H070.ナツアカネ Sympetrum darwinianum 水田での産卵
観察地の風景
▲山裾に広がる稲刈り前の水田.
 ナツアカネは水田の生活者である.アキアカネが水田の生活者としてよく取り上げられているが,個人的には,ナツアカネの方が水田の生活者としてはふさわしいような気がする.それは,稲刈り前の時期に水田に多数集まって産卵をするからで,いかにも稲作とトンボのイメージにぴったりだからである.アキアカネは,稲刈り後,水田が湿地状になってから産卵に訪れる.また最近ほ場整備や機械化の進行で水田が乾田化しつつあるので,より乾燥に適応しているナツアカネの方を多く見かけるようになってきた.1980年代であれば,ナツアカネに負けないぐらいのアキアカネが水田に集まっていたのだが,兵庫県南部地域では最近水田でアキアカネをほとんど見かけなくなった.しかしナツアカネはまだそのころと同じくらい現在(2009年)も水田に集まって産卵を続けている.
交尾と産卵を始めたカップル
▲上:交尾.下:産卵を始めたカップル.米が稔った稲刈り前の水田で卵をばらまく.
 この日は,午前10時ころに現地に入った.オスが単独で稲穂の上を飛んでいたが,既に産卵を始めているカップルや,交尾態になって稲穂の間を飛び回っているカップルもいた.交尾は普通飛びながら行われることが多い.またそのまま稲の葉に止まることもしばしばある.交尾が終わるとすぐに産卵を始める.稲穂の上でリズミカルに上下動を繰り返しながら,卵をばらまく.水田の中程で産卵を行うことも多く,写真に大きく撮れないことも多い.
近づいてきたカップル
▲近づいてきたカップル.白い矢印の先の白点が放出された卵である.
 そのうち,一組のペアが,水田の際の方で産卵を始めた.写真に撮るならこういったカップル以外にない.光も順光で,いうことなしである.たくさん撮影すると,卵が放出された瞬間が撮れる.卵を一粒ずつ産卵弁からしぼり出し,1個ずつ空中から落としている.
少し高い位置からの産卵
▲少し高い位置からの産卵.各写真とも,腹端の先か,少し下に落下する卵が観察できる.
 産卵が始まると,あちこちでたくさんのカップルが産卵を始める.秋のトンボはだいたいにおいてそうだが,産卵時刻は午前から正午ころにかけての1,2時間ほどで,同調的に多数のペアが一斉に産卵することが多い.だいたいのカップルは,稲穂の間で産卵する.時に上へ上へ上がっていくカップルがある.それでも,卵はきちんと放出している.
赤と黄緑のコントラストが独特のナツアカネの産卵
▲赤と黄緑のコントラストが独特のナツアカネの産卵.
 黄緑色と赤のコントラストが独特で,本当に秋の晴天に見られる日本の風景という感じがする.ナツアカネは普通種であって,トンボ屋さんはほとんど見向きもしないトンボの一つであるといってもいい.でも私はこの色のコントラストと,この当たり前の風景が大好きで,これを見ると安心する.難しい種をねらって観察できるとそれなりに達成感があるが,こういった普通の風景がいつまでも見られることを願ってやまない.
産卵の連続写真
▲産卵の連続写真.
 最後に産卵の連続写真を掲載しておきたい.毎秒約3コマの連続撮影だが,上下動と体のふれはあまり大きくないことが分かるであろう.これはビデオで見てもらうとよく分かる.