H---.カオジロトンボ Leucorrhinia dubia orientalis 繁殖活動
観察地の風景
▲カオジロトンボの生息環境.
 カオジロトンボは本州中部以北の標高の高いところに点在するように分布している.信州の観光地となっている湿原などにも見られる.だいたい7月〜8月にかけてが成虫の出現期である.梅雨のある晴れの日に観察地を訪れた.
オスたちの静止とパトロール
▲オスたちの静止とパトロール.
 観察地に入ったのは10:00ころであった.オスは既に水辺にたくさん出ており,交尾をしているカップルもいた.オスたちは結構みんな敏感で,人影が動くとすぐにそれを察知し,飛び立ってしまう.たかがトンボといっても侮れない相手である.時々自発的に飛び立ってホバリングをしたり,植生の間をのぞき込むような飛び方をして,メスを探している.
産卵に来たメスを捕らえたオス
▲産卵に来たメスを捕らえたオス.左下のメスはまだいやがっている.
 オスはほとんどの場合,産卵に来たメスを見つけてタンデムになり,交尾に至るようである.池の外でメスを連れてくるようなカップルは見かけなかったように記憶している.メスはオスに捕まるのがいやなようで,オスに追われると逃げ回る.しかしオスもその点はよく承知したもので,やがてはメスを捕まえ,タンデムを形成する.メスはそれでもなおあきらめきれないようにじたばたするときがあるが,やがてはオスの腹部に手を回し,タンデムになることを「承認」する.
交尾
▲交尾.
 交尾の継続時間は結構長い.20〜30分は続いている.トンボ科各種の交尾継続時間はそれほど長くはないと思われるが,カオジロトンボは念入りに精子置換をしているのだろうか.
交尾が終わったらメスはいったん休息を取ってから産卵を始める
▲交尾が終わったらメスはいったん休息を取ってから産卵を始める.
 交尾時間は長いが,交尾が終わるとあっさりとタンデムは解消される.メスは少し飛んで近くに止まる.オスはせわしなくメスのまわりを飛ぶことがある.メスはゆっくり休んですぐ近くで打水を始める.しかし数回すばやく打水したかと思うと,ピタッと動きを止めて,浮葉や近くの植物の根際に止まる.まるでオスに見つからないようにこっそりと産卵しているふうに見える.
いったん止まったメスが飛び立った瞬間
▲いったん止まったメスが飛び立った瞬間.
 止まったメスが再び産卵を開始するときには,やや後方に飛び上がる.上の写真は,その上のジュンサイの葉に止まっている個体が飛び上がった瞬間である.ジュンサイの葉の形が同じであることに気づかれるであろう.腹部を立てて,後上方に飛び立っている.その下の2枚の写真も同様で,左側の個体が飛び立った瞬間が右の写真である.後方に向かって飛び,その後向きを変え,次の産卵の体制に移行する.
産卵を続けるカップル
▲産卵を続けるカップル.右下は一時停止状態.
 産卵が続くと,だんだんと大胆になってくるのか,打水回数が増えてきて,止まるまでの間隔が長くなる.それでも思い出したようにピタッと止まる.このとき腹部先端は水につかっているが,遊離性産卵は行っていないのだと思われる.
あちこちで産卵を続けるメス
▲あちこちで産卵を続けるメス.
 開けたところで産卵を続けていると,そのうちオスに見つかる.オスはメスを見つけると追いかけ回してタンデムになるのは,上で述べたとおりである.このとき,どうも一度交尾したオスがもう一度交尾しているのではないかと思われるときがある.侵入オスと警護オスがもつれ合った後どちらかが交尾すると.見ていても分からなくなる.

 オスの密度が高かったこの日,こういった光景があちこちであったようで,交尾オスが頻繁に現れた.交尾の数に比べて産卵を見る機会が極端に少なく,たまたま見ることができた産卵例でも,ほとんどの場合産卵が完了するまでに,もう一度オスと交尾している.交尾を始めると20〜30分は継続するので,産卵が2,3分であることと比較すると,交尾カップルがやたら目に付くのも道理である.
次々にやってくる交尾カップルを片端から撮影したらこんなにあった
▲次々にやってくる交尾カップルを片端から撮影したらこんなにあった.
 交尾に来たカップルを撮影すると,これくらいが1,2時間で撮影できてしまう.産卵は数例しか見ていないので,いかにメスがオスにすぐ捕まっているかが分かる.だからこそ,メスの「産卵してはピタッと静止」という行動が,オスを避けている行動のように見えてしまうのだが,どうだろうか.