H085.キトンボ Sympetrum croceolum 出現から没姿まで
観察地の風景
▲キトンボの未熟成虫の集まっていた場所.
 キトンボは,県南部のため池では,各地でその姿を見ることができる.しかし姿を見るのは主に秋,10月を過ぎてからのことである.キトンボの羽化は通常7月ころから始まる.1度羽化直後のキトンボを7月中旬に見たことがある.ところが不思議なことに,羽化してから,10月ころ姿を見せるまでの目撃例が,非常に少ない.
未熟なキトンボたち
▲未熟なキトンボたち.2006年9月23日.
 ところが,2006年9月23日の秋分の日に,キトンボの未熟な集団のいるところを発見した.まだ羽化して間もない個体たちばかりである.腹部が透けて見えたりする.オスの体色も赤みが全くなく,きれいな黄橙色をしている.オオキトンボもそうだが,キトンボのなかまは未熟なときが非常に美しい.いずれにしても,未熟なキトンボの写真記録というのはあまりないのではないだろうか.
まだ未熟なキトンボたち
▲まだ未熟なキトンボたち.2001年10月14日.
 少し以前になるが,2001年10月14日に見つけたキトンボたちである.日向でオスメス混じって休んでいた.しかしオスの腹部の色づきはまだ淡く,メスもどことなく若々しさが感じられる.キトンボがよく年越しをするのは,このように遅い成熟が原因している可能性がある.
産卵の見られた池
▲産卵の見られた池.2009年10月11日.
 10月中旬になると,ふつうキトンボの産卵が見られる.この池では10月11日の10:30ころからたくさんのカップルが産卵に訪れるのを観察できた.見ての通り,水生植物は決して豊かではなく,むしろ広い開水面が広がるような谷池で,ふつうトンボはあまりいないと感じるような貧栄養の池である.
池の中央部で連結打水産卵するキトンボたち
▲池の中央部で連結打水産卵するキトンボたち.
 キトンボは,多くの場合,泥面の岸部で,まず打水して卵に水を含ませ,その後泥岸にそれを打ちつけるようにして貼り付ける,打泥産卵を行う.しかしこの池ではそういった環境がほとんどないためか,池の中央で連結打水産卵を行っている.キトンボの独特の産卵方法は,遺伝的に固定されたものではないらしい.状況によって戦術を変えてくるようである.
池の中央部で連結打水産卵するキトンボたち
▲池の中央部で連結打水産卵するキトンボたち.
 このような大きな池の中央で産卵されると,写真としては小さなものしか撮れない.やっと近づいたペアでもこの程度である.空が反射して青と橙のコントラストが鮮やかである.でもこういう産卵は,オオクチバスが生息していれば格好の餌食になるであろう.
普通の産卵方式を採用するカップル産卵しているカップルのメスの背中にアオイトトンボが止まった瞬間
▲普通の産卵方式を採用するカップル.
 深い池ではあるが,池奥のやや浅いところで,普通の産卵をするカップルを見つけた.同じ池で両方の産卵が見られるので,やはり,戦術の切りかえのような感じである.それでも泥の地面がないので,石や木ぎれに卵を貼り付けている.
コンクリート護岸に産卵するカップル
▲コンクリート護岸に産卵するカップル.2001年10月20日.
 なんと,この池では,コンクリート護岸にさえ産卵するカップルがいた.卵を貼り付けていたところを後につぶさに観察すると,白っぽい卵が無数に張り付いているのが分かった.これは無駄な産卵にならないのだろうか.
11月下旬,ひなたぼっこをしているオス
▲12月下旬,ひなたで休んでいるオス.2009年12月25日.
 12月25日,クリスマスの日である.キトンボはまだ元気に池の畔にある日だまりで休んでいた.今年は年を越しそうである.楽しみにしながら,晴れるたびに当地を訪れ,没姿調査に精を出した.
年末から年始にかけてみられたキトンボのオス
▲年末から年始にかけてみられたキトンボのオス.左:2009年12月29日,右:2010年1月2日.
 とうとう年を越した.まだまだ元気であったが,次に訪れた1月4日には,姿を確認することができなかった.このシーズン,キトンボを見たのはこれが最後であった.