No. 927. ウチワヤンマの観察と.2023.7.3.

今年はいつものところへ通うというより,あちこちへ出かけることが多くなっていて,アオハダトンボなど,いくつかのメンバーに出会うことなくシーズンが過ぎていこうとしています.そんな感じが強かったので,今日はいつもの場所へウチワヤンマとコフキトンボの観察に出かけました.


▲ウチワヤンマのオス.今年はたくさんいるように見えた.▲

いつものこの池は今年はきれいに掃除されている感じがします.池にキショウブの葉の切れ端などがほとんど浮かんでいないのです.ですから,浮遊物に卵を貼り付ける,ウチワヤンマ,コフキトンボ,コシアキトンボのオスたちの活動が,ちょっといつもと違うように見えました.コシアキトンボは結構広い範囲を飛んでいるし,コフキトンボはキショウブが生えているところ(そこはさすがに切れた葉が浮かんでいる)にかたまっています.そしてウチワヤンマは,枯れ枝が水に落ち込んでいるところになわばりを形成していました.


▲ウチワヤンマが止まっているところの典型.羽化殻も付いている.▲

池に着いたのが9:00過ぎでしたが,すでに2組のウチワヤンマの交尾態カップルを目にしました.一組はすでに池を飛び回っている産卵場所探索状態で,もう一組は草原で交尾本番の真っ最中でした.


▲すべて同じカップルを追いかけた.一番下は至近距離で撮影した.▲

交尾本番のカップルには,最後はレンズの最短距離まで近づくことが出来ました.ウチワヤンマの交尾態は結構人が近づくのを嫌がるものですが,このカップルはちょっと違っていました.

そうこうしているうちに,もう一組の産卵場所探索カップルの方でしょうか,産卵場所を決めたような動きを示しました.枯れ木が水に落ち,そこにヒシの実が絡まっているような場所です.ヒシの実は,すでに他のウチワヤンマが産卵したせいか,繊維状のもので絡みとられているような感じに見えました.


▲産卵場所を決めた探索カップル.▲

やがて,ヒシの実に止まり,オスが離れて,メスが産卵を始めました.ここは手前の枯れ枝にピントを取られてうまく記録できませんでした.オートフォーカスの弱点ですね.産卵はいつもの通り,間欠的に腹端を浮遊物に打ち付ける様式です.


▲産卵を行うウチワヤンマのメス.▲

産卵が終わって,池の周囲を歩いてみると,さらに二組のカップルが産卵場所を探索して飛んでいました.これらは目の届くところでは産卵を始めなかったようです.キショウブの生えているところには羽化殻がいっぱい付いていました.今年はウチワヤンマの羽化数が多いように思えます.


▲団子状態のウチワヤンマの羽化殻.▲

コシアキトンボやコフキトンボは元気にあちこちで追飛行動を行っていました.これらの産卵は見ることが出来ませんでした.


▲コフキトンボの追飛.▲


▲コシアキトンボの追飛.▲

帰りに森林公園によって見ました.ヤンマが羽化していないかというねらいでしたが,まだ姿を見ることが出来ませんでした.チョウトンボが池の上をたくさん飛んでいて,ショウジョウトンボ,コシアキトンボ,シオカラトンボ,ギンヤンマ,クロイトトンボなどが元気に活動しています.いまだにクロスジギンヤンマのオスも見かけました.


▲ショウジョウトンボのオス.▲

特にこれといったトンボもいないので,池の縁にしゃがみ込んで飛び回るチョウトンボをじっと眺めていました.チョウトンボはいつも多数の個体が乱れ飛ぶ姿を見ているので,今までなわばりを形成するとはあまり考えたことがなかったのですが,あるオスの行動を追いかけてみると,一定範囲を飛んでそこに進入してくる他のオスを追い払う行動を続けていることに気がつきました.個体群密度がそれを許すような状況だったのかもしれません.


