H047.ヒメサナエ Sinogomphus flavolimbatus 繁殖活動
観察地の風景
▲観察地の環境.樹木が覆い被さった川の上流.
 ヒメサナエの繁殖活動は川の上流域で行われる.幼虫や羽化はかなり下流でも発見され,幼虫が流下しているのではないかと考えている研究家もいる.能動的に流下するのか受動的なのかはさておき,繁殖活動を観察するなら,ヒメサナエが生息する川の上流で,写真のような環境を探すとよいであろう.
草の間に入り込み摂食するオス
▲草の間に入り込み摂食するオス.
 7月中旬,朝の9:00ころに観察地に入ると,谷間にある上流部はやっと陽が当たるようになり,まだ朝が来たばかりのような状況である.ヒメサナエのオスが草むらから飛び立つ.よく見ていると,小さな昆虫を捕らえて食べている.朝の摂食を行っているのだろう.まだ川面の石の上などには静止するオスはいない.
流れの石の上に静止するオスたち
▲流れの石の上に静止するオスたち.
 そのうち,流れに陽が差し出すと,オスは陽の当たるところを選んで静止することが多い.これは10:00ころである.メスが産卵に訪れはじめる時間帯である.
産卵に入ってきた最初のメス
▲産卵に入ってきた最初のメス.オスに捉えられ,交尾態となった.
 10:13に最初のメスが産卵に入ってきた.水面に覆い被さる樹木の陰になる部分の水面近くでホバリングしながら,腹部先端に卵塊をつくる.卵塊がある程度大きくなると打水して放卵する.何度かそういった行動をしたとき,突然メスが仰向けになって水面落ちた.何が起きたのだろうかと,ファインダーをのぞいていた私には分からなかったが,肉眼でよく見ると,オスがメスの上に飛び乗ってメスを押さえつけている.メスはじたばたしているが,もう手遅れである.体を起こしたメスはオスにタンデムを強制され,交尾に至った.交尾は流れから樹林の方へ移動して行われた.上の写真では,メスの翅にたくさんの水滴が付いているのが分かるであろう.同種のオスに水の中に突き落とされるのであるから,メスも大変である.人間なら明らかに傷害罪だ.
2頭目のメスの産卵
▲2頭目のメスの産卵.腹端に卵塊ができているのが分かる.
 10:40に2頭目のメスが産卵に訪れた.同じ場所でホバリングしながら,卵塊を膨らませている.写真にはオレンジ色の卵塊が腹端にしっかりと写っている.このメスは幸いオスに見つかることなく,数回打水して飛び去っていった.
探索飛翔をするオス
▲探索飛翔をするオス.
 オスはふつう石の上などに止まっているが,時々水面をホバリングを交えた飛翔を行ってメスを探す.あまり見られない光景である.ヒメサナエは薄暗い川の上流部の川面を素早く飛ぶので,なかなか目に付きにくいこともあるのかもしれない.この日はせわしなく水面を飛び回るオスを,うまくカメラに収めることができた.
3頭目の産卵メス
▲3頭目の産卵メス.上:産卵場所の上に茂る樹木の葉に止まるメス.
 10:54に3頭目の産卵メスが入った.おもしろいことに続けた入ったこれら3頭のメスは,ほとんど同じポイントで産卵を行った.石の配置,日陰のでき方,流れの状態など,いくつかの要因がメスを引きつけるのだろう.産卵に訪れる前に流れの上に茂る樹木の葉の上で様子を見ていることがある.この産卵メスは,産卵に入る2分前に,すぐ上に茂る葉に止まっていた.上から様子を見て,一気に産卵に降りてくる.オスに見つかりたくないから,オスの様子を監視しているのかもしれない.産卵が終わると,このメスは流れの横の葉の上に静止した.
4頭目のメスの産卵(上)と別の日の産卵メス(下)
▲4頭目のメスの産卵(上)と別の日の産卵メス(下).
 この日最後のメスは,10:59に入ってきた.やはり前の3頭とほとんど同じ場所でホバリング,打水を行った.このメスは短時間で産卵を終えて飛び去った.ひょっとすると上の3頭目のメスが再び産卵に来たのかもしれない.上の下側の写真は別の日に同じところで撮った写真である.この日は全然違うところで産卵を行った.日が変わると産卵ポイントも変わるようである.
腹部挙上姿勢を取るオスたち
▲腹部挙上姿勢を取るオスたち.
 この日の産卵は10時台に集中していた.後しばらく待ったが産卵に訪れるメスはなかった.13:00ころ産卵の観察をあきらめ流れに沿って歩くと,オスたちが強い日射しの中,腹部挙上姿勢で静止していた.産卵が日陰で行われることを考えると,このオスたちは何のために日向で暑さに耐えながら止まっているのだろうと,不思議に思ってしまった.