H077.タイリクアカネ Sympetrum striolatum imitoides 繁殖活動
観察地の風景
▲丘陵地にある浅い池.
 タイリクアカネは海岸近くで繁殖するトンボであると考えられてきた.しかし最近はこういった,かなり海岸線から離れた池で,11月に入ってからも繁殖活動が見られるようになってきた.従来の通説を書き換える必要を感じる.また,タイリクアカネの見られる池では,アキアカネ,コノシメトンボなど,限られた種が一緒に見られるだけであったが,この池では,コノシメトンボの他,キトンボ,オオキトンボ,マユタテアカネ,ネキトンボなど,多くのアカネ属も産卵に訪れている.かつてこの池の近隣に在住していた故松本健嗣氏は,約30年前の記録としてこの池のトンボ相について何種類かを記載しているが(関西トンボ談話会,1974),その記録の中にも,タイリクアカネはない.したがって,かなり最近になってこの池に集まりだしたものと考えられる.
オスのパトロール
▲オスのパトロール.止まったり飛んだりする.メスも時々見られる(右下).
 さて,11月に入った晴れの日,朝10:00ころに池を訪れたが,まだトンボたちは日向でのんびりしていた.しばらくすると,オスは,水面上を長いホバリングを交えながら,パトロールし始める.メスも時々池を訪れるが,池から少し離れた,オスの目に付きにくいところにひっそりと止まっている.メスは,腹部背面が褐色のものと,赤く色づくものの2型がある.
タイリクアカネの交尾
▲タイリクアカネの交尾.池の近くで行われる.
 11:00を過ぎるころになると,どこからともなく交尾態のカップルが池に入ってくる.カップルが見られ始めると複数が観察できるようになる.交尾を終えたカップルは,水面の方に移動をし,連結打水産卵を行う.タイリクアカネは打水した後,メスが勢いよく水面から離れ,水面からの高さが高い位置で次の打水に入る.
連結打水産卵
▲連結打水産卵.ただこのカップルは,水面というよりは水際によく産む.
 ふしぎとほとんど同じ時間帯に,あちこちで産卵が始まる.タイリクアカネの産卵は,開放的な岸から離れた水面で行われることが多い.写真に撮るのが結構難儀な相手だが,今回のカップルは,いずれも岸近くの水際へ卵を置くような産卵をしてくれた.おかげで間近で観察を進めることができた.
上と同じカップルの連結打水産卵
▲上と同じカップルの連結打水産卵.
 次のカップルは,浅い,砂礫の底が見えるような場所で,連続的に産卵をしている.打水した後は大きな波紋ができる.こういった場所は,どちらかというと,一時的水域の様相を見せている.コノシメトンボもこういった環境に産卵する.いずれも学校のプールによく幼虫が見られるという共通点があり,興味深い.
もう一組の産卵
▲もう一組の産卵.メスの腹部が赤い色をしているタイプなので別カップルと分かる.
 タイリクアカネは海岸近くの水域が好きだといわれるが,この水底の様相を見ていると,タイリクアカネの産卵環境が分かるような気がする.植生が貧弱なロックプールや,かなり不安定な水域に生息しているのではないだろうか.
晩秋の様相を示してきた池
▲晩秋の様相を示してきた池.
 別の11月23日,同じ池を訪れた.木々は赤や黄色に色づき,晩秋の風情が漂っている.まだタイリクアカネはこの池にいたが,気温が低いせいか,白っぽいものに止まるオスがいただけで,産卵活動は見られなかった.