▲私がじっと観察を続けたオス.▲


▲池のだいたい白い丸で囲まれた部分がなわばりと考えられる区域.▲

だいたい上の写真のような範囲を飛んでいます.白い丸の左下縁に写っているのは,その上のチョウトンボのオスの影です.時々メスが周囲を飛ぶとなわばり外まで追いかけていきます.

なわばりを形成しているチョウトンボは常に羽ばたき飛行しているので,かなりエネルギーを使うはずです.見ていると,時々岸に戻って草に止まって休憩するようです.しかし,その間他のオスがそのなわばりを奪うことはありませんでした.しばらく休憩すると,またなわばりに戻って飛翔を続けました.


▲上のチョウトンボと同じ個体.草に止まって休憩中.▲

合計20分ほど観察を続けましたが,その間なわばり内には基本的にこのオス1頭だけが飛んでいました.なわばり内にはタヌキモの浮かんでいる部分があって,これがチョウトンボの産卵場所になっているようです.

今日はこの公園でキイトトンボを見ました.


▲個体数は少なかったがキイトトンボがいた.▲

ということで,日差しが雲に遮られてきたので,今日の観察はここまでとしました.まだ遠征の疲れがとれていないようで,歩くと息切れがします.

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No. 926. 高原のイトトンボたち.2023.6.26.

トンボ観察旅行もいよいよ最終日になりました.今日はもう一度アマゴイルリトンボを見に行きます.結果的には,第一日目,第二日目もなんとか観察は出来たのですが,空はやはりどんより曇り空で,トンボたちの動きはもう一つ活発ではありませんでした.もともとの天気予報ではこの最初の二日間は雨模様でしたので,予報で晴れになるこの日にも観察を入れていたのでした.結果は大正解で,太陽がさんさんと降り注ぐ晴れの半日で,たくさんのトンボたちが活動していました.

そんな中,少数見かけたエゾイトトンボやルリイトトンボの状況が気になります.これらの観察も楽しみです.そしてさらにこの日私的には嬉しいことがあったのですが,これは最後に紹介しましょう.

まずはアマゴイルリトンボです.朝8:50ごろに現地に着きました.池をのぞいてみますと,もうアマゴイルリトンボがたくさん産卵を始めていました.晴れていると早いですね.


▲アマゴイルリトンボは複数産卵しているが,やはり見にくい場所で産卵している.▲

ただ今日は,前回ほど神経質ではなくて,私が動いても飛び立たずに産卵を続けるペアが見られました.


▲だいたいだが,横の位置から撮れた.▲


▲交尾も同じ場所で行われていた.▲

ここは写真になりにくい場所なので,場所を移動することにしました.そこは開けていてフトヒルムシロが繁茂しています.アマゴイルリトンボはあちこちで産卵しています.やはり晴れて日が差していないとだめですね.


▲開けているので,やっとのことで希望したようなアングルで撮れた.▲


▲数が多いと人を気にしなくなる傾向はアマゴイルリトンボも同じようである.▲

周辺にもそこそこ潜り込んでいました.


▲周辺にいたアマゴイルリトンボのオス(上)と未熟メス(下).▲

アマゴイルリトンボはこのようにたくさん池に出てきて繁殖活動をやっていました.これに負けないぐらい活動をしていたのが,エゾイトトンボでした.二日目に1頭だけ見たのですが,今日はたくさん飛んでいました.やはり晴れが重要だ.


▲エゾイトトンボのオス.▲


▲オオヒルムシロの群落の中で産卵するエゾイトトンボ.▲


▲足下で産卵するエゾイトトンボ.ちょっと手前の草が邪魔している.▲

晴れていると,トンボたちも元気なのですね,いろいろなトンボの活動が観察できます.エゾイトトンボのオスがアマゴイルリトンボのメスにアタックをしました.これにはどういう意味があるのか分かりません.エゾイトトンボのメスと勘違いしているのかとも思いましたが,交尾しようとするような動きではありません.餌と思って食らいついているのか? とも思ったりもしました.


