲未熟なメス同士がにらめっこ状態で静止.▲
オスの未熟個体はそれほど多くないようでした.雄性先熟がみられるといっていいかもしれません.オスの未熟個体は目立たない褐色で,メスのように脚全体が派手に赤くなることはありません.
▲未熟なときから脛節の白が目立っているオオモノサシトンボの未熟オス.▲
▲複眼背面の色が淡く,脚も赤と白のグラデーションを見せる未熟なオス.▲
さて,こんなことをして観察を進めているうちに,12時前になりました.しかしながら全くと言ってよいほど交尾や産卵を行う気配がありません.オスとメスが草の中で出会っても,オスは全く関心なしといった行動を見せています.
ミヤマカワトンボなどのように普段オスとメスが同所的に生活しているトンボでは,ある時刻になるとオスがその気になり,メスはそれに対して交尾拒否姿勢か受け入れるかの態度をはっきりさせるような行動が見られますが,オオモノサシトンボでは全くそういった気配すらありません.ただメスの未熟個体が多かったことから,ここの個体群はまだメスが十分に成熟していない可能性が考えられました.13:00過ぎには,今日は繁殖活動はなしと判断して,オオモノサシトンボの観察を終えました.
オオモノサシトンボの観察中に,コフキトンボの帯型メスを見たので,この後これを探すことにしました.
▲コフキトンボ帯型メス.見た場所に再確認に来てみると木の上に上がっていた.▲
オオモノサシトンボの観察地の池を周回して探してみましたが,この個体以外は見つからず,通常色の個体ばかりでした.
▲コフキトンボの若い成熟メス(上)と老熟メス(下).▲
その後,何カ所か回って,最後の池でやっと帯型メスを見つけました.ただ止まっている位置が遠いので,写真はかなり難しかったです.木の枝を放って飛ばせてみましたが,より遠いところへ行ってしまいました.
▲コフキトンボの帯型メス.▲
▲上と同じ個体だが,より遠いところに止まった.▲
帯型はこの個体以外にもう1頭いました.こちらはすぐに姿を消しました.コフキトンボは明日の移動までにもう一度チャレンジすることにして,今日の観察を終えました.最後にこれらの観察の道中に出会ったトンボたちを紹介しておきます.
▲オオモノサシトンボを観察中に目の前で産卵したショウジョウトンボ.▲
▲コシアキトンボは訪れた各地に普通に見られた.最後の池での産卵.▲
▲珍しくコガネグモの巣にかかったウチワヤンマ.ウチワヤンマもたくさんいた.▲
▲どこにでもいたシオカラトンボ.▲
これら以外にチョウトンボ,クロイトトンボ,セスジイトトンボ,オオヤマトンボ,ギンヤンマなどが見られました.
天気は,午後雲が多くなりましたが,人間様にはこのほうが動きやすくて良かったように思います.明日もトンボ観察旅行は続きます.