H098.オオシオカラトンボ Orthetrum melania 産卵行動
生息地の風景
谷筋に広がった田園地帯.ここはまだほ場整備がなされていなくて,水路も素堀のままである.
 オオシオカラトンボは浅い流れを好むトンボである.湿地を好むように見えるが,平面的な広がりを持つ湿地よりも,細長く少し流れがある水路的な湿地が好みであるように感じる.この観察地はそいった湧き出し水からなる湿地状の水路があって,そこにオオシオカラトンボやシオカラトンボが集まっている.

オオシオカラトンボのオスとメス
左:電線にとまるオス.右:電線にとまるメス.
 現地に入ったのは朝の8:00ころであった.まだ朝の涼しい風が吹いていて,空は真っ青の夏空である.早朝の散歩といった感じで気持ちよく観察をスタートすることができた.オオシオカラトンボはすでにあちこちに止まっていた.鹿の被害が大きいのか,水田のまわりには電線が張り巡らされていて,それに止まる個体が目立った.

轍にたまった水に産卵するメス
轍にたまった水に産卵するメス.タイヤの跡が見える.打水した後の波紋も見える.
 電線にとまっている写真のメスが,シャッターの音に驚いたのかすぐに飛び立ち,産卵を始めた.なんと林道の轍にたまった水に産卵を始めた.この道は乾燥するので,これは確実に無駄な産卵になる.産卵を初めてすぐこのメスはすぐ横の電線に止まっていたオスに追われ,飛び去った.
道路横の水路で産卵するカップル
道路横の水路で産卵するカップル.オスが警護している.泥水が前方に飛んでいるのが分かる.
 少し日当たりのよい道を歩くと,あちこちにオオシオカラトンボのオスが飛んだり止まったりしていた.そんな中,水路で産卵をしているカップルを見つけた.オスが警護して産卵を促している.打水の瞬間をとらえた写真では,泥水が前方に飛んでいるのが分かる.発見したのがかなり産卵が進んだときだったのか,このカップルもそう長く産卵することなく,メスは上空へ舞い上がって逃げてしまった.
交尾
産卵しているメスを捕まえていき,すぐに交尾した.
 なかなか落ち着いて産卵しているカップルがいなかった.しばらく歩いて少し休憩しようと思ったらシオカラトンボが交尾しているのを見つけた.それを撮りに近づいたとき,すぐ横の水路で産卵するメスを見た.近づこうとすると先にオスに持って行かれたが,幸い近くに交尾態で静止した.電線の支柱の赤いのは本当に風情がない.これが竹の棒などだといかにも農村という感じがするのだが.
交尾が終わりいったん電線にとまるもののオスがしきりに産卵するように促している
交尾が終わりいったん電線にとまるものの,オスがしきりに産卵するように促している.
 交尾は5分たらずで終わり,メスはすぐ横の鹿よけの電線に止まった.このメスはもう既に産卵をかなりしていたので,本当はオスから逃げたかったのかもしれない.産卵をすぐ始めずに考えるようにじっと止まっている.オスはそのまわりを飛び回り,産卵を促している.
オスの警護のもと産卵を始めたメス
オスの警護のもと産卵を始めたメス.
 2,3分たったとき,メスは意を決したように産卵を始めた.オスはメスの上側を飛び,メスが上昇して逃げないように,時々体当たりして水面の方へ押し下げる.この動作はオスがメスを「警護」するというより「産卵強制」しているように見える.
産卵を再開し移動しながら打水するメス
産卵を再開し,移動しながら打水するメス.
 打水の瞬間を観察するのは容易ではない.真横から撮れると一番はっきりするのであるが,そうはなかなかうなくいかない.水面を腹端で掻くようにして水を集め,腹部先端の凹みに水をためて,卵とともに前方に飛ばすのであろう.
腹端を曲げ力が入っている様子がよく分かる
腹端を曲げ,力が入っている様子がよく分かる.
 写真で見るとよく分かるが,メスの腹端には力が入っており,腹部先端は水をすくうスプーンのような形状になっている.おそらくメスは全神経を集中して水面との距離を測って,腹端を,深すぎず浅すぎず,ちょうど水面のよい位置に当てるのであろう.1/1000でもぶれるときがあるから,すごいスピードで判断力を働かせていることになる.
産卵が終わってぶら下がって休憩
産卵が終わってぶら下がって休憩.
 産卵が終わったとき,さっとメスは静止した.止まり方も懸垂姿勢であった.オスの干渉を避けるためか,疲れているからかは分からないが,この後,オスが執拗に迫るのを追い払うかのようにして,上空へ飛び去っていった.