▲アマゴイルリトンボのメスに挑みかかるエゾイトトンボのオス.▲


▲攻撃した後も遠巻きに様子を見ている.アマゴイルリは右前翅がゆがんでいる.▲

さて,今日一番の成果は,オゼイトトンボがいたことです.オゼイトトンボは全く期待していなかったために,はじめはエゾイトトンボばかりいるように見えていました.ここに来たとき最初にエゾイトトンボの交尾と思って写真を撮りましたが,出来を確認するためにカメラで拡大して見ていたときでした.なんと腹部第2節背側の黒斑がワイングラス形をしていたのです.これはオゼイトトンボの印です.


▲オゼイトトンボの交尾.▲


▲この交尾オスの腹部第2節を拡大したもの.▲


▲エゾイトトンボとオゼイトトンボの比較.特に腹部第2節背面の黒斑の違い.▲

2枚の写真を並べてみると,この黒斑以外にも違いが見えてきます.エゾイトトンボの方が一回り大きく腹部も太いです.また水色の部分もかなり広いです.オゼイトトンボは遠くから見るとオオイトトンボみたいに見えることがあります.眼後紋や後頭条の形も違います.オゼイトトンボの存在に気づいてからは,両者は区別して見ることができるようになりました.


▲オゼイトトンボのオスと未熟なメス.下はワイングラス形がよく分かる.▲

オゼイトトンボもタンデムになっている個体がそこそこ見られたのですが,オオヒルムシロの生えているところでは産卵せず,水生植物の根などの柔らかい基質で産卵しているようです.今日はこのオゼイトトンボの産卵記録に手こずりました.かなり離れたところに好みの産卵基質があるようで,写真に撮れるようなところではありませんでした.池に入ることも考えましたが,脚が沈んで抜けなくなったら命に関わるかもしれないので,初めての場所では危険は冒せません.


▲産卵好適場所には他のイトトンボが産卵に来て,オゼイトトンボを追い払う.▲

それでも時々は岸近くの産卵に適した場所にやって来るペアも見られました.しかし,そんな場所へはアマゴイルリトンボやエゾイトトンボもやって来て,上の写真のように,一番小柄なオゼイトトンボを追い散らします.もともとここへはアマゴイルリトンボを見にやって来たのですが,このときばかりは,アマゴイルリトンボが憎たらしい存在に思えました(笑).


▲タンデムのオゼイトトンボは結構いるのに産卵が近くで見られない.▲

結局産卵を記録することはできませんでした.そうこうしているうちに時間が経ち,今日は家まで帰らねばならないので,残念ですが,お昼前には現地を後にしました.なお,これ以外にルリイトトンボを見ていますが,1頭だけでした.写真にも撮っていませんでしたので,今日いたメンバー紹介と言うことで,前回の写真を掲げておきます.


▲ルリイトトンボもここにいた仲間だが,今日は1頭見ただけだった.2023.6.23. ▲

さて,これらご当地のイトトンボ類の中には,兵庫県でも見られる仲間が混じっています.クロイトトンボ,モノサシトンボです.


▲産卵するクロイトトンボ.どこででも仲間になっている.▲


▲羽化直後のクロイトトンボのオス.翅胸側面の斑紋が兵庫のものとは少し違う?▲


▲モノサシトンボの未熟メス.成熟した水色のオスもいた.▲

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最後に,イトトンボ類ではなく,不均翅類について,見た種を紹介しておきましょう.まずは,シオヤトンボ,コサナエです.春の生き残りという感じですね.ただコサナエは今が盛りのようで,今日も産卵に来ていました.シオヤトンボはオスの姿を見かけません.


▲シオヤトンボ.オスの姿はなかったものの,メスはまだまだ頑張っている.▲


▲コサナエのオス.前肩部に細い淡色の線が消失しているタイプである.▲

またアキアカネが羽化を始めていました.2頭見かけました.池から羽化をしているようです.


