トンボ歳時記総集編 5月−6月上旬
緑色の美しいサナエトンボ
写真1.アオサナエが活動する時期,産卵する浅い砂礫底の川では,オイカワの稚魚が群れをなして泳いでいる.
アオサナエは4月下旬から5月中旬にかけてに羽化するサナエトンボです.4月には羽化が間近い終齢幼虫が採集できます.4月16日,終齢幼虫の集団が礫質の川の底を歩き回るように動いているのを野外で観察したことがあります(写真2左).その後4月26日にも,同所で終齢幼虫を採取しました.そして,羽化そのものを実際に観察したことはありませんが,羽化殻を5月6日に見つけています.おそらく終齢で越冬した幼虫集団だけが春に羽化する春季種だと思われますが,まだ調査が不完全なので確定はできません.羽化した後の未熟な成虫もまだ観察したことがありません.
No.024:アオサナエ
Nihonogomphus viridis
アオサナエの消長図
写真2.左:4月16日,右:5月6日.羽化が間近い終齢幼虫.この日12頭の終齢幼虫が観察された(左).羽化殻(右).
成熟したオスは,場所によっては5月の中下旬あたりから川に姿を現すようになります.これはホンサナエの活動が終わりに近づく時期で,ホンサナエに混じって活動する姿をよく見かけます.なかなか敏感なトンボで,川面を非常に高速に飛び回ります.そして,ピタッと川面や水際の石などに止まります.5月の下旬から6月の中旬が,一般に個体数が多くなる時期でしょう.
写真3.左:5月21日,右:5月20日.成熟した成虫が川に姿を現しはじめた.左は兵庫県北部.
写真4.6月6日.5月下旬から6月中旬あたりがもっとも個体数が多くなる.
写真5.左:5月30日,右:6月14日.最盛期のアオサナエは緑色が濃くきれいである.6月の強い太陽を受け腹部挙上姿勢をとるオス(右).
写真5.6月8日.少し腹部を持ち上げて,いつでも飛び立てるように止まっているアオサナエのオス.
オスが縄張りを形成しようとする行動は弱いように見えます.オス同士は追いかけ合いはするものの,一定の範囲を占有するためというより,単に目についたオスを追い払うという感じです.止まる場所も人影などを感じると,簡単に変えてしまいます.かなり広い範囲を縄張りにしているともいえるかもしれませんが,複数のオスがメスがやって来そうな場所に少し離れて止まっていることも多く,あまり排他的ではないように見えます.
5月下旬くらいになると,メスが産卵にやって来るようになります.メスは水面を高速に飛んで,産卵しようとする場所で急停止し,停止飛翔産卵を始めます.産卵前の高速飛翔の際にオスに追われると,戻ってきてその場所ではすぐに産卵しないようで,この飛翔はオスの存在を確かめているのかもしれません.飛翔中のメスや産卵中のメスは,ときどき,オスに捕まってタンデムになります.
写真7.5月25日.高い位置から産卵するアオサナエのメス.
写真8.5月30日.産卵にやって来たアオサナエのメス.流れの速いところで産卵する.
写真9.5月30日.腹端から卵塊を出しながらホバリングするメス.
写真9.5月30日.腹端から卵塊を出しながらホバリングするメス.
写真9.5月30日.産卵中のメスの顔面の拡大.
写真9.5月30日.産卵が終わると,腹端で打水して飛び去る.翅も水に浸かっている.
アオサナエは,6月中旬くらいから数を減らしはじめ,遅いものでは7月中旬まで生きのびる個体があります.7月に入ってから産卵を観察できるときもあります.そして7月中には姿を消します.
写真10.左上:7月10日,左下:7月2日,右:7月20日.7月に入ってからのアオサナエ.だいぶん体の色が褪せている.