H079.ヒメアカネ Sympetrum parvulum 交尾と産卵
観察地の風景
▲草たちも色づき始めた秋の湿地.
 ヒメアカネは湿地の住人で,湿地の水たまりや細流に幼虫が見られる.羽化の時期に訪れると未熟な個体が湿地内の林縁で見られることから,生息地である湿地を大きく離れずに生活しているようである.またその時期はオスもメスも同じような場所で見られる.湿地で成熟して,繁殖活動もそこで行う.かつては休耕湿田などに姿をよく見せていたが,最近は休耕田も多くが乾田化して草原状態になり,あまりまとまって観察できるところが少なくなってきた.
羽化した湿地やその林縁で過ごす未熟なメスとオス
▲9月の上旬,羽化した湿地やその林縁で過ごす未熟なメスとオス.
 この湿地ではヒメアカネの成熟は少し遅い.9月9日に訪れたときには,まだ若いメスと,やっと腹部が赤くなり始めたオスが,林縁の日向や林に少し入り込んだ林床のササ原で休んでいた.若いメスは体全体が淡い黄色で.オスも尾部付属器や腹部背面にまだ赤くなっていない部分が残っている.写真にとってよく見てみると,ヒメアカネは前肢を少し浮かして伸ばした格好で止まる癖があるようだ.これは成熟した写真でも同じである.
周辺の草地や林縁で休んでいるオスとメス
▲周辺の草地や林縁で休んでいるオスとメス.左下はなわばりに出ているオス.
 9月下旬から10月になると,十分に成熟した個体が繁殖活動を行う.オスは成熟すると,腹部側面に明瞭な黒い斑点が出てくる.メスは腹部背面が黄橙色に色づく.この日10月4日は,現地に9:00ごろ入った.まだ多くのオスやメスは草地や林縁に日向を求めて止まっていた.10:00を過ぎたあたりから次々とオスが水辺に姿を見せ始め,メスを待つようになってきた.
交尾とその後の行動
▲交尾とその後の行動.上:交尾.下5枚:交尾後,オスはメスの前方に移動して止まる.
 初めて交尾が見られたのは,かなり日が高くなった11:30ころである.交尾中オスは羽根を前後に動かして,いかにも力が入っているふうに見える仕草をする.数分間の交尾が終わったら,オスはメスをすぐに放し,少し飛んでメスの前方に静止する.これは偶然の行動かと思ったが,あとでまた同じ動きをするオスに出会ったので,反射的な動きなのかもしれない.
単独産卵
▲単独産卵.草の間に潜り込み,湿地の浅い水面に打泥(打水)産卵する.
 しばらく待っているとメスが突然姿を消した.草の中でばさばさ音がする.産卵を始めたのだ.草がかなり密に茂った中で産卵するので,交尾から続けて観察していないと見つけることは困難であろう.数分間で産卵は終わり,メスは姿を消した.
別のカップルの交尾
▲別のカップルの交尾.このオスも交尾が終わったらメスの前方に移動して静止した.
 すぐにまた交尾のカップルが見つかった.オスはやはり交尾後にメスの前方に移動して静止した.このメスは産卵をせずに飛び去ってしまった.ヒメアカネは連結産卵も警護付きの単独産卵も行うといわれている.今日は個体数が少ないせいか,両者ともオスは簡単にメスを放してしまった.一度連結産卵を見てみたい.