▲高原の池で羽化をしているアキアカネ.▲

さて,最後に正体不明のトンボについて紹介しておきましょう.今日は天気がよいせいか,池の岸から10m~20m離れた位置を,数頭のトンボが飛び交っていました.兵庫県なら,トラフトンボという判断を下しそうな飛び方です.しかしここは兵庫県を遠く離れた,エゾイトトンボがいるような高原の池です.写真を撮ってみましたが,あまりに遠く,拡大してもほとんど何か分かりません.その中でも比較的正体が明らかになりそうな2コマをお見せします.

まず一つ目,腹部の曲がり方や先端に行くほど太くなっているような形状,そして尾部付属器ががっちりしているように見えること,さらに複眼の緑色,胸部が金緑色に光っていること,などから,カラカネトンボと判定しました.額に一対の白い斑点のようなものが見えます.カラカネトンボにはこういう斑点はないはずですが,これは金属光沢の表面が光を反射してできたものと考えています.画像処理でコントラストを上げていますので.


▲正体不明のトンボその1.カラカネトンボと判定したがどうだろう?.▲

二つ目は上のトンボとは明らかに違うトンボに見えます.後ろから撮ったものです.腹部の中程が膨らみ先に行くほど細くなるような形状,尾部付属器がウサギの耳のように大きく開いていること,胸部がやたらに黄褐色に光っていること,などから,オオトラフトンボと判定しました.


▲正体不明のトンボその2.オオトラフトンボと判定したがどうだろう?.▲

これら二つの同定にはほとんど自信がありません.なお,観察地はこの2種が分布する地域です.自信のある方がおられましたら,また掲示板にでも投稿してください.

ということで,最終日は収穫があり,旅行の締めくくりとして,終わりよければすべてよしという感じで,元気に長時間車を運転して帰宅しました.でもやはり,疲れた...

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No. 925. コフキトンボの帯型を求めて.2023.6.25.

今日は移動日なのですが,半日ほどトンボ観察に出ました.まずは昨日見つけたコフキトンボの帯型の探索です.今日は朝から曇り空で,気温が上がりきらず,トンボの動きが鈍い感じでした.元気なのはコシアキトンボです.コフキトンボは何頭か止まっているだけで,ほとんど動きません.池を歩き回ってやっと1頭だけ帯型を見つけました.ただ,低い位置に止まっていたのを発見が遅れ,木の上に上がらせてしまいました.しばらく待ちましたが,降りてきませんでした.


▲帯型のコフキトンボはいるものの,接近遭遇がかなわなかった.▲

2時間近くの探索を行いましたが結局これで終わりでした.帰り際にコシアキトンボが産卵していましたので,パチリ.


▲コシアキトンボの産卵.▲

その後近くの川に出かけました.ニホンカワトンボがまだ生き残っていました.それにアオハダトンボ,ミヤマカワトンボ,ハグロトンボもいました.つまりこの地域のカワトンボが一堂にそろっていました.さすが6月です.


▲ニホンカワトンボの透明翅型オス(上)と橙色翅型オス(下)▲


▲アオハダトンボのメス.▲


▲ハグロトンボ,シャッターを切った瞬間に飛び立った.▲


▲ミヤマカワトンボのメス.▲

あとマユタテアカネがもう腹部が赤くなっていました.特に下の写真などは秋に見られるような色彩に変化した個体です.兵庫県では今はまだきっと体が黄色いままの状態で,こんなのが見つかるとニュースにしても良いぐらいです.やはり所変われば品変わるですね.ミヤマアカネの方はまだ未熟な感じで,2頭見られました.


▲マユタテアカネのオス.もう腹部が赤い!.▲


▲ミヤマアカネのメス.ミヤマアカネはこれから増えてくるという.▲

と,半日ほどトンボ観察をし終了しました.

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No. 924. オオモノサシトンボの観察.2023.6.24.

