H086.オオキトンボ Sympetrum uniforme 繁殖活動
観察地の風景
▲ため池が水落をするとこのような湿地状の岸辺が出現しオオキトンボが集まる.
 オオキトンボの産卵環境は,写真のように,水落によって池岸に発達した湿地状の場所である.オオキトンボは絶滅危惧T類(CR+EN)で全国各地で減少しているトンボであって,兵庫県も例外ではない.しかし,最近ある市では秋にため池の水を落とすように行政が指導していることや,また農家の方々が積極的に水落を行っていることなどが幸いして,まだ各地でその姿を見ることはできる.本種は移動分散を生活史に組み入れており,同じ絶滅危惧T類のベッコウトンボやマダラナニワトンボと違って,ため池の数・密度ともに高い兵庫県ではすぐに絶滅するような状況にはないようである.
繁殖活動を始める前のオオキトンボのオス
▲繁殖活動を始める前のオオキトンボのオスたち.
 良く晴れた10月中旬の10:00過ぎ,観察地を訪れた.まだオオキトンボは池の周辺の草地に止まっていた.草むらの奥の方に止まっているものも多いが,もう水際に止まってメスを待っているような個体もいる.同じ止まり方でも,やや腹部を上げ気味にして力の入った止まり方は,いつでも飛び立てるように準備している止まり方である.上の写真のススキの穂に止まっている個体はお休み状態だ.
パトロールのため水面を飛び始めたオス
▲パトロールのため水面を飛び始めたオス.
 10:30ころになると,オスたちは水面をパトロールし始める.ホバリングが中心で,水面上で,メスがやってくるのを待つ.時々,右へ左へ場所を変えて見張る.
池の中央部で打水産卵するペア
▲池の中央部で打水産卵するペア.上の写真では魚がすぐ下を泳いでいる.
 オスたちは産卵の時刻をよく知っているようで,程なく産卵のペアが入ってきた.このペアはどこかで交尾をすませてやってきたのだ.池の中央部で打水産卵を繰り返している.写真をよく見ると,ペアのすぐ下に魚のひれが見える.オオキトンボのような産卵をするトンボは,オオクチバスのような肉食性の魚によくねらわれる.別の池であったが,水中からジャンプして食べられそうになったオオキトンボを見た(ビデオ参照).こうやってトンボたちは数を減らしていくのだ.もっともこの池の肉食性外来魚はカムルチー(タイワンドジョウ?)のようで,これはジャンプしてトンボを食べることはしない.理由は分からないが,カムルチー(タイワンドジョウ?)の生息する池は,一般にトンボが豊かである.
池底が露出してできた湿地状の部分で産卵するペア
▲池底が露出してできた湿地状の部分で産卵するペア.
 オオキトンボの産卵は,先に見たように,開水面に打水産卵する方法と,この写真のように,打泥産卵を行う方法とがある.あちこちで述べているが,どちらを採用するかはペアによって決まっているように感じる.あるペアは打泥産卵ばかり,別のペアは打水産卵ばかりを行う.そしてこれもいつも感じるが,オス・メスどちらがそれを決めているのだろう.
打泥の瞬間
▲打泥の瞬間.打泥の瞬間はかなりのスピードになっていて1/1000でシャッターを切っても流れる.
 写真をよく見ると,打泥というよりは,オオアカウキクサの表面に卵を貼り付けているようである.打泥の瞬間はかなりスピードが上がっているようで,なかなかぴったりと止まらない.メスは腹部先端を傷めないだろうかなどと心配したりする.
池岸の水際に産卵するペア
▲池岸の水際に産卵するペア.
 産卵には本当にペアによって個性があるとつくずく感じる.上の写真のペアは,同じ打泥産卵でも,先のペアのように広く広がった湿地状の部分ではなく,岸の水際の泥面を選んでは,卵を貼り付ける.
打水産卵するペア
▲打水産卵するペア.
 産卵するペアの数が増えてくると,打水産卵も岸近くで行うことがある.打水の直前では,オスがまず腹部を下げてメスを水面の方に引く.メスは少し遅れてその勢いを利用して水面を叩く.水面にはかなり深く腹部が入り込む.コノシメトンボのように挿入的ではなく,明らかに水面を叩いてから水を引いている.
打水産卵の連続写真
▲打水産卵の連続写真.打水の瞬間は腹部の半分近くが水中に入っている.
 オオキトンボの打水産卵は,打水の後,かなり高い位置まで上昇する.コノシメトンボは比較的低い位置のままである.魚にねらわれることを考えると,打水の後高い位置へ戻ることは適応的である.かつて観察したオオクチバスにねらわれたときも,逃げおおせたのは,わずか数センチという高さの差であったようだ.
産卵を終えたメスは上空へ逃げていく
▲産卵を終えたメスは上空へ逃げていく.
 約1時間続いた産卵ショウも,ピークは過ぎたようである.まだペアは時々入ってきているが,撮影するこちらは集中力が切れた.産卵を終えたメスは,タンデムを解いて一気に上昇する.上昇したときの姿勢がおもしろい.そして,近くの木々の間から,池の外へと出て行く.
産卵後のオスは止まって休息する
▲産卵後のオスは止まって休息する.
 タンデムを解いた(解かれた?)オスは,池の外に出ることはなく,水際に止まって休息する.もちろん次のメスがやってきたら,また交尾する気持ちはあるのだろう.しかし,秋のトンボの産卵時刻は限られており,もう間もなく,今日の産卵活動は終了するであろう.あとはのんびりと摂食などをして過ごすに違いない.