No.816. アキアカネが帰ってきた.2021.10.30.

今日は朝から晴れの予報.先日見つけたノシメトンボが来そうな池の抽水植物帯.ここへノシメトンボを見に行くことにしました.ノシメトンボはかつては「ついで種 collateral species」でした.アカトンボを観察に行くというような大きなくくりの中で,必ず見つかる種だったのです.でもこれを目標にしてわざわざ出かけるというのは,本当にトンボがいなくなったことを実感します.

さて,池に着いたのは9:40頃でした.池をざっと見渡しても,まだトンボは飛んでいません.気温15度,秋のトンボにはまだ早いようです.池に降りましたら,「あっ」という感じ,アキアカネが止まっていました.つい4日前に来たときには姿がなかったのに,帰ってきたのですね.

▲朝日を浴びて(といっても10時前)池岸に止まるアキアカネのオス.▲

池をぐるっと一周することにしました.止まっているトンボたちを見ていこうというわけです.まず見つけたのは,マイコアカネのメスでした.前にも書きましたが,この池はかつてはマイコアカネがたくさん生息していました.最近見かけることがなかったのですが,まだいることだけは確かなようです.

▲マイコアカネのメス.いたんですねぇ.よかったです.▲

そのほかには一通りのメンバーがいました.タイリクアカネ,オオキトンボ,リスアカネ,マユタテアカネなどです.池の周囲で日向に止まっていました,しかし,ノシメトンボの姿は見られませんでした.ちょっと先行き不安です.

▲タイリクアカネのオス.▲

▲自身と同じような色の土の上に止まっているオオキトンボのオス.▲

▲リスアカネのオス.▲

▲マユタテアカネのメス.堤の草の中にいた.▲

さて,だいたいこの時期のトンボたちは10:30ぐらいから繁殖活動を始めます.スタート地点に戻り,腰を下ろして産卵開始を待つことにしました.ほどなく1ペアのトンボが目の前に入って来ました.アキアカネです.アキアカネが産卵にやって来ました.兵庫県南部のアキアカネは,最近,11月になってから姿を見せるようになっています.もう間もなく11月ですから,やはり帰ってきたのですね.でも,いちばん遅くまで活動しているキトンボやタイリクアカネより繁殖活動の初見が遅いというのは,昔を知っている身にとっては,なんかしっくりきません.

▲最初にやって来たのはアキアカネの産卵ペア.10:22である.▲

結構長い間産卵をやっていましたが,やがて,メスを放し産卵が終了しました.タイリクアカネのオスが,水面をホバリングして飛ぶようになりました.いよいよ産卵時間帯に入ってきたようです.

▲水面をホバリングして飛ぶタイリクアカネのオス.▲

そのうち,次々と産卵ペアたちが池に入ってきました.産卵時刻が始まったようです.タイリクアカネが多そうです.しかし写真を撮って確認すると,かなりの割合でアキアカネが産卵していることが分かりました.私は,アキアカネが増えるとタイリクアカネが減るという仮説を持っていますが,この後が楽しみです.

▲産卵するタイリクアカネ.今日は比較的遠いところでばかり産卵していた.▲

さて,産卵が始まったので,もう一度ノシメトンボを見に行くことにしました.なんせ今日はこれがメインですから.抽水植物帯が干上がったところへ行ってみました.しかし,まだノシメトンボは飛んでいません.ただ,オスが姿を現しました.望みありですね.

▲ノシメトンボのオスがやって来た.▲

少し待ってみましたが,やはり産卵にはやって来ません.打空産卵をするトンボは,この時期,他の打水産卵のトンボより産卵時刻が遅い感じがしています.リスアカネにしても,ナニワトンボにしても,ナツアカネにしても,たくさんの個体が産卵しているのは,だいたい9月下旬がメインです.ですから高い気温で産卵するように適応しているのかも知れません.そこで,11:30頃にここに来ることにして,今盛んに産卵している打水産卵のアカトンボを見に行くことにしました.

行く途中,池の外を回ってみました.すると,オオキトンボやタイリクアカネが交尾をしていました.また,隣の水田ではアキアカネが産卵をしていました.水田の生活者の面目躍如という所です.

▲オオキトンボの交尾.終わったところのようだ.もうメスの腹部は離れている.▲

▲タイリクアカネの交尾.▲

▲水田の水たまりで産卵するアキアカネ.もっともポピュラーな産卵だ.▲

さて,またスタート地点に陣取って,どっかと腰を下ろし,産卵するトンボを待つことにしました.私は明るい青のジャンパーを着ているのですが,これがどうもトンボには目立つ存在のようで,近づくと一定の距離を取って逃げていきます.ですから,もう待つのがいちばんです.早速マユタテアカネが産卵にやって来ました.目の前で産卵しています.こちらが動かなければ良いのです.