今日は昨日よりさらに東へ移動し,関東地方へオオモノサシトンボを見に行きました.ネットで情報交換をしている方の案内で,生息地へ連れて行ってもらいました.オオモノサシトンボの生きている個体を見るのは,昨日までのアマゴイルリトンボと同じく,初めてです.はからずも2種ともモノサシトンボ科の種でした.

前泊し,朝恐る恐る空を見上げましたら,青空が!.予報では一日中曇りだったのですが,私は晴れ男なのでしょうか?.さて観察地に入ったのは9:30ぐらいでした.ヨシを中心とした水生植生と陸生植生が混じり合った岸に沿って,オオモノサシトンボを探して歩きました.水面にはびっしりとガガブタ・スイレンなどの浮葉植物が繁茂しています.産卵基質になるのでしょうか.ほどなく草の間をふわっと飛ぶオオモノサシトンボが見つかりました.一見してモノサシトンボとは違うということが分かりました.黒っぽく見えるのですね.


▲オオモノサシトンボの成熟オス.黒が締まった色をしていて美しい.▲


▲オオモノサシトンボの成熟メス.淡色部が淡い黄緑色をしている.▲

初めのうちはこちらが殺気立っているのか,アマゴイルリトンボと同じようにすぐに逃げていきます(笑).よく観察を続けていると,オスは成熟個体が多いのですが,メスは未熟個体の方が多いように見えました.ただ成熟メスはうまく隠れているのかもしれません.


▲草の間に潜んでいるオオモノサシトンボの成熟オスたち.▲

成熟オスの中には,水面上の葉に止まっている個体があって,そういう個体はあまりその場所を動こうとしません.メスを待っているのかもしれません.


▲水面に出ているオオモノサシトンボの成熟オス.ときどき飛び立つが元に戻る.▲

写真を見て分かりますが,成熟オスは中肢・後肢の脛節の白色部がよく目立ちます.実際飛ぶときにはそれを目だ立たせるようにして,まるでグンバイトンボのように飛んでいます.その記録を撮ろうと頑張りましたがかないませんでした.また腹部先端を大きく反らせる行動をとることも観察しました.アオハダトンボ属のトンボが行うような感じです.ただ,メスへのアピールではなくオス同士の時にその行動を行っていました.


▲オスの腹部先端を大きく反らす行動.▲


▲オス同士が絡み合ったときに見られた.両方ともやっている.▲

この腹部先端を反らす行動は,実はメスにも見られます.これはアオハダトンボ属では見られない行動です.下の写真は,はじめはオスだとばかり思っていたのですが,それは全くの先入観,形態的特徴からメスだと判定しました.下の写真と比べると分かりますが,オスの場合は,ほぼ同じ後ろからの角度で見ても脛節の白い部分がはっきりと確認できます.一方腹部を上に反らせている方の個体は脛節の外側(後ろ側)が白くありません.


▲腹部先端を反らしながら飛ぶメス.脛節が白くないのでメスと分かる.▲


▲ほぼ同じ角度から見たオスの写真.脛節の白色がはっきりと確認できる.▲

もちろん腹部先端を反らせずに飛ぶことも普通ですので,この行動には何らかの意味があるはずです.あまりモノサシトンボでは見たことがないと感じている行動ですが,今度念入りに観察してみたいと思います.


▲腹部先端を反らせずに飛ぶオオモノサシトンボのメス(上)とオス(下).▲

さて,オオモノサシトンボの飛翔行動も面白いのですが,まだまだ未熟な個体も目立ちました.特にメスに多い印象でした.


▲複眼の背面がまだ白く,羽化してまだあまり日齢がすすんでいないメス.▲


▲脚が赤く,未熟色満開のメス.▲


▲未熟なメス同士がにらめっこ状態で静止.▲

オスの未熟個体はそれほど多くないようでした.雄性先熟がみられるといっていいかもしれません.オスの未熟個体は目立たない褐色で,メスのように脚全体が派手に赤くなることはありません.

