ハイキングコースなどを歩くと,道沿いの切り通しのようなところから,したたり落ちるように水がわき出ていることがある(図1左).ムカシヤンマは,こういったところの,コケの裏側などに穴を掘って生活している.幼虫は肢や触角が太くて,いかにも穴を掘って生活するのに適した体のつくりをしている(図1右).図1中はニュージーランドのムカシヤンマ Uropetala carovei の幼虫の巣穴の模式図で,大きくなるにしたがって次第に深く太い穴に変化していくようすを示している(Wolf, 1953 in Corbet, 1962).この大きな幼虫の巣穴の所々に見える横穴の名残が,この幼虫が小さかったときの一番深い位置であったと考えられている.
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図1.左:生息環境.中:Uropetala carovei の幼虫の巣穴の模式図.右:幼虫全形.
こんな所に棲む幼虫にも水は必要で,底で,水に浸かって生活している.エサをとるときには外へ出て徘徊するようで,日本のムカシヤンマでは小さなサワガニや,アブの幼虫の一種を食べているのが観察されている(藤本・吉田・杉谷,1994).幼虫期間は,まだ完全な飼育記録や野外観察はなされていないが,だいたい3〜4年であろうといわれている.
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図2.湧き出し水のコケに産卵するメス.
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図3.巣穴の奥に顔を見せる幼虫.
Corbet, P. S., 1962.A Biology of Dragonflies.
藤本勝行・吉田雅澄・杉谷篤,1994.滋賀県におけるムカシヤンマの観察記録.Aeschna (29):1-8.
津田 滋,2000.世界のトンボ分布目録.自刊.
Wolf, L. S., 1953. A Study of Genus Uropetala Selys (Order Odonata) from NewZealand. Trans. roy. Soc. N.Z. Dunedin 80:245-275.