No.811. タイリクアカネとオオキトンボ.2021.10.8.

10月に入ってもまだまだ暑い日が続きます.聞くところによると,10月のこの暑さは75年ぶりぐらいだそうです.先日の兵庫北部の観察でも,アキアカネやナツアカネが腹部挙上姿勢をしていました.これら秋のトンボは,あまりこういう姿勢はとらないものですが,やはり暑いんでしょうね.今日は,少し早いかとも思いましたが,オオキトンボを探しに行ってきました.

初夏にウチワヤンマを観察した池に行ってみました.すると,池の水が大きく落とされ,アカネの産卵場所にぴったりの状況でした.水を落としているので,水際を歩いて周囲を回ることができます.たくさんアカトンボが来ているかな?,と早速池に入ってみました.すると,足下で,マユタテアカネが産卵をしていました.すぐ隣ではもうオオキトンボが産卵をしています.オオキトンボよりマユタテアカネを優先して撮影しました.

▲水際で打泥産卵をするマユタテアカネのペア.▲

ふつうならオオキトンボの方を優先して撮影するところですが,最近私の観察地では,むしろマユタテアカネの方が珍しいのです.

マユタテアカネの産卵が終わり,池の方を見ますと,まだオオキトンボが産卵をしていました.ただ少し遠いところで,歩いてはいることができないわけではありませんが,足跡をつけたくなかったので,岸から撮影しました.典型的な水際での打泥産卵です.

▲水が落とされ底が露出した池の水際で打泥産卵するオオキトンボ.▲

しばらくすると,こちらの方に移動してきましたので,もう少し大きく撮影ができました.ちょっとだけ池に入って撮影してみました.

▲水際で産卵を続けるオオキトンボ.▲

オオキトンボは3ペア産卵を見ました.到着したのが10:00頃でしたので,すでに産卵開始時刻を過ぎていたようです.もう少し早く来るべきでした.

ところで,オオキトンボより数が多く,水際や水面を飛び回っていたのがタイリクアカネでした.タイリクアカネはもう少し遅い時期に出てくるトンボのような気がしていますが,今日はたくさん集まって,ビュンビュン飛んでいました.気温が30度近くあって高いせいか,ものすごく活動的で,静止しているオスを撮影するのも一苦労という感じでした.また暑いせいか,輻射熱のあるコンクリートの上などには止まらず,棒の先に止まっています.ちょっと珍しい感じです.

▲タイリクアカネのオス.地面に止まらず棒の先に止まる個体が結構多かった.▲

オオキトンボが水際で打泥産卵するのに対し,タイリクアカネは水際や少し離れたところで打水産卵をしています.藻などが水面に出ているところでは,両者ともその上で産卵していますが,泥面と水面がくっきりと分かれている今日のような状態では,両者ははっきりとした産卵行動の違いを見せるようです.

▲タイリクアカネはもっぱら打水産卵をする.▲

▲打水産卵を続けるタイリクアカネ.▲

時に2ペアが産卵をすることがありました.不思議と両者が近づいて産卵します.やはり,産卵しているペアは,別のペアの産卵行動に誘引されるように思えます.

▲あるペアが産卵していると,わざと近づくようにして一緒に産卵する.▲

また単独で池岸を飛んでいるオスは,産卵ペアを見つけると近づいて行って,体当たりして干渉します.産卵ペアは嫌がって,逃げ回ります.写真に撮る者には迷惑な話ですが……

▲産卵ペアに干渉する単独オス.▲

時刻も11:00を過ぎ,産卵活動も一段落しましたので,終わることにしました.帰りにまた茎の先に止まるタイリクアカネを見ましたのっで一枚撮ってお別れとしました.

▲茎の先に止まるタイリクアカネのオス.▲

今日の観察では,アカトンボがたくさんいるようで賑やかに見えますが,私にはこの状況が異常なものに見えます.

タイリクアカネにしても,オオキトンボにしても,いずれも長距離を移動して池にやって来るトンボたちばかりです.本来この池とその周辺に住みついているアカトンボがほとんどいませんでした.以前この池にマイコアカネがたくさん棲みついていましたが,ずっと前から姿を消しています.池に棲みついているトンボでいたのは,マユタテアカネが2ペアだけ.タイリクアカネとオオキトンボがいなかったら,何と寂しい秋の池だったでしょう.

▲今日と同じ池でたくさん産卵していたマイコアカネたち.2009年.▲

また同じく広く分散するアキアカネは,今日はまったく姿を見せていません.先日の記事で兵庫北部ではあふれるほどいたことを報告しました.あの場所は,無農薬や減農薬でお米を育てている農家が非常に多い地域です.アキアカネの減少は,ネオニコチノイド系農薬が原因しているといわれています.ネオニコチノイド系農薬は,水田などから排水路や地下水を通って環境中に広がり,池にも入りこみます.しかしオオキトンボもタイリクアカネも,広く分散して,あちこちの池で産卵しています.そんな中にはきっと,農薬の影響を受けていない池もあるでしょう.

池に定着して棲みついているトンボは,その池が1回薬剤で徹底的にたたかれると,子孫は0となって消えてしまいます.でも分散して生活しているトンボは,どこかで生き残り,その子孫がまたその池にやって来るということになります.ですから,オオキトンボとタイリクアカネのようなトンボが他のトンボが消えた池でも見られることになります.

ですから,オオキトンボとタイリクアカネしかいない池は,どこか変なのです.

なお同じように分散するアキアカネとナツアカネは,主な生息場所が水田ですから,農薬でたたかれる可能性が,これら池で生活するトンボより高くなって,なかなか殖えることができないのでしょう.兵庫県南部でも,11月を過ぎるとアキアカネは,数は少ないですけど出てくるようです.

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