H009.ミヤマカワトンボ Calopteryx cornelia 潜水産卵
観察地の風景
▲倒木が流れに洗われて,それが産卵基質になっている.
 ミヤマカワトンボは5月にはもう出現している.この日は8月4日,もうミヤマカワトンボも終わりに近い時期である.ミヤマカワトンボは堅い木に産卵することが多いので,写真のように倒木などが水につかっていて,それが水中に没するようなところを好んでいる.オスたちもそれをよく知っていて,このあたりに3頭のオスが,時に追いかけ合いをしながら,なわばりを形成してメスを待っていた.
なわばりオス
▲いずれも同じオス.時々翅を広げながら倒木に止まってメスを待っている.
 他のオスは日陰に止まっていたがこのオスは日向に止まっていた.
 オスは普通石の上などに止まっていることが多い.しかし産卵基質が倒木のようなものであるとすると,石しかないところというのはあまり質の高い場所ではないのではないだろうか.写真のオスは倒木に止まってメスを待っている.これが一番だろう.このオスは肢が1本途中でちぎれていて,翅の輝きも失われつつある.ミヤマカワトンボも終わりの時期を思わせる.
オスとメスのやりとり
▲上:オスのなわばり内にメスがやってきて静止した.
 下右:時々メスの側にオスが飛んでいって,メスを刺激しようとする.
 下左:オスがメスに近づこうとすると,メスは交尾拒否姿勢でオスを追い払う.
 メスがオスのなわばり内に入ってきて静止した.メスは微動だにせずじっと静止している.メスがじっとしているとオスもじっとしている.メスは産卵の機会をねらっているのだ.メスがさっと飛んで産卵しようとすると,オスがそれに気づいてメスの後を追いかけ回す.メスは逃げ回る.それに気づいた別のオスがまた追いかける.オスどうしが追い掛け合う隙にメスは別の場所に静止してオスから逃れる.こんなことを繰り返しているから,メスはなかなか産卵できない.うまくいっても10秒ほど産卵するだけである.止まっているメスに気づいたオスは,メスに交尾を迫ろうと,ホバリングしながらメスに近づこうとする.しかし,このメスは交尾の気持ちはなく,交尾拒否姿勢でオスを撃退する.
意を決して産卵を始めたメス
▲意を決して産卵し始めたメス.
 上・中2枚:産卵を始めたメスを腹部の先端の白色部で刺激するオス.
 下:オスがあきらめた後,やっと落ち着いて産卵をすることができるようになったメス.
 あるときメスは意を決したかのように,水面にある細い枝に取り付き,産卵を始めた.オスがそれを見逃すはずはなく,メスに近づいて腹部先端腹面部の白色部を見せて,メスを刺激する.オスが翅を開くと,メスもつられて翅を開いた.しかし,その後はメスは黙々と産卵を続け,オスの誘いには乗らなかった.オスはしばらくして刺激するのをあきらめ飛び去った.メスはやっと単独で落ち着いて産卵をすることができるようになった.
潜水を始めたメス
▲潜水を始めたメス.
 潜水を始めたと思われた瞬間から胴体が水面下に沈むまで1分ほどであった.
 単独で産卵するようになって1,2分後,メスは後ずさりし潜水する動きを見せ始めた.その動きを見せ始めるとわずか1分で胴体が水面下に沈み,5分で翅も含めた体全体が水面下に没した.オスに追われ回って産卵しづらいメスは,こうやって,オスの干渉を受けずに産卵できるのであろう.このメスの動きを見ていると,はじめから潜水産卵をするつもりであったように感じてしまう.
完全に水面下に没したメス
▲完全に水面下に没する瞬間.上左−下−上右の順.
 このメスは体全体が水面下に没した後も,さらに深く,枝の裏面に方に移動して産卵を続けた.もう,水面から産卵するメスの姿を確認することすらできなくなった.