デジタルトンボ図鑑−羽化殻編
ヤンマ上科/サナエトンボ科/メガネサナエ属 検索表


 メガネサナエ属3種の区別点として,腹部第9節の最大幅に対する長さの比がよく使われている.生きた終齢幼虫では割合安定した形質であるが,羽化殻は伸長や変形が著しく,計測が困難である場合がほとんどである.羽化殻については大野(2018)が詳細に計測して考察を加えている.それによると,腹部第9節の長さ(背板長)については,平均してみると,メガネサナエ,ナゴヤサナエ,オオサカサナエの順に短くなるものの,メガネサナエとナゴヤサナエ,およびナゴヤサナエとオオサカサナエで計測値の重なりが認められる.ただし,メガネサナエとオオサカサナエでは計測値に重なりはない.したがって,ナゴヤサナエが混じらない地域では,メガネサナエはオオサカサナエより腹部第9節の長さが長いと言える.大野(2018)のグラフからは,メガネサナエが4.0mm前後かそれ以上,オオサカサナエが3.5mm前後かそれ以下となっている.
 一方,形質の違いによってオオサカサナエとメガネサナエを区別する簡便な方法が,小学生の研究によって発見された(白神ら,2014).メガネサナエ属の下唇側片の内葉片は鈎状に曲がり鋭く尖っていて,可動鈎が重なるように閉じたときにも下唇中片前縁との間にすき間が空く.その際,鈎状の内葉片の重なり具合がメガネサナエとオオサカサナエで異なっているというのだ.内葉片が交差するように重なっておればメガネサナエ,先端が接する程度であればオオサカサナエである.これは可動鈎は両種でほぼ同長なのに内葉片がオオサカサナエの方が短いからである.手元のナゴヤサナエ羽化殻標本について調べてみると,やはりこの重なりはメガネサナエよりはオオサカサナエに近かった.終齢幼虫でも同様であった.
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01.可動鈎が重なるように閉じた下唇側片を腹面から見たとき,内葉片の先端が交差する(白神ら,2014;a:赤矢印).下唇中片先端の剛毛が濃い(河瀬ら,2016;a:青矢印).腹部第9節はメガネサナエ属3種の中で一番長く4.0mm前後かそれ以上である.羽化殻全長は40mm前後かそれを超える.・・・メガネサナエ
− 可動鈎が重なるように閉じた下唇側片を腹面から見たとき,内葉片の先端は軽く触れる程度(白神ら,2014;b:赤矢印).下唇中片先端の剛毛はメガネサナエよりは短く疎である(河瀬ら,2016;b:青矢印).腹部第9節は4.0mmを超えることはない.羽化殻全長は40mm前後かそれより小さい.・・・02
var. 第9腹節長や全長については個体変異があるので注意を要する.ナゴヤサナエの下唇中片先端の剛毛はb.のオオサカサナエより濃い(02のb,dを比較せよ).
a.メガネサナエ前下唇先端腹面,b.オオサカサナエ前下唇先端腹面.
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02.下唇前基節の幅は基部の方がやや狭くわずかに逆台形をしている(a).下唇中片前縁部中央がやや凹んでいる(大野,2018;b:赤矢印).下唇側片の,内葉片に対する可動鈎の長さの比が長い(b).前下唇は黄褐色である(大野,2018;a).・・・オオサカサナエ
− 下唇前基節の幅は全体としてほぼ変わらず長方形に近い(c).下唇中片前縁部中央が凹んでみえることはない(大野,2018;d:赤矢印).下唇側片の,内葉片に対する可動鈎の長さの比は短い(d).前下唇は茶褐色をしている(大野,2018;c).・・・ナゴヤサナエ
var. オオサカサナエにおいて,下唇中片前縁部中央の凹みは見る角度によっては確認しづらいので注意を要する.
a.オオサカサナエ前下唇腹面,b.オオサカサナエ前下唇先端内面,c.ナゴヤサナエ前下唇腹面,ナゴヤサナエ前下唇先端内面.
<参考文献>
大野 徹,2018.メガネサナエ属3種の羽化殻による識別.Aeschna (54):11-14.

河瀬直幹・白神慶太・白神大輝・遠藤真樹・井野勝行・十亀正輝・澤田弘行・八尋克郎,2016.琵琶湖におけるメガネサナエ・オオサカサナエの羽化殻分布と羽化の季節消長.Aeschna (52):17-26.

白神慶太・白神大輝,2014.オオサカサナエの研究.Gracile (74):43-44.