▲未熟なときから脛節の白が目立っているオオモノサシトンボの未熟オス.▲


▲複眼背面の色が淡く,脚も赤と白のグラデーションを見せる未熟なオス.▲

さて,こんなことをして観察を進めているうちに,12時前になりました.しかしながら全くと言ってよいほど交尾や産卵を行う気配がありません.オスとメスが草の中で出会っても,オスは全く関心なしといった行動を見せています.

ミヤマカワトンボなどのように普段オスとメスが同所的に生活しているトンボでは,ある時刻になるとオスがその気になり,メスはそれに対して交尾拒否姿勢か受け入れるかの態度をはっきりさせるような行動が見られますが,オオモノサシトンボでは全くそういった気配すらありません.ただメスの未熟個体が多かったことから,ここの個体群はまだメスが十分に成熟していない可能性が考えられました.13:00過ぎには,今日は繁殖活動はなしと判断して,オオモノサシトンボの観察を終えました.

オオモノサシトンボの観察中に,コフキトンボの帯型メスを見たので,この後これを探すことにしました.


▲コフキトンボ帯型メス.見た場所に再確認に来てみると木の上に上がっていた.▲

オオモノサシトンボの観察地の池を周回して探してみましたが,この個体以外は見つからず,通常色の個体ばかりでした.


▲コフキトンボの若い成熟メス(上)と老熟メス(下).▲

その後,何カ所か回って,最後の池でやっと帯型メスを見つけました.ただ止まっている位置が遠いので,写真はかなり難しかったです.木の枝を放って飛ばせてみましたが,より遠いところへ行ってしまいました.


▲コフキトンボの帯型メス.▲


▲上と同じ個体だが,より遠いところに止まった.▲

帯型はこの個体以外にもう1頭いました.こちらはすぐに姿を消しました.コフキトンボは明日の移動までにもう一度チャレンジすることにして,今日の観察を終えました.最後にこれらの観察の道中に出会ったトンボたちを紹介しておきます.


▲オオモノサシトンボを観察中に目の前で産卵したショウジョウトンボ.▲


▲コシアキトンボは訪れた各地に普通に見られた.最後の池での産卵.▲


▲珍しくコガネグモの巣にかかったウチワヤンマ.ウチワヤンマもたくさんいた.▲


▲どこにでもいたシオカラトンボ.▲

これら以外にチョウトンボ,クロイトトンボ,セスジイトトンボ,オオヤマトンボ,ギンヤンマなどが見られました.

天気は,午後雲が多くなりましたが,人間様にはこのほうが動きやすくて良かったように思います.明日もトンボ観察旅行は続きます.

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No. 923. アマゴイルリトンボの観察.2023.6.23.

昨日は,天気予報がいい方に外れ,わずかな明るい曇り空の中,アマゴイルリトンボの姿を見ることができました.天気予報によると,今日はひょっとしたら雨と雨の間に挟まれた曇り空が広がる可能性がありました.せっかくここまで来ているのでダメ元でもう一度アマゴイルリトンボの観察に行くことに決めていました.夜中にはそこそこの雨が降ったようで,朝起きると地面や草木がびっしょり,でも空は雲の切れ間から青空が見られ,日も差しています.またいい方に予報が外れるかもしれません.現地に着くと青空がありました.


▲雨上がりの青空です.今日はうまくいくかな...▲

池面ではもうクロイトトンボが飛び回り,産卵もしていました.ただ空には雲が広がり始めました.ねずみ色のやや厚い雲です.


▲クロイトトンボの産卵.▲

アマゴイルリトンボはまだ池面には出ていないようです.ただ,岸近くのヨシの植生の中から,羽化直後のアマゴイルリトンボが次々と飛び立つのを観察しました.