▲独特のフォームで打泥産卵するマユタテアカネ.▲

マユタテアカネのメスは,産卵時に腹部先端の背側をいっぱいに反らし,産卵弁が突き出るようにし,それを力強く泥に突き刺して産卵します.オスもそのことを熟知しているようで,下降して打泥する前,最高点に達したとき,力一杯急降下するような姿勢をとります.いつも思いますが,昆虫がこういった合理的な行動を取れるように進化していることは自然の不思議です.

待っていると今度はオオキトンボがやって来ました.オオキトンボもあちこちで産卵しているのを見ていますが,今日はなかなか接近遭遇できませんでした.果報は寝て待てですね.じっと腰を下ろして待っていると,向こうから目の前に産卵にやって来てくれます.

▲目の前で産卵するオオキトンボ.▲

今日はコントラストの強い日射しで,背景も単調な泥と水面です.コントラストがない体色でフォーカスを合わせにくいオオキトンボですが,今日は合焦がはっきりと認識できます.ついつい調子に乗って,たくさんのシャッターを切ってしまいました.

▲産卵するオオキトンボのペア.▲

オオキトンボのオスも体色もだいぶん赤味が強くなり,茶色になってきました.毎年言っていますが,茶色になったオオキトンボの渋い色彩が好きです.あの色は他のトンボには出ません.あと半月もしたらそうなるでしょうね.

さて,時間が経ちました.今日の本命を忘れるほどの産卵ショウが繰り広げられていますが,ノシメトンボを見に行くことにしました.干上がった抽水植物帯に着くと,ノシメトンボのオスがいました.先ほどの個体かどうかは分かりません.

▲ノシメトンボのオス.オスはいるが産卵は見られない.▲

しばらく立っていると,このノシメトンボのオスがメスを地面にたたき落としタンデムを形成しました.ついに来たかと歓喜…いや,よく見ると,メスはリスアカネのようです.ノシメトンボの個体数が少ないのですね.オスも相当に飢餓状態!?なのでしょうか.異種間連結のペアは視界から消えました.

しばらくしてふり返ると,ナツアカネが草の上で産卵しています.時刻は12:15になっています.打空産卵するトンボはやはりこの時期産卵時刻が遅いようです.

▲ナツアカネの産卵.最後はオスがメスを放して,メスは単独産卵に移行した.▲

ナツアカネが産卵しているとき,すぐ隣でリスアカネが産卵を始めました.ナツアカネは少し置いて,リスアカネの方にカメラを向けました.

▲抽水植物の間で産卵するリスアカネ.もちろん干上がっている.▲

さて,たくさんのトンボを見ましたが,ノシメトンボは産卵に来ません.帰ろうかどうしようかと迷い始めたとき,ノシメトンボのタンデムペアが目の前を飛びました.ついに来たか!.ノシメトンボで大喜びするとは,本当に「時代は変わった」ものです.しかし,このペア,産卵行動を取ることなく,池を出て行き,また入ってきましたが,再び出て行ってそれきりでした.この場所は産卵に適していないと判断したのでしょうか.それとももっと近くに良いところを知っているのかな.

12:30になりました.もういくら何でも,産卵が終わる時刻のように思えました.それでも,まわりに目を凝らしていると,ひらひらとノシメトンボのメスが入ってきました.産卵するかと思いましたが,植物に止まって休憩状態.ときどき摂食をしています.どこかで産卵していたのかな.今日は産卵には出会えませんでしたが,最後にこのメスを撮って,終わりにすることにしました.

▲ノシメトンボのメス.兵庫県南部で見るのはずいぶん久しぶりのように思える.▲

帰り道,リスアカネの交尾を見ました.産卵後のメスを捕まえて交尾しているのでしょうね.

▲リスアカネの交尾.▲

池の外を歩いて帰る途中,先の水田で,またアキアカネが産卵していました.

▲やはりアキアカネは水田が好きなのだろうか.▲

この池は本当にアカトンボの多い池です.ずっと昔はベッコウトンボもいた池です.例年はここまで水落をしないので,ここ数年オオキトンボとタイリクアカネぐらいしか目立たなかったのですが.今年は大きく水を落としてくれましたので,平地性のアカトンボがたくさん集まりました.毎年こうだったら良いんですけど…

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