▲池の方から羽化して次々と飛び立ってくるアマゴイルリトンボ.▲

こうなっては,羽化しているところを見たくなるのは当然です.しかしこれがなかなか見つかりません.そっと岸辺の草むらをのぞき込んで約10分,やっと羽化殻のそばに止まるアマゴイルリトンボの羽化個体を見いだしました.ただ,草の中なので写真には障害となる草があります.でもそれが実際の姿なので,草越しに記録をとりました.


▲羽化しているアマゴイルリトンボ.▲

だんだんと時間が過ぎていきますがアマゴイルリトンボは水面には出てきません.空はだんだんどんよりとした感じになってきつつあります.そこで,昨日のように草の中にいるアマゴイルリトンボを見に行ってみました.昨日より少ない感じはしましたが,それでもそこそこ飛んでいました.


▲アマゴイルリトンボのオスたち.下はまだ未熟なのだろう,淡色部が白い.▲


▲アマゴイルリトンボのメス.▲

10:00過ぎ,繁殖活動は,やはり曇り空では無理なのかと思い,今度は少し池から離れた草地をのぞいてみました.すると,交尾態のカップルが止まっていました.繁殖活動をやっているようです.


▲アマゴイルリトンボの交尾.10:08.▲

やがて交尾は解かれ,ペアはタンデム状態で池の方に向かって飛びました.これは途中で見失ってしまいましたが,飛んだ方向と池に浮かぶ産卵基質(枯れた水生植物の葉や茎)の存在する場所に目星をつけ,行ってみました.すると,そこには産卵に来ているアマゴイルリトンボのペアが複数飛んでいました.


▲池に現れたアマゴイルリトンボのペアたち.▲

こうなれば,産卵の観察も時間の問題だと思いました.ところがです.なかなか産卵を始めません.待つしかないので待っていると,葉に止まっているペアがだんだんと水面の方に降りていきます.そしてやっと産卵を始めました,が,私がほんの少し動くと,それも1~2mも離れた位置でです,さっと産卵をやめ飛び上がって,また葉に止まるのです.何度やっても同じです.近づけないどころか動けないのです.非常に敏感なトンボです.モートンイトトンボも産卵メスは非常に神経質ですが,それよりもっと神経質にこちらの動きに反応します.ねらいをつけるペアを変えても同じです.


▲かなり離れたところで,こんな向きのままシャッターを切るしかなかった.▲

12:00まで約2時間,とにかく息詰まる攻防戦という感じで,相手を替え場所を変えて産卵の写真撮影に挑みました.警戒してか植生の中で産卵するし,きれいに横からなんていうのは無理でした.それでも何回かはシャッターを切るチャンスがありました.


▲ほとんど,待っている立ち位置から撮影したものである.▲

この歩哨姿勢は水面ギリギリにカメラを置いて撮影するのが一番です.ただ一回だけそのチャンスに恵まれました.


▲やっとねらったような写真が撮れた.▲

今までの撮影でこんな難敵は初めてでした.ここはカエルが多いので,それを警戒して,ちょっとした異変でも飛び立つように学習しているのか,あるいは選択が働いているのかもしれませんね.

さて,今日は晴れていた時間帯があったので,曇った後も,メスたちが産卵に出てきているようでした.コサナエがいました.オスが数頭,メスは2回産卵に来ました.


▲コサナエのオスとメス.メスは産卵に来たもの.▲

それから,エゾイトトンボを見つけました.ルリイトトンボとエゾイトトンボがいましたので,そのほかにもいるかもしれません.アマゴイルリトンボは一応来た目的を達しましたが,その他のトンボが気になります.帰りにもう一度寄るつもりです.


▲エゾイトトンボがいた.▲

なお空気が湿ってきて気温が下がったので急いで車に戻りましたが,途中で本降りの雨に遭い,びしょ濡れになりました.北のトンボたちは,このような隙間的好天に反応して,繁殖活動をしているのですね.朝晴れたのが良かったです.繁殖活動を始めてしまってから曇ってきたので,中断はせず,厚い雲の下で産卵活動を継続